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ここをクリックするとページにひらがなのルビがつきます。 障害学会第6回大会・報告要旨 於:立命館大学 20090926-27 ◆報告要旨 田島 明子(立命館大学大学院先端総合学術研究科/吉備国際大学) 「作業療法学における認知症高齢者支援をめぐる変容・編制過程――1980・1990年代のリハビリテーション雑誌の検討」 本研究では、認知症高齢者に着目し、リハビリテーション、特に作業療法における言説・研究の変容を辿ってみることにしたい。 なぜ、認知症高齢者に着目したかであるが、認知症高齢者がリハビリテーションの対象となる過程において、既存のリハビリテーション論とは異なる形での対象化、介入の視点の特定化などが行われてきたことがあげられる。つまり、認知症の疾患の特性として、「疾患自体の改善が期待しづらい」、「意思表示に困難がある」ことから、「能力の回復・改善を目指す」や「対象者の自己決定を尊重する」といった既存のリハビリテーションの理念・理論にはなかった、対象者理解の枠組み、QOLモデルや生活モデル等を組み入れてきたことは確実であり、それは端的に言えば、現代のリハビリテーション医療の(相互に矛盾・錯綜・対立を抱えているかも知れない)編制過程を意味しているからである。 特に、1980年代、1990年代は、認知症高齢者をリハビリテーションの対象とし、介入の視点の特定化がなされた時期として重要である(井口[2007])。しかし先行研究(井口[2007])では、政策構想に関する資料を扱っているため、学の偏性の様相を細やかに捉えることには限界がある。そこで、本研究では、1980年代、1990年代におけるリハビリテーションに関する学術雑誌、なかでも、作業療法に関する学術雑誌を対象とした。なぜ、作業療法に限定したかと言えば、作業療法は、リハビリテーション関連職種のなかでも、医学モデルを基礎に置きつつも社会適応モデルに親和性を強く持っており、上述した変容過程への感度が良いと考えたからである。 こうしたリハビリテーション学の変容・編制過程を知ることの研究の意義として、次の2つの可能性があげられる。1つは、学の内部の矛盾・錯綜・対立や関連学問・時代との(非)接点について広く論点を抽出できること、2つめは、変容・編制過程において生成された枠組み・モデルについて再検討する視座を提示できること、である。 文献:井口高志 2007 「認知症家族介護を生きる――新しい認知症ケア時代の臨床社会学」東信堂 ◆報告原稿 パワーポイント 田島 明子(立命館大学大学院先端総合学術研究科/吉備国際大学) 「作業療法学における認知症高齢者支援をめぐる変容・編制過程――1980・1990年代のリハビリテーション雑誌の検討」 1. はじめに 本研究では、認知症高齢者に着目し、1980年代・1990年代におけるリハビリテーション、特に作業療法における言説・研究の変容を辿った。 認知症高齢者に着目した理由 認知症高齢者がリハビリテーションの対象となる過程において、既存のリハビリテーション論とは異なる形での対象化、介入の視点の特定化などが行われてきたことがあげられる。既存のリハビリテーションの理念・理論にはなかった、対象者理解の枠組み、QOLモデルや生活モデル等を組み入れてきたと考えられるが、それは、現代のリハビリテーション医療の(相互に矛盾・錯綜・対立を抱えているかも知れない)編制過程を意味しているからである。 1980年代・1990年代に着目した理由 この時代は、認知症高齢者をリハビリテーションの対象とし、介入の視点の特定化がなされた時期として重要だからである(井口[2007])。しかし先行研究(井口[2007])では、政策構想に関する資料を扱っているため、学の偏性の様相を細やかに捉えることには限界がある。そこで、本研究では、1980年代・1990年代におけるリハビリテーションに関する学術雑誌を調べた。 作業療法に限定した理由 作業療法は、リハビリテーション関連職種のなかでも、医学モデルを基礎に置きつつも社会適応モデルに親和性を強く持っており、上述した変容過程への感度が良いと考えたからである。 本研究の意義 こうしたリハビリテーション学の変容・編制過程を知ることの研究の意義として、次の2つの可能性があげられる。