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「障害女性と貧困」

瀬山 紀子 20090927
障害学会第6回大会・報告 於:立命館大学


◆報告原稿
障害学会第6回大会シンポジウム「障害と貧困――ジェンダーの視点からみえてくるもの」
2009/9/26@立命館大学
 瀬山 紀子
 「障害女性と貧困」

・ 自己紹介
・東京大学「経済と障害の研究(READ)http://www.read-tu.jp/」特任研究員
・障害者欠格条項をなくす会http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/
・都内のいくつかの自立生活センター等で介助
・DPI女性障害者ネットワーク、女性と貧困ネットワーク等
・+埼玉県立男女共同参画センター事業コーディネータ

・ 障害女性と貧困、障害者と貧困という課題
・ 昨年の障害学会で、READ共同研究者の臼井久実子さんとともに「障害女性の働くことと生きることをめぐる諸問題―障害×ジェンダー×労働の視点から」を報告(PDF)。その後、複数の場所で障害女性と貧困をテーマに報告を行ってきた。
・ 問題意識の出発点は、障害者問題のなかのジェンダーの視点の欠如と、貧困問題のなかのジェンダーの視点の希薄さ。
・ 障害者関係のデータでは、障害種別は考慮されるが、ジェンダーは考慮されないできた。国の統計などでも障害女性は不可視化されている。そもそも、障害者に関わる社会問題のなかにジェンダーの視点からみた課題があるのか、ないのかが見えてこない。(たとえば、現状では、障害基礎年金の受給者の男女別統計データは存在しない。そのため、年金受給率に男女差があるのかどうか、その理由はなにか、といったことも分析不可能)

・ ただ障害者の貧困問題は、所得保障という側面からも、就業という面からも、現在に続く多数の取り組みがさまざまな立場から模索されてきた分野。
・ 貧困への対応策として一つは「所得保障」が言われ、1986年に障害基礎年金制度ができた。現在1級の年金で約8万円。「生かさず殺さず」の金額。
・ 就労については、政策としては、障害者雇用促進法による「一般雇用」と、作業所などの「福祉的就労」を進める取組が、障害者運動の取り組みとしては、必要な人的サポートをえて働くことの推進、障害ゆえの採用拒否等への抗議と職よこせ運動、職業にかかわる欠格条項撤廃といったことが行われてきた(関連ポスター発表として臼井久実子さんによる「「ともに働く」の追求――大阪エリアの障害者運動(1980−90年代)を中心に」がある)。しかし、社会のなかで「働いて収入を得て」充足した生活を送るという試みも、現在もなお、就業環境・収入の面で、多数の課題を抱えている。
・ 同時に、障害者の貧困を問題にするプロセスのなかで、ジェンダーの視点はとりいれられてこなかった。

・ 障害女性と貧困についての現状
・ 障害者の生活実態をジェンダーの視点でみることができる調査がでてきた(障害者生活実態調査)。それによれば、障害女性の就労率は、一般の女性、障害男性と比べても極端に低く(28.4%)、年間の就労収入が99万円未満の人が7割、50万円未満という人が5割に上る。また、障害女性の所得水準は、障害男性と比較して半分以下という数値もでてきている(年間所得の平均値は、単身の一般男性が約400万円、女性が270万円。障害男性が181万円、障害女性は92万円。障害女性は男性のほぼ半額)。
・ 就労については、厚生労働省の「障害者雇用実態調査(2003年)」を再集計した、「日本の障害者雇用の現状」をもとに、性別による格差に関わるデータ部分を抽出すると、労働時間は大差がない障害男女の間で、明確に雇用身分の格差があることがわかっている。
・ 一方、収入面をみると、正社員率が6割台の障害女性でも、月16万円台と低く、この額は、同じ年代の障害男性と比べても極端に低い数値。
・ 以上の限られた調査結果から、障害者の貧困問題を考えていく際には、現行の社会が抱えるジェンダー不平等な社会経済システムを背景にした男女格差の存在を考慮する必要があること、そして、障害女性がより貧しい状況に置かれる可能性のある集団として認識される必要があることがわかった。

・ ただし、同じ調査のなかに、生殖家族を築いている障害女性の平均所得は120万という結果もあり、結婚していて無業という立場の女性と比較して、障害女性の所得が低いとは言い切れない。これには年金や手当などの存在が関係していると考えられる。

・ 貧困問題への接合・課題
・ 女性の働きは、性別役割分業体制を前提とする制度のなかで、家計補助的なものと位置づけられ、不安定であっても、低賃金であっても、問題化されてこなかった。
・ 現在でもなお、非障害女性は、「障害者」のように「働くことができない人」とはみなされなくても、「働いて収入を得て経済的に自立する」主体とみなされない。
・ 現に、結婚後、夫の稼ぎを主な収入に生活している女性たちは数多く存在する。そしてそうしたライフコースを選択させる税制などが現在もあり、それら制度に裏付けされた男女賃金格差や性別職務分離が、そして家計補助的労働力としてパートタイム労働をはじめとした非正規雇用を女性に選択させる政策が続けられている。
・ 障害女性も含めた女性は、働いて収入を得たとしても、生涯にわたって自立した生活ができる賃金は保障されないで当たり前なポジションにおかれている。こうした制度がもたらす個人への影響、社会への影響は極めて大きいものだと思われる。

