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 重度身体障害者の自立支援における自立生活センターの支援の在り方
――自立生活センターにおける権利擁護活動を中心にして

白杉 眞(立命館大学大学院先端総合学術研究科)   20090926-27
障害学会第6回大会 於:立命館大学


◆報告要旨
◆報告原稿

■報告要旨

自立生活センターは、社会に障害者の世界観があることを訴える運動体と、「障害者の専門家は障害者である」という観点から、従来の福祉の受け手から担い手となり、さらに必要な制度を開拓していく事業体である。しかし、現在では事業体が中心となり、運動体が弱体化しつつある。これでは一般事業者と変わりがなく、自立生活センターではなくなってしまうというと私は考える。
  そこで本報告では、モデルとなっている関西地区にある2団体を取り上げ、自立生活センターの特徴である権利擁護活動を中心に、実態にあわせた重度身体障害者の自立支援における自立生活センターの支援の在り方について検討する。
  わが国における自立生活運動は、1960年代の「青い芝の会」による活動から注目されるようになった。当時の活動は衝撃的なものであり、障害者の存在と権利を強烈に印象づけた。それから約40年が経つ現在まで、自立生活運動は広く市民に知られるようになり、介助保障制度が措置から契約に転換する等、徐々に障害者は権利を獲得してきた。このような自立生活運動史において、1980年代にアメリカより伝わった自立生活センターの役割は大きなものがある。最初にわが国の自立生活センターを中心とした自立生活運動の歴史に触れることで、自立生活運動が社会にどのような影響を与えたのか考察する。
  次に自立生活センターが行う自立支援を視野に入れた地域生活支援の研究を行っている北野誠一の理論を取り上げ、一方では私自身が考える今後、望まれる自立生活センター運営体系像、及び運動団体として権利擁護活動を中心とした障害者の自立支援に関する活動像を検討し仮説として提示する。
  以上の仮説をもとに、介助者派遣サービス事業が中心となっている現状がある中で、事業と運動の両面を比較的バランスを保ちながら、自立生活センターとしての活動を行っている2団体に質的調査を行い、それらの特徴と共通点を検討する。
 それらの実践例をもとに今後、自立生活センターに求められる運営体系と、自立生活センターの権利擁護活動を活発化させるための方法を提示する。そして、運動団体である自立生活センターが、障害者の自立生活に必要な介助を得るためにどのような支援が必要かを検討する。

■報告原稿

重度身体障害者の自立支援における自立生活センターの支援の在り方
―自立生活センターにおける権利擁護活動を中心にして―

立命館大学大学院先端総合学術研究科
公共領域3年  白杉 眞

はじめに

 自立生活センター(Center for Independent Living 以下「CIL」と表記)が行う自立支援は多くの実績をあげている。重度身体障害者が自立生活を実現させるには、様々な問題を自らの力で乗り越えていかなければならない。自立のための親・兄弟などの説得、社会的責任を負うことの自覚、それら困難を越えていくための自己信頼と自信の獲得など、様々な問題を超えていかなければいけない。このような点において、ピアカウンセリングや自立生活プログラム(Independent Living Program 以下「ILP」と表記)など、CILが行っているプログラムは自立支援においてとても重要である。
 しかし、居宅介護派遣事業の収益優先となり自己決定・自己実現の尊重といった自立生活の理念が欠落してしまっている状況も一方では見られる。障害者自立支援法の施行により、定率負担の導入による自己負担金の発生、国庫負担基準額の縮小、福祉離れによる介助者不足など、障害者の自立生活は厳しい状況になっており、N市のようにホームヘルプサービス支給量を抑制する動き1)も実際に各地で起こっている。
 本来、障害者の自立生活運動と、当事者による当事者支援が目的であるはずのCILが収益最優先で自己実現、自己決定が影になっている傾向があり、一部のCILでは不正行為を行っていたケースもある。近年では、居宅介護派遣事業に集中し、権利擁護を含む運動体としての役割が実践できていなかったり、ピアカウンセリングやILPの実施など、当事者による支援が形だけのものになりつつある傾向にある。この流れは障害者自立支援法の施行により収益最優先の傾向が更に加速している。
 CILが入ってきた1980年代に比べて、障害に対する意識が変化してきていることや、障害者職員と健常者職員の関係の変化、制度の複雑化などにより、全判断を障害者職員が行えず、居宅介護派遣事業のすべてを健常者職員が行っているCILも出てきている。こうしたは傾向は、首都圏や関西圏などの都市部に比べ地方においてより強い。このような社会環境の変化により、CILの性格も変化してきていると考える。現在、CILが居宅介護派遣事業などを中心とした収益を最優先にする傾向にあり、CIL自体の運営も健常者職員が中心となっている状況がある。そこで、さらに弱体化しつつある運動体としての機能を再び高めるために、今後求められる運営体系を検討する。そして、CILでの権利擁護活動など、運動体の側面から見た重度身体障害者の自立支援におけるCILの支援の在り方についても検討する。

