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平 直子「精神医療保健福祉サービスへの精神科医療ユーザーの参加」

障害学会第6回大会・報告要旨 於:立命館大学
20090927


◆報告要旨

 平 直子(西南学院大学社会福祉学科)
 「精神医療保健福祉サービスへの精神科医療ユーザーの参加」

 イギリスのユーザーの体験イギリスでは、近年、利用者の参加(user involvement)が、医療、及び社会的ケアサービスにおける重要な概念となっている。公的サービスへの消費者主義の導入、利用者主体のサービスを求める障害者運動の発展に伴い、利用者のサービスへの参加が進められてきた(Glasby et al., 2003)。2001年の健康、及び社会ケア法(Health and Social Care Act)で、国民保健サービスにおける精神科医療ユーザー(以下、ユーザーと略す)の参加が義務付けられたことなどから、精神医療保健福祉サービス(以下、サービスと略す)でのユーザーの雇用が進められている。しかし、参加は、必ずしも良い結果をもたらしてはおらず、利用者が無視されたり、表面的な参加に終わったりもしている(Beresford, 2003)。日本でも、ユーザーを雇用する地域活動支援センターなどが出てきており、今後、ユーザー主体のサービスにしていくためには、ユーザーの参加の促進と共に、ユーザーの力を活かす仕組みを早急に作ることが必要である。
 ユーザーのサービスへの参加の意義、参加におけるバリアなどを把握し、ユーザーの力をサービスに活かす方法を探ることを目的として、2008年6〜7月にサービスに関わっているユーザーに対して個別インタビューと自記式調査を行った。
 ユーザーの参加が、組織のシステムを変えるには限界があるものの、専門家の価値観、態度、考え方などに変化を引き起こし、ユーザーの視点がサービスに活かされたと感じていた。そして、ユーザーの力を活かすためには、ユーザーの力の認知を基盤として、組織構造の変化、財源の確保などが必要だと考えていた。イギリスで行った小規模の調査であるが、その結果から、今後、日本でユーザーの力をサービスに活かすには、どのような仕組み、支援が必要なのかを考える。

Beresford, P. (2003) 'Fully engaged', Community Care, 13-19 November, pp.38-41
Glasby, J. et.al. (2003) Cases for change: user involvement. London: Department of Health/ National Institute for Mental Health.

◆報告原稿(表なし版)

精神医療保健福祉サービスへの精神科医療ユーザーの参加:イギリスのユーザーの体験
西南学院大学 社会福祉学科 平 直子


1.はじめに
 イギリスでは、近年、利用者の参加(user involvement)が、医療、及び社会的ケアサービスにおける重要な概念となっている。本稿では、精神医療保健福祉サービス(以下、サービスと略す)に参加している精神科医療ユーザー(以下、ユーザーと略す)に対して、イギリスで行った小規模の調査の結果を報告し、今後、日本でユーザーの力をサービスに活かすには、どのような仕組み、支援が必要なのかを考える。

2.ユーザーのサービスへの参加の背景
1)背景
 1980年代、1990年代のはじめに、イギリスでは、消費者主義の概念が、公的サービスに大きな影響を与え、サービス利用者は、ケアサービスの利用に関して選択の権利を持つ消費者だと見られるようになった。それと同じくして障害者運動が発展し、利用者主体のサービスを求める動きが活発になった。この二つの要因により、イギリスでは利用者のサービスへの参加が進められた(Glasby et al., 2003)。

2)関係する施策
 1990年の国民保健サービスとコミュニティケア法(NHS and Community Care Act)で、地域ケア計画策定への利用者の参加が法で位置づけられたことを皮切りに、ユーザーの参加を進める施策が定められてきた。2001年の健康、及び社会ケア法(Health and Social Care Act)では、国民保健サービスにおけるユーザーの参加が義務付けられ、サービス提供組織でのユーザーの雇用が進められた。

3. 調査の概要
 次に調査の概要について報告する。

1)目的
 この調査の目的は、「ユーザーのサービスへの参加の意義、参加におけるバリアなどの実情を把握し、ユーザーの力をサービスに活かす方法を探ること」である。

2)調査方法
 サービスに関わっているユーザーに対して、平成20年の6-8月に個別インタビューと自記式調査を行った。

3) 調査参加者
 調査参加者の基準として、(1)精神科医療の利用経験があること、(2)ユーザーの体験を活かして職員としてサービスで働いている人、という2つの条件を設定した。
 調査参加者は、男性2名、女性4名の計6名で、20代〜60代である。全員が、統合失調症、神経症などの診断を受けたことがあり、精神科医療サービスの利用期間は、8カ月から15 年、うち入院経験がある人は3名で、入院期間の合計は、3ヵ月から8カ月である。なお、可能な資源の中での意図的な標本抽出(purposive sample)である。

