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北村 健太郎「「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」の結成」

障害学会第6回大会・報告要旨 於:立命館大学
20090927


◆報告要旨

 北村 健太郎(立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー)
 「「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」の結成」

  本報告では、日本の血友病患者会/コミュニティの最新の状況を報告する。
  血友病患者会は医療施設または地域ごとに結成され、活動を続けてきた。しかし、いわゆる「薬害エイズ」から深刻な影響を受け、患者会の活動を縮小あるいは停止せざるを得ない状況に追い込まれたところも少なくなく、全国ヘモフィリア友の会は休止状態となっている。
  けれども、新しい血友病者も確実に生まれ、血友病をめぐる諸問題が絶えない中、血友病者本人の声を束ねる必要を実感しつつあった。他方、医療者側は2004年から毎春、日本血栓止血学会学術標準化委員会血友病部会の主催による「患者と医療者との血友病診療連携についての懇談会」を開催してきた。各地域の代表者は、懇談会で意見交換を重ね、徐々に全国組織再建の必要性を共通認識として確認した。同時に、新たな全国組織は、各地域の独自性を踏まえた緩やかな連絡体、ネットワーク形式とする趣旨も確認された。2007年3月、メーリングリストを活用したネットワーク準備会が発足し、数名の世話人による運営が始まった。
  翌2008年初頭、「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」の国会審議にあたって同準備会を中心に同法の不備を指摘する「意見書」を提出した。代表世話人である佐野竜介(京都ヘモフィリア友の会会長)が衆参厚生労働委員会で意見陳述を行ない、国会決議につながるなど早々にネットワークの実効性が証明された。同年3月、全国20の患者会で「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」が正式に発足し、現在は25である。ネットワークは、国会決議に基づいて厚生労働省とC型肝炎問題の協議を続けている。2009年2月1日から第VII 因子血液製剤「ノボセブン」の薬価大幅引き上げの問題でも、情報集約等を行なっている。ネットワークの今後の活動にも注目していきたい。

◆報告原稿

  本報告では、全国組織「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」結成に至るまでの経緯と、日本の血友病患者会/コミュニティの最新の状況を報告する。

  血友病医療にとって画期的な血液製剤が登場したのをきっかけに、1966年に各地で次々と患者会が生まれた。各地の患者会が結集して、1967年3月10日、東京千代田区全国町村会館で約400人が参集して、全国ヘモフィリア友の会(以下、全友)が創立された。地域の患者会は、当時の血液製剤「AHG等、新薬のより安い価格、より多い供給を」という要求で結束した。その後、血友病者やその家族にとって、1960年代後半から1970年代は発展的で楽観的な時代が続いた。★01 しかし、1980年代に入って、血友病者やその家族は、厳しい状況をくぐり抜けなければならなかった。

  血友病者たちの一部は、血友病患者への偏見や差別の助長を懸念しながらも、1989年5月に大阪で、同年10月に東京で国家賠償訴訟を提起した。これによって、血友病者とHIVとの邂逅は、訴訟という輪郭を持って、多くの人々に記憶されることになった。「薬害エイズ」という名づけは、被害を告発する運動の文脈では効果的であった。しかし、逆に血友病患者会/コミュニティに強烈な分断破線を引き、HIV非感染の血友病者への眼差しを欠落させることになった。★02
  「エイズ」といえば、死とスキャンダラスな感染症だという誤ったイメージが印象づけられた1980年代当時の差別の厳しい社会状況の中、地域の患者会は萎縮して、その活動を縮小あるいは停止せざるを得ない状況に追い込まれたところも少なくない。地域の患者会を束ねていた全友も休止状態となり、日本の血友病患者会/コミュニティは凝集力を失った。

  多くの血友病者の存在は変わらない現実であり、次世代の血友病者も確実に生まれている。血友病者やその家族は、近年の自己負担増加の方向にある医療政策に、少なからぬ不安を抱いている。実際、2004年11月、大阪、栃木、静岡、京都、広島各府県の代表らが「『小児慢性特定疾患治療研究事業』の法制化に伴う血友病患者の医療費自己負担導入についての緊急要望書」を急きょ作成して、11月22日に尾辻秀久厚生労働大臣宛の緊急要望書を提出、伍藤雇用均等・児童家庭局長らとの面談を行なっている。その結果、「血友病及び類縁疾患は対象除外」となった。★03 しかし、こうした対外的な局面にこそ、全国組織が必要だという認識が徐々に高まっていた。