【注】
1.障害者自立支援法施行に伴い、N市では従来の支給量を大幅に下回る支給決定を行っ
た。CILによる働きかけにN市の回答は、「命の危険性が感じられない」とした公式文
書を平成18年11月22日付で出した。

T.CILの運営と活動の実践例

 重度身体障害者の自立支援における運動体としてのCILの支援のあり方を検討するに当たり事例は重要である。とくに地方においては、障害者職員が数名で運営しており、健常者職員が居宅介護派遣事業を主に行っており、その結果、権利擁護活動まで行えないCILが少なくない。しかし、自立生活センターあるる(以下、「あるる」と表記)においても数名の障害者職員であるが、権利擁護活動には積極的に関わっている。筆者自身があるると関わり6年になる。それ以前から親交のあった地方のCILでは居宅介護派遣事業が中心となっており、ピアカウンセリングやILPなどといった自立支援は、CILではない相談支援事業所からの誘いによって共催で研修を開く程度であった。また、障害者職員が少ないという点においてもあるると共通しており、そのような中で自立支援や権利擁護活動を行っているあるるの実践は参考になる。

1.あるるの実践
(1).概要
 あるるでは、「さまざまな活動をとおして、障害者が地域で自立生活すること、地域で自分らしく生きていくことを応援していく。また、ひとり一人がかけがえのない存在であることに気づき、どんな人も大切にされる社会に変えていくために、たくさんの人たちの協力を得ながら、社会に向かってメッセージを発信していく。(自立生活センターあるる,2009,p20)」という理念のもと、障害者職員4名、健常者職員8名が勤務している。
居宅介護派遣事業に関しては、「コーディネーターが6人で、そのなかに○○くんが障害者職員として入ってくれている。居宅介護派遣事業の利用者は25人いる。アテンダントの利用者も含めてね。登録介助者はいま全部で23人かな。(理事長証言)」主に近隣大学の学生介助者がその主力となっており、卒業後は常勤職員としてあるるに就職するケースも見られ、人材育成の役割も果たしている。
 事業内容としては、ピアカウンセリングとILPによって、新たな自立生活者を生み出している。すでに自立生活をしている障害者や自立を目指す障害者にとって気軽に相談できる機関が地域にあることは重要である。また、行政から相談支援事業を受託している。自立生活体験ルームも1室設置しているが、自立生活体験のみでなく、ピアカウンセリング研修や制度学習会など、多目的での使用をしている。元々、工場跡を改装しているため、事務所1階とマンション2階との間に自立生活体験ルームが設置されている。また、居宅介護派遣事業は、法人運営の大きな収入源となっている。そして、権利擁護活動は、CILであるための活動であり、とくに障害者自立支援法をめぐる運動では、地域の自立生活運動の先頭に立って運動を盛り上げた。
地域での活動としては、「誰もが住みよい社会を目指しながら実際に、まちを歩いてバリアフリー調査をし、車椅子などでも快適に生活できるまちになるよう発信していく活動を行っている。(自立生活センターあるる,2008,p20)」現在、「市内のバリアだらけの駅舎をめぐり、住民や、大学の有識者らとともに駅改修案を作成して企業と行政にバリアフリー化を求めている。(大阪日日新聞,2009,p1)」
 その他、「外出が不安な人や、もっと楽しいことがしたい人たちとの交流企画を行い、その際、近隣の大学からボランティアで学生に企画に参加してもらい、交流の機会をもっている。また、相談支援事業所や居宅介護派遣事業所の職員とともに大学での講演活動も行っている。(自立生活センターあるる,2009,p2)」

