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「SEIQoLについて」

サトウ タツヤ 20091109


■SEIQoLについて

◆SEIQoLとは 中島孝に対するインタビュー記事より
問い
患者のQOLをいかに評価するかについて、先生はSEIQoLが良いとしていますね。
答え(中島孝)
 SEIQoL(シーコール)が出るまでは先ほどのWHOの定義に基づくQOL評価の物差し(尺度)はなかったのです。人は通常、心の中で五つぐらいの要素まで同時に考えることができます。たとえば自動車を買う時、価格、性能、ブランド、色、居住性などをかもしれませんし、もっと別の要素を考える人もいます。自分の日常生活から、それぞれの満足度を思い浮かべ、さらに、それぞれが自分にとってどのくらい重要かをも考えます。瞬時に、心の中で掛け合わせ、足して、あるレベル以上なら買うにふさわしいと考えるのです。価格よりブランドを優先する人もいますし、性能にこだわる人もいるわけです。ほかの全部に不満でも価格が安価なら買おうと思うときもあります。また、優秀な営業マンがいると今までの好みが変わり、新しい挑戦をしてみたりします。この様に、人の評価や意思決定過程は大変複雑です。
 SEIQoLでは、患者自身が自分のQOLを評価する際に、この理論を使います。面接者が対話しながら、今の自分の人生のなかで重要と思う五つの分野を挙げ評価してもらうのです。構成概念としてのQOLが対話によって意識化され評価可能になります。WHOはSEIQoLを代表的な10のQOLの評価尺度の一つに認定したので、私と大生定義教授(立教大学)とが共同研究しながら積極的に日本に紹介していきたいと思っています。原著者のアイルランドのオ・ボイル教授らと相談し国際的なQOL研究活動も開始しています。

 中島孝「緩和ケアは看取りの医療ではない――最期まで続くQOLの向上、生きる挑戦」,『月刊公明』2007-7:34-41
 http://www.niigata-nh.go.jp/nanbyou/annai/seiqol/QOLhearingkomei200708.pdf

◆SEIQoLとは(文責 大生定義)
 個人の生活の質評価法であるSEIQoL(The Schedule for the Evaluation of Individual QoL)はWHOの選んだ10のinstrumentの一つで、他の健康関連QOLと比較するといろいろな面でユニークであり、特に根治が困難な状況においてのQOL評価にも利用可能と期待されている。このQOL評価方法は、見開きの半分の図にあるように、半構造化面接法によって主要なdomainが概念化され、Visual analog scale により各domain(CUEキューと称する)のレベルと重み付けをし、さらにglobal indexも測定することができるとされている。

 個人の生活の質評価法(SEIQoL)生活の質ドメインを直接的に重み付けする方法(SEIQoL-DW)実施マニュアル
 http://www.niigata-nh.go.jp/nanbyou/annai/seiqol/SEIQoLJAP0703WEB.pdf

◆SEIQoLとは(O’Boyle, Browne, Hickey, McGee, Joyce=アイルランド王立外科大学,医学部心理学科)
 個人の生活の質評価法(SEIQoL, Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life)は、個人の生活の質(QoL、Quality of Life)を面接に基づいて評価する方法である。SEIQoLの完全版(McGee et al、1991; O’Boyle et al, 1992)を行う面接手順ではかなりの時間が必要とされる(10〜20分)。そのため、被験者にQoL評価にあたって、ある一定範囲内の複数選択肢やアウトカムを考えさせるようなプロセスの一部として使われるような研究や臨床場面においておもに適しているといえる。SEIQoLは、様々な患者グループに対して実施されてきたが、認知機能や、やる気が損なわれている状態に、SEIQoLを適用することには限界があるようである。SEIQoLを完全に実施するには、生活の質を決定する要因が何かを洞察する力、抽象的な思考力、さらに図示された情報を判断する力がとりわけ必要となる。従ってこのような能力が損なわれている患者にSEIQoLを利用するのは問題となるかも知れない。(Coen et al.,1993)。

 個人の生活の質評価法(SEIQoL)生活の質ドメインを直接的に重み付けする方法(SEIQoL-DW)実施マニュアル
 http://www.niigata-nh.go.jp/nanbyou/annai/seiqol/SEIQoLJAP0703WEB.pdf

◆SEIQoLとは
 SEIQoLは、調査者との対話によって本人自らが自分のQOLを決定づけている生活領域の5つを明確化し、それらの領域の相対的な重み及びその満足度を自ら決定(算定)していくものである。最終的には、各領域の重要度と満足度の積の総和がQOL値となる。この方法を用いると、病気だからADLが低下してQOLも低下するというような結果ではなく、また、病気かどうかにかかわらず、人が自身の生活をどのように捉えているのかを公共的な方法で示すことが可能になる。

 サトウタツヤ・西田美紀・福田茉莉・中島孝・園田裕美 2008.11 SEIQoL-DWから捉えた個人のQoL(1) ――個人の知覚を重視するQOL 日本質的心理学会第5回大会(筑波大学)

◆SEIQoL-DWとは?
 SEIQoL-DW(The Schedule for the Evaluation of Individual QoL-Direct Weighting) とは、「生活の質ドメインを直接的に重み付けする個人の生活の質評価法」であり(中島,2006)、患者主体のQoLを面接法の中で調査者と共同で構成する方法である。調査協力者は自身のCue(QoLに関連する領域)を5つ回答し、各々どの程度に満足しているか(Level)、どの程度重要か(Weight)をvisual analog scaleで回答する。最終的には、各Cueへの満足のレベルと重要度の積の総和がQOL値となる。この調査法は既に多くの医療・看護場面において実施されている。

  中島 孝 (2006) 4.QOL向上とは――難病のQOL評価と緩和ケア
  脳と神経 58(8),661-669.

