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森 壮也「障害当事者の調査員参加によるフィリピン・マニラ首都圏の障害者の生計調査」

障害学会第6回大会・報告要旨 於:立命館大学
20090927


◆報告要旨
 森 壮也(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
 「障害当事者の調査員参加によるフィリピン・マニラ首都圏の障害者の生計調査」

 見過ごされがちなことであるが、国連の障害者の権利条約は開発途上国にとっては、まさに貧困問題の解決に向けての開発の問題として提案されたものである。貧困者の中の貧困者とも言われる障害者の問題を解決することなくしては、途上国の貧困問題の解決はないからである。このことは、同条約の提案を行ったメキシコ大統領の総会演説や国連におけるその後のミレニアム開発目標を障害者にも包摂的なものとする総会決議といった展開を見ても理解できる。
 一方で、開発途上国の障害者の貧困状況については、政府によるセンサスを含めて政策立案に有用なデータがほとんどない。また従来の調査の多くはソーシャル・ワークの立場からのケース・スタディが主であり、データの代表性など政策的な意義という意味では弱いものがあった。こうした状況に鑑み、筆者らはフィリピンのマニラ首都圏において、生計調査を現地の開発研究所の開発・統計専門家と障害当事者団体の協力を得て2008年に行った。同調査では、権利条約の趣旨のひとつである障害者の主体的な参加も実現している。
 本報告は、この調査がどのような準備を経て実施され、どのような意義があったのかを具体的に紹介すると共に得られたデータについても記述統計的なものを中心に紹介する。特に障害当事者が統計調査員として多数参加した調査は世界的にも例を見ないものであり、フィリピンにとっても歴史的な達成事と言われた。それを可能にした様々なアクセス面での配慮や調査の方法などは、今後の同様の調査の実施の際に大きな参考となるはずである。得られた結果についても、特に教育やジェンダーといった要素が障害者の生計に与える影響が具体的な数字で得られたことから、政府の政策担当者へのインパクトも大きいものとなった。一方で、途上国の状況の中での調査上の多くの問題・限界も指摘された。以上を障害学的な観点から整理しつつ報告する。

◆報告原稿 パワーポイント

【スライド】1
「障害当事者の調査員参加によるフィリピン・マニラ首都圏の障害者の生計調査」

日本貿易振興機構
アジア経済研究所
新領域研究センター
森 壮也・山形 辰史

【スライド】2
報告の構成

1研究の問題意識
2ミレニアム開発目標と障害者の権利条約
3開発という社会の有り様と障害
4途上国のディスアビリティをどう把握するか
5調査の準備と実施:アクセシビリティとトレーニング・ワークショップ
6調査結果の要約
7まとめと課題

【スライド】3
研究の問題意識
・国連の障害者の権利条約
⇒開発途上国にとっては、貧困問題の解決のツール
・開発途上国の障害者の貧困状況
・政府センサスを含めて政策立案上有用なデータ無し
・開発途上国の貧困調査・障害調査とどう違う?

・従来も貧困調査や障害調査はあったが…
・フィリピンのマニラ首都圏において、生計調査実施
・開発研究所の開発・統計専門家+障害当事者団体
・ディスアビリティへの着目の重要性と調査を可能にする方法とは?

【スライド】4
ミレニアム開発目標と障害者の権利条約

【スライド】5
開発の問題は貧困の問題:MDG
I.極度の貧困と飢餓の撲滅
II.普遍的初等教育の達成
III.ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
IV.乳幼児死亡率の削減
V.妊産婦の健康の改善
VI.HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
VII.環境の持続可能性の確保
VIII.開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
IX.???????

【スライド】6
MDGsのためには障害者のメインストリーミング必要
"Unless disabled people are brought into the development mainstream, it will be impossible to cut poverty in half by 2015 or to give every girl and boy the chance to achieve a primary education by the same date which are key among the Millennium Development Goals agreed to by more than 180 world leaders at the UN Millennium Summit in September 2000.“
「障害者を開発のメインストリーム(主流)に連れ出さずして、200年9月の国連ミレニアム・サミットで180人以上の世界のリーダーたちが合意した、ミレニアム開発目標の中でも重要な目標である、2015年までに貧困を半減することも、同じ時までにすべての少女・少年に初等教育を受ける機会を提供することもできはしない。」
(ワシントンポスト紙、2002年12月3日)
世銀総裁J.ウォルフェンソン(当時)

【スライド】7
障害者の権利条約
2006年12月総会採択、2008年5月発効(日本も2007年に署名)
第三十一条統計及び資料の収集
1締約国は、この条約を実現するための政策を立案し、及び実施することを可能とするための適当な情報(統計資料及び研究資料を含む。)を収集することを約束する。この情報を収集し、及び保存する過程は、次のことを満たさなければならない。
障害者の秘密の保持及びプライバシーの尊重を確保するため、法令によって定められた保護(資料の(a)保護に関する法令を含む。)を遵守すること。
人権及び基本的自由を保護するための国際的に受け入れられた規範並びに統計の収集及び利用に関す(b)る倫理上の原則を遵守すること。
2この条の規定に従って収集された情報は、適宜分類されるものとし、この条約に基づく締約国の義務の履行の評価に役立てるため、並びに障害者がその権利を行使する際に直面する障壁を特定し、及び当該障壁に対処するために利用される。
3締約国は、これらの統計の普及について責任を負うものとし、障害者及び他の者が当該統計を利用可能とすることを確保する。(政府仮訳)

【スライド】8
国連決議でMDGに障害者も
2008年1月国連ミレニアム開発目標に障害者を含める旨の決議
「障害者に関わる世界行動計画の実施:障害者のためのミレニアム開発目標を実現するために」“Implementation of the World Programmeof Action Concerning Disabled Persons: realizing the Millennium Development Goals for persons with disability”
<第62回国連総会>

障害者のミレニアム開発目標へのインクルージョン(包含)

【スライド】9
障害者も含んだMDGをどう達成?

