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新聞記事「知的障害者施設――1部屋に入所者10人 省令違反で福岡県調査へ」

『毎日新聞』 20091105


「知的障害者施設――1部屋に入所者10人 省令違反で福岡県調査へ」

 福岡県赤村の知的障害者更生施設で、入所者の男女約10人が同じ部屋で寝起きし、厚生労働省令の居室定員4人以下を大幅に超える状態になっていることが関係者の話で分かった。約10人の名札は他の居室に分散して張られ、県の調査にも利用実態を隠していた。施設側も不適切な居室利用を認めている。同施設では他にも入所者を巡る問題が浮上しており、県は近く、障害者自立支援法に基づき立ち入り調査する方針。【障害者施設取材班】

 施設は50〜60人の軽度から重度の知的障害者らが入所する「瑞穂学園」(石田八重子園長)。施設関係者らによると、同園1階にある「リハビリ室」には、重度の障害や高齢でトイレなどの介助が必要な50〜80代の計約10人(うち男性1人)が生活。室内には簡易トイレが三つ置かれ、固定した仕切りもなく、見える状態で男女が共同利用しているという。省令では、男女の居室を別にすることも定められている。
 同園によると、リハビリ室で暮らす約10人は、別の4人以下の居室入り口に名札だけ張られており、外見上は定員基準を満たしているように見せていた。県が今年6月末に施設の利用状況について調査した際も、園側はリハビリ室の居室使用を説明していなかった。
 毎日新聞の取材に対し、同園の副園長らは省令違反を認め「簡易トイレは夜間だけ室内に置いている。重度の障害者を個室などに分けた場合、(職員が)見渡せるか問題がある。職員がものすごく必要になり、対応できない」と釈明した。
 一方、福岡県障害者福祉課は「10人まとめて同じ部屋で支援するのは、他に例がない。簡易トイレの異臭などで利用者が苦痛を感じていたら、虐待にあたる可能性もあり、施設の対応が適切だったか早期に調査し確認したい」としている。

東洋大の高山直樹教授(社会福祉学)の話
 園の現状は、人権より運営上の都合が優先され、利用者が人間らしい生活を送るという、本来の目的をないがしろにしていると言わざるを得ない。

◆人権より管理優先

 手のかかる入所者を男女一緒に、簡易トイレを置いた大部屋で寝かせていたことが分かった福岡県赤村の知的障害者更生施設「瑞穂学園」。元職員は「疑問を感じていた」と言うが、元入所者の肉親は「預かってもらっている立場では何も言えない」と言う。人権より管理の都合が優先される、閉ざされた世界。有識者は「ここだけの問題ではない」と警鐘を鳴らす。
 トイレなどの介助が必要な重度障害や高齢者約10人が暮らす施設1階のリハビリ室。20畳ほどの部屋にベッド10床が2列に並び、ベッドの間の床の上にプラスチック製のトイレが3個ある。関係者は「ちゃんとした仕切りもない簡易トイレで用を足す環境。こんな扱いが許されるのでしょうか」と憤る。
 本来は「自立のための指導・訓練」を目的とする更生施設。だが入所者は高齢化し「行き場のない重度障害者の受け皿や、高齢者施設の役割も担っている」と施設関係者。同学園では約30年間暮らす80代の女性もいる。
 同園は入所者約60人中、うち約3分の1が65歳以上の高齢者。自分の意思をうまく伝えられない人も少なくないが、夜間の宿直者は3人。園側は重度障害者を大部屋にまとめて寝かせていたことについて「夜間も職員の目が届くようにするには、やむを得なかった」と弁明する。
 家族の思いも複雑だ。ある家族は以前、預けている肉親が施設内でけがをしたと知ったが、何も言えなかったという。「預かってもらっている負い目がありますし、何か言ったら(入所している)本人に迷惑がかかると思うと黙ってしまう」
 しかし同県内の別の障害者施設運営者は「どんなに経営が厳しくても、していいことと悪いことがある。大部屋の現状は人権を無視している」と言う。一方で「職員が丁寧に入所者を支援するには少人数の施設にすべきだが、今の制度では数十人の利用者がいないと経営が成り立たない。少人数の施設を経営面でも支える施策を実施すべきだ」と訴える。
 また、東洋大の高山直樹教授は「問題の根幹は、日本の障害者施策が入所施設に頼りすぎていることだ」と指摘。「劣悪な環境に職員が失望して次々と辞めるような施設は、人手不足に陥ってますますダメになる。ケアホームなどを整備し、障害者が地域で暮らせるようにしなければならない」と話している。

◆瑞穂学園副園長らとの一問一答

―リハビリ室に10人も収容する理由は。
◇リハビリ室とは、ただ名前が付いているだけの部屋。1人で歩いたら転ぶような危険な人が入っている。

―個室や3、4人部屋では危険だと。
◇そうです。

―居室は4人以下、男女別という厚労省令は承知しているか。
◇分かってます。(県の補助金が出れば)建て替えで早く環境を変えたいと思う。

―建て替えで解消できるのか。
◇10人を個室に分けた場合、見渡せるかという問題がある。職員がものすごく必要。トイレに1人で行けない人もいて、夜間に車イスに乗せて連れていくことが現実問題としてできるか。

―省令違反を解消する考えは。
◇現状では難しい。1人ずつに職員をつけなくてはならないから。

―リハビリ室の人が別の部屋で就寝しているように名札だけ居室に張っているのか。
◇あります。

―県の調査があるので張ったのか。
◇前からです。わざわざしません。

―なぜか。
◇居室では対応できないので、名前だけ居室の方に入れている。

―県の調査には、リハビリ室はリハビリに使うと説明したのか。
◇そうです。

091105『毎日新聞』
http://mainichi.jp/seibu/news/20091105sog00m040007000c.html


*作成:岡田清鷹
UP:20091105 REV:
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