  他方、小児慢性特定疾患治療研究事業の法制化および段階的自己負担が発表された同じ2004年から毎春、日本血栓止血学会学術標準化委員会血友病部会の主催による「患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会」が開催され始めた。これまでの経過は以下の通りである。
2004年2月8日(日)第1回 患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会
2005年3月20日(日)第2回 患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会
2006年3月5日(日)第3回 患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会
2007年3月11日(日)第4回 患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会
2008年3月23日(日)第5回 患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会
2009年2月15日(日)第6回 患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会

  「懇談会」が着実な歩みを経てきたことは、案内状の文面からも推察することができる。以下、案内文とプログラムの抜粋である。
2004年 第1回
  血友病のような慢性疾患の診療では、患者様と医療者の連携が重要ですが、地域によっては専門医の数が少なく十分な情報を提供できていない所もあるのが実際です。(中略)コミュニケーションをきめ細かく密接なものにして、移り変わる医療について両者が相互に理解し合いながら歩んで行くための(中略)「患者様と医療者との血友病診療連携についての懇談会」を計画いたしました。
2005年 第2回
  前回の懇談会は意見を述べ合っただけで本来の懇談には至らなかったため、今回は時間も長くとりましたので、意見交換や具体的な問題を検討することが出来ると良いと思います。
2006年 第3回
  今回は患者様からご意見を聞かせていただく時間を話題提供の中に用意してみました。(中略)これまでは医療者側からの話題提供ばかりでしたので、今回の患者様からのご発表に期待しております。
  そして、第4回を転回点として、血友病患者会が日本血栓止血学会に属する「懇談会」を積極的に「利用する」ようになっていく。2007年第4回のプログラムに、現在の「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」につながる項目が明記される。
2007年 第4回
  プログラム
  7. 今こそヘモフィリアの絆を深めよう――血友病患者会の全国的なネットワーク創設の提案 三重栄友会・京都洛友会有志
  これまでは情報の提供にとどまることが多かったので、今回は患者様との意見の交換がさらに多くできるようにしたいと考えております。
2008年 第5回
  プログラム
  3. 血友病患者会の全国的なネットワーク創設のその後
  今回も患者様からのご意見を聞かせていただく時間を話題提供の中に用意してみました。(中略)これまでは情報の提供にとどまることが多かったので、今回は患者様との意見の交換がさらに多くできるようにしたいと考えております。
2009年 第6回
  プログラム
  5. 血友病患者会の全国的なネットワークの近況 松本剛史
  6. 肝炎問題と血友病ネットワーク 全国ヘモフィリアネットワーク世話人
  これまでは情報の提供とともに多くの患者様の意見を聞かせていただきたいと存じます。

  さらに、2008年の第5回「懇談会」からは、その前日に、血友病者とその家族の集まりが持たれるようになり、「交流会」と「懇談会」がセットになりつつある。また、「交流会」が始まった年は、後述する「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(C型肝炎特別措置法)が成立した年でもある。★04
2008年3月22日(土)第1回 全国血友病患者・家族の交流会
2009年2月14日(土)第2回 全国血友病患者・家族の交流会

  2007年3月、第4回「懇談会」での三重栄友会・京都洛友会の提起を受けて、各会の代表者が連なったメーリングリストによるネットワーク準備会が発足し、数名の世話人による運営が始まった。このときはまだ、メーリングリストの必要性に対する切迫感は薄かったように思われる。
  2008年1月、ネットワーク準備会が先天性凝固異常症C型肝炎感染者に対する救済の不備に関する「「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」案に対する意見書」を地域の患者会の連名で提出。また、代表世話人である佐野竜介(京都ヘモフィリア友の会会長)が衆議院および参議院の厚生労働委員会で意見陳述を行ない、国会決議につながるなど、早々に思わぬ形でネットワークの実効性が証明された。★05
  2008年3月、第1回「交流会」、第5回「懇談会」を経て、全国20のメーリングリストに参加している地域の患者会を基礎に「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」が正式に結成される。その後、新たなメンバーが加わり、現在の参加は25である。「ネットワーク」は、血友病者とその家族、血友病患者会相互の連携を強化することを目指している。「懇談会」「交流会」の回数を重ねることで、全国組織再建の必要性が各地域患者会の共通認識として浸透した。同時に、新たな全国組織は上意下達式の形態ではなく、あくまでも地域の患者会の独自性を踏まえ、横断する緩やかな連絡体とすべきであるという趣旨が確認された。

