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土屋 葉「障害と貧困――ジェンダーの視点からみえてくるもの」

障害学会第6回大会・シンポジウム趣旨 於:立命館大学
20090927



 土屋 葉(愛知大学)
 「障害と貧困――ジェンダーの視点からみえてくるもの」

【シンポジウム趣旨】

このシンポジウムの目的は、「障害」と「貧困」にかかわる問題を大きくジェンダーの視点からとらえることです。この問題は、さまざまな要素が絡み合う複合的なものですが、まずはこうした問題を可視化する、目に見えるものにしていくことが重要であるという立場をとりたいと思います。というのも、これまで「障害者と/をめぐる貧困」というテーマにおいては、ジェンダーの視点が、端的にいうと欠けていたからです。
最近「貧困」問題がメディアを賑わしており、その文脈に乗るかたちで障害をもつ人「の」貧困もとりあげられています。もちろん「障害者の貧困」問題は今にはじまったわけではなく、所得保障の文脈などでは論じられてきましたが、一般的な「貧困」問題と同列にまた声高に語られるのは、おそらく初めてでしょう。
別の文脈において、障害をもつ人のなかでも、ジェンダーによって収入や就労状況に差があることが明らかになっています。これは私もかかわった2005年と2006年に行われた「障害者生活実態調査」の結果からわかったことです。こうしたことを実感として捉えている人は関係者のなかでも多くはないかもしれません。それほど見えづらい問題であるということです。
しかし、貧困問題はジェンダー問題であるとの指摘は、既に女性学などが行っています。具体的には男女間の賃金や雇用形態、高齢者年金支給額の格差などがあります。この背景には、女性を貧困の状態に陥らせやすい社会の仕組みが存在します。つまり、障害者のなかの収入や雇用形態の男女間の差は、障害者のみの問題ではなく、この社会構造における問題群の1つとして捉えることができるでしょう。
また「障害と貧困」は、障害をもつ当事者の問題に留まりません。障害をもつ人の周囲にいる家族や支援者やケアラーとも大きく関連し、ジェンダーの問題に直接結びつくものです。
いうまでもなく障害をもつ人のケアは、家族、なかでも女性が(ほとんどの場合は)無償で引き受けています。これが外部化され、市場での有償労働として行われる場合にも、多くは女性が低賃金で担っています。家族のみのケアは限界があり、ケアを行う家族が経済的・構造的な「二次的な依存」1)の状態におかれ、経済的な貧困のみならず家族のなかでの閉塞性(≒社会ネットワークの欠如)2)、すなわち関係性としての貧困をまねく恐れがあります。また、女性がケアを担うことを前提としてつくられた制度の貧しさのなかで、ケアラーは働きづらい状況におかれていますが、これは、障害をもつ人にとっての基本的なニーズが満たされない貧困の状況を招き、ふたたび家族にとっても貧困状態をもたらすことにもなります。
今回はシンポジストとして、これまで障害をもつ女性たちの問題に関心をもち、研究や実践を行ってきた瀬山紀子さんほか、社会福祉制度や政策をジェンダーの視点から研究を重ねられてきた湯澤直美さん、家族ケアに携わった経験をもち、現在は介助者という立場にもある佐々木彩さんをお招きしました。まず湯澤さんからジェンダーに非対称である社会システムについて、次に瀬山さんからは障害をもつ女性と貧困の現状をお話いただき、貧困をジェンダー問題で切り取っていく視点を提供していただきます。佐々木さんからは、家族ケアや有償ケアラーとしての経験をベースとして、貧困――経済的のみならず関係性としての貧困――を考える上での問題提起を行っていただきます。また、女性学と障害学の接点を探る研究を行っている、飯野由里子さんにコメントをお願いしました。
最初に述べたとおり、この問題はさまざまな要素が絡み合っており、複雑な様相を呈しています。これに対して、短絡的な解決方法を示すのではなく、構造的な問題であることを念頭に置いた上で、注意深くかつ自分自身の問題として粘り強く考えつづけていく試みを、参加者のみなさんと共有できればと思っています。

1) Finemann, M.A., 2004, The Autonomy Myth: A Theory of Dependency, =2009(穐田信子・速水葉子訳), 『ケアの絆――自立神話を超えて』岩波書店,29.
2 Friedman, J., 1992, Employment: The Politics of Alternative Development,=1995(齋藤千宏・雨森孝悦監訳), 『市民・政府・NGO――「力の剥奪」からエンパワーメントへ』新評論,117.

*作成:
UP:20090921 REV:
全文掲載  ◇障害学会第6回大会  ◇障害学会第6回大会・報告要旨
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