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「心の原風景――短歌」

大津留 直 20071001 『ノーマライゼーション 障害者の福祉』27(10)

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last update: 20200318


短歌

大津留直
1947年三重県生まれ。92年ドイツチュービンゲン大学哲学博士号取得。大阪大学、関西学院大学で非常勤講師を務めた。

あかときの海(うみ)に満(み)ちゆく寂光(じゃっこう)を息(いき)する樹(き)たれわが麻痺(まひ)の身(み)よ
淀(よど)みなく代読(だいどく)終(お)えしわが稿(こう)の内(うち)なるリズム友(とも)言(い)い出(いだ)す
それぞれの楽器(がっき)に挑(いど)む麻痺(まひ)の児(こ)ら不協(ふきょう)和音(わおん)の海(うみ)に歓喜(かんき)す
言えるうちに語り置かなむ戦争は障害の身に殊に酷(むご)きを

障害と短歌

私がそもそも短歌の魅力に取り付かれたのは、都立光明養護学校中学部に在学していた頃、ご自身軽い脳性マヒ者であった長沢文夫という国語の先生が、「障害をもって生まれた君たちは将来、思いもかけない差別や偏見に遭うかもしれないが、一つでもこれというものを身につけてコツコツ続けていけば、何とか切り抜けていけるものだ」と言って、熱心に短歌を教えて下さったのが機縁となっている。私は特に、そのとき先生に教えていただいた万葉集の歌の響きの何とも言えない、「永遠」の波動に共振するような魅力に取り付かれた。それから細々と歌作を続けてきたのであるが、十数年前に「あけび」という短歌結社に入会し、本格的に歌を始めた。

私は出産時の難産による脳性マヒで、かなり重度の歩行・言語障害がある。それにもかかわらず、若い頃はあまりまともに自分の障害と向き合ってこなかった。しかし、丁度(ちょうど)歌作を本格的に始めた頃から、加齢による障害の重度化が進み、自分の障害と向き合わざるを得なくなった。

そもそも、短歌を含めた芸術において、物事を視る視点が個別的であればあるほど、作品が輝いてくることがあり、歌は独特の響きをもってわれわれの心の琴線に触れてくるものである。その意味では、われわれの障害は、もちろん、非常な不便さや痛みを伴うものであるが、同時にそこには、芸術の成立条件である個別的な独特な視点を発見し、それを磨いてゆくチャンスが隠れているように思われる。

私はこれからも、そのような独特の視点を開拓しながら、それを言わば普遍性の鏡に映すことによって、人々の心に響く歌を作ってゆきたい。そのことによって、障害と根気よく付き合いながら、日本社会にいまだに蔓延する「差別と偏見」に立ち向かう真に人間的な連帯を、根元のほうから築いてゆけるのではないか。その「差別と偏見」を理論的に解明してゆくことはもちろん重要であるが、それに対決する連帯を、言わば「永遠」の波動への共振という深いところから力づけてゆくことも重要な課題の一つなのではないか。それがまさに芸術の課題である、と私は思う。


*作成:安田 智博
UP: 20200318 REV:
障害学 全文掲載
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