HOME > 全文掲載 >

「臓器移植の「公平性」と親族への優先提供
「脳死臓器移植」問題の歴史的現在」

皆吉 淳平 2010/05/16 第36回日本保健医療社会学会発表要旨  於:山口県立大学
[ワード版]

last update: 20100410
臓器移植の「公平性」と親族への優先提供
「脳死臓器移植」問題の歴史的現在

皆吉 淳平(慶應義塾大学・芝浦工業大学)


【目的】 
 本報告では,臓器移植における「公平性」という理念の歴史的現在を明らかにする.
1997年に成立・施行された「臓器移植法」では,脳死状態の人から摘出された臓器を用いた移植手術を受ける人(レシピエント)を,日本臓器移植ネットワークが,公平に選択することになっていた.それは臓器移植法の基本的理念として法に明記されていたことでもある.それに対して,2009年の「臓器移植法改正」においては,親族への優先提供を定める条文を含んだ「A案」が成立した.この親族への優先提供規定は,「改正」論議においては主要な論点とはならなかった.こうした状況を踏まえ本報告では,臓器移植における「公平性」という理念をめぐる歴史的現在を明らかにし,2009年「臓器移植法改正」の意味を考察する.
【方法】 
臓器の配分原理としての「公平性」という理念がどのように生じたのか,という観点から歴史的現在を跡づける.なお,移植に関わる医療者の言説を対象とし,日本において臓器移植という医療が社会的に認知された上で実施されるようになった1960年代後半から2009年の「臓器移植法改正」に至る「脳死臓器移植」論議として公刊・公表された資料を用いる.
【結果】 
臓器の配分原理としての「公平性」という理念は,1980年代の「脳死」論議において,「社会的合意」を希求するプロセスにおいて生み出されたものだった.移植医にとって「公平性」という理念が必要とされたのは「社会に対して」の言説においてであった. 【考察および結論】 
臓器の配分原理としての「公平性」という理念の前提として,提供された臓器は「社会のもの」という認識がある.この前提に対するのは,臓器は「個人のもの」という認識である.2009年の「臓器移植法改正」で盛り込まれた親族への優先提供規定の存在は,臓器は「個人のもの」という認識の広がりを示しているとも考えられる.しかしながら,親族に限定されていること,親族以外への提供を拒否できないこと(ガイドラインで規定)からは,臓器を「提供者個人のもの」と認識しているとは言えない.臓器提供の意思表示方式の変更にも重なり,臓器は「家族のもの」とも考えられる.そしてそれは,脳死移植の臓器配分原理が,生体間移植の配分原理と近づくものと言える.
近年,米国のバイオエシックスの歴史研究において,パブリック・バイオエシックスという側面に目が向けられている.バイオエシックスは公共的な議論があってこそ,大きく進展したという見方である.21世紀を迎えた「脳死臓器移植」論議では,かつて「公平性」の発見に寄与した「社会的合意」が語られなくなっている.ここには,バイオエシックス≒生命倫理における「社会」をめぐる認識の変化が現れているのかもしれない.

*作成:皆吉 淳平
UP:20100412 
全文掲載  ◇医療社会学  ◇臓器移植
TOP HOME (http://www.arsvi.com)