・実効ある貧困削減の政策障害者の貧困実態

・しかし…

・障害者のデータは???

・先進諸国では、OECDやECで出ている
(Claire and Gaetan(2000)やEC(2001))

・途上国ではほとんどない!!!

【スライド】10
「開発」という社会の有り様と障害

【スライド】11
障害調査の設計・実施−障害の医学モデルから社会モデルへ
・障害の医学モデル/個人モデル
・障害を過度に医療・リハビリテーション問題として見る
・障害の社会モデル
・インペアメント(機能的障害)はあっても,社会の改善によって,実際の生活の上での困難が解消され得る
・医学的な機能の面は同じでも、産まれた場所が違うだけで直面するディスアビリティには大きな違い
・ディスアビリティという側面は、開発途上国の障害者の問題を考える際には、大変に大きな問題

【スライド】12
ICIDHの構造
医学的な機能の観点から
「機能障害」(Impairments)

「能力障害」(Disabilities)

「社会的不利」(Handicaps)

ICFの構造
環境因子←途上国の環境

(図略)

出所:厚生労働省ホームページ

【スライド】13
途上国のディスアビリティをどう把握するか

【スライド】14
生計とディスアビリティ

・途上国の社会で障害者がどのような生活を送っている?→その経済的側面〜貧困

・途上国の障害者の直面するディスアビリティは?
-ディスアビリティを生計調査の項目として挙げる方法?

ディスアビリティを自ら経験している当該国の障害当事者の協力と参加

【スライド】15
貧困とディスアビリティ

・障害者の貧困は、非障害者の貧困とどう違う?
-インペアメントに注目した医療のコストの議論
それだけでいいか?
-ディスアビリティに注目したエクストラ・コスト概念
・イギリスの障害者生計研究(Stapleton, Protikand Stone, 2009)
・開発途上国ゆえのエクストラ・コスト(インフラや法制度の未整備)

貧困者の中での障害者の位置づけへ

【スライド】16
障害当事者団体の協力

・マニラ首都圏は、障害当事者団体が比較的発達
-三障害団体からの顧問⇒現地開発研究機関PIDSへ
-Philippine Federation of the Deaf(ろう), Life Heaven, Inc.(肢体不自由), Resources for the Blind, Inc.(盲)
-顧問の推薦による障害当事者調査員
・調査終了後のデータのシェア
-調査で得られたデータについては、研究機関側のみでなく、障害当事者団体ともシェア
-当事者による当事者へのエンパワメントの基盤

【スライド】17
調査の準備と実施:アクセシビリティとトレーニング・ワークショップ

【スライド】18
アクセシビリティ
・調査員は、ろう以外は、開発研究者を介助・記録補助としてチーム化
・ワークショップ等では、フィリピン手話の通訳
・車椅子ユーザー移動用に、ホィール・モバイル
・盲人・弱視者には、トーキング・ブック
・調査プロジェクト全体に占めるアクセシビリティ分は、17%程度
-ホィール・モバイル使用料は、14%(移動の効率化に貢献)
-手話通訳雇用謝金は、3%
-トーキング・ブックは、現地NGOによるリソース利用

【スライド】19
統計ワークショップと障害センシティビティ・トレーニング

・障害毎に一日がかりの重要概念理解と質問票の説明のためのワークショップ
・非障害者の開発研究者は、すべてのワークショップに参加
・最後に障害についての理解を深めるための障害センシティビティ・ワークショップを全員で
-当事者によるディスアビリティ概念についての講義
-当事者による手話や盲人のガイドの実地研修

【スライド】20
調査結果の要約

【スライド】21
(表略)

【スライド】22
(表略)

【スライド】23
(表略)

【スライド】24
「障害者のマグナカルタ」を知っているか?
回答 度数 割合(%)
知らない 273 67.7
知っている 128 31.8
無回答 2 0.5
403 100.0

【スライド】25
障害者証明書の有無
回答 度数 割合(%)
209 51.9
192 47.6
無回答 2 0.5
403 100.0

【スライド】26
障害者割引の利用
回答 度数 割合(%)
しばしば受ける 72 17.9
時々受ける 92 22.8
受けたことがない 165 40.9
無回答 6 1.4
非該当 68 16.9
403 100.0

【スライド】27
得られた3つの貧困に関わる重要な知見
I. マニラ首都圏で障害者の貧困率は、同地域の一般の貧困率よりも高く、深刻
II. 教育と所得の間には強い相関があり、本人の父の教育程度からも大きく影響
III. 女性障害者の所得、教育は所得や教育の内生性を考慮した後でも男性障害者よりも大きい

【スライド】28
まとめと課題

【スライド】29
まとめと課題
1.途上国の貧困問題の解決のためには、障害のメインストリーミング(主流化)が必要
2.障害者の生計把握から貧困解決への道のりを
3.途上国のディスアビリティは、途上国の当事者に聞け

障害当事者と開発研究者との協働作業の意味大

課題
@サンプリングのための基礎データでの政府機関の協力
A統計デザイン段階からの障害当事者参加をさらに拡大

【スライド】30
ありがとうございました
Salamat po

*作成:
UP:20090905 REV:20090921
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