4) 仕事の概要
 参加者の職場は、医療機関3人、非営利団体2人、また、フリーランスで働く人が1人となっており、主な仕事内容は、地域生活支援サービスや調査研究にユーザーの視点を活かすことである。フリーランスで働く1人、そして働きながら大学に通う1人を除いた4人は常勤で、給料は税込みで17000〜25000ポンド(=約370〜540万円)である。

4.結果
 では、次に自記式調査の結果の一部を報告する。

1)ユーザーの参加による変化と達成されたこと
(1) ユーザーの参加によりもたらされた影響・変化
 ユーザーの参加が、現在、もしくは過去に働いた組織、サービス等にもたらした変化を尋ねたところ、回答は、「組織構造・運営方法」「スタッフの考え方」「サービスの理念・視点と内容」の3つに分類できた。
 「組織構造・運営方法」に関しては、非営利団体では、理事会や事業運営にユーザーが参加できる組織構造が作られていた。また、医療機関でも、利用者への関わりだけでなく、サービスの評価、職員の採用面接などにユーザーが関わっていた。
 「サービスの理念・視点と内容」について、参加者は、ユーザーの参加がユーザーの夢や希望の実現などを目指すリカバリー・アプローチなどを促進したと感じていた。また、ユーザーが医療機関でスタッフとして働くことは、ピアサポートを通して共感をもたらすだけでなく、その存在自体が、ロールモデルとして希望を提供していると考えていた。
「スタッフの考え方」については、ユーザーがチームメンバーに入り、ユーザーの立場から意見を言ったり、アドバイスをしたりすることで、スタッフの言葉遣い、考え方、そして関わりが変わったと感じていた。

(2) ユーザーが、サービスにもたらせること 
 次に、実際に変化が起きたか否かに関わらず、ユーザーがサービスにもたらせると思うことを尋ねたところ、「サービスの質の向上」「今までと異なる視点・考え方、アプローチ」の二点が挙げられた。
 「サービスの質の向上」に関しては、ユーザーがサービスに関わることにより、ユーザーの求めるサービスを知ることができ、その結果、効果的、効率的、創造的なサービスの提供ができると考えていた。また、「今までと異なる視点・考え方、アプローチ」については、今までのサービスは、医学モデルに基礎をおいた専門家主導であったが、ユーザーの参加が、ユーザーの力を引き出すアプローチ、社会包括・市民権などからユーザーの置かれている状況を捉えることなどを促進すると考えていた。

(3) ユーザーへの影響
 サービス参加が、ユーザー自身にもたらした影響を尋ねた。プラス点としては、社会の中で自分の体験を活かせる役割を得たこと、経済力、新たなアイデンティティ、自信などを得られたことなどが挙げられており、それが満足感をもたらしていた。一方、マイナスの点として、仕事のストレスにより、体調を壊し、カウンセリング、服薬が必要になったことなどが挙げられた。

3)バリア
 ユーザーの参加におけるバリアについて尋ねた。回答は、大きく分けて「組織・システム」「専門家・スタッフ」「ユーザー」「支援」の4つに分類できた。まず、「組織・システム」では、政治家・専門家が、力・利権を持ち続ける柔軟性に欠けるシステム、ユーザーの視点を求めず、何も実現しない見せかけだけの参加などが挙げられた。次に、「専門家・スタッフ」では、医学モデルに強く影響された専門家、ユーザーの視点の重要性を認識、理解していない上司、差別的な態度が挙げられた。そして、「ユーザー」のもつバリアとして、自信がないこと、集中力が続かないことなどが挙げられると共に、ユーザーへの支援が限られていることが、挙げられた。

