今年も正月はクロスカントリースキーを楽しんだ。今年で6回目の「スキー・フォー・ライト・ジャパン」(SFLJ: http://pobox.com/~sflj/ )という、3泊4日で視覚障害のスキーヤーと晴眼のガイドが一緒にクロスカントリースキーを滑るという企画である。1964年にノルウェーで始まり、75年には米国に広まった視覚障害者のクロスカントリースキーは日本では1996年1月にSFLJとして第1回が行われた。それ以来、毎年1月上旬に、常設のクロスカントリーコースがある福島県の国民休暇村磐梯高原で開催されている。
私は第2回の97年にまず一人で参加し、第3回を休んだが、第4回からは家族で参加している。ただ家族全員4人が揃ったのは第4回だけである。南国マレーシア出身の妻は「鼻がもげるほど寒い!」という言葉と共に、以降参加する気配は全くない。小学生の娘達二人が喜んで参加しているのは救いである。
SFLJに惹かれるのはまず、クロスカントリースキーが楽しめることである。お正月から3泊4日の言ってみれば「合宿」で全部で約40名の盲人スキーヤーと晴眼者ガイドが集い、ワイワイやりながら、新鮮な空気を吸って、裏磐梯の美しい大自然の中でスキーが堪能できる。これは良い。昨年後半からウォーキングを始め、年末には仕事のついでにホノルルマラソンまで走ってしまった(5時間33分)こともあり、今年は例年のように筋肉痛に悩まされることも少なかった。
そして何より、盲人のスキーヤーといろいろおしゃべりができる。コースには「レール」と呼ばれる溝が4本、並行に掘ってある。スキーヤー用が2本、ガイド用が2本である。ガイドはコースの情報を言葉でスキーヤーに伝えながら並走する。
「これから少し下り坂になります」、「左に急にカーブしています」等の情報を適宜伝えながら走るのであるが、レールがきちんと刻んである限り、基本的にスキーヤーは自力で進んでいける。ゲレンデスキーとは異なり、高低差のほとんどないコースだから危険は少ない。本当に必要に応じて、時にコースの指示を行えば良いだけである。
これはクロスカントリーが盲人にとって取り組みやすいスポーツであることを示している。進むペースは自分でコントロールできる。そして一緒に滑りながら、スキーヤーとガイドは多くの場合、世間話をしたり、仕事の話をしたり、スキーヤーが通っていた学校、盲学校の話などをするのである。これまで毎年異なるスキーヤー、計4人をパートナーとしてきたが、いろいろな話ができるのはいつも楽しみだ。99年の第4回では米国のスキーヤーとペアを組んだのも楽しい思い出である。
しかしこれは全て、レールがしっかりあるという前提のもとでの話である。私はレールを「雪上の点字ブロック」と呼んでいるが、今回は大雪のせいもあって、このレールが新雪で消されてしまっている時間帯があった。そうすると、スキーヤーの方向はなかなか定まらない。ガイドは頻繁に、「少し左」、「少し右」という方向指示を出すのに追われる。こうなると、おしゃべりどころではなくなってしまう。ガイドの方向指示に依存する面が大きくなり過ぎて、スキーヤーの自立性が失われ、「基本的に自分で方向も分かって進める」という盲人スキーヤーにとってのクロスカントリースキーの醍醐味は失われてしまう。レールはそうした意味で、雪上での盲人クロスカントリースキーヤーにとってのアクセスであり、「バリアフリー」な環境を保つために重要な役割を果たしている。
スポーツの分野でのアクセスや、バリアフリーにもだいぶ関心が向くようになってきたが環境整備はまだまだである。SFLJが例年利用している国民休暇村磐梯高原は財団法人国民休暇村協会が運営している公的な性格も強い施設であるが、現在の宿泊施設は全て2階以上であり、しかもエスカレーター、エレベーターもない。
99年の第4回の際には米国から肢体不自由のスキーヤーも参加していた。長野パラリンピックの際には、日本チームのコーチも勤めたこの男性は、下半身が動かず、シットスキーといって両腕で漕いで滑る。彼は朝、滑るために介助者と共に降りてくると、夜寝るまで階段を昇らず一日を過ごしていた。確かに休暇村からは「声をかけてくれればいつでも手伝います」という対応があったが、彼はそれを潔しとはしていなかった。
私はその年のSFLJが終わってから休暇村協会宛てに利用者として手紙を出して、磐梯高原でのアクセスの不備について苦情を述べた。早速返事が来て、2001年には改築予定があり、その時点で対応すると記してあった。
今年行ってみると、確かに新館が今年の7月にはオープン予定で、工事もだいぶ進んでいる。ホームページ(http://www.qkamura.or.jp/ryori07_10.htm)には「バリアフリー対策として、車イスで入室しやすい洋室を4部屋設けました。またパブリックスペースに車イスでご利用いただけるトイレ、スロープもあります」とある。来年の1月3日から6日までの第7回SFLJに参加してみて、アクセス、バリアフリーを確かめてから米国のスキーヤーには報告しよう。是非、こう伝えたいものだ。「また是非一緒に滑りましょう。今度は、いつでも好きな時に、部屋にもどれますよ」。