1つは、学の内部の矛盾・錯綜・対立や関連学問・時代との(非)接点について広く論点を抽出できること、2つめは、変容・編制過程において生成された枠組み・モデルについて再検討する視座を提示できること、である。 2. 対象と方法 1)対象 『理学療法と作業療法』『作業療法』『作業療法ジャーナル』誌 ・『理学療法と作業療法』:1967年の創刊から1988年まで (その後は『作業療法ジャーナル』に移行) ・『作業療法』:1982年の創刊から1999まで ・『作業療法ジャーナル』:『理学療法と作業療法』から移行した1989年から1999年まで 対象とした文献のなかから、1)タイトルに「痴呆」の記載がある、2)作業療法について書かれてあるものを本研究の対象とした。対象となった文献の、作成年、著者名、タイトル、雑誌名、頁数については表1のとおりである。 各年代の文献数 1985年が1件、1986年が4件、1988年が1件、1989年が5件、1990年が1件、1991年が2件、1992年が4件、1993年が6件、1994年が3件、1995年が1件、1996年が2件、1997年が5件、1998年が7件、1999年が4件、全部で46文献であった。 2)分析方法・手順 (1)基礎データ化:対象とした文献を、1)内容・目的、2)認知症症状の何を・どのように対象・問題としているか、3)介入の視点、に着目して文章を抜粋し、基礎データを作成した。基礎データについては<http://www5.ocn.ne.jp/~tjmkk/nintisyousagyou-c9.html>に掲載をしている。 (2)基礎データのカード化:基礎データを分析可能な量として分節化するために、対象文献にデータ番号を付し、さらに、基礎データには抜粋した文章の頁数を明らかにしているので、データ番号-頁数をカード番号として、抜粋した文章をカード化した。 (3)時間系列に沿った記述作業:時間的流れに沿って、カード化された分析対象を、「認知症の作業療法」の形成における要素と考えられる記述について列挙した。 3. 結果 ――時間系列に沿った記述的作業 上記の分析手順により、カード化したデータから、新療法の紹介、範囲、認知症症状の捉え方、介入の時期など、「認知症の作業療法」の形成における要素と考えられる言説・研究について時間的流れに沿って記述したが、ここでは、その特徴となるところのみ紹介する。 1985年 ・新療法(R.O法)の紹介をもとに、認知症作業療法における介入の手立て見出されており、新たな展開の萌芽として受け取れた。 1986年 ・認知症の重症度の評価の必要性や重症度別の介入の意義が述べられ、それと同時に日常生活に介入することの意義について指摘がなされていた。 ・家族への指導と援助の重要性が指摘されていた。 1988年 ・重症度の弁別の重要性については1986年の文献においてすでになされているが、それは引継ぎ存在し、さらに、作業療法独自の評価法の開発の検討がなされていた。 1989年 ・認知症高齢者に対するケアシステムや作業療法の体系化が現状において未整備であり、今後の課題であることが言われていた。 ・認知症症状の区分が、見当識や記憶力などの中核的・基本症状と随伴する精神症状に分けられ、作業療法は、随伴精神症状あるいは対症療法の方に意義や効果が見出されていること、それと同時に「QOLの維持・向上」が作業療法の目標として提示されていた。 1990年 ・作業療法におけるアクティビティの多様化が図られ、1989年に見たような、いわゆる、表情・意欲・積極的反応率などの随伴する精神症状に対する変化について、「QOL」という効果指標を基に、向上したという見方がなされていた。 1991年 ・1989年以降に確定的となった感のある随伴症状・対症療法へのアプローチを基本としつつ、「思いがけない」能力の発現を見逃さない観点も同時に含めるものとして、ケアとリハビリテーションの融合の意味を成立させる文献があった。 1992年 ・知的機能の向上が図れたと報告する文献があった。 ・早期介入の重要性が指摘されていた。 ・作業療法におけるアクティビティの多様化や、アプローチの多様化、精緻化を目指す文献が散見された。 1993年 ・「ケア」の視点として、認知症高齢者を、意志や目的を持った人間として理解する枠組みが提示されていた。 ・作業療法士はコーディネート役が最適としていた。 ・ターミナルケア領域への作業療法の拡散・拡大が見て取れた。 