4)ユーザーの専門性を活かす方法
(1)組織が行ったことで助けになったこと、組織に求めること、期待すること
ユーザーの参加にあたり、組織が行ったことで助けになったこと、及び組織に求めること、期待することを尋ねたところ、回答は、「組織」「専門家・スタッフ」「支援」「予算・事務のシステム」の四つに分類できた。
 組織に関しては、ユーザーの参加に関する明確な方針、組織構造の中へのユーザーの位置づけ、組織の運営へのユーザーの参加などが、挙げられた。「専門家・スタッフ」に関しては、実際に助けになったこととして、上司がユーザーの参加の重要性を認識していたこと、ユーザーを信頼し、敬意を払い、支援を提供したことが、また、助けになった「支援」として、柔軟な勤務時間、スーパービジョンなどが挙げられた。「予算・事務のシステム」としては、給料の保障、必要経費の当日支払いのシステムなどが挙げられた。

(2)ユーザーのサービスへの参加で重要なこと 
 ユーザーのサービスへの参加において重要だと思うことについて尋ねたところ、回答は、大きく分けて「システム」「専門家・スタッフ」「支援や配慮」「ユーザー」に分類できた。

 ユーザーの参加に関する根本的な問題として、組織とユーザーの力関係に関する点が挙げられた。ここでは、その点に焦点を絞り、回答を引用しながら考えていくこととする。12年の医療機関で働き、現在、シニア・マネージャー会議にも参加するPさんは、当事者参加に潜む矛盾、本来の目的に反する側面を指摘する。

 実際には、ユーザーの参加は、必要とされている革新的な変化のための刺激というよりも、現在の状況を温存する方法として使われることが多い。「ユーザーの参加」を行っているという過程を示しさえすれば、サービスを変えるために実際に何もしなくてもよいのです!(P)

 組織が、ユーザーを「参加」させたい場合、ユーザーではなく組織が定める条件でユーザーとして働くことを意味する。そこには、サービス組織が、すべての力とコントロールを持ち続けるという動かない前提がある(P)

 公的機関等で20年に渡りユーザー研究者として働いたが、ユーザーとしての力を発揮できないことを理由に1年ほど前に研究機関を退職したJさんは、こう述べている。

 ユーザーの参加を望んでいると言うけれど、実は、ただよく見えるようにしたいだけの組織が、実際には、ほとんど何も変えないまま当事者を参加させる。そういう組織は、ユーザーが行うすべてのことをコントロールしたがる(略)(J)

 そのような中で、ユーザーの参加の意味は、どこにあるのだろうか。

 理想は、専門家でなくユーザーが完全にコントロールする新しいサービスの創造ですが、それはもちろん起こり得ません(略)。いつもある程度は表面的です。しかし、なるだけ効果をもたらすために、専門家の態度や前提に挑戦できる役割にユーザーが雇用される必要があると私は思っています(P)。

 ユーザーのサービス参加の経験の中で、最も重要な側面だと思うのは、共感する精神保健の専門家とのパートナーシップにより行われた時が最も効果的だということです。共に働きかけると、システムにチャレンジし、変えていくことが、より可能になります(それでもまだ非常に難しいのですが)(P)。

5.まとめと提言: 日本でユーザーのサービス参加を進めていくために
ユーザーのサービスへの参加が、サービスの質の向上だけでなく、精神科医療の中でリカバリー・アプローチなどを促進し、専門家の考え方や関わりに変化を引き起こしていた。一方で、組織構造の問題、職員からの差別的な態度などのバリアが存在し、ユーザーの視点が、サービスに反映されずに、見せかけのユーザーの参加に終わる場合もあることが報告された。
 日本でも、ユーザーを雇用する地域活動支援センターなどが増えている。この調査への参加者は6名と限られており、ユーザー参加の実情、傾向のごく一部を示しているに過ぎないが、本調査の結果をもとに、今後、ユーザーの精神保健サービスへの参加を進め、その力をサービスに活かすために必要と考えられることを述べる。
 まず、ユーザーがサービスに参加することの重要性を認知することである。イギリスと異なり、日本ではその重要性が認識されていない。そこで、国、サービス提供機関、専門家に、ユーザー参加の重要性やユーザーのもつ力について、調査研究や実践などを通して伝えていくことが重要である。その上で、大事なのが、ユーザーが組織運営上の決定に関わることができるシステムを作り、組織構造の中にユーザーの職を位置付けることである。その際、常勤の職と給料の保障をすると共に、柔軟な勤務条件などの配慮、スーパービジョンの保障などの支援が欠かせない。また、ユーザーが力を発揮できるようになるために、サービスへの参加に必要な知識や技術を得るための研修の実施なども必要である。なお、今後、ユーザーの精神保健サービスへの参加を進めていくにあたっては、より詳しい調査、日本でのユーザー参加の実態調査などを行う必要がある。

