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 向精神薬が規制されるにいたった経緯とその論拠――トランキライザーの事例から

松枝 亜希子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)   20090926-27
障害学会第6回大会 於:立命館大学


◆報告要旨
◆報告原稿

■報告要旨

現在、保険薬として処方されている向精神薬、トランキライザーは、1950-60年代、市販され広範に流通していた。いったん広範に普及したトランキライザーが市販薬から保険薬へとどのように移行したのか。製薬企業の宣伝戦略および行政による販売規制の変遷などの子細にわたる検討をつうじて、その過程を明らかにするのが研究目的である。研究方法は、1950-60年代に発行された新聞・雑誌の記事・広告、行政資料の言説分析をとる。
  1950-60年代、トランキライザー(抗不安薬の一種)は「ノイローゼ・不眠に」「赤ちゃんの夜泣きに」という広告を新聞などに多数掲載し、薬局で市販されていた。一般の人が容易に購入でき、消費量も多かった。製薬企業は広告掲載などの販売促進に力を注いでおり、多くの利益を生む商品であった。しかし、60年代後半になるとトランキライザーの一般販売は行政によって規制され、医療保険制度のもとで処方される保険薬へと移行した。その背景には、容易に入手できるがゆえの乱用などの問題が存在したという。その結果、幾度かの段階をへてトランキライザーの市販には規制がかかっていく。行政による規制は、トランキライザーの乱用が問題になったことが大きな要因ではあったことに加え、睡眠剤や風邪薬、ビタミン剤などの副作用や乱用、乱売といった大衆薬をとりまく状況が問題化していたことが背景にある。行政のそれらの対応への一つとしてトランキライザーも市販薬から保険薬へと切り替わっていったといえることがあきらかとなった。報告当日には、行政の対応の変遷をより仔細に分析する。

◆報告原稿

向精神薬が規制されるにいたった経緯とその論拠
――トランキライザーの事例から――

立命館大学大学院先端総合学術研究科 松枝亜希子

研究目的・方法
 1950-70年代に国内で市販された向精神薬、トランキライザーはどのような位置付けの薬であり、また何が問題になってどのように対処されたのかを明らかにする。
 1950-70年代に国内で発行された新聞・雑誌の記事・広告、国会会議録などの行政資料の言説分析を行う。

<トランキライザーとは?>
 マイナー・トランキライザー、抗不安薬とも呼ばれ、緊張や筋肉を弛緩する薬効をもち、神経症不安に有効だとされている。

内 容

1.広告戦略にみる向精神薬のエンハンスメント使用

【アトラキシンの広告】(1957年に市販、一般名はメプロバメート)
<全米治療界の話題! 文化人病・都会人病の新しい薬>  
昼飲めば不安緊張をほぐし、気分を平静に、はっきりさせ、夜のめば自然な快いねむりにはいれて朝の目ざめは爽快となります。 ★こんな方に…不規則な生活をする方、インテリ層、受験勉強の学生さん、気苦労の多い奥さま、神経過敏児、夜泣きなど

【バランスの広告】(1961年に市販)
<心のバランスを保つ薬 バランス モリモリ ファイト! バリバリ 仕事!>
心身がスッキリ爽快! 能力が気持よく発揮でき、いいアイデアがうかび、自信に満ちて、バリバリ仕事のはかどる楽しさ。食事が進み、からだは好調、夜は安眠できる毎日。 これこそ、近代人の理想! 

【コントールの広告】 (1961年に市販)
<気を楽にするクスリ  コントール  心は日本晴れ!>

これらのトランキライザーは、小売店で容易に購入できることもあって、「トランキライザーの大洪水」と称されるほど流行した。 


2.第一次 販売規制

1956年に米国で、1959年には国内で中毒の危険性が報告。1959年以降、病院でのトランキライザーの使用は中止。 
      
<1960年の薬事法改正>     
病院での使用中止をうけて、メプロバメートは「指定医薬品」となり、一部の販売業者では販売できなくなった。 ★ 販売が一部規制されただけで、市販は継続 ★

3.第二次 販売規制

1960 年代半ば、国際連合がトランキライザーなどの向精神薬乱用の世界的流行を懸念し、規制措置を各国に要求。
1970年12月 京大医師が中毒性を研究した報告書を根拠に、厚生省と製薬企業に販売中止を要請。

<1970年12月 要指示薬に指定>    
厚生省が、すべての精神安定剤を医師の処方せんなどがなければ購入できない「要指示薬」に指定。  
★ 市販薬としての トランキライザーの終焉 ★
       
考 察

●トランキライザーは日常的なイライラや子どもの夜泣きなどへの対処として気軽に服用する位置づけの薬剤だった。  

●臨床での使用中止という事実から第一次販売規制がなされるが、薬務行政やメディアではさほど中毒性は問題にならなかった。市販形態の一部が規制されたのみで、以後も市販され続けた。

●臨床医療での使用中止・第一次販売規制から市販の全面規制まで、結果として約10年間の時間差があった。市販薬として問題が浮上した向精神薬は、医療・医師の管理下で適正に使用することで問題が解決すると見なされた。

UP:20090624 REV:20090920
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