1994年 ・調理活動やレクリェーションなど、具体的な作業活動での効果や対応方法についての検討がなされていたことは特徴的であった。 1995年 ・「インフォームドコンセント」という言葉が用いられ「痴呆性老人が求めている形をリハビリテーションの中にも導入していく事で、治療効果が上がり真にインフォームドコンセントに基づいたものが可能になる」としていた。 ・グループホームの取り組みの意義やチームによるリハビリテーションの推進の必要性について言及していた。 1996年 ・作業療法士の役割として、日常的リハビリテーションは他職員にしてもらい、全体的な計画、研修、指導を期待したいとあった。 1997年 ・作業療法における病態特徴の活用、料理活動から得られる意義、評価尺度の検討など、1994年の報告と比較しても、言説がより説得的となっていた。 ・デイケア、デイサービスの実践報告が数多くなされていた。 1998年 ・評価や作業療法の取り組みについて検討している文献がみられた。 1999年 ・翌年から始まった介護保険制度を意識した文献が多く「家族を支援するシステム」によって「在宅で高齢者が安心して生活できるのでは」と述べられたり、「老人保健施設におけるケアマネジメントは、施設ケアプランと在宅ケアプランの二層をトータルに捉えて総合的に援助計画を立てる必要がある」と述べられていた。また、単身生活を営む認知症高齢者に焦点をあて、「ケアマネジメントをフォローし再評価するチームワーク」や「長期対応」、アセスメントでは「本人のストレス状況や環境あるいは相手によってみせる姿が異なるために関係者の情報が何より必要」としていた。 4. 結果の分析 (1)年代別の言説・研究の特徴について 1985〜1989年、1990〜1994年、1995〜1999年の3期に分け、年代別に比較を行い、各期における作業療法(学)の言説・研究の特徴について検討を行った。 1985〜1989年代 ○認知症高齢者に対する介入の視点や方法が模索された時期 R.O法という海外の方法論が紹介され、介入の1つの道筋が示されたのではないかと考える。また、効果的な介入の方法として重症度に応じた介入の方法が提示されたり、介入の対象として家族が発見されたり、介入の範囲として日常生活の場の重要性が指摘されたりしていた。 ○1989年には、認知症症状についての構造的・分節的理解がなされ、介入の位置や目標が、ある程度、確定もした時期 作業療法において、表情や意欲、積極的反応などの随伴する精神症状に対する変化が、「QOL」をいう効果指標を基に、向上したという見方をする文献があったが、1989年においてほぼ確立したかに見える、作業療法の介入の位置、目標を明確に反映した文献のように思われる。 1990〜1994年 ○介入の位置・目的については、1980年代後半で示された、随伴する精神症状への対症療法的・維持的アプローチが主流に 「QOL」という効果指標として、家族との関係性や創造性、表情・意欲・積極的反応などを、介入視点として取り入れるようになった。また、アルツハイマー型認知症のターミナルケアについて、新たな作業療法の領域として実践報告をしている文献も見られた。 ○知的機能の向上が見られたという報告や早期介入によって認知症の進行を防げたかも知れないと反省的に省みる文献も散見 上の着眼点は作業療法学として浸透・定着したものではなく、知的機能の回復を目指した作業療法のあり様を模索する動きも同時に存在していたことが伺える。 ○介入の形態や方法については、集団や小集団、脳障害や認知症の程度に応じて多様に 音楽や球塗り療法、R.O法、回想法、調理活動、レクリェーションなど、様々なアクティビティの検討がなされ、介入の形態や方法についても、集団や小集団、脳障害や認知症の程度に応じて変化させており、1980年代と比較しても、より多様化した試みがなされていることがわかる。 1995〜1999年 ○グループホームやデイサービス、チームアプローチの推進 時代的趨勢の影響があり、インフォームドコンセントという概念が出現し、認知症高齢者や家族の意向を確認しながら治療計画を進めることや、グループホームやチームアプローチの推進の必要性が言われ、実際、グループホームやデイサービス、デイケアでの実践的報告が多く見られるようになった。 ○作業療法のこれまでの取り組みを進展させるものであったり、作業療法の独自性をより追求するものであったり、課題についてもより焦点化がなされていた 作業療法については、病態特性をより理解したり逆に活用したりすることで生活障害や情緒的側面の改善に結びついた症例の紹介や、これまでと同じアプローチ法を用いたとしてもその新しい効用を見出したり、作業療法独自のアプローチ法の適用の効果、評価尺度の検討や作業療法独自の評価法の開発の必要性が求められるなど、これまでの取り組みを進展させるものであったり、作業療法の独自性をより追求するものであったり、課題についてもより焦点化がなされた感があった。 ○介護保険制度を意識した文献 また、1999年には、翌年から開始される介護保険制度を睨み、ケアマネジメントやチームワークをより意識した文献が見られた。 (2)認知症の作業療法の変容・編制過程について ここで、認知症の作業療法の変容・編制過程について分析を試みる。従って、(1)の結果について、作業療法学の変容・変性に関連すると考えられる部分に焦点化し、検討を加える。 1985年以降、作業療法学において、認知症高齢者に関わる言説・研究が徐々に生成・蓄積されていったことがわかるが、学の変容・編成に関わる重要な転換点として、1989年の言説・研究が挙げられると考える。つまり、1989年の言説・研究において、認知症症状について、認知症そのもの(中核症状)・根本的対応と精神症状や問題行動、副次的症状(辺縁症状)・対症療法とに区分がなされたことである。それは、その後の作業療法学の成り立ちに大きな影響を与えたと考える。つまり、これまでは、認知症症状に対するアプローチの射程が明確ではなかったが、その区分によって、作業療法のアプローチの射程が概ね後者にあるという位置づけが確定したのである。それ以前の、介入方法を模索していた頃の研究の成果が、後者へのアプローチに意義や効果を認める言説・研究としてその確定を補強したとも言えるかも知れない。そのことは同時に、治療が不可能な(機能回復が見込めない)疾患が作業療法の対象に含まれることを意味したが、それが、認知症の作業療法をめぐる学の変容・編成へと展開する重要な基点となったのではないだろうか。つまり、こうしたアプローチの視点を対象として含めることにより、これまでとは異なる様相の、多様な言説を、学の内に包摂しやすくなったことが伺われるからである。 その代表的なものが、リハビリテーションとケア、あるいは医療と福祉の接続、あるいは並列化する言説であったと考える。こうした接続、並列化を可能にしたのが、上に述べた認知症症状についての構造的・分節的理解であり、それに適合した作業療法のアプローチ法があったと言うことができるのではないか。(1991-2)のケアとリハビリテーションの関係についての文章にあるように、ケアという対人関係を基盤とした生活の質の向上に対する働きかけの内にも、「思いがけない」能力の発現が期待されており、両者が明確には分かち難い概念とされていることがわかるが、それだけでなく、その接合には、認知症症状に対する理解の仕方とリハビリテーション学に元々位置する作業療法学における、作業療法という特性ゆえに意義や効果の認められた認知症症状に対する介入の位置取りが関与していたと考える。 また、「QOL」という概念についても、本調査では1986年に初めて登場したが、ある概念が言説として定着するためには、その背景に根拠や文脈があるはずであるから、そう想定してみると、1つには、認知症が、治療が不可能な疾患であることから、能力向上に連なる「自立」や「社会復帰」などの目標値が設定できないため、別種の目標値の設定が必要であったことが伺われる。もう1つは、リハビリテーションとケア、医療と福祉の接続、接合にあたり、両者を統合する目標値として「QOL」が適合するものであったことも理由としてあげられるかも知れない。逆に言えば、両者を統合可能な「QOL」という概念の出現によって、リハビリテーションとケア、医療と福祉が結びつけられたとも考えられる。 こうして、認知症の作業療法において、介入の位置や目標値が確定・前提化したことにより、実践的言説・研究の多様化が進行したのが1990年代と見ることができるのではないだろうか。具体的には、(「ターミナルケア」の領域を作業療法の射程として捉えることが可能となったことや、「チームアプローチ」という言説の登場、あるいは、サービスの形態として、「集団作業療法の取り組み」から、「グループホーム」や「デイサービス」、「デイケア」での実践的研究・言説への積み上げへと拡大化していった動きなどを捉えることができるだろう。