(2)設立の経緯
 あるるを設立する契機となったのは、1996年から始まった市町村障害者地域生活支援事業(現在の相談支援事業)について行政がCILへの委託を前向きに考えたことが大きい。そもそも、行政がCILへの委託を認めた背景には、市内のCILなど当事者組織を統括する障害者の完全参加と平等を求める大阪連絡会(以下、「障大連」と表記)による行政交渉によって実現した。元々、1996年以前から大阪頸椎損傷者連絡会の集まり(以下、「頚損連」と表記)が定期的に開かれており、「頚損連にいた2人と、時々、(頚損連に)遊びに来ていた私でCILの設立を目指して、自立やCILの理念とかについての勉強会をやっていた。まあ、勉強会といっても図書館とか、(3人のうち)誰かの家とか、ファミレスとかでの勉強会だったけど。(代表証言)」「それと同時に自分たちの思いに賛同してくれる仲間を集めて2000年に設立準備会を発足させた。○○(現在、あるる健常者職員)を誘ったのもそのころだったと思う。その後も勉強会を継続してやって、(勉強会で使う)レジメの作成と司会役は毎回、持ち回りでやった。(担当を持ち回りで行った理由は)運動や会議などで、みんなが先頭に立つことができる力をつけるため。(理事長証言)」「市町村障害者地域生活支援事業の受託を目指して、JIL(全国自立生活センター協議会=Japan Council on Independent Living Centers 以下、「JIL」と表記)や障大連が行う研修会とか、ピアカン講座やILP講座やリーダー養成研修なんかにも少しでも多くの実績をつくるため多くの研修に自費で参加した。(代表証言)」2001年、特定非営利活動法人を設立、その後、市内の主要駅周辺で全職員でカンパ活動を行うことで資金を集め2002年に事務所を設立、同時に市町村障害者地域生活支援事業を受託した。2003年には、支援費支給制度開始に伴い居宅介護指定事業所指定を受託、2006年には、作業所を設立し活動の幅を広げている。

(3)あるる運営の体系
 あるるは、「特定非営利活動法人あるる」を母体として、相談支援事業所、居宅介護派遣事業所、作業所の3形態に分けて事業を行っており、これらは、いずれもCIL理念に基づく運営を行っている。図1は「特定非営利活動法人あるる」の運営体系図である。あるるでは、居宅介護派遣事業担当者、ピアカウンセリング担当者、ILP担当者は、それぞれ障害者職員が担っている。権利擁護活動については、「特定非営利活動法人あるる」全体で行っているが、他団体との窓口は、主に理事長及び代表となっている。このようにいくつかの担当を受け持つなど、障害者職員の人数が少ないなりの工夫が伺える。障害者職員の人数は少ないが、JILや障大連にとってあるるは、重要な役割を果たしている。

(4)あるる権利擁護活動の体系
 この地域における権利擁護活動は全国的にも特殊であり、市内のCILや作業所など、目指すものや活動スタイルが比較的似ている団体が障大連に加盟しており、行政との交渉や集会などについては障大連を通して行う。行政交渉に関しては、とくに特徴的であり、年1度の交渉で介助保障から教育問題、人権問題、労働問題に至るまで、事前に書類を行政に提出し、その資料を基に交渉を行うものであり、障大連として団体で行う。この交渉による実績は大きなものがあり、地域移行を目的とした外出時にのみ、ホームヘルパー・ガイドヘルパーを利用可能とした「施設からの地域移行モデル事業」の実施や、他市町村では認められていない身体障害者グループホームが認められている。あるるは、こうした権利擁護活動に積極的に参加することで、地域における自立生活運動の先頭に立っている。
では、居宅介護派遣事業と権利擁護活動のバランスをどのように調整しているのだろう。あるるではデモなどへの参加の際、利用者は現地までの往復交通費を事業所からの一部負担で、残りは自己負担という形で参加をしている。しかし、利用者全員が参加することはできないため、コーディネーター数名は事業所待機であるが、大半が活動に参加することで権利擁護活動に積極的に関わっている。
 その他にもピアカウンセリングやILPの実施、アテンダントには学生を起用して人材育成にも努めるなど、CILとしての役割を果たしている。
 大阪市におけるCILは、1996年から開始された市町村障害者地域生活支援事業の影響を受け、それ以降、CILが急速に設立された。市町村障害者地域生活支援事業が開始される際、障大連による市との交渉で、障害者が障害者の実態を一番よく理解しているとして、当事者団体であるCILへの委託が市の方針として積極的に推進されることとなった。これにより、市内の各地でCILの設立が相次いだ。運動団体が各地で設立されたことで、地域の権利擁護活動が全国的に活発な動きとなっている。