  では、なぜ新たな全国組織は「ネットワーク形式」なのだろうか。端的に言えば、それが現実的だからである。第一に、全国に点在する各地域の患者会を仕切るような強力なリーダー的患者会ないし個人がいない。また、一患者会や一個人に負担がかかって、活動が停止してしまうことは全国組織再建を望む各地域の患者会にとって本意ではない。第二に、HIV/HBV/HCV重複感染という稀有な経験をしてきた血友病者は、その複雑で多様な経験から多様な価値観が生成された。また、全友が活動を休止してから20年近く続けてきた各地域の患者会独自の活動には、軽視できない重みがある。強力なリーダーの不在と多様性の尊重。この二点を各患者会とも実感しているからこそ、「ネットワーク形式」としてまとまっていったと考えられる。
  ここで視点を変えてみよう。そもそも「懇談会」は、日本血栓止血学会学術標準化委員会血友病部会の一部である。それが近年、第5回「懇談会」、第6回「懇談会」は、「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」総会のような様相になっている。この現状に対して、「ネットワーク」結成の契機を作ったとも言える医療者側はどのように考えているのか。報告者は「懇談会」の参与観察を行ない、複数の医療者の考えを訊ねてみた。すると、総じて「良いことだと思う」「患者さんがまとまるのは医療者側としてもありがたい」といった肯定的な意見であった。穿った見方をすれば、医療者側は患者会のネットワークを「利用」して血友病医療の情報を提供しようと考えているのかもしれない。

  「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」が、現在抱えている案件は大きく二つある。第一に、C型肝炎特別措置法成立時の衆議院決議「ウイルス性肝炎問題の全面解決に関する件」、参議院決議「肝炎対策における総合的施策の推進に関する決議」に基づくネットワークと厚生労働省との話し合いが現在も継続中である。また、将来に向けて、血友病全般に関する協議の継続が確認されている。

   第二に、「注射用ノボセブン不採算品再算定」による薬価引き上げに関わることがある。2008年7月末、遺伝子組換え製剤「注射用ノボセブン」を製造しているノボノルディスクファーマ社は、厚生労働省に対して「現行薬価のままでは近々供給停止せざるを得ない」という強い意志を示した。その後、2009年1月14日(水)、中央社会保険医療協議会総会において、薬価引き上げ認められて供給停止は回避された。しかし、ノボノルディスクファーマ社が「供給停止」を持ち出して薬価引き上げ交渉を行なったことに、日本の血友病患者会/コミュニティは同社に対する怒りや不信感を募らせた。ノボノルディスクファーマ日本支社は、2009年5月24日(日)に大阪で、2009年7月20日(祝・月)に東京で「血友病患者様との懇話会」を開催したが、一度失った「信頼」を回復することは容易ではない。これを機に、「ネットワーク」では、患者会と製薬企業とのコミュニケーションについて模索している。★06

  「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」の活動は、今まさに起こっていることである。今後も「ネットワーク」をめぐる諸論点を考えていきたい。


■注
★01 北村 2006
★02 北村 200902
★03 北村 2006
★04 北村 200802
★05 北村 200810
★06 北村 200910

■参考文献
北村 健太郎 2009/10/** 「「痛み」への眼差し――血友病者をめぐる論点の構図」櫻井 浩子堀田 義太郎編 『出生をめぐる倫理』 生存学研究センター報告 2009年10月下旬刊行予定
◆――――― 2009/02/25 「侵入者――いま、〈ウイルス〉はどこに?」 『生存学』vol.1:373-388
 http://www.livingroom.ne.jp/kk/virus.htm
◆――――― 2008/11/01 「救済する法=引き裂く法?」 『現代思想』36-14(2008-11):238
◆――――― 2008/10/10 「C型肝炎特別措置法に引き裂かれる人たち」山本 崇記・北村 健太郎編 『不和に就て――医療裁判×性同一性障害/身体×社会』:69-70. 生存学研究センター報告3,199p. ISSN 1882-6539 ※
◆――――― 2008/02/01 「C型肝炎特別措置法の功罪」『現代思想』36-2(2008-2):143-147(特集:医療崩壊――生命をめぐるエコノミー) http://www.livingroom.ne.jp/kk/gs0802.htm
◆――――― 2006/03/31 「全国ヘモフィリア友の会の創立と公費負担獲得運動」『コア・エシックス』vol.2:89-102
 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/ce/2006/kk01b.pdf


*作成:
UP:20090904 REV:20090921
全文掲載  ◇障害学会第6回大会  ◇障害学会第6回大会・報告要旨

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