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「障害学の世界的展開へ:障害学国際会議」

長瀬修 200011 『障害・障害学の散歩道』No.10(2000年11月号)

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last update:20200512


■障害学の世界的展開へ:障害学国際会議

米国の新しい大統領が決定したら書こうと思っていたが、今日現在(12月2日)まで待っても決まらないので、もう書いてしまう。明日の日曜日(12月3日)からは米国ハワイで開催される自立生活グローバルサミット会議(12月4日-6日)の通訳者として出張が入っているためでもある。

10月17、18日に米国の首都ワシントンで開催された「障害学会議:グローバルな視点」に出席した。米国を中心とする障害学の大きな集会である障害学会(SDS: http://www.uic.edu/orgs/sds/)年次総会には96年のワシントン、97年のミネアポリス、98年のオークランドと3年続けて出席していたが、ここ2年は様々な事情で参加できなかった。そこで、その埋め合わせという意味もあり、この会議には3泊5日で出かけたのである。

主催は国立障害・リハビリテーション研究所(National Institute on Disabilityand Rehabilitation Research: http://www.ed.gov/offices/OSERS/NIDRR/)、略称でNIDRRと呼ばれている。NIDRRは障害学にも積極的な支援を行っていて、96年にワシントンで開催された際には、出席者の旅費の8割補助を行い、私は飛行機代を日本から払ったので、大変助かった記憶がある。NIDRRは教育省に属しているため、自立生活運動の高名なリーダー、ジュディ・ヒューマン教育省次官の指揮下にある。

会議はまさに大統領選挙の最終盤に行われていたために、主催者を代表して挨拶したキャサリン・シールマンNIDRR所長は冗談混じりで「どうしてこんな時期にと思われるかもしれませんが、来年では私はこのポストにいるかどうか分かりませんから」と語っていた。

米国ではご承知のように、閣僚以外の行政ポストも政治的任命と呼ばれる形で、民主党政権では民主党支持、民主党系の人材が多く政府の要職に就く。在野の活動家だったヒューマン次官はその例だし、何度も来日しているマイケル・ウィンター運輸省特別補佐官も同様である。共和党政権となれば、彼らはワシントンを去ることになる。会議は、ちょうど3回目のゴア対ブッシュのテレビ討論と重なり、泊めてもらったマイケル・ウィンター/桑名敦子夫妻宅で、見ることができた。選挙結果は当然ながら、ヒューマン次官にも、夫妻にも大きな影響を与える。(ハワイでの自立生活サミットにはヒューマン次官も基調講演のために出席を予定している。)

今回の会議がワシントンで開催されたこと、SDSの年次総会が3年に1度はワシントンで開催されているのは米国の障害学が政府の政策との関連を強く意識している証拠でもある。ワシントンで開催することで、連邦政府関係者の参加も得やすい。そうした絆は、ワシントン以外での開催のSDS年次総会でも活かされている。6月にシカゴで開催された今年のSDS年次総会には、交通のアクセス関係の分科会にウィンター補佐官も出席しているのがその1例である。

会議の概要は次の通り。参加者は米国を含め北米、中南米、アジア太平洋、欧州、アフリカから全部で一四ヶ国の約二七〇名。当然ながら、圧倒的に米国人参加者が多いが、英国グリニッチ大学のマイケル・オリバー教授*など英国からも障害学の有力な研究者が顔を出していた。英国と米国の障害学は理論的アプローチなどの違いから応酬が "Disability & Society"誌上やSDSの年次総会で時折あるが、今回の会議では、さほど見られなかった。

セッションは以下の5つ。

 1、障害学という新しい分野
 2、高校教育での障害学
 3、職業組織、トレーニング組織での障害学の実施
 4、途上国での障害学
 5、情報化社会の障害学

私が最も注目したのは、ヒューマン次官が進行役をダイナミックに務めた第4セッションだった。これにはジンバブエから参加した障害者インターナショナル(DPI: http://www.dpi.org/)議長のジョシュア・マリンガ議長他、チリ、ブラジル、レバノンからのパネリストが、顔を揃えた。マリンガ議長は、アフリカとの協力においてはまず、我々障害者自身の組織と協議、協力してほしいと述べ、帝国主義的協力ならば不要であると述べた。また、ヘンリー・エンズ元DPI議長が現在リーダーシップを取っているカナダのマニトバ大学のカナダ障害学センター(http://www.escape.ca/~ccds/)との協力のもと、ジンバブエの大学がアジアの途上地域との協力も進める予定を語り、アフリカなどの途上地域での障害学の取り組みが始まるというエキサイティングな動きも報告された。