2.事例の検討
 あるるは、形式的のみならず、その関係性においても障害者職員が主体であるというCILの運営体系を遵守している。また、権利擁護活動についても積極的に関わっており、先進的取り組みといえるだろう。
 あるるの特徴のひとつは、権利擁護活動を活発に行っているにも関わらず、障害者職員の人数が少ないことである。しかし、とくに自立生活をする障害者の少ない地方においては、それに関係して、CILで働く障害者職員も少なく、人数が少ないがために本来の活動ができないというCILもある。その点であるるは、状況としては同じである。また、障害者職員と健常者職員の間で当事者主体の関係が守られている。これらをふまえて地方の状況を考えると、あるるのスタイルが現状により近いモデルであるだろう。
 あるるの実践でとくに重要な点は、第1にCILの理念について、職員教育を徹底している点である。職員教育は、障害者職員や健常者職員に関係なく、契約介助者やアテンダントサービス登録介助者、作業所利用者を含む、CILに関わる全ての人に対して、自立生活運動の歴史、障害者が自立すること・障害当事者が支援することの意味、CIL理念に至るまで徹底した教育が重要である。
 第2は、権利擁護活動に関する活動場所の役割分担がされていることである。あるるは障大連に所属しており、担当者は、こうした他団体の中心的役割を担っている。また、JILや障害者インターナショナル日本会議などと積極的に関わり活動している。このように、障害者職員の積極性とも関係しており、権利擁護活動に対する障害者職員への動機づけも重要となる。