6.結び
 Pさんが述べたように、サービスを、完全にユーザー主導で提供することは不可能であろう。しかし、参加者が報告しているように、ユーザーによるサービスへの参加が、組織運営、サービス、専門家などに、様々な変化をもたらしている。その流れを確実にしていくこと、共感する専門家を増やし、パートナーシップを持ちながら、ユーザーの力を活かしたサービス、ユーザーが望むサービスになるように、既存のサービスに変化をもたらしていくことが重要だと考える。

*この場を借りて、調査参加者の6名に心から感謝を述べる

注)‘精神疾患’の診断を受けた人の呼び方には、「患者」「精神障害者」「当事者」「ユーザー」「利用者」「コンシューマー」「サバイバー」などが存在し、それぞれの言葉には、考え方や立場が関係している。‘障害者施策’においては、「精神障害者」が用いられるが、「精神障害者」では、社会が「障害」(ディスアビィリティ)を作り出していると考える社会モデルの視点が抜けてしまうと思われる。そこで、それぞれの言葉について検討した結果、本稿では、精神科医療を使っている人という意味で、「精神科医療ユーザー」を用いることにした。

Glasby, J. et.al. (2003) Cases for change: user involvement. London: Department of Health/ National Institute for Mental Health.

◆報告原稿(表あり版)

精神医療保健福祉サービスへの精神科医療ユーザーの参加:イギリスのユーザーの体験 西南学院大学 社会福祉学科 平 直子

1.はじめに
 イギリスでは、近年、利用者の参加(user involvement)が、医療、及び社会的ケアサービスにおける重要な概念となっている。本稿では、精神医療保健福祉サービス(以下、サービスと略す)に参加している精神科医療ユーザー(以下、ユーザーと略す)に対して、イギリスで行った小規模の調査の結果を報告し、今後、日本でユーザーの力をサービスに活かすには、どのような仕組み、支援が必要なのかを考える。

2.ユーザーのサービスへの参加の背景
1)背景
 1980年代、1990年代のはじめに、イギリスでは、消費者主義の概念が、公的サービスに大きな影響を与え、サービス利用者は、ケアサービスの利用に関して選択の権利を持つ消費者だと見られるようになった。それと同じくして障害者運動が発展し、利用者主体のサービスを求める動きが活発になった。この二つの要因により、イギリスでは利用者のサービスへの参加が進められた(Glasby et al., 2003)。

2)関係する施策 
 ユーザーのサービスへの参加に関係する主な施策を表1に示す。
 1990年の国民保健サービスとコミュニティケア法(NHS and Community Care Act)で、地域ケア計画策定への利用者の参加が法で位置づけられたことを皮切りに、ユーザーの参加を進める施策が定められてきた。2001年の健康、及び社会ケア法(Health and Social Care Act)では、国民保健サービスにおけるユーザーの参加が義務付けられ、サービス提供組織でのユーザーの雇用が進められた。


表 1 ユーザーのサービスへの参加に関係する主な施策
1990年 国民保健サービス(NHS)とコミュニティケア法
       −地域ケア計画策定への利用者の参加を定める
1999年 精神保健のナショナル・サービス・フレームワーク 〔精神保健の基準と基本戦略、10年計画〕
       ―基本理念として「精神保健ケア計画と提供への当事者の参加」
2000年  NHS計画〔医療計画〕
―医療サービスへの患者の参加を定める
2001年  健康、及び社会ケア法 
―サービス利用者の参加を定める   

3. 調査の概要
 次に調査の概要について報告する。

1)目的
 この調査の目的は、「ユーザーのサービスへの参加の意義、参加におけるバリアなどの実情を把握し、ユーザーの力をサービスに活かす方法を探ること」である。

2)調査方法
 サービスに関わっているユーザーに対して、平成20年の6-8月に個別インタビューと自記式調査を行った。詳細は表2のとおりである。


表2: 調査の概要
(1)個別インタビュー (平成20年6-8月実施)
仕事の概要、仕事を始めた経緯、給料、仕事での困難や楽しみなどについて1対1で話を聴いた
(2)自記式調査(電子メール調査) (平成20年8月実施)
 ユーザーの参加がもたらしたサービスの変化、仕事上でのバリア、ユーザーの専門性を活かす方法などについて尋ねる調査票を電子メールで送り、返送をお願いした

