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「健康関連QOLについて」

サトウ タツヤ 20091104


■健康関連QOL

◆QOLの概念

QOL の概念
古谷野3,4) は,様々なQOL の定義は,(1)個人の状態,(2)環境条件,(3)個人の主観的評価のうちの 1 つまたはいくつかを含むものになっているとして,これらの組み合わせによるQOL 概念の整理を行っている.個人の状態には健康度と,収入や保有資産などの社会経済的地位が含まれ,環境条件には,ソーシャル・ネットワーク,ソーシャル・サポートなどの社会的環境条件と,住居や都市環境などの物的環境条件の双方,そして個人の主観的評価には,満足度,幸福度などの評価結果と評価の際の基準が含まれる.
古谷野によれば,QOL の様々な定義には次の7 つのパターンが認められる.
1 QOL=(個人の状態)
2 QOL=(環境条件)
3 QOL=(評価結果)
4 QOL=(個人の状態,環境条件)
5 QOL=(個人の状態,評価結果)
6 QOL=(個人の状態,環境条件,評価結果)
7 QOL=(個人の状態,環境条件,評価結果,評価基準)

   3) 古谷野亘.QOL の概念と測定.柴田博,編.老人保健活動の
   展開.東京:医学書院;1992. p.64-73.
   4) 古谷野亘.高齢者の健康とクォリティ・オブ・ライフ.園田恭
   一,山崎喜比古,杉田聡,編.保健社会学T 生活・労働・環境
   問題.東京:有信堂;1993.p.128-39.


◆健康と直接関連のあるQOLと健康と直接関連のないQOL

土井由利子 2004 総論−QOLの概念とQOL研究の重要性 保健医療科学、53、176-180.
http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030002.pdf

3.QOL の種類と評価
QOL は,健康と直接関連のあるQOL(health-related QOL:HRQL)と健康と直接関連のないQOL(non-healthrelated QOL:NHRQL)とに大別される.前者は,QOL のうちで人の健康に直接影響する部分のQOL であり,身体的状態,心理的状態,社会的状態,霊的状態,役割機能や全体的well-being などが含まれる.医療におけるQOL 研究のほとんどは,このHRQL 研究である.後者は,環境や経済や政治など,QOL のうちで人の健康に間接的に影響するが,治療などの医学的介入により直接影響を受けない部分のQOL を意味する6).

  6)Spikler B, Revicki DA. Taxonomy of quality of life. In: Spilker
  B., edited. Quality of life and pharmacoeconomics in clinical
  trial. New York: Lippincott Williams & Wilkins; 1996. pp.25-31.

1)健康と直接関連のあるQOL(health-related QOL:HRQL)
包括的尺度として,1)健康プロファイル型尺度:Short-Form-36 Health Survey, Sickness Impact Profile,WHOQOL,2)選好に基づく尺度:EuroQOL(EQ-5D)などがある.疾患特異的尺度としては,European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire (EROTC QLQ),Arthritis
Impact Measurement Scale12),Kidney Disease Quality of Life (KDQOL), Problem Area in Diabetes Survey (PAID)などがある.

2)健康と直接関連のないQOL(no-health-related QOL:HRQL)
健康とは直接関連がないが間接的に健康に影響するNHRQL については,HRQL に準じて4 つの領域に分類される:@personal-internal(人−内的),Apersonal-social(人−社会的),Bexternal-natural environment(外的-自然環境),Cexternal-social environment(外的−社会環境).


◆健康関連QOL

福原 俊一. 臨床のためのQOL評価と疫学 . 日本腰痛学会雑誌. 2002; 8: 31-37 .
http://www.jstage.jst.go.jp/article/yotsu/8/1/31/_pdf/-char/ja/

(P33)
健康関連QOLを構成する最も基本的な二つの構成要素は「主観的な健康感」(well being)と「日常生活機能」(functioning)である.すなわち,健康関連QOLは「疾患や治療が,患者の主観的健康感(メンタルへルス,活力,痛み,など)や,毎日行っている仕事,家事,社会活動にどのようなインパクトを与えているか,これを定量化したものである」と定義できる.

(P34)
健康関連QOL尺度は,価値づけ型(選好に基づく尺度とも呼ばれる)とプロファイル(多次元)型に大きく分類される.プロファイル型は,身体機能,メンタル・へルスというように次元を分けて測定する尺度で,MOS-Short Form 36(SF-36)のような対象を限定しない「包括的QOL尺度」や,腰痛に特異的なRoland Morris Disability Scale(RMDS)など「疾患特異的尺度」がある(表3).

(P35)
「価値づけ型の尺度(選好に基づいた尺度)」とは,効用値を推定するために,QOLを単一指標で測定・表現する尺度である.その効用値を得るための尺度がEuroQol(EQ5D),Health Utilities Index(HUI)である.


◆医療経済研究におけるQOL

がんとQOL 2004 下妻晃二郎 保健医療科学、53、198-203.
http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030006.pdf

Y.医療経済研究におけるQOL 評価
QOL の量的評価の方法としては主に2 種類ある.一つは,前項まで示したような「プロファイル型尺度」と呼ばれる患者自記式調査票により測定する方法で,一方,「価値付け型尺度」あるいは「選好に基づく尺度」と呼ばれる尺度を用いて,「効用値」というQOL を測定する方法がある.これはQOL を一次元の概念(最悪値が0,最良値が1 など)として測定する方法であり,専ら医療経済研究の分野で用いられる.効用値を生存期間やコストと組み合わせ,cost/QALY(Quality-Adjusted Life Year)などのアウトカム統合指標を作成し,医療政策分野における適切な資源配分の指標として用いられることが多い.