U.重度身体障害者の自立支援におけるCILの在り方
1.今後、CILに求められる運営体系と活動像
 
 前節で取り上げたCILは、理念を基本としながら居宅介助派遣事業や作業所を運営しており、その中心は障害者である。CILのみが権利擁護活動に携わっていれば、職員間で権利擁護活動に対する温度差が生じることはもちろん、人間関係の混乱や自立に関する認識の不一致から権利擁護活動はおろか、CILの存続にも関わる事態も考えられる。事実、各CILが抱える一番の課題は、職員間の人間関係である。
 「自立生活センターの事業内容やプログラム内容を見ると、すべての内容が、入所施設やグループホームなどではなく、あくまで自立生活を前提とした支援内容であることが分かる。つまり、自立生活センターは、障害者を地域に導くことを前提としている。そして、その上での、介助保障運動や介助者派遣サービスの自立支援プログラムなのである。(西田恵子,2003,p289)」
 「障害者職員のみでなく、健常者職員にも権利擁護活動に対する理解を深めてもらうために介助者面接をする際、必ずCILの会員になることを前提とし、介助のみ希望している人は断っている。そして、障害者職員には、人を育成できる素質が求められる。CIL理念に基づき、障害者職員は健常者職員を育成し、権利擁護活動の力を強めることを目的としている。(長位鈴子,2004,p39)」
 人材育成と権利擁護活動の活発化という意味を含め、一部の人間が関わるのではなく、CILが中心的役割となり、法人全体が運動体として、権利擁護活動に関わることが重要である。(野口俊彦,2003,p42)
 各事業の責任者を決め組織化し、CILの運営体系に基づいた支援体制を構築するとなれば、以下に示した図3のような組織図が望まれる。
 「従来、専門職者が障害者の自立支援を行ってきたが、それは健常者に近づくことが目標とされ、障害者をあくまでも医療的可能性の試みの対象としてとらえる医療モデルだった。(中略)医療モデルに対して自立生活モデルは、障害者の側から自分の生活をつくっていくために必要な支援を開拓してきた。(樋口恵子,1999,p6)」「利用者不在のまま専門家主導により支援や生活の有り様が決められていく、専門家による専門的支援をCILは否定してきた。(村田文世,2009,p152)」
 このような観点から、すべての責任者は障害者職員である。早急な対応が要求される事業に関しては、責任者の障害者職員がコーディネートを健常者職員に委ね、各部門責任者は障害者職員が配置される体制が望まれる。また、各部門責任者は、必要に応じて運営会議の開催を要求することで、理事長・代表・事務局長・各部門責任者が参加のもと運営に関する決定を行うことが望まれる。
 あるるにおいて、運営に関する会議は障害者職員主導のもと行われているが、明確に位置づけられている訳ではない。ここで「運営会議」として位置づけることで、運営に関する重要な会議には、原則として障害者職員しか参加できないという、当事者性を再確認する意味で職員教育にも繋がる。
 また、健常者職員が参加すると言えない、障害当事者だからこそ打ち明けることのできる様々な悩みがある。健常者では見落としてしまいがちな、障害当事者にしか分からない視点があり、法人全体の円滑な運営を行うためにも運営会議の場が重要となる。
 「これまで施設で果たしてきた機能を在宅で支援が得られるサポートシステムとして、リハビリテーション機能、ケア機能、アクセスハウジング機能、生活維持機能に分類している。これらの機能を4つのサービスとしてとらえれば、それらのサービスが地域の中で、在宅で生活する障害者に提供されれば、多くの施設障害者は、地域で、あたりまえの自立生活が可能となる。(北野誠一,1993,p237)」
 CILが提供する各事業は、自立生活の実現にむけたサービス内容であり、「在宅サポートシステム」とリンクする部分が多い。例えば、アクセスハウジング機能では、障害者が住みやすい住宅の確保が重要視されるが、CILでは、ILPの一環として、住宅情報の提供と、本人が不動産店をまわり自らの力で住居を確保するためのプログラムが提供される。また、ケア機能では、居宅介護派遣事業によって、生活の身体的支援を行うと同時に、介助制度の充実を目的として権利擁護活動を展開する。CILの基本的な考え方として、必要な支援と保障が整っていれば、どんなに重度な障害者でも地域で自立生活ができ、すべての障害者がその可能性をもっているという立場にたつ。
 「人間が生命を維持していくうえで最低限必要とされる営みは、排泄や食物摂取といった生理的欲求を満たすことである。(中略)ところが、障害者は介助がなければ、生理的欲求すら満たせない場合がある。生理的欲求を満たすことは、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むにあたって必要欠くべからざる前提条件の一つである。国は、「健康で文化的な最低限度の生活」が送れるようにすることが責務であるから、障害者の介助を保障する義務がある。したがって、国の責任において障害者の介助保障を確立しなければならないのである。(横須賀俊司,1993,p122)」