・ そうした女性一般の扱われ方があるなかで、障害女性はどう生きているのか。
・ ある障害女性は、子どもの頃に、障害ゆえに結婚できない(=食べていけない)という理由で、「手に職」をつけて一生自分で食べていけるようにしないといけないと言われる経験をしている。同様の経験は他の障害女性への聞き取りでも聞かれた。しかし実際には、手に職をつけても、十分な就労収入を得ることができているとは言えない。また、障害女性に限らず、少なくとも現在は、結婚をすることが、女性にとって、経済的な保障にはならない場合が増えている。
・ また、結婚という排他的な関係性自体のリスクも高い。たとえば、近年問題化されてきているDVという例をみてもそれは明らか。2008年に内閣府が行った調査によれば、結婚を経験した女性の5人に一人は、身体的な暴力を受けたことがあるという結果がでている。現在、それを示すデータはないが、障害女性においても、例外ではないと考えられる。被害を受けた女性は、加害者の元を離れることができたとしても、その後の経済的なリスクが非常におおきい。内閣府が2006年に行っているDV被害者の自立支援に関する調査によれば、配偶者の元を離れて自立して生活している元被害者の6割以上(66.5%)が、生活保護や児童扶養手当を含め月収15万円未満の状態に置かれている。

・ こうした社会のなかで女性が置かれている位置は、障害という視点が入ってくるとより複雑になる。たとえば、障害男性と非障害女性といった関係、またはその逆の関係のなかで、ジェンダーという要素、障害という要素、さらにそれ以外の社会的な立場がどう関係してくるのか、ということを、よく見ていく必要がある。
・ 特に「障害」という要素は、ケアや合理的配慮としての人的な補助を必要とする場合を招くことが多く、ケアという領域がジェンダーと密接に関わる課題を含んでいるということからも、ジェンダーと障害は切り離せない。
・ ホームヘルパーの9割は女性であり、その多くは非正規の不安定、低賃金雇用で働いている。ホームヘルパーに限らず、介助者、通訳者などの人的補助の仕事をしている人の女性割合は高く、身分は不安定である場合が多い。家族、特に女性親族などによる「無償労働」としてのケアが必要をベースに続けられている。

■展望(シンポジウムの討議を踏まえて考えていきたいところ)
・ それぞれの人が、障害の有無や性別にかかわらず、一定の安定を得て、尊厳が保障された状況で、社会と関わりながら暮らす生活を展望するにはなにが必要なのかを考えたい。


□参考資料
□調査統計等
障害者職業総合センター2007『日本の障害者雇用の現状 −平成15年度障害者雇用実態調査(厚生労働省)から−』(障害者職業総合センター資料シリーズ38) 障害者職業総合センター
勝又幸子・他2008『障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究 平成17-19年度調査報告書・平成19年度総括研究報告書』(厚生労働省科学研究費補助金 障害保険福祉総合研究事業H17-障害-003)国立社会保障・人口問題研究所
内閣府男女共同参画会議 監視・影響調査専門調査会 2009「新たな経済社会の潮流の中で生活困難を抱える男女について とりまとめに向けた論点整理」内閣府
内閣府男女共同参画局 2009「男女間における暴力に関する調査」内閣府
内閣府男女共同参画局 2007「配偶者からの暴力の被害者の自立支援等に関する調査」内閣府

□障害女性と労働関連文献
伊藤智佳子 2004『女性障害者とジェンダー』一橋出版
臼井久実子 2008「女性と少女にも目を向けて」『権利条約で社会を変えたい』福祉新聞社
――――― 2009「ジェンダー×女性×障害 複合差別の課題を考える」『DPI-われら自身の声』Vol.25-1、DPI日本会議[25-29]
臼井久実子・瀬山紀子2008「障害女性は今 障害がある女性の貧困について」『DPI-われら自身の声』Vol.24-3、DPI日本会議
―――――――  2008「障害女性の働くことと生きることをめぐる諸問題―障害×ジェンダー×労働の視点から」(2008年障害学会報告)
―――――――  2009「障害女性と貧困」『女たちの21世紀』No.57(2009年3月)アジア女性資料センター[25-27]
―――――――  2009「ジェンダーの視点からみた障害者の貧困」『福祉労働』No.123現代書館
――――――― 2009「Issues regarding the Lives and Work of Women with Disabilities in Japan: From the Viewpoint of Disability, Gender and Work」Read Discussion Paper(F-08-05)  http://www.read-tu.jp/dp/f08/f0805.pdf
瀬山紀子2006「国連施策の中に見る障害を持つ女性 不可視化されてきた対象からニードの主体へ」『F-GENSジャーナル』NO.6,お茶の水女子大学21世紀COEプログラムジェンダー研究のフロンティア(F-GENS)[63-69]
堤愛子1991「のびやかな「自立生活」と「労働」をめざして」、小倉利丸・大橋由香子『働く/働かない/フェミニズム』青弓社[287-297]
平野みどり2007「女性と障害者が自立できるしくみづくりを」『女たちの21世紀 No.52』アジア女性資料センター[46-48]
松波めぐみ2007「障害をもつ女性の経験から、「複合的な抑圧」を考える」『ヒューマンライツ』No.234、社団法人部落解放・人権研究所


*作成:
UP:20090921 REV:
全文掲載  ◇障害学会第6回大会  ◇障害学会第6回大会・報告要旨

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