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「QALYについて」

サトウ タツヤ 20091104


■QALY(Quality-adjusted life-year)(質調節生存年数)について

◆QALYの価値 The Value of QALY's

Alan Williams 1985 The Value of QALY's. in Health and Social Service Journal , (18 July 1985), 3?5

QALYなるものの本質は、健康な生活を期待できる1年を1と価値づけ、不健康な生活の期待される1年についてはその価値を1以下と見なすことにある。不健康な人物のQOLが低くなるほど、その正確な<QALYの>数値は低くなる(‘quality adjusted’という部分が意味するのはそういうことである)。もし、死んでいることの価値がゼロであるなら、原理的に、QALY値はマイナス値を取り得る、即ち、誰かのQOLが死より低いと判断されうるのである。一般的な考えとして、有益な医療(ヘルスケア)活動とは正の量のQALYを生み出すものであり、効果的な医療活動とは1QALY当りのコストが可能なかぎり低いものである。優先順位の高い医療活動は1QALY当りのコストが低いものであり、優先順位の低い医療活動は1QALY当りのコストが高いものである。

原文
The essence of a QALY is that it takes a year of healthy life expectancy to be worth 1, but regards a year of unhealthy life expectancy as worth less than 1. Its precise value is lower the worse the quality of life of the unhealthy person (which is what the ‘quality adjusted’ bit is all about). If being dead is worth zero, it is, in principle, possible for a QALY to be negative, i.e. for the quality of someone’s life to be judged as worse than being dead. The general idea is that a beneficial health care activity is one that generates a positive amount of QALYs, and efficient health care activity is one where the cost-per-QALY is as low as it can be. A high priority health care activity is one where the cost-per-QALY is low, and a low priority activity is one where cost-per-QALY is high.

◆QALY

科学的根拠に基づくがん検診推進のページの用語解説

QALY 質調整生存年 (Quality Adjusted Life years)

http://canscreen.ncc.go.jp/yougo/08.html

経済評価を行う際に、評価するプログラムの結果の指標として用いられる。単純に生存期間の延長を論じるのではなく、生活の質(QOL)を表す効用値で重み付けしたものである。



◆QALYの計算例

小笠原克彦 2007 費用効用分析とQOL 日本放射線技術学会雑誌,63,791-795.
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/39556/1/ogasawara_JJRT63-7.pdf

2-4 QALY
 費用効用分析では,効用値をそのまま用いず,効用値にその状態が続くであろう年数を乗じたQALYに変換する.結核で入院している状況(効用値 0.6)が 4 年続いた場合と,中程度の狭心症(効用値 0.5)が 5 年続いた場合のどちらの方が,その生活に影響を及ぼす年数としての価値が高いといえるだろうか.QALY(質で調整した生存年数)を用いて比較してみよう.前者の結核の場合,QALYは 0.6(効用値)×4( 年数)により,2.4となる.これは全く健康な状態(効用値:1)に換算して2.4年間に相当する.それに対して,狭心症の場合,0.5(効用値)×5( 年数)より2.5となる.この二つの結果より,中程度の狭心症の方が 0.1年であるが価値が高いということができる.

◆QALYsと必要の強さ

坂井昭弘 1992 「平等感情と正義」(p.246-272)伊藤勝彦・坂井昭宏共編『情念の哲学』東信堂
http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~k15696/home/sakai/QALYs.html