 よりよい運営のためCILの運営体系として、理事長が法人全体の最高責任者となり、外部者を含むメンバーで理事会を構成する。次に代表、事務局長が法人のとりまとめ、会計業務を担当する。次に居宅介護派遣事業担当者、ピアカウンセリング担当者、ILP担当者、権利擁護活動担当者をおき、各担当者と理事長、代表、事務局長で運営会議などを行い、運営を行っていく。当事者主体の理念を守るため、これらメンバーは、障害者職員である。各担当者の次に健常者コーディネーター、登録介助者、健常者職員が位置し、障害者職員が物理的にできないところを補佐する。
 重度身体障害者が自立生活をするにあたって、「地域で生きていくのに必要な自立生活技術の形成」と「自立生活を支える地域のサポートシステム作り」という2つの要素が求められる。前者における、介助者に介助を依頼するアテンダントサービスを含む、居宅介護派遣事業のコーディネート技術等、自立生活の技術は、地域での社会資源を使いこなせることが必要となるが、各地域のサポート体制における質・量によって変わってくる。
 都市部においては、比較的、使える社会資源は充実し、地方では使える社会資源の量が限られており、地方になるほどその範囲が限られてくる。介助保障制度の充実をはじめ、社会資源の充実を求める権利擁護活動は、CILをはじめとする運動体の活躍する場でもあるだろう。各地において自立生活運動を活発化させるため、CILが中心的役割を担うことが望ましい。「CILでは、全ての人が地域で暮らせて当然だと考えそれを可能にしていこうとする。そのために当事者が主体になり、これまで専らサービスの受け手だった側が自らサービスを提供する側となる。(尾上浩二,2005,p41)」CILが、権利擁護活動を中心とした自立支援を行うにあたりこの理念が前提となる。
 しかし、「何が差別であるか、虐待がおこった場合にどんな衝撃や影響があるのか、そういう場合にどうしたらいいのか、誰が相談に乗ってくれるのか、社会には解決に向けてどんな仕組みが用意されているのかなど、障害者職員及び健常者職員が十分に理解をしておかないといけない。(東俊裕,2007,p1-2)」
 では、「実際に自立支援をおこなうにあたっては、単独でたたかおうとするのではなく、自分たちが核となりながら地域全体を巻き込んでいく。CIL内での人材不足も地域の力を高めるチャンスととらえ、地域資源を活用していくことが重要であり、当事者団体、行政、専門機関など種別を越えて、ネットワークをつくっていくという姿勢が、地域全体の質を上げることにつながる。(樋口恵子,2007,p11-12)」
 重度身体障害者を取り巻く環境には、大きく3分野に分けることができる。第1は、介助制度を公的に保障する行政機関である。障害者自立支援法の施行により、今後の介助保障に不安が指摘されているものの、「ヒューマンケア協会」が設立された1986年から比べると介助制度が充実してきている現在において、自立生活を送るにあたり、公的な介助サービスはなくてはならないものである。また、介助サービスのみでなく、障害者医療費助成制度や補装具給付などもこれに含まれる。第2は、ボランティアによる介助やCILが行うアテンダントサービスなど、インフォーマルな社会資源との結びつきである。現在、関西地区において24時間の介助保障がされている自治体は、神戸市や西宮市、京都市である。しかし、残念ながら24時間の介助が保障されている自治体は極めて数少なく、大半の自治体では24時間の介助が保障されていないのが実態である。公的に保障されていない部分を重度身体障害者は、学生ボランティアやアテンダントサービスを利用しながら、公的介助と組み合わせて自立生活をしている。とくに学生ボランティア集めには四苦八苦する。毎年3月は卒業の時期である。就職等により介助ローテーションから抜けた学生の数だけ、4月の入学時期で新入生を確保しなければならない。介助者獲得の有無は障害者にとって生死に直接関係する問題であり、インフォーマルな社会資源との結びつきは重要となる。このような流れは、都市部よりも、公的介助が保障されにくい現状にある地方ほど、このような結びつきは重要である。第3は、施設・親元から離れて自立生活の実現に至るまでの一連の支援(ピアカウンセリング、ILP、住宅情報提供など)や、CILを含む居宅介護派遣事業所である。
 第1機関である行政は、第2機関のインフォーマルな社会資源に対して行事などの活動場所を提供し、インフォーマルな社会資源は、行政が行う行事などを地域に広報する。インフォーマルな社会資源は、第3期間のCILなど支援機関に対し、登録介助者やボランティアを提供し、CILは彼らの人材育成を図る。最後に第1機関の行政は、CILに事業委託をし、CILは行政のチェック機関として機能する。こうした3者か地域で昨日することで障害者の自立支援を行っていく。
 事業者としてだけでなく、利用者の視点を持ち合わせているのがCILの特徴であり、両者の視点から見えてくる制度の矛盾や問題を行政等の公的機関に働きかけることは、CILが運動体として、重度身体障害者の自立支援のひとつであろう。また、作業所を併設しているCILも多いことから日中活動にも繋がる。併設していないCILについては、他の日中活動の場の提供も自立支援のひとつであろうが、人材育成の面を考慮するとCILの協力を得ながら運動体のセルフヘルプグループを組織することも可能であろう。
 以上のように、行政機関・インフォーマルな社会資源・CILの3者が地域で機能することが重度身体障害者の適切な自立支援となる。

