障害学、ディスアビリティスタディーズをテーマとする本を1999年の3月末に明石書店から石川准、長瀬修編で出すことができた。『障害学への招待 社会、文化、ディスアビリティ』という題名である。1997年春に企画を立ててから出版まで丸2年はかかった計算になるが、本という目に見える形になったのは本当に嬉しい。既に5刷まで行っている。読者の支援の賜物であり、本欄を借りて感謝の気持ちを伝えさせて頂く。
(なお、本書はアクセスに配慮し、書籍に付属している引き換え券で、テキストファイルの入手が可能となっている。詳細は、明石書店営業部、電話 03-5818-1171 ファクス 03−5818−1174 まで)
刊行以来の多くの書評、紹介に勇気づけられた。新聞では、4月29日の『点字毎日活字版』「図書室」(無署名)、6月6日の朝日新聞(吉見俊哉東大助教授)、6月15日の神奈川新聞(竹之下勝民横浜国大講師)6月20日の新潟日報(中西正司ヒューマンケア協会代表)などがある。雑誌では、『中央公論』6月号(難波功士関西学院大学専任講師)、6月の『福祉労働』83号(横須賀俊司鳥取大学教員 )、『ノーマライゼーション』7月号(川内美彦 アクセスプロジェクト)、『リハビ リテーション』7月号(田中嘉之日本福祉大学非常勤講師)、『ひょうご部落解放』第 88号(田垣正普)、『週刊読書人』8月20日号(好井裕明広島国際学院大学助教授 )、『脊損ニュース』99年10月号(中島虎彦脊損連合会佐賀県支部)などがある。
「この一冊で、障害学の問いの広がりを読者に示そうという編者の意図は成功している。これは重要な第一歩であり、こうした知的実践が日本でもより大きな流れを形作っていくことを心から願う」(吉見氏)など過分な評価を頂いた書評、紹介が多いが、ここでは、今後のために批判や注文を中心に紹介させて頂く。
中西正司氏からは「障害学が、障害者自身が障害を活用していくためのものならば、今後、より多くの障害を持つ当事者がこの分野で、その実体験に基づいた実践的な論文をものしてもらいたい」と頂いた。
川内美彦氏は「疑問がわく。『ろう文化宣言』はろう者の『内』に固有の文化があることを宣言し、このような『外』からの勝手な評価や分類を拒否したものではないのか。一体『外』と対比しうる、ろう文化と比肩しうる固有の文化がろう者以外の障害をもつ当事者の「内」にあるのだろうか。それがあるのかないのか、本書を読む限りでは明らかではない」とされている。
田中嘉之氏から「本書が想定する障害者像は一貫して、力強い、いや強くならざるを得なかった障害者像であるようだ。だが、私には障害学の今後にとって、そうした『強さ』が少し気がかりだ。人権や『正義』への感覚が欧米に比べてなお未熟な日本の到達点を考えると、その『強さ』が逆に、障害者間での、個別性といわない『格差』と優先序列化を容認し、<文化の担い手―受け手>という関係性の中での新しい形の「二極分化」に障害学が手を貸すことを心配するからである」。
こういった指摘にもできるだけこたえ、また、第1弾で取り組めなかったジェンダー、障害女性、知的障害をも含め、続編を現在、企画中である。時間はかかると思うが、期待して頂ければ幸いである。
『障害学への招待』の刊行を機に、関西と関東で障害学研究会を開催している。次回の関東部会の案内を下記に。関西部会は現在、未定。