3) 調査参加者
 調査参加者の基準として、(1)精神科医療の利用経験があること、(2)ユーザーの体験を活かして職員としてサービスで働いている人、という2つの条件を設定した。
 調査参加者の概要を表3に示す。調査参加者は、男性2名、女性4名の計6名で、20代〜60代である。全員が、統合失調症、神経症などの診断を受けたことがあり、精神科医療サービスの利用期間は、8カ月から15 年、うち入院経験がある人は3名で、入院期間の合計は、3ヵ月から8カ月である。なお、可能な資源の中での意図的な標本抽出(purposive sample)である。


表3 調査参加者の概要
参加者数と性別: 6 名 (男性2名 女性4名) 
年齢:  20代(2名)、50代 (3名) 、60代 (1名)
精神科医療利用期間: 1年未満(1名) 1−3年(1名) 3−5年(1名) 5−10年(2名) 15年(1名)
入院期間の合計注): 3 ヵ月 (1名) / 7-8カ月 (2名)
サービス参加の期間の合計:1年(1名) 2年(2名) 7年(1名) 12年(1名) 20年(1名)  
注)イギリスでは地域医療中心であることを考慮すべきである。イギリスの平均在院日数は、18-19日(保健省、2004)で、日本の338日(厚生労働省、2004)の約18分の1である。

4) 仕事の概要
 参加者の仕事の概要を表4に示す。職場は、医療機関3人、非営利団体2人、また、フリーランスで働く人が1人となっており、主な仕事内容は、地域生活支援サービスや調査研究にユーザーの視点を活かすことである。フリーランスで働く1人、そして働きながら大学に通う1人を除いた4人は常勤で、給料は税込みで17000〜25000ポンド(=約370〜540万円)である。


表4 仕事の概要
職場(人数) 医療機関(3) 非営利団体(2) フリーランス(1)
仕事内容 地域生活支援(早期介入サービス・危機介入サービス)にユーザーの視点を活かすこと ・精神保健関係の会議に参加するユーザーへの支援の提供
・情報提供サービス
ユーザーの視点を活かした研究調査の実施
雇用形態(注1) 常勤(2)・非常勤(1) 常勤(2)
年収(税込)(注2) 常勤:約370〜500万円
非常勤:約240万円
約410-500万円 約540万円

4.結果
 では、次に自記式調査の結果の一部を報告する。

1)ユーザーの参加による変化と達成されたこと
(1) ユーザーの参加によりもたらされた影響・変化
 ユーザーの参加が、現在、もしくは過去に働いた組織、サービス等にもたらした変化を示したのが、表5である。回答は、「組織構造・運営方法」「スタッフの考え方」「サービスの理念・視点と内容」の3つに分類できた。
 「組織構造・運営方法」に関しては、非営利団体では、理事会や事業運営にユーザーが参加できる組織構造が作られていた。また、医療機関でも、利用者への関わりだけでなく、サービスの評価、職員の採用面接などにユーザーが関わっていた。
 「サービスの理念・視点と内容」について、参加者は、ユーザーの参加がユーザーの夢や希望の実現などを目指すリカバリー・アプローチなどを促進したと感じていた。また、ユーザーが医療機関でスタッフとして働くことは、ピアサポートを通して共感をもたらすだけでなく、その存在自体が、ロールモデルとして希望を提供していると考えていた。
 「スタッフの考え方」については、ユーザーがチームメンバーに入り、ユーザーの立場から意見を言ったり、アドバイスをしたりすることで、スタッフの言葉遣い、考え方、そして関わりが変わったと感じていた。


表5 ユーザーの参加によりもたらされた影響・変化
〔組織構造・運営方法〕
 ・理事会へのユーザー職員の参加(非営利団体)
・ほとんどすべての事業運営にユーザーが参加する(非営利団体)
・ユーザーによるサービス評価 (医療機関)
・採用試験の面接官としてユーザーが入ること (医療機関) など
〔サービスの理念・視点と内容〕
・リカバリーアプローチの導入、促進 ((医療機関・非営利団体)
・「精神的な苦痛」に対しての医学的でない見方の導入 (医療機関) など
・ピア・サポートの提供 (医療機関)・
・ユーザーの視点の反映 (医療機関・非営利団体)
・ユーザーの視点に立った適切で有意義な調査研究の実施 (調査機関) など
〔スタッフの考え方〕
・言葉遣い (医療機関)
・リスクの考え方 (医療機関) など
注:カッコ内は、回答者の所属機関