2.CILの権利擁護活動を中心とした自立支援の在り方
(1)権利擁護活動におけるCILの成果

 重度身体障害者の自立支援を行うに当たって、CILの役割は、重要なものとなっている。 CILが導入された1980年代後半に比べると、その規模は大きくなり、多くの健常者職員を抱えることで給与保障も考えなければならず、結果として、収益最優先となりがちなのは自然な流れといえるかもしれない。しかし、一般の居宅介護派遣事業所ではなく、CILであるということを再認識する必要がある。ピアカウンセリングやILPは、障害当事者でなければできないことであるし、最大の特徴とも言うべき権利擁護活動によって、利用者・事業者双方の視点を持ち、制度の矛盾や問題を指摘する運動団体である。
重度身体障害者が自立生活をするためには、場合によっては24時間の居宅介護派遣サービスを必要とする。逆に言えば、24時間の介助サービスが確保されれば、どんなに重度の障害を持っていても、地域で自立して生きていけるということである。
 「わが国でホームヘルプサービスが開始されたのは1963年のことである。当時のホームヘルプサービスは、生活保護世帯と非課税世帯しか対象とされておらず、厚生労働省は、自立生活をしている重度身体障害者が地域に存在することは考えていなかったのだろう。そのため、居宅介護派遣サービスの国庫補助には上限があり、厚生労働省は、1日4時間以上の介助が必要な重度身体障害者は、施設で生活することを前提としていた。(障害者の地域生活確立の実現を求める全国大行動実行委員会,2006,p39)」
 「居宅介護派遣サービスの国庫補助の上限を撤廃させる活動は、1970年代半ばより徐々に始まった。1982年には、厚生労働省は障害当事者の強い要望があり、市町村に対して、最低でも週に18時間のホームヘルプサービスを提供するよう通達を出し、底上げを図った。しかし、要綱で18時間をサービス利用時間の上限と設定する市町村が相次いだ。そのため、週18時間以上の介助を必要とする重度身体障害者は、特別サービスのよい市町村でなければ自立生活をすることができない状況となった。そこで、CILなどの障害当事者団体は、サービスの遅れている地域で重度身体障害者が自立生活をするという実績をつくった。そして、厚生労働省に要望することで、1990年に国から自治体に対し、18時間上限を撤廃させる指導が行われた。この上限撤廃の指導書を手に、CILを中心とした障害当事者団体は、個別に自治体に対して介助の時間を増やすように交渉を繰り返し、少しずつ介助サービス時間を増やしていった。(中西正司,2003,p31)」また、2003年には、支援費支給制度の導入に当たり、当初は介助サービス支給時間に上限を設定する方向で国は準備を進めていたが、障害当事者団体の粘り強い交渉と反対運動によって上限設定は撤廃された。障害者自立支援法においても重度障害者にとって必要不可欠である長時間介助の体系が削られる方向であったが、最終的には「重度訪問介護」として残された。また、各自治体による自己負担軽減策が独自で実施されている。こうした動きもCILが自治体などに働きかけた成果でもある。このようにCILは、国や自治体相手に強い交渉力を発揮してきた。いまだ介助保障の充実と言うにはほど遠いながらも、徐々に前進してきた経緯は、自立生活運動の歴史でもあるだろう。

(2)行政交渉においてCIL職員が持つべき基本的視点

 「重度身体障害者が自立生活をするためには、公的な介助保障制度が必要不可欠であり、必要な介助が得られなければ自立生活をすることは不可能である。障害があることは個人の問題ではなく、国が責任をもって障害者の生活を保障するべきであり、介助保障制度の介助サービスの適切な支給と全額国庫負担は、障害当事者団体の悲願でもある。(佐藤聡,2005,p20)」障害者もまた国民であり、国民の生活を保障することは国の義務である。介助保障がされていないということは、生活を保障できていないことであり、障害者の権利が守られていないということである。自分たちに直接影響してくる問題として、障害者の権利を獲得するための活動は、CILの役割のひとつであるだろう。重度障害があっても地域で自立生活をしたいという思いは誰しも抱いていることであり、その実現に向けての支援として、介助サービスの適切な支給を求めてきた。例えば、兵庫県西宮市のCIL、「メインストリーム協会」は、設立以降、30名を越える身体障害者を施設や親元から自立生活に導いた。他の地域からも介助保障制度が24時間保障されている西宮市に移り住んで自立生活をしており、現在もメインストリーム協会には、全国から数多くの相談が寄せられている。なぜ、西宮市という特別大都市でもない地域の介助制度が24時間保障されているのかというと、地域で自立生活している障害者がいるという実態があるからであり、その実態をつくったのはメインストリーム協会というCILであり、これの呼びかけで市内の他団体と連携してつくった「西宮市の介助制度をよくする会」の行政交渉による結果である。障害者の自立生活を支援するため、障害者の権利を獲得するため、CILは命を張って活動してきた。