3 QALYsと必要の強さ
(1)期待される生存年(余命)に基づく配分
 ミクロとマクロの双方にわたって、最近では「生命の質で調整した生存年」(Quality Adjusted Life Years)に基づく医療資源配分が提唱され、論争の主題となっている。前述のように、チルドレスやラムゼーは医学的適合性を、レッシャーは「成功の見込みと平均余命」をそれぞれ第1の選抜規準とした。QALYsに基づく資源配分は、こうした考え方を広義の功利主義の立場、具体的にいえば医療資源の有効利用という観点から基礎づけ、発展させたものとみることができる。マイケル・ロックウッドによれば、QALYsが登場するのは以下のコンテキストにおいてである。
 「資源が最大の善をなすところに、それを配分すべきである。」ミクロ配分であれ、マクロ配分であれ、資源配分に関するもっとも自然な回答であろう。むろん、「最大の善」によって何を理解するかによって立場は分かれる。しかし、医療活動に関するかぎり、それを「生命を救うこと」、「死の到来を延期させることにある」として間違いはない。それゆえ、ドナルド・グッドによれば、健康に対する脅威の相対的重要性を、それが原因で失なわれる生存年数で評価し、資源の投下が生み出す生存期待年の総和が最大になるように、医療資源を配分すべきである。「計算の基礎は、最初の危機を乗りきった人は、すべて70歳まで生き続けるという仮定に置かれる。」グッドは以下のように詳述する。
 「たとえば、デンマークでは1年間の死者は約50,000人であるが、1ー70歳のグループは約20,000人にすぎない。・・・このグループで失われた総生存年数は合計264、000年である。しかし、そのうちの80,000年は事故と自殺による。40,000年が心臓病、20,000年が肺疾患を原因とする。こうした数値によれば、医療予算のかなりの部分は事故と自殺の予防に、それよりも少ないが、なおかなりの部分が心臓病および肺疾患の予防と治療に使用されるべきである。癌には、はるかに少ない部分しか割り当てるべきでない。多くの場合、癌は人生後半期の病気であり、失われる生存年数の総和を減少させるのにそれほど貢献しない。腎透析装置の供給にも、血友病患者の治療にもほとんど予算を割り当てるべきではない。82歳以上の老人患者の生命を延長する試みには、びた一文も割り当てられない。」
グッドは「生命の量」(Quantity of Life)にのみ注目し、「生命の質」(Quality of Life)を無視した。しかし、医療活動の大部分は生命の延長だけではなく、苦痛、不便、機能障害の緩和に向けられており、これらも同様に価値がある。さらに、いくつかの治療法は生命の脅威に対して同じランクを占めるとしても、QOLに対する効果という点では必ずしもそうはならない。さまざまな医療行為のなかで、どれが最大の善をなすかを判断するには、一般的にいって、生命を魅力的にする側面と生命を延長する側面とのバランスが必要である。言い換えれば、生命の質と生命の量とを同時に測定し、表現するある方法が必要である。QALYsすなわち「生命の質を調整した生存年」という概念は、こうした要請に応えるために提起されたのである。

◆QALY

竹山 重光 1995 Quality of Life : 基本的反省と提起されている問題和歌山県立医科大学進学課程紀要 第24巻 1〜22頁
http://www12.ocn.ne.jp/~nkantake/zettel/qol.html

2-2-2.QALY

[2-2-2-1] とはいえ現在では、QOLの測定ということを前提とした上で、つまりQOLの測定値が算出できるとした上で、QALY(Quality adjusted Life Year)、「質に合わせて調整した生存年」なるものも考えられている。日本のある医師が紹介するところによると、これは、より高い質の(より健康な生活を営める)5年間と、より低い質の(生活する上でより重い障害をともなった)10年間とを比較評価して選択するという考え方であり、残っている寿命の一部を失う代わりに、より高い質を手に入れようという考え方だという(10)。これを理解するために、下に簡単なグラフを挙げた。質と生存年とで高さと底辺が決まる方形の面積を比較考量して選択すればよいわけである。言うまでもなく、その面積を算出するためには、質が測定されねばならない。ここでは質が測定可能であることが前提されている。

(10)は『Quality of Life −QOLのめざすもの−』(リブロ社、1990、222頁)からの引用。

◆「どうあるべきか、医療費分配の問題」


ロジャー・クリスプ 
「どうあるべきか、医療費分配の問題」
  
2004年度オックスフォード大学ロジャ・クリスプ博士(Uehiro Fellow)
  来日プログラム
http://www.rinri.or.jp/international_exchange0304.htm 

要約
本論は、現代社会の医療資源をいかに分配すべきかを考察する。第1節では、この問題の本質と、英国の状況を分析する。第2節では、この問題に対する一定の解答?QALY(質調整余命・質調整生存年等)を最大限にすべきである?という着想を説明する。この理論の背景をなす、人間の幸福についての哲学的な仮定が論じられる。第3節では、QALY理論が、治療の結果とコストとに応じて、どのように許容するか、ということと、今日の英国における生と死の決定に、QALYが実際にどのように用いられているかを紹介する。第4節では、QALY理論が最大限の善をもたらすことを要求する「功利主義」という哲学理論の子孫であることを提示する。第五節では、QALY理論が善意という徳は受け入れるにしても、正義という徳の意義を見逃しかねない、ということを示唆する。最終節では、医療費分配を決定する吟味は多元的なものであるから、そうした決定を下すために必要とされる中心的な徳とは「実践的知恵」である、という結論に到る。