 サトウタツヤ・福田茉莉 2008 SEIQoLと構成主義-G.A.Kellyのパーソナル・コンストラクト理論を参照して- 日本パーソナリティ心理学会第17回大会発表論文集

◆SEIQoL-DW
 例えばSEIQoL-DW は頻繁に利用される「完全」個別尺度で,提示されたQOL 関連分野の中から各対象者がそれぞれにおいて自分の生活に最も重要な5 つを選び,更に選択した各分野に重み付けをした上で,その分野に属する質問に答える方式のものである13).

13) McGee HM, et al. Assessing the quality of life of the
individual: the SEIQoL with a healthy and a gastroenterology
unit population. Psychol Med 1991; 21(3): 749-59.

 松田智大 2004 QOL測定の方法論と尺度の開発 保健医療科学、53、181-185.
 http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030003.pdf

◆SEI-QOLの施行法
 SEIQoL-DWは,半構造化面接法を用いて,患者自身が自分のライフストーリを語る中で、現在の自身のQOLを決定付ける生活領域(ドメイン)を自分自身で考えて決めることができる。そして、その生活領域の現在の満足度や、他の領域との相対的重要性を見積もるのである。こうした方法の背景には、G・ケリーのコンストラクト心理学の考え方がある。
 試行マニュアルによれば、説明と導入を行ったあと、患者など評定者自身が以下の3つの段階で評定を行う。前述のようにこの方法はライフストーリ・インタビューとの併用が前提となっている。

1.生活の中で大切な5つの領域(キューと呼ぶ)を語ってもらう
2.各領域の満足度を自己評価してもらう(“考えられる最低”から“考えられる最高”まで)
  満足度は各領域とも0〜100の数値をとる
3.可動式円盤を用いて5領域の相対的重要性を示してもらう
   各生活領域の重要度の総和は100となる

 最後に、各生活領域(キュー)への満足のレベルと重要度をかけ算して数値を求め、その総和がQOL値となる。

 サトウタツヤ 2007 QOLからSEI-QoLへ あるいは項目事前準備型QOL尺度を越えて 日本パーソナリティ心理学会第16回大会発表論文集

◆ALSと/のQOL
 SEIQol-DW については,既存の健康関連QOL 尺度ではダイナミックに変化する患者の価値観や患者の主観的なQOLを評価することはできず,例えば入退院前後のQOL の変更を捉えるのに有効であるとの指摘がある23).

   23) 中嶋孝.ALS 患者のQOL を高める支援のための主観的QOL
   調査.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「特定
   疾患の生活の質(Quality of Life)の向上に資するケアの在り方
   に関する研究」(主任研究者:中嶋孝.)平成15 年度総括・分担研
   究報告書;2004.p.28-39.

 松田智大 2004 QOL測定の方法論と尺度の開発 保健医療科学、53、181-185.
 http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030003.pdf

◆注目される個人の生活の質評価法 SEIQoL-DW
 SEIQoLでは歩けなくなっている人に歩けないことをどう悩んでいるかを質問するのではない。QOLは患者自身とケアする側の関係性のもとで、意識化される構成概念であり、その人が今大事に思っていること、できることを考えてもらい面接者との対話でQOLを意識化してもらう。
この方法は根治できないがん患者さんや難病患者さんのQOLを理解し評価する良いツールとなる。QOLが病態やケア内容の変化に応じて変動する実態が把握でき、援助を工夫できるという長所がある。

 中島孝 2007 注目される個人の生活の質評価法 SEIQoL-DW, (月刊公明 2007年7月号 p34-p41).
 http://www.niigata-nh.go.jp/nanbyou/annai/seiqol/SEIQoLkomei200708.pdf

◆構成主義からみたQoL――G.A.Kellyのパーソナル・コンストラクト理論からの考察
  SEIQoLを考察する上で重要となるのがG.A.Kellyの提案したパーソナル・コンストラクト理論(Kelly,1955)である。Kellyは、「人間は科学者である」という前提から、個々人が概念を構成し、選択と統制、修正を繰り返して発達するという心的過程を主張した。これらの主張を基に、SEIQoLはIndividual QoLを測定する方法として提案され(O'Boyle,1994他)、調査プロセスに面接法を内包することにより、言語化による個人の構成概念の構成、再構成を促すものである。つまりSEIQoLは患者主体のQoLを語りによって構成するという構成主義的側面と患者のQoLを数値化するという本質主義的な側面を持ち合わせている。

    CA. O'Boyle (1994) (SEIQoL)
     International journal of mental health. 23.3-23.
    G.A.Kelly (1955) The Psychology of Personal Constructs:Volume.1
     ROUTLEDGE London and New York.