障害学と運動、政治との関係を再確認すると共に、障害学の途上国はじめ世界的な展開を感じさせてくれた会議だった。会議の模様はオンライン(http://www.connectlive.com/events/disabilitystudies/ )で提供されている。関心のある方はアクセスを。


(注) オリバーの代表的な著作の一つである"Politics of Disablement" 1990, は三島亜紀子、横須賀俊司訳で明石書店から近刊予定。障害学研究会関東部会



第12回研究会のご案内

次回は障害の肯定、否定をテーマとして立岩真也さんです。立岩さんの近著、『弱くある自由へ:自己決定・介護・生死の技術』(青土社)はできるだけ読んで、ご参加ください。
日時 2001年1月27日(土)午後1時半-4時半
場所 東京都障害者福祉会館 2階「教室」
(最寄り駅 地下鉄三田・JR田町駅)
電話 03-3455-6321
ファクス 03-3454-8166
テーマ 「ないにこしたことはない、か?」(仮題)
発表者 立岩真也(信州大学)
会費 1000円、学生 500円参加自由です。前もっての登録・連絡は不要です。*手話通訳、PC要約筆記が必要な方は早めにご連絡ください。準備します。問い合わせ先 長瀬修 AXV44520@arsvivendi.combiglobe.ne.jp


障害学研究会関西部会の研究会のお知らせ

日時:2000年12月23日(土・祝)
   午後1時30分から4時45分
場所:大阪市立大学 杉本キャンパス内 田中記念館 3階 3A会議室
   【JR阪和線杉本町駅から徒歩5分、大阪市営地下鉄御堂筋線あびこ駅から徒歩20分】
会場への行き方:
(1) 阪和線杉本町駅【各駅停車しか止まりません】から:
改札口を出て、向かって左側【南側】の階段を下りて、線路沿いの道を200mほど進む【和歌山方面へ南下する】と、守衛付きの大きな踏切がある(「大阪市立大学」の大きな看板が見える)。踏切を渡って、大学の看板の横を過ぎ、30mほど行ったところの右側【南側】が田中記念館。
(2) 御堂筋線あびこ駅から:
地上に出て、天王寺方面から来た場合は自動車通り【あびこ筋】の反対側【西側】へ渡る(なかもず方面から来た場合はそのままでよい)。あびこ筋の西側の歩道をずっと500mくらい南に進み、高架橋わきの側道をなお進むと、踏切があるので渡る。渡ってそのままなお200mくらい南下する(右側【西側】に中学校と住吉区室内プールがある)。室内プールの角を右折し、南側に浅香中央公園がある道をずっと西へ向かって1kmくらい直進し、大阪市立大学のキャンパスを抜けると、守衛付きの大きな踏切がみえる。踏切の手前約30mの道路左側【南側】に田中記念館がある。

内容:
(1)海外リポート
 チベットの盲学校−近代化以前にあるもの−
 報告者:三島亜紀子 (大阪市立大学大学院後期博士課程)
(2)メイン報告
 障害者と健常者の関係から見えてくるもの−障害者役割についての考察から−
 報告者:山下幸子 (大阪府立大学大学院博士後期課程)
参加費:200円

☆手話通訳があります。
☆要約筆記を希望される方は事前にお申し出ください(当日参加できなくなっても結構ですので、お気軽にどうぞ)。お申し出がない場合でも、当日要望があれば参加者で対応いたします。
*手話通訳と要約筆記で対応が異なっていますが、これは、通訳者/筆記者の派遣元の対応のちがいによるところのものです。誠に申しわけございません。
☆点字レジュメ(自動点訳)の用意があります。
☆視覚障害その他の理由で誘導が必要な方は、事前にお申し出ください。会場最寄り駅からご案内いたします(当日来られなくなっても結構ですので、お気軽にお申し出ください)。
[お問い合わせ] QZI11641@arsvivendi.comnifty.ne.jp (倉本智明)



*作成:安田 智博
UP: 202000512 REV: 20200513
障害学(Disability Studies)  ◇全文掲載  ◇全文掲載・2000
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