HOME > 全文掲載 >

新聞記事「要約筆記:普及急がれる、聴覚障害者のコミュニケーション手段」

『朝日新聞』朝刊: 20090921


要約筆記:普及急がれる、聴覚障害者のコミュニケーション手段

 ◇OHP投影/隣でノートに 主観入れず要点正しく
 高齢や病気、事故などで中途失聴または難聴になった人の多くにとって、手話を学ぶのは非常に難しい。厚生労働省の06年度調査によると、聴覚障害者約34万人のコミュニケーション手段は手話18・9%に対し、話の内容をその場で文字にして伝える筆談・要約筆記は30・2%。関係者は「要約筆記はまだまだ一般に知られていない。取り組む人の数もまったく足りない」と口をそろえる。障害者自立支援法の必須事業になったこともあり、制度の充実が急がれる。【鶴谷真】

 要約筆記が全国に広まったきっかけの一つは、1973年に京都市に全国各地の難聴者が集まった会議での、地元教員のアイデアとされる。学校の授業で使われるオーバーヘッドプロジェクター(OHP)を使い、討議の内容を逐一筆記してスクリーンに映したところ、理解がスムーズに進んで参加者が感動したという。普通、話し言葉が1分間に300字以上なのに対し、OHPで手書きできるのは60字が精いっぱい。発言を要領よくまとめて書くので「要約筆記」だ。

 難聴者の隣で伝えるノートテークと、会場の多くの人に伝える全体投影がある。いずれも、手書きとパソコン利用の2通りある。手書きの全体投影は、OHPにロール状のセロハンフィルムを乗せ、ペンで書いてはロールをずらしていく。

 パソコンでは、入力した文字を表示するソフトを使う。京都市の要約筆記サークル「かたつむり」内のパソコン部会の練習会を見学した。80年に結成された最古参サークルの一つ。会員数は約110人で、働く女性や主婦が多い。

 練習会では1人が裁判員制度に関する講演録を読み上げ、参加者が2人1組になって打ち込んでいく。相棒が入力した分は自分のパソコン画面で見えるので、掛け合いのように続きを入力し、いくつかの文節ごとにスクリーンに表示させる。15分後に休憩。「要約せずに、つい、たくさん打ってしまうなあ」などと感想が。本番前には、法律用語の予習や、すぐに変換するようパソコンの辞書をあらかじめ“鍛えて”おくことも必要だ。

 話し言葉は早口や前置き、脱線、二重否定などを多用するため、要点を正しく書くには頭を全力回転させる。通訳だから、主観が入ってもだめ。大変な役割だ。「かたつむり」の高野美代子会長は「新聞の見出し、リード、本文の構成が参考になる。見出しがきっちりしていれば中身は分かりやすい」と話す。

 大幅に要約するため、「言葉でなく意味を追う」のが原則だが、現場からは「話した通りに書かないとニュアンスが伝わらない」との意見も。これに対し、要約筆記の担い手で構成する全国要約筆記問題研究会(全要研、名古屋市)の三宅初穂理事長は「例えば役所や企業の不祥事会見で、『……でございます』をそのまま書いても、その慇懃(いんぎん)無礼さは伝わらない。話し手の意図とその結論を書くべきだ」と話す。

 京都市の場合、昨年度は335件の要約筆記の派遣依頼があり、772人を派遣。大半は研修会やスポーツ大会など複数の人が集まる全体投影だった。

     *

 同市中途失聴・難聴者協会の前理事長、竹内瞳さん(80)は45歳の時、薬の副作用で重度の難聴になった。「要約筆記は、担当者の経験によって能力に差はあるが、全体のレベルは年ごとに上がっていると感じる」と話す。同会員からは、子どもの進路説明会や同窓会、冠婚葬祭、通院などの場面で役立つとの声があるという。

 また、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴、東京)の高岡正理事長(57)は、勤務する食品製造卸会社で06年5月〜今年6月、毎週の会議の際に手書きノートテークの要約筆記の派遣を受けた。「要約筆記は難聴者だけでなく、難聴者がいる『場』全体への支援だ。健聴者を含む全員にメリットがあると知ってほしい」と訴えている。

 ◇障害者自立支援法で義務化 派遣の市町村4割のみ
 06年施行の障害者自立支援法で、要約筆記者の派遣が市町村の必須事業になった。自治体は社会福祉協議会や障害者支援センターなどに業務を委託する例が多く、社協などはボランティアサークルのメンバーなど、登録者の中から要約筆記者を派遣する。

 国が99年に定めた52時間の「要約筆記奉仕員の養成カリキュラム」があり、都道府県などの自治体が講習を行っているが、07年度でみると、派遣実績のある市町村は全体の4割にとどまる。自治体の態勢が整っていなかったり、要約筆記者が不足しているためだ。

 また、報酬は自治体ごとにまちまち。現場から「レベルが高い人の養成も必要だが、要約筆記の仕事だけでは生活できない。きちんとした対価がないと責任が生まれにくい」との指摘もあり、国はさらに専門性が高い要約筆記を想定したカリキュラム作りを検討している。


090921『朝日新聞』朝刊:


*作成:
UP:20090930 REV:
全文掲載  ◇情報・コミュニケーション/と障害者
TOP HOME (http://www.arsvi.com)