(2) ユーザーが、サービスにもたらせること 
 次に、実際に変化が起きたか否かに関わらず、ユーザーがサービスにもたらせると思うことを尋ねた。表6に示すように、「サービスの質の向上」「今までと異なる視点・考え方、アプローチ」の二点が挙げられた。
「サービスの質の向上」に関しては、ユーザーがサービスに関わることにより、ユーザーの求めるサービスを知ることができ、その結果、効果的、効率的、創造的なサービスの提供ができると考えていた。また、「今までと異なる視点・考え方、アプローチ」については、今までのサービスは、医学モデルに基礎をおいた専門家主導であったが、ユーザーの参加が、ユーザーの力を引き出すアプローチ、社会包括・市民権などからユーザーの置かれている状況を捉えることなどを促進すると考えていた。


表6 ユーザーが、サービスにもたらせること
〔サービスの質の向上〕
 ・ユーザーが求めるサービスの提供
 ・効果的/効率的/創造的なサービスの提供
〔今までと異なる視点・考え方・アプローチ〕
・医学モデルとは異なる視点、考え方による「精神疾患」「精神障害」の捉え方
・社会包括、市民権という視点を通しての「ユーザーの置かれた状況」の理解
・リカバリーアプローチ
・エンパワメントアプローチ
・専門家主導のサービスがいかに抑圧的かの理解とユーザー主導のサービスの重要性の認識
・ユーザーが、病人、無責任な存在ではなく、生活や精神保健の問題に主体的に取り組める力をもつ存在であることを示すこと

(3) ユーザーへの影響
 サービス参加が、ユーザー自身にもたらした影響を尋ねた。表7に示すように、プラス点としては、社会の中で自分の体験を活かせる役割を得たこと、経済力、新たなアイデンティティ、自信などを得られたことなどが挙げられており、それが満足感をもたらしていた。一方、マイナスの点として、仕事のストレスにより、体調を壊し、カウンセリング、服薬が必要になったことなどが挙げられた。


表7 ユーザーへの影響
〔プラス点〕
・社会の中で体験を活かせる役割を得たこと
・人生の意味の獲得
・エンパワーされる
・やりがいがある
・経済力、新たなアイデンティティ、自信を得られたこと
・回復
・ありのままの自分でいられ、誇りを持てる仕事を得たこと
・国内外のユーザー、専門職者との出会い など

〔マイナス点〕
・ストレス
・フラストレーション、怒り、時に絶望

3)バリア
 ユーザーの参加におけるバリアについて尋ねた結果を示したのが、表8である。その回答は、大きく分けて「組織・システム」「専門家・スタッフ」「ユーザー」「支援」の4つに分類できた。まず、「組織・システム」では、政治家・専門家が、力・利権を持ち続ける柔軟性に欠けるシステム、ユーザーの視点を求めず、何も実現しない見せかけだけの参加などが挙げられた。次に、「専門家・スタッフ」では、医学モデルに強く影響された専門家、ユーザーの視点の重要性を認識、理解していない上司、差別的な態度が挙げられた。そして、「ユーザー」のもつバリアとして、自信がないこと、集中力が続かないことなどが挙げられると共に、ユーザーへの支援が限られていることが、挙げられた。


表8 バリア
〔〔組織・システム〕
・政治家、専門家が利権を持ち続ける柔軟性に欠けるシステム
・ユーザーの視点を求めず、何も実現しない見せかけだけの参加
・組織の中で低い優先順位にあるユーザーの参加
・予算がない など
〔専門家・スタッフ〕
・医学モデルに強く影響された専門家と職場の文化
・ユーザーの視点の重要性を認識、理解していないシニアマネージャー(上司)
・強固な、差別的な態度。ユーザーの考えに敬意を払わない態度
・管理的な専門用語 など
〔ユーザー〕
・自信がない
・集中力に欠ける など
〔その他〕
・ユーザーのための実践的な支援が限られていること
・ユーザーがサービスに参加するにあたり、十分な情報や研修がない など