◆QOLの定量化

松田智大 2004 QOL測定の方法論と尺度の開発 保健医療科学、53、181-185.
http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030003.pdf

精神測定学的手法を応用したQOL の定量化

それまで医療のアウトカムとして用いられていた生存率や再発率といった客観的指標と同じレベルで,目に見えない主観的概念であるQOL を質問と回答をもって定量化しようとする試みは80 年代から米,英,オランダの研究者を中心に精力的に行われ,それより30 年近く経過した現在では,「精神測定学の手法を用いてのQOL の定量化は可能である」というコンセンサスのもとに数え切れないほどの測定尺度が開発されている.今日の代表的なQOL 測定尺度には,いわゆる効用型とされる尺度とプロファイル型と呼ばれる尺度の2 種類があり,さらにプロファイル型尺度には,包括的なものと,疾病や対象者の性質(性別,年齢等)や機能において特異的な尺度の2 種類がある.目的に応じてそれらが使い分けられており,医療経済の分野においては一元的な合計得点が算出されるHUIやEQ-5Dといった効用型尺度を時間得失法(Time trade off)等の直接的方法の代わりに用いて効用値を算出し,QALY(Quality Adjusted Life Years)として医療経済上の方針決定や治療選択に役立てるのが現在における主流である4).臨床研究ではプロファイル型の疾病特異的尺度,社会疫学研究においては包括的尺度を用いて,身体的健康,社会的健康といった各構成概念ごとに対象者の健康を評価するといったような使い方が一般的にされている.Hwang のように,プロファイル型の尺度を効用値に換算した新たな指標を用いてのアプローチも試みられており5),Quantity of Life とQuality of Life,客観的健康指標と主観的健康との融合も今後は重要なテーマとなる.既存の行政また情報や,脳生理学的なアプローチによって直接的に人間の精神を分析した結果にQOL 評価を併せ,総合的に判断することも将来的に可能であろう.

   4) Feeny D, et al. Multi-attribute health status classification
   systems. Health Utilities Index. Pharmacoeconomics 1995;
   7(6): 490-502.
   5) Hwang JS, Wang JD. Integrating health profile with survival
   for quality of life assessment. Qual Life Res 2004; 13(1): 1-10;
   discussion 11-4.

代理者による測定

効用型尺度は現在でも代理者による測定を選択肢の一つとし,プロファイル型の尺度においても,古くは医師が測定する尺度が存在したが,現在のQOL 尺度は,本人回答,本人測定が原則となっている.ただし小児や高齢者,ターミナル期のがん患者,精神疾患患者等,本人が質問に回答するのが困難な対象に関して,家族,医療従事者,教師等の代理者(proxy)が測定する方法がある.代理者による評価と本人の評価との一致の問題は,長年に渡って議論がなされており,結論としては,1)身体的側面など,ある程度の客観性を伴う分野においての一致性が高く,そうでない分野においての一致性が低い,2)対象者と代理者との関係,対象者の重症度などの要因が一致性を左右する,という結果が出ている17,18).また,両親が子供のQOL を代理測定する場合,両親自身の精神状態,健康状態,QOL によってその評価結果が左右されるということが言われている19).子供の代理者としても両親以外のものが最良であるケースがあるため,代理回答が必要な調査では,状況に応じて慎重に選択し,代理者測定において一致性が高いことが実証されている尺度を使用する必要がある.

   17) Eiser C, Morse R. Can parents rate their child’s
   health-related quality of life? Results of a systematic review.
   Qual Life Res 2001; 10(4): 347-57.
   18) Novella JL, et al. Agreement between patients’ and proxies’
   reports of quality of life in Alzheimer's disease. Qual Life Res
   2001; 10(5): 443-52.
   19) Eiser C, Morse R. Quality-of-life measures in chronic diseases
   of childhood. Health Technol Assess 2001; 5(4): 1-157.


◆プロファイル型と効用型QOL

山岡和枝 2004 QOL研究における統計的方法 保健医療科学、53、186-190.
http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030004.pdf

2.QOL の測定の特徴
2.1 プロファイル型と効用型QOL の測定とスケール健康関連QOL の測定のためのQOL 調査票はいくつかの捉え方があるが,スケールとしては尺度構成の観点からの分類を取り上げてみる.それは大きく分けて多次元的機能測定を行うプロファイル型(profile based)とQuality-adjustedlife-year などを算定するなどの効用測定のための効用型(utility based)に分類され,前者にはSF36,SIP,EUROTC QLQ C-30などがあり,後者にはEuroQOLなどがあてはまる.プロファイル型のものは心理学的尺度法に則ったスケールの信頼性や構成概念妥当性などが検討可能である.


◆特定疾患とQOL

杉江拓也 2004 特定疾患とQOL 保健医療科学、53、191-197.
http://mhlw-grants.niph.go.jp/kosyu/2004/200453030005.pdf

特定疾患は平成15 年10 月現在121 の疾患が指定され,1)調査研究の推進,2)医療施設等の整備,3)医療費の自己負担の軽減,4)地域における保健医療福祉の充実・連携,5)Quality of Life(以下,「QOL」)の向上を目指した福祉施策の推進の5 つの柱で対策が推進されており,このうち45 疾患について,診断基準が一応確立し,かつ難治度,重症度が高く患者数が比較的少ないため,公費負担の方法をとらないと原因の究明,治療方法の開発等に困難をきたすおそれのある疾患として公費負担医療の対象となっている.


*作成:サトウ タツヤ
UP:20091105 REV:
全文掲載  ◇生活の質・生命の質/Quality of Life, QOL
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