また、「家族関係の支援」「家族の介護負担の減少」の言説についても本人変化への期待に限界があるための、介入対象の変容・拡大化の一側面として捉えることができるだろう。 5.考察 1)井口[2007]の1980年、1990年代の「はたらきかけ」の変容の記述との比較 井口[2007]の流れ: 1980年代:働きかけの方法は不明であるにせよ、認知症高齢者を支援の対象に 1980年代後半:脳血管性認知症を対象として想定し、早期介入・予防的リハビリが奨励 1990年代:アルツハイマー型認知症への注目があり、治療が困難な対象であるがゆえに、ケアの重要性、QOLの向上を目指すことの重要性が言われるようになった 本研究との比較: 同じ点:本研究においても、1990年代には、随伴する精神症状への対症療法的・維持期的アプローチが主流となり、ケア的関わりやQOLの向上が重視されるようになったという大きな流れが読み取れた。 異なる点: @1980年代後半において、井口[2007]では、主に脳血管性認知症を対象として想定していたとあるが、本研究では、必ずしもそうではなかったことである。むしろ、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の区別は明確ではなかった。 A井口[2007]では、認知症のタイプによって治療困難な対象の発見がなされ、ケアやQOLの重要性が言われるようになったとあるが、本研究では、認知症症状による、中核症状(認知症そのもの)=治らない、辺縁症状(随伴する精神症状)=治る、という分類があり、辺縁症状への対症療法・維持的アプローチの介入視点、目標としてケアやQOLが登場していた。 B井口[2007]では、リハビリテーションの限界性から1990年代後半より注目されるようになったとされる「ケア」であるが、同様の内容が、他ならぬリハビリテーションの一業種である作業療法においても、「リハビリテーション」と位置づけられる言説空間において形成されてきていた。 2)2000年以降の認知症の作業療法の言説・研究との(非)関連性 田島他[2008]は、対象者の生活を支援する専門家である作業療法士が、認知症高齢者に対して行う生活支援のための多様な着眼点の諸相を明らかにするために、2000〜2007年の日本作業療法学会誌を研究の対象としたものである。結果は次の4点。 1)対象者理解の視点には「重症度モデル」「主体モデル」「承認モデル」という3つの位相が存在していた。 2)介入の視点としては、問題行動や自発性・不穏など(適応的行動を導く)だけでなく、「身体保全」「他疾患へのアプローチ」についても着目していた。 3)介入の方法論としては、 人数・時間などの介入規模の柔軟な利用、チームアプローチによる統一的・多領域的な関わり、デイケアにおける多様な着眼点による介入がなされていた。 4)家族の介護負担の軽減、在宅生活継続をいかに支援するかにも着目していた。 本研究との比較: →1)認知症高齢者のありのままを受け入れ、本人への介入は行わずに生活の変容を行おうとする「承認モデル」は見られず、2000年以降出現したものと思われるが、それは、対象者の変容を期待する医学モデル的視点からはさらに距離を取るモデルであり、作業療法(リハビリテーション)におけるケア的要素の強まりとして捉えることができるかも知れない。 →2)「身体保全」や「他疾患へのアプローチ」など、1990年代に比べると、新たな問題の発見がなされているが、基本的な介入の位置、目的については、認知症の改善を目指すものではなく、いかに周辺の設定を工夫して、身体保全や他疾患へのアプローチを可能にするかという視座からの研究であり、そういう意味においては、1990年代を踏襲したものであると捉えることができると考える。 →3)、4)については、1990年代においても、既に見られる言説・研究であり、2000年以降、介護保険制度が開始し、さらに、言説・研究の生成が進んだものと考えられるが、特に1990年代からの言説・研究に変容がみられたものではない。 まとめ:介入の位置、目的など、大きな作業療法学の枠組みに関わることは、1980年代後半から1990年代前半にはほぼ確定し、2000年以降は、介入の対象や方法は多様化、複雑化、精緻化しているが、大きな枠組みについては、その形態を維持した形であると言えると考える。