(3)行政交渉におけるCILの個別支援の在り方

 自立生活を始める際の手続きに介助サービスを受けるため市町村への申請がある。支援費支給制度においては、自分が介助を必要とする時間数を市町村担当者に申し出て、後日、支給量として介助サービスが利用できる時間数が1ヵ月単位で支給された。しかし、障害者が申し出た希望通りに支給決定されるかというと意向に反するケースが多く、現実には、市町村財源の問題が関係して、適切な支給決定がされない場合が多い。とくに、施設や親元から離れて間もない障害者は、言い返すという経験が浅いために市町村担当者が提示する支給量を容認してしまうケースが多く見られた。そのような障害者を支援するため、CILの障害者職員が同行して、申請する障害者を代弁して、市町村担当者の提示を正すといった交渉を行うこともCILの権利擁護活動のひとつである。
 重度身体障害者の自立支援にあたりCILは、ピアカウンセリング担当者やILP担当者、居宅介護派遣事業担当者などが連携することを基本に組織的な支援を行うことが重要である。障害者職員の人数に限りがある関係上、権利擁護活動については全員が担当しているケースが多いようである。また、体力などの関係で出勤が不定期の者、多忙により不在が多い者など、様々な事情を抱えた障害者職員がいるなかで、このような実情を考慮すると、障害者職員全員が、現在の介助制度をある程度把握し、障害者の権利擁護ができるだけの技術を身につけておくことが必要である。障害者自立支援法の施行により、介助サービスを受けながら自立生活をしている障害者がとくに影響を受けるといわれる。これらが自立生活の弊害となることのないよう、CILにおける権利擁護活動の活発化はさらに重要となる。法人全体での国や地方自治体など、公的機関への働きかけと同時に、新たに自立生活をする障害者においては、自立生活力を身につけさせる等といった人材育成の視点を常に持ちつつ、必要な介助サービスがえられるよう側面から支援が、運動団体としてのCILが重度身体障害者の自立支援を行う際に、特色が出せる支援のひとつとなる。

おわりに

これまで、福祉の受け手だった障害者が、担い手になるだけでなく、必要なサービスを行政などに訴え福祉の開拓者となり、また、自らの生活を表に出すことで社会の意識を変えてきた。保護や哀れみの存在であったからこそ、行政機関や善意の団体から恩恵や慈善としての福祉サービスを受けてきた。そのような、恩恵や慈善としての福祉サービスに対して、正面から「NO!」と明確に意思を示したのが自立生活運動である。
 CILの権利擁護活動は、介助保障制度の充実や障害者の地域生活確立の実現を求めて訴え続け、国や地方自治体など、行政機関に働きかけることで、わが国における介助保障制度を拡大し、障害者の自立生活を実現させてきた。支援費支給制度の支給量上限を撤回させたことや、市町村障害者地域生活支援事業をCILへの委託を認めさせるといったことは、CILにおける権利擁護活動の実績であり、とくに、相談支援事業の受託は、専門支援機関として認められたということである。
全国のCILにおいて、その運営を支えており、権利擁護活動の中心となっているのは、「ヒューマンケア協会」設立以降、多くの障害者が先輩又は、「ダスキン障害者リーダー育成海外研修事業」によって、自ら海外に渡り自立生活理念を学び、わが国でCILを設立していった設立当初からの職員である障害者である。「ダスキン障害者リーダー育成海外研修事業」には、個人研修・グループ研修を含め、毎年10名から15名の障害者が全国から選ばれ、CILの発祥地であるアメリカや、社会保障制度が世界一充実しているといわれるスウェーデンなど、世界各国で研修を行い、研修で体験した内容をもとに、各分野で障害者リーダーとして活躍している。対象となる人には、毎年「11月30日において満35歳未満」という年齢制限が設定されており、若者の人材育成という意味で大きな役割を果たしている。しかし、研修から帰国した若い障害者が必ずしもCILの職員として携わる訳ではなく、研究者や公官庁職員など、様々な分野に渡っている。よって、障害者職員、健常者職員ともに人材育成の点で課題がある。こうした全国的な流れは、地方においてとくに顕著に見られる。従来、若い障害者を自立させ、人材育成が行われていたが、現在、施設からの自立という事情は少し異なりつつある。
 近年の高学歴化により、大学教育を受ける障害者が増えたことで、人材発掘の方向vも施設から大学や専門学校等の教育機関に変化させる必要があるのではないだろうか。もちろん、現在においても施設で生活する障害者は多数おり、従来の自立生活にむけた支援のなかで育成する方向は間違っていないし、重要な方向であることには間違いでない。その一方で、これからは、教育機関にむけても人材発掘の目をむけることも重要となる。次世代を担う自立生活運動のリーダーとなる障害者を育てるため、時代に合わせた視点や方向性を転換させる柔軟さが今後の課題となる。

【参考・引用文献】

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横須賀俊司,1993「障害者の介助制度」定藤丈弘ほか編『自立生活の思想と展望』ミネル
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UP:20090624 REV:20090921
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