3.QALY理論はどのように使えるか

(@)QALYが英国で普及したのは、「QALYあたりの」医療費を―つまり、すなわち、1ポンド毎にどれだけのQALYが生み出されるかに基づいて―考慮に入れられるからです。そしてそれは、医療・政治いずれにせよ「専門家」の判断に頼るよりも、配慮すべき全ての人の選好を考慮に入れているという点で「民主的」です。
(A)以下は、冠状動脈性心臓病予防のために、一般医に公開されている3つの方針のためのQALYそれぞれにかかるコストです。

方針 QALY毎の概算コスト
禁煙指導 c.£180
危険な高血圧を抑えるための処置 c.£1700
血清コレステロールを抑えるための処置 c.£1700

比較
腹膜透析の継続的な通院 c.£13450
肩関節置換 c.£590

(B)現在NHSではQALYはどのように用いられているのでしょうか?  The National Institute for Clinical Excellence(NICE)はNHSの一部です。NICEはイングランドとウェールズでNHSを利用する人々の治療とケアに対して国家的な指針を与える責任を持つ独立組織です。この指針は、医療の専門家、患者とその介護者が治療と健康管理について決定を下すのを助けることを目的としています。NICEの指針は、NHSの専門知識と、NHS職員やヘルスケアのプロ、患者、介護者、産業、そして学術共同体を含む、より広範囲の医療共同体を利用して発展しています。
例:局所的に進行した転移性乳癌の治療のためのCapecitabineの利用に基づく指針(www.nice.org.uk/pdf/62Capecitbreastfullguidance.pdf) この例では、QALYデータが、特定の薬を用いるのを支持するために用いられています。


◆QALYと医療資源配分

浅井 篤  20060515 「QALYと医療資源配分」,伊勢田・樫編[2006:121-142] 『生命倫理学と功利主義』,ナカニシヤ出版 ,276p. ASIN: 477950032X 2520 [amazon][boople] ※, b be

「不足について」

 「本章では医療資源を配分するための方法の一つ、Quality-adjusted life-year(質調節生存年数、以後<0193<QALYと略記する)に基づいた方法論について検討する。QALY値を勘案した医療資源配分は功利主義――特に選好功利主義――的な手法であり、希少な医療資源の配分問題について明快な回答を与える。この方法では結果的に効用が最も大きくなる仕方で医療資源の配分が目指される。一方深刻な限界や問題点があり、さまざまな指摘や批判を受けている。」(浅井2006:193-194])

◆イギリス財務省のグリーンブックとQALY

社会基盤投資における便益計測手法に関する調査
平成 14 年3 月
パシフィックコンサルタンツ株式会社

http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/suishinchousa/pdf/h13/shakaishihon/honbun.PDF

4−2 イギリス
(1)財務省(HM-Treasury)
1)プロジェクト評価マニュアルの概要

イギリスにおける公的資本形成に関わるプロジェクト評価マニュアルとして、財務
省は1991 年に、「中央政府による事業評価」(Appraisal and Evaluation in Central Government、通称『グリーンブック』、以下グリーンブック第2 版とする)を発行した。グリーンブックは1996 年に改訂され、現在、第2 版が英国全体の事業評価ガイドラインとなっている。



財務省グリーンブック担当者へのヒアリングによれば、2002 年中に第3 版が公表さ
れる予定であり、CVM やヘドニック・アプローチの持つ統計学的な問題に対する対策など、新たな計測手法に関連する事項を積極的に取り入れる意向であるという。



2)評価手法と評価指標



B貨幣換算が一般的に困難である便益および費用の取り扱い
健康への影響については、全ての人に同様の影響をもたらすような場合には、血圧
の変化などを定量的に把握して費用効果分析を行う。一方、人によって異なる影響をもたらすような場合には、生活の質の変化を考慮した平均余命である、“質を調整した生存年”(the quality-adjusted life year; QALY)が最も一般的な尺度ととして活用されており、これに基づいて費用効用分析(Cost Utility Analysis)が行われる。