ただ、「承認モデル」が出現していることについては、ケア的傾向は強まっていると解釈できるのかも知れない。 3)「寝たきり老人」をめぐるリハビリテーション言説との(非)関連性 田島[2009]では、「寝たきり老人」 をめぐるリハビリテーションの言説について、1970〜2005年までを追っているので、それとの(非)関連性を比較検討してみたい。 「寝たきり老人」に対するリハビリテーションの言説: 1970年代:「寝たきり老人」は施設などで作られることが指摘され、リハビリテーションを行う意義が強調された。 1980年代:「寝たきり老人」の機能回復は期待できないものと見なされ、多くのリハビリテーション従事者の関心は、「寝たきり」状態となる以前の、機能回復の見込める状態における、医療機関での脳卒中の早期治療に向き、そちらが、1990年代以降の「寝たきり老人」をめぐる予防をキーワードとする諸言説に影響を与えたのではないかと考えた。 1990年代以降:「寝たきり」の原因究明と予防的観点から多様な言説が生成されていたものの、「寝たきり」状態を呈した人に対するリハビリテーション・ケアについての言説はごく少数であった。 「寝たきり」の原因の多くは脳卒中によるものであること、(脳血管性の)認知症の悪化が「寝たきり」の状態を作ることが、1970年代、1980年代の言説において言及されていた。 注意点: ・脳卒中後の全般的機能低下に対応するものとして、早期治療が強調された。認知症のタイプの分類の中では、脳血管性認知症のみが該当していた。 ・脳卒中と認知症の疾患群別に、それぞれ1970年代、1980年代頃より、言説・研究の蓄積がなされてきた経過のなかから、2つの介入方法が相互に関係することなく形成されている。 結論: ・「寝たきり老人」と「認知症高齢者」に対する「はたらきかけ」は「脳卒中」「認知症」各々の疾患に対するアプローチ法が模索されるなか、位相の異なる介入視点・目的が、各々に収斂されていったと理解することが妥当ではないか。 ・どちらの疾患にも入る脳血管性認知症があり、実際のアプローチの場面では位相の異なる介入視点・目的は、混在していくことにもなったのではないか。 6.まとめ 本研究では、認知症高齢者の作業療法における言説・研究の変容・編制過程を明らかにする目的で、『理学療法と作業療法』『作業療法』『作業療法ジャーナル』の3雑誌から、認知症の作業療法についての記述を抽出し、分析を行った。その結果は概ね次の3つにまとめられる。 1)1985年以降、作業療法学において、認知症高齢者に関わる言説・研究が徐々に生成・蓄積された。 2)学の変容・編成に関わる重要な転換点として、1989年の言説・研究が挙げられる。 ――具体的には、認知症症状について、認知症そのもの(中核症状)・根本的対応と精神症状や問題行動、副次的症状(辺縁症状)・対症療法とに区分がなされたことにより、作業療法のアプローチの射程が後者に確定し、同時に、治療が不可能な(機能回復が見込めない)疾患が作業療法の対象に含まれた。 3)1990年代は、1989年の転換点を基盤に、「ターミナルケア」「チームアプロ「グループホーム」「デイサービス」「デイケア」での取り組み、「家族関係の支援」「家族の介護負担の減少」など、これまでとは異なる様相の多様な言説が学内に包摂された。 <文献> 井口高志 2007 「認知症家族介護を生きる―新しい認知症ケア時代の臨床社会学―」東信堂 田島明子 2009 「「寝たきり老人」と/のリハビリテーション――特に1990 年以降について」『生存学』 1:308-347 田島明子・仲口路子・天田城介 20080620 「認知症高齢者に対する作業療法士の生活支援のための着眼点-2000〜2007年の日本作業療法学会誌を手がかりにして-」第42回日本作業療法学会 於:長崎県立総合体育館(ポスター報告)<http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/2008/0620ta.ppt> 表1 対象文献の詳細(◆:『作業療法』、◇:『作業療法ジャーナル』、■:『理学療法と作業療法』)
*作成:櫻井 悟史 UP:20090905 REV:20090915 ◇全文掲載 ◇障害学会第6回大会 ◇障害学会第6回大会・報告要旨 |