4)ユーザーの専門性を活かす方法
(1)組織が行ったことで助けになったこと、組織に求めること、期待すること
ユーザーの参加にあたり、組織が行ったことで助けになったこと、及び組織に求めること、期待することを尋ねた結果を表9に示す。その回答は、「組織」「専門家・スタッフ」「支援」「予算・事務のシステム」の四つに分類できた。
 組織に関しては、ユーザーの参加に関する明確な方針、組織構造の中へのユーザーの位置づけ、組織の運営へのユーザーの参加などが、挙げられた。「専門家・スタッフ」に関しては、実際に助けになったこととして、上司がユーザーの参加の重要性を認識していたこと、ユーザーを信頼し、敬意を払い、支援を提供したことが、また、助けになった「支援」として、柔軟な勤務時間、スーパービジョンなどが挙げられた。「予算・事務のシステム」としては、給料の保障、必要経費の当日支払いのシステムなどが挙げられた。


表9 ユーザーの専門性を活かす方法
〔組織の位置づけ・方針・構造〕
・ユーザーの参加に関する明確な方針
・組織構造におけるユーザーの参加に関する明確な位置づけ
・ユーザーの運営への参加
・ユーザーの役割を明確にすること など
〔専門家・スタッフ〕
・マネージャー(上司)がユーザーの参加の重要性に関して理解していること
・尊重、敬意、信頼
・ユーザーの参加に関して学ぶユーザーが行う研修 など
〔支援〕
・スーパービジョン ・励まし ・柔軟な対応 ・評価
・ユーザーに対する研修
・十分な時間の提供 など
〔予算・事務のシステム〕
・給料の保障
・必要経費の当日支払いのシステム
・問題の把握、サービス評価のために研究調査費をつけること など

(2)ユーザーのサービスへの参加で重要なこと 
 ユーザーのサービスへの参加において重要だと思うことについて尋ねた結果を表10に示した。回答は、大きく分けて「システム」「専門家・スタッフ」「支援や配慮」「ユーザー」に分類できた。


表10 ユーザーのサービスへの参加で重要なこと
〔システム〕
・専門家とユーザーの力関係 
・決定過程:透明性と責任の明確化、決定過程へのユーザーの参加
・ユーザーのための有給の職(ポスト)
・すべての領域(医療・事務手続き・雇用・研修など)へのユーザーの介入
・代表性:ユーザーに広く意見を聞くメカニズム
・待遇:給料・柔軟な雇用形態・適切な支援の提供
・研究調査:ユーザーが望むテーマで研究を行い、新たなサービスやアプローチを発展させること(例:医療ではないクライシスハウス、薬の減量支援)
〔専門家・スタッフ〕
・共感的な専門家とのパートナーシップ
・専門家が、ユーザーの力を信じ、同じ人間、価値ある人間として見ること
・ユーザーの参加の重要性を伝えるための研修の実施
〔支援・配慮〕
・参加するユーザーへの支援の提供(会議前・後の説明など)
〔ユーザー〕
・サービスへの参加に関する情報の提供、研修の実施

 ユーザーの参加に関する根本的な問題として、組織とユーザーの力関係に関する点が挙げられた。ここでは、その点に焦点を絞り、回答を引用しながら考えていくこととする。12年の医療機関で働き、現在、シニア・マネージャー会議にも参加するPさんは、当事者参加に潜む矛盾、本来の目的に反する側面を指摘する。

 実際には、ユーザーの参加は、必要とされている革新的な変化のための刺激というよりも、現在の状況を温存する方法として使われることが多い。「ユーザーの参加」を行っているという過程を示しさえすれば、サービスを変えるために実際に何もしなくてもよいのです!(P)

 組織が、ユーザーを「参加」させたい場合、ユーザーではなく組織が定める条件でユーザーとして働くことを意味する。そこには、サービス組織が、すべての力とコントロールを持ち続けるという動かない前提がある(P)

 公的機関等で20年に渡りユーザー研究者として働いたが、ユーザーとしての力を発揮できないことを理由に1年ほど前に研究機関を退職したJさんは、こう述べている。

 ユーザーの参加を望んでいると言うけれど、実は、ただよく見えるようにしたいだけの組織が、実際には、ほとんど何も変えないまま当事者を参加させる。そういう組織は、ユーザーが行うすべてのことをコントロールしたがる(略)(J)

