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佐藤 浩子・野崎 泰伸・川口 有美子 「重度障害者等包括支援について――個別と包括の制度間比較」

障害学会第6回大会・報告要旨 於:立命館大学
20090927


◆報告要旨
 佐藤 浩子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)・野崎 泰伸(立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)・川口 有美子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
 「重度障害者等包括支援について――個別と包括の制度間比較」

 【背景】 障害者自立支援法で、最重度障害者のための介護給付「重度障害者等包括支援」(以下「重度包括」という)が新しくメニューとして加えられた。厚生労働省によると、重度の障害者が地域生活を送る上で、個別のサービスを組み合わせるよりも、心身の状態等に応じて複数のサービスを臨機応変に利用することができ、重度障害者等包括支援事業者に指定された事業所は、包括払い方式の一定の報酬額内で、個々のサービスの報酬単価が自由に設定でき、利用者の多様なニーズに応じたサービスが柔軟に提供できるという、利用者、事業者双方にとって意義のある新しいサービスとして設計されたという。  しかし、ほとんどの自治体で重度包括が利用されていない。
 【目的】なぜ、重度包括が利用されないのかを調査する。
 【方法】@そもそも重度包括は必要とされているのかを検討するために、いくつかの自治体を訪問し、インタビュー調査を実施した。
 A財源や事業所の経費に関する問題点を明らかにするために、現在の障害者自立支援法で個別サービスを組み合わせたいくつかのケースを、重度包括にした場合と全身性障害者介護人派遣にした場合を想定し、それぞれのケースに関わる国庫負担金や自治体の一般財源の比較、事業者の入る経費等の比較をした。
 【結果】重度包括は対象となる重度障害者、事業者双方にとってメリットがないことが浮き彫りになったが、本報告では次の3点について述べる。
 @単独のサービスの組み合わせであり、融通のきく使い方ができない。
 A支払いも重度包括の事業者が、個別のサービス提供事業者と委託契約をして行うことになり、手続きが煩雑である。
 B包括払いの報酬単価が低いために、重度包括の事業者の利益がでない。
 【課題】本報告を今後の重度包括の見直しのための政策提言につなげたい。

◆報告原稿 ワード

重度障害者等包括支援について〜個別と包括の制度間比較

佐藤浩子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
野崎泰伸(立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)
川口有美子(立命館大学大学院先端総合学術研究科


【目 的】2006年から施行された障害者自立支援法で、最重度障害者のために、「重度障害者等包括支援」(以下「重度包括」という)が新しいサービスとして加えられた。しかし、ほとんどの自治体で重度包括が利用されていない。自治体や事業者・利用者への調査を通して、その原因を考察する。

【重度包括成立の背景】―期待された「包括」

(1)国の目的―包括的な報酬体系
 長時間サービス利用者にかかる費用を制限する。

(2)利用者の必要性―包括的な相談支援
 施設系や訪問系を柔軟に使えるサービスと、地域生活の総合的なコーディネータの必要性。

(3)期待されたメリット
@ 事業者側―包括払い方式の一定の報酬額内で、個々のサービスの報酬単価を自由に設定でき、重度訪問介護従業者に資格要件がないので、利用者の多様なニーズに応じたサービスを柔軟に提供できる。

A 利用者側―心身の状態等に応じて複数のサービスが、総合的にコーディネートされ、臨機応変に利用することができる。

(図)重度障害者等包括支援の仕組みと課題

【利用されていない理由を調査】―「包括」より「個別」の方が良い

(1)4つの自治体を調査
@ 地域間格差が大きく、重度包括の前に重度訪問介護の利用がすすんでいない。盛岡市・中野区・京都市・福岡市―4自治体とも重度包括の支給決定者はゼロ。


(表1)重度障害者等包括支援サービス等に関する自治体間比較表(2008年度)

 それぞれ人口規模は似ているが、京都市・中野区に比べ、地方都市の福岡市・盛岡市では居宅介護・重度訪問介護の利用者数や在宅サービスに使う居宅介護費がかなり少なく、重度包括の事業所もない。重度障害者は施設入所等が多いものと考えられる。

A 京都市や中野区は、重度訪問介護サービスを、必要なだけ幅を持たせて支給決定しているので、重度包括にする必要性がない。地元の障害者団体が、長年自治体と交渉を行なってきた。だだし、独居には24時間保障されているが、家族同居の者への支給は、両市でも制限されているケースが多い。