 サトウタツヤ・福田茉莉 2008 SEIQoLと構成主義――G.A.Kellyのパーソナル・コンストラクト理論を参照して 日本パーソナリティ心理学会第17回大会発表論文集

◆SEI-QOLという考え方
 根治困難な疾患をもつ患者の生活の質(Quality of Life, QoL)は低いのか?運動神経のみが選択的に冒され、自発呼吸さえできなくなる患者は、端からみればQOLが高いとは見なされないだろう。しかし、身体や疾病がどのような状態であってもそこに充実したQOLを見たり、その質の向上を目指すことは可能であり、また、他者の状態との相対的比較でのみQOLが決定されてはならない。計量心理学は一般的に「標準化」の手続きをふまえているため、常に見えない他者との比較の目にさらされている(サトウ、2006)。こうした他者との比較なしに、それぞれの人に内在的な生活の質を捉える方法として、The Schedule for the Evaluation of Individual QoL(SEIQoL)がある。SEIQoLはアイルランドのオ・ボイル教授が開発したもので、世界保健機構(WHO)の選んだ10のQOL関連instrumentの一つでもある。

    サトウタツヤ 2006 IQを問う ブレーン出版

 サトウタツヤ 2007 QOLからSEI-QoLへ あるいは項目事前準備型QOL尺度を越えて 日本パーソナリティ心理学会第16回大会発表論文集

◆SEIQoL-DWにとっての聞くことの意義
 SEIQoL-DWは患者主体のQOL評価法であるが,このとき聞き手はとても重要な役割を果たしている。A. Frankは,聞き手の倫理(Frank, 1995/2002; Frank, 2008)として,聞き手は語り手を承認するべきであり,応答的効果を与えることを容認するべきであると述べている。つまり,聞き手は語れないことや語らないことを受容するのではなく,語り手から対象となるナラティヴを引き出す責任が課せられるというのがFrankの基本的な立場である。例えば,SEIQoL-DWの場合,「QOLに関連する領域(Cue)を5つも挙げることができない」という調査対象者に出会うことがある。その場合,調査者はSEIQoL-DW実施マニュアル(大生・中島,2007)に従い《聞き手(調査者)》がリストを用いて,「このようなものが例として挙げられていますが,何かありますか?」と教示する。調査者自身がこの行為に恣意性−《語り手(患者)》にCueを必ず5領域回答するように強いるように感じられる−を感じるかもしれない。しかしこの調査者の要請こそがFrankの述べる応答的効果であり,彼の言うところの聞き手の倫理の実践となる。言い換えるならば,「QOLについて語り手に考えるように聞き手が促すこと」,「領域を5つ挙げてくださいと依頼すること」で患者のQOL領域を拡大する可能性を持つ。語りによる構成概念の構成,再構成を可能にすると考えられるのである。あるいはこうしたプロセスのなかでオルタナティブ・ストーリ(代替の物語)を創生することにつながり,新たな価値観や生きがいが生成され,物語の書き換えや意味の転換が起こる可能性さえあるのである。

  Frank, A. (1995) The Wounded Storyteller: body, illness, and ethics.
   Chicago: University of Chicago Press.
   鈴木智之 訳(2002).「傷ついた物語の語り手 身体・病い・倫理」.ゆるみ出版.
  Frank, A. (2008) The Problem of Saying Something About Trauma Narratives.
   特別公開企画「物語・トラウマ・倫理─―アーサー・フランク教授を迎えて」
   立命館大学における講演.2008.06. 開催  
   http://www.arsvi.com/b2000/0901ah.htm
  大生定義・中島孝(監訳) (2007)個人の生活の質評価法(SEIQoL)
   生活の質ドメインを直接的に重み付けする方法(SEIQoL-DW)実施マニュアル日本語版(暫定版)
  「SEIQoL-DW 日本語版(暫定版)について(2009年5月20日)」
  :http://www.niigata-nh.go.jp/nanbyou/annai/seiqol/SEIQoLJAP0703WEB.pdf

 福田 茉莉・サトウ タツヤ 2009/08 「SEIQoL-DWの有用性と課題──G. A. Kellyのパーソナル・コンストラクト・セオリーを参照して」,『立命館人間科学研究』19,133-140.
 http://www.ritsumeihuman.com/publication/files/ningen19/19_133.pdf

◆QOLと日常生活動作(ADL)などとの交絡
 SF-36やEuroQoLなど,従来のQOL評価尺度で筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の「生」を評価した場合,どのようなケアを施してもQOLの点数は上昇しない。

 サトウタツヤ 2007 QOLからSEI-QoLへ あるいは項目事前準備型QOL尺度を越えて 日本パーソナリティ心理学会第16回大会発表論文集


*作成:サトウ タツヤ
UP:20091109 REV:
全文掲載  ◇生活の質・生命の質/Quality of Life, QOL
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