 そのような中で、ユーザーの参加の意味は、どこにあるのだろうか。

 理想は、専門家でなくユーザーが完全にコントロールする新しいサービスの創造ですが、それはもちろん起こり得ません(略)。いつもある程度は表面的です。しかし、なるだけ効果をもたらすために、専門家の態度や前提に挑戦できる役割にユーザーが雇用される必要があると私は思っています(P)。

 ユーザーのサービス参加の経験の中で、最も重要な側面だと思うのは、共感する精神保健の専門家とのパートナーシップにより行われた時が最も効果的だということです。共に働きかけると、システムにチャレンジし、変えていくことが、より可能になります(それでもまだ非常に難しいのですが)(P)。

5.まとめと提言: 日本でユーザーのサービス参加を進めていくために
 ユーザーのサービスへの参加が、サービスの質の向上だけでなく、精神科医療の中でリカバリー・アプローチなどを促進し、専門家の考え方や関わりに変化を引き起こしていた。一方で、組織構造の問題、職員からの差別的な態度などのバリアが存在し、ユーザーの視点が、サービスに反映されずに、見せかけのユーザーの参加に終わる場合もあることが報告された。
 日本でも、ユーザーを雇用する地域活動支援センターなどが増えている。この調査への参加者は6名と限られており、ユーザー参加の実情、傾向のごく一部を示しているに過ぎないが、本調査の結果をもとに、今後、ユーザーの精神保健サービスへの参加を進め、その力をサービスに活かすために必要と考えられることを表11にまとめた。
まず、ユーザーがサービスに参加することの重要性を認知することである。イギリスと異なり、日本ではその重要性が認識されていない。そこで、国、サービス提供機関、専門家に、ユーザー参加の重要性やユーザーのもつ力について、調査研究や実践などを通して伝えていくことが重要である。その上で、大事なのが、ユーザーが組織運営上の決定に関わることができるシステムを作り、組織構造の中にユーザーの職を位置付けることである。その際、常勤の職と給料の保障をすると共に、柔軟な勤務条件などの配慮、スーパービジョンの保障などの支援が欠かせない。また、ユーザーが力を発揮できるようになるために、サービスへの参加に必要な知識や技術を得るための研修の実施なども必要である。なお、今後、ユーザーの精神保健サービスへの参加を進めていくにあたっては、より詳しい調査、日本でのユーザー参加の実態調査などを行う必要がある。


表11 日本でユーザーのサービス参加を進めていくために必要なこと
・認知: 国、専門家、職員、ユーザーなどがサービスへのユーザーの参加の重要性、ユーザーのもつ力を認識すること
・力の共有: ユーザーが、組織運営における決定に関わること
・組織構造:ユーザーの職を組織構造の中に位置付けると共に、ユーザーの役割を明確にすること
・財源の確保: ユーザーの常勤の職と生活できる額の給料の確保など
・ユーザーの力を引き出す支援:柔軟な勤務条件などの配慮、スーパービジョンなどの保障、研修など 

6.結び
 Pさんが述べたように、サービスを、完全にユーザー主導で提供することは不可能であろう。しかし、参加者が報告しているように、ユーザーによるサービスへの参加が、組織運営、サービス、専門家などに、様々な変化をもたらしている。その流れを確実にしていくこと、共感する専門家を増やし、パートナーシップを持ちながら、ユーザーの力を活かしたサービス、ユーザーが望むサービスになるように、既存のサービスに変化をもたらしていくことが重要だと考える。

*この場を借りて、調査参加者の6名に心から感謝を述べる

注)‘精神疾患’の診断を受けた人の呼び方には、「患者」「精神障害者」「当事者」「ユーザー」「利用者」「コンシューマー」「サバイバー」などが存在し、それぞれの言葉には、考え方や立場が関係している。‘障害者施策’においては、「精神障害者」が用いられるが、「精神障害者」では、社会が「障害」(ディスアビィリティ)を作り出していると考える社会モデルの視点が抜けてしまうと思われる。そこで、それぞれの言葉について検討した結果、本稿では、精神科医療を使っている人という意味で、「精神科医療ユーザー」を用いることにした。

Glasby, J. et.al. (2003) Cases for change: user involvement. London: Department of Health/ National Institute for Mental Health.


*作成:
UP:20090904 REV:20090921
全文掲載  ◇障害学会第6回大会  ◇障害学会第6回大会・報告要旨

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