B 気管切開を伴う呼吸管理を要する人が、利用できる短期入所や通所事業を行っているところがない。中野区以外は、医療的ケアが必要な人に重度訪問介護事業を実施している事業所がないか、あっても非常に少ない。

(2)事業所の調査報告による活用可能性と問題点
 重度包括は、次のような状態像の者を対象者としている。障害程度区分6(児童については相当する者)で、意思疎通に著しい困難を伴う者。T類型は、気管切開を伴う人工呼吸器による呼吸管理を行なっている身体障害者で、筋ジストロフィー・脊椎損傷・ALS・遷延性意識障害である者。U類型は、寝たきり状態にある最重度知的障害のある重症心身障害者。V類型は、認定調査項目の行動関連項目の合計点数が15点以上の強度行動障害のある者。
@ T類型であるALS患者の支援への活用
 福祉施設に利用者の介護に慣れた無資格のヘルパーの同行による、ASL患者のレスパイト実現の可能性。施設サービスと居宅サービスの併用が難しいなどの理由で実現できていない。(注:特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会:2007年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業障害者自立支援調査研究プロジェクト「在宅療養中のASL療養者と支援者のための重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラムの開発」事業完了報告書)

A U類型の重症心身障害者とV類型の強度行動障害者への活用
 「地域のさまざまなインフォーマルな資源を使ったコミュニティアクセスのための自由性の可能性に期待したが、既存の利用できるサービス体系内のサービスを組み合わせざるをえないものになり、重度包括の活用の可能性がない。」(注:「寝屋川市民たすけあいの会」富田昌吾:『重度障害者等包括支援から障害者自立支援法の本格施行について考える』2006)

(3)あるケースにおける制度間比較
 制度間の比較をおこなうために、ALS患者のAさんの事例を検討してみた。障害者自立支援法の個別サービスを組み合わせた現在のケアプランと、それを重度包括にした場合の想定と、自立支援法施行前の全身性障害者介護人派遣制度を利用していた時とを比べてみた。Aさんは呼吸器を装着しており、中野区で妻と二人で暮らしている。支給時間は増えたが、対応できるヘルパーが不足している。

(表2)Aさんの現在の介護状況 区分6 支給時間559時間 移動41時間 15%加算対象


(表3)Aさんのケースにおける制度間比較表

 当事者の運動で、国庫負担基準額が2009年4月から、重度訪問介護は40万300円、重度包括は80万円に引き上げられた。国庫負担基準額は個人の支給額の上限ではなく、国庫負担金を国から市町村へ分配計算するための数字。自治体の1年分のヘルパー制度利用者の国庫負担基準額の合計額より、自治体のヘルパー事業費が多い場合は、その差額は国庫負担対象外となり自治体の負担になるが、県の地域生活支援事業や基金事業で補助される。中野区の場合、国庫負担基準合計額より高い従前額(2005年の算定額)保障により、区のヘルパー事業費総額が国庫負担基準額となる。したがって区負担額は支給額の4分の1になる。Aさんの場合の国庫負担基準額は介護保険受給者なので293,500円だが、基準額を超えた金額は従前額保障でまかなわれている。個人に国庫負担基準を設けなくても、ヘルパー事業費全額を国庫負担の対象にしてまかなうことができると考える。

【結果】重度包括は対象となる最重度障害者、事業者双方にとってメリットがない。

(1)重度障害者にとってメリットがない
● 単独のサービスの組み合わせであり、融通のきく使い方ができない。

(2)事業者にとってメリットがない
● 重度包括の事業者が、個別のサービス提供事業者と委託契約をするため手続きが煩雑である。
● 包括払いの報酬単価が低いために、重度包括の事業者の利益がでない。
● 責任がコーディネートする事業所にかかるが、責任に対する評価がない。
● 重度包括支援より、居宅介護や重度訪問介護などの単独のサービスを組み合わせた方が、介護報酬がいいので、重度包括を受ける事業者がない。


結論と課題
結論:本調査では重度包括支援というサービスの利用が進まない要因を実地調査からいくつか挙げたに過ぎないが、最重度障害者の地域生活支援には、重度訪問介護事業者への支援と、包括的な相談支援の仕組みが必要であり、それらは報酬の包括払いでは、実現困難であることがわかった。
今後の課題:重度障害者のための包括的なサービスを実現する、相談支援と税の再分配の在り方についての理論を構築していく。


*作成:
UP:20090904 REV:20090921,25
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