◆イギリスの公的医療とQALY

イギリスの医療制度−費用対効果向上への取り組み
2007 年12 月8 日
竹之下泰志
http://www.takenoshita.org/jp/archive/j8.pdf

NICE の役割
イギリスの公的医療(NHS)でカバーされる治療方法と薬剤、医療機器に関しては、National Institute of Clinical Excellence(NICE) という機関によって、その基準が決められている。NICE は、治療や薬剤に関して、その有効性は勿論のこと、経済性の観点からも評価し、国民が受けられる治療を決めていく。NICE は、政府とNHS(国立医療サービス)からは、独立した法人で両者の干渉を受けることなく方針を決めることができる。新薬が上市された後、最初の1 年程度は製薬メーカーが独自に価格を決め、医師に対してその対象患者、症状について説明をすることが出来る。しかし、1 年程度経ち、その薬に対する現場の医師の評価が定まってくると、NICE は臨床現場の意見、海外における当該医薬品の承認、使用状況、コスト対効果等を考慮しながら、具体的にどのような患者に、どのような状況で当該薬品を使用すべきかを決定する。ここで特筆すべきは、コスト対効果のウエイトの高さだ。国民医療の限られた資源をより有効に活用するValue for Money (値打ち)というキーワードのもと、一人の患者の健康を一年間得るためにはいくらのコストがかかるのという指標(QALY: Quality adjusted life years) を用いて、医薬品の価値を厳しく評価する。慣例的にQALY3万ポンドが保険適用の限界とされ、一部の抗癌剤などが保険対象外となっている。添付1はNICE ガイドラインの一例。NICE のガイドラインは、拘束力を持つ。

添付は略


◆QALY批判

Critical Life (期限付き)。著者は小泉義之
http://d.hatena.ne.jp/desdel/20080329

ここで要約するのは次のものである。Maurice McGregor, “Cost-utility analysis: Use QALY’s only with great caution,” Canadian Medical Association Journal, Feb. 18, 2003; 168(4).

コスト-効果分析の一つであるコスト-効用分析は、相互に異なる健康結果(例えば、延命、失明予防、苦痛除去)をthe quality-adjusted life-year (QALY)という唯一の単位で計量することによって、それらの相互比較を可能にする。そこで、任意の健康状態や障害状態に対して、数値0(即死)から数値1(完全健康状態)の範囲で効用が割り当てられる。健康介入策の結果は、効用の増分と継続年数との積で計算される。稀少資源の配分策に関しては、所与のコストにおいてQALYsが低いものが低く評定される。この比較法は決定権者にとっては魅力的なものである。しかし、QALYには深刻な限界がある。このことは多くの人が理解しておくべきである。とりわけ決定権者が理解しておくべきである。(コスト-効用分析の詳細は他を参照せよ)。

◆QALYの何が悪いのか

HARRIS,J.,(1987) QALYfying the Value of Life, Journal of Medical Ethics, 13, 117-123.

P118 
3 WHAT'S WRONG WITH QALYS?

QALYのもっともらしさ(妥当性)は、「選択を与えられたなら、人間というものは、深刻で不満足な状態で長く生き延びるよりも、より短くより健康な状態を好むだろう」という「真実」について、その一般化をQALYが単純に内包していることを私たちが受け入れているということに依拠していることに気づくことが重要である。この視点では、より多くのQALYを生み出すか、1QALYあたりのコストが低い治療を優先することが、効果的でありかつコミュニティ全体もリスクのある特定個人も望んでいることだ、ということになる。

原文
It is crucial to realise that the whole plausibility of QALYs depends upon our accepting that they simply involve the generalisation of the 'truth' that 'given the choice a person would prefer a shorter healthier life to a longer period of survival in a state of severe discomfort'. On this view giving priority to treatments which produce more QALYS or for which the cost-per-QALY is low, is both efficient and is also what the community as a whole, and those at risk in particular, actually want. But whereas it follows from the fact that given the choice a person would prefer a shorter healthier life to a longer one of severe discomfort, that the best treatment for that person is the one yielding the most QALYs, it does not follow that treatments yielding more QALYs are preferable to treatments yielding fewer where different people are to receive the treatments.


*作成:サトウ タツヤ
UP:20091104 REV:
全文掲載  ◇生活の質・生命の質/Quality of Life, QOL  ◇医療経済(学)
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