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「資料集発行にあたって」

長野 英子 20010401 『反保安処分資料集 I』,p 1.

last update: 20110925

 私たち「精神病」者は病人でありながら、病人として当たり前の「医療」すら保障されず、ひたすら隔離と拘禁、そして社会からの排除の対象とされてきた。この実態の根底にあるのが保安処分思想であり、その前提となる、「精神障害者」=「犯罪素因者」という精神障害者観である。
 それゆえ精神医療は常に社会防衛と治安対策の任務を負わされてきた。精神病院はひたすら監禁さえしていればよい場所とされ、医療の場からほど遠い実態が強制され、毎年のように繰り返される入院患者虐待虐殺の場となっている。精神科医の犯罪防止の任務ゆえに私たちは精神科医と信頼関係を築くことを阻まれ、相互不信と憎悪を強制されてきたのだ。
 現在法務省と厚生労働省は「重大事件を起こした精神障害者対策のための合同検討会」(2000年12月2日発足を発表)を立ち上げ、精神医療のみならず福祉保健分野総体(さらには患者会活動まで)を「犯罪防止=治安対策」に動員するための方策を練ろうとしている。
 この構想が現実化すれば、精神科医はじめ精神保健福祉の専門家は私たち「精神障害者」を「いつ犯罪を犯すかわからない危険な者」と見ることを強いられ、常に「犯罪を犯さないようにチェックし、さらにその犯罪を防止」する任務を強制されることになる。精神医療および福祉従事者全員が犯罪防止を目的とした警察官となることを求められるのだ。精神医療も福祉も私たち「精神障害者」にとっては、監視と管理そのものに変質し、精神科医はじめ専門家と私たちの間の関係はその根底から破壊されることになる。
 こうした関係性の中で、「ノーマライゼーション」や「完全参加と平等」など空しい言葉となってしまう。私たち「精神障害者」は「病」の苦痛に加え、今まで以上に息を殺し物言わず地域で精神病院で生活することを強いられることになる。
 この合同検討会資料を見るとき私がすぐ想起するのは、81年に出された日弁連の要綱案である。要綱案と今回の合同検討会は犯罪防止のための精神医療福祉を求める点で同質の発想をもって出されている。
 日弁連要綱案そのものと、それに対して闘ってきた全国「精神病」者集団の声明、要綱案の「科学的根拠」たる野田報告書批判その他を振り返ることは、現在の保安処分攻撃に対時するのみならず、そもそも保安処分とは何か、なぜ保安処分に反対するのか、を明確にするためにも有効であると考え、このパンフを発行する。各地での討論学習に活用されることを願う。なおパンフ売上利益は全国「精神病」者集団にカンパし、反保安処分闘争の一助とする。

(注)復刻版パンフ「反保安処分推進勢力と対決する為に」にある「野田報告書」の「野田」とは今マスコミに盛んに登場している野田正彰である。

2001年4月1日
長野英子


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