短歌
大津留直
1947年三重県生まれ。92年ドイツチュービンゲン大学哲学博士号取得。大阪大学、関西学院大学で非常勤講師を務めた。
あかときの海(うみ)に満(み)ちゆく寂光(じゃっこう)を息(いき)する樹(き)たれわが麻痺(まひ)の身(み)よ
淀(よど)みなく代読(だいどく)終(お)えしわが稿(こう)の内(うち)なるリズム友(とも)言(い)い出(いだ)す
それぞれの楽器(がっき)に挑(いど)む麻痺(まひ)の児(こ)ら不協(ふきょう)和音(わおん)の海(うみ)に歓喜(かんき)す
言えるうちに語り置かなむ戦争は障害の身に殊に酷(むご)きを
障害と短歌
私がそもそも短歌の魅力に取り付かれたのは、都立光明養護学校中学部に在学していた頃、ご自身軽い脳性マヒ者であった長沢文夫という国語の先生が、「障害をもって生まれた君たちは将来、思いもかけない差別や偏見に遭うかもしれないが、一つでもこれというものを身につけてコツコツ続けていけば、何とか切り抜けていけるものだ」と言って、熱心に短歌を教えて下さったのが機縁となっている。私は特に、そのとき先生に教えていただいた万葉集の歌の響きの何とも言えない、「永遠」の波動に共振するような魅力に取り付かれた。それから細々と歌作を続けてきたのであるが、十数年前に「あけび」という短歌結社に入会し、本格的に歌を始めた。