HOME > 全文掲載 >

レジュメ「国語学における「辺境」とナショナリティの構築――東条操・時枝誠記の言語思想を手がかりとして」

岡田 清鷹 20090821 第8回歴史社会学研究会レジュメ


◇書誌情報:福間 良明 200105 「国語学における『辺境』とナショナリティの構築――東条操・時枝誠記の言語思想を手がかりとして」,『ソシオロジ』46-1:37-54

■「国語学における「辺境」とナショナリティの構築――東条操・時枝誠記の言語思想を手がかりとして」
 福間良明事前勉強会(第八回歴史社会学研究会)
  岡田清鷹(共生領域M2)

■構成と内容
◆1.はじめに
・先行研究批判
    主に酒井直樹
・「辺境」の概念と「日本」「西洋」の三者関係
・東条操と時枝誠記
    →主に「辺境」を他者化していく過程から「日本」のナショナリティの構築を明らかにする
◆2.「方言」と「国語」の共生関係――東条操の方言観・国語観
(1)「方言」による「標準語」の解体
・「日本」の統一性のためには「標準語」が必要
・しかし当時流通していた「標準語」として流通していた「東京語」は不完全
・「方言」を換骨奪胎して「標準語」を作り変える。
(2)「標準語」と「方言」の不可避的な共存
・「標準語」が統一力を持つための手段として、「方言」は重要
・「方言」regionalは、nationalなものと共存することで存在意義が見出せる
・「標準語」は、「方言」の存在があって「標準語」として存在できる
・「標準語」と「方言」の二重言語。→「地方人」と「国民」の相補的な関係
(3)方言区画論とナショナルなものとの関わり
・地方ごとに言語体系を分類し、そこでも細分化する
・あらゆる「方言の総和」としての「国語」=「国」の一部としての「方言」
(4)方言学と脱国境性
・旧植民地での「標準語」の普及のためには、それと「方言」の相違を認識することが必要
・「方言」「地方」は「日本語の大陸進出」のための補強材料
(5)「西洋」と「国語」・「方言」の位置関係
  ・「我々は我々に適応した言語が必要である」
・普遍的な「国際語」と特殊的な「国語」
◆3.朝鮮で生まれた国語理論――時枝誠記「言語過程説」とナショナルなものを見出す契機
(1)西洋言語学の批判と言語過程説
  ・西洋言語学(主にソシュール)を批判。日本語=「国語」の本質を探る
  ・「言語過程説」:言語とは、言葉を用いるときの心的過程そのもの
(2)言語過程説と国語政策論
  ・言語を構成する三要素「主体」「場面」「素材」、「主体」は言語の根源的要素
  ・「半島人」は「国語」への愛情が必要
・言語過程説では「主体」の気分は「場面」→「半島人」の「主体」は「場面」を超える
(3)言語過程説の理論的構造とナショナリズムの結び付き
  ・「主体」は「日本語的性格」を有する=「主体」に「日本」or「日本」に規定されるものを想定
  ・「場面」は「国家生活」=「場面」に国民の同一性が前提される
  ・「国家」は、言語に重要な「主体」と「場面」を従属する
  ・「国民」として統合する装置としての言語過程説
(4)「主体」「場面」を「国民」に結び付けたもの――辺境
  ・朝鮮での「母語を愛護する精神」と「朝鮮における日本語普及」の矛盾、葛藤
  ・「朝鮮人」よりも「国民」を言語的に高次のものとする
  ・「場面」としての「朝鮮」=「辺境」の多様性は抹消、「主体」としての個人は「国民」に一元化
(5)「ナショナリティのゆらぎ」と「超」ナショナリズムの発見
  ・「辺境」は、ナショナリティをゆるがす、そして新たなナショナリティを構築する
  ・「辺境」は包摂され、「自己」を浮き彫りにする他者となる
  ・他者に表象された自己は、自己の範疇を超えて「自己」となる
◆4.結論――「辺境」が生み出すナショナリズム
(1)「辺境」−「日本」が生み出すナショナリズム
  ・「国語学」のナショナリティは、「辺境」と相補的な関係
  ・東条と時枝の「国語学」は、「辺境」に向き合って「国語」を見直したことが契機
  ・「西洋」は「日本」の定義を強固にした
(2)「辺境」によるナショナリティの再構築
  ・「他者」として「辺境」と異なりつつも、それを内包する「自己」としての「日本」
  ・「日本」は、「西洋」との対比で本質的な文化を想定し、それを「辺境」と対照させて規定する
(3)脱ナショナリズムの可能性
  ・変容しうるナショナリティとしての可能性
  ・ナショナル・アイデンティティの複数性

■補足
◆東条操(とうじょう みさお、1884−1966年)
「現代方言学の祖」とも言われる。論文中では「方言周圏論」を提唱した柳田國男と「対抗」したと書かれているが、そんなに仲が悪かったわけでもない。柳田に加えて、橋本進吉らと『方言』(1933)を創刊している。書かれていないけど、この人も上田万年の弟子。
 主著:『標準語引分類方言辞典』など

◆時枝誠記(ときえだ もとき、1900 - 1967年)
ソシュール言語学とそれを持て囃していた比較言語学、国語学を批判。言語過程説を提唱。ソシュール言語学の誤読、言語過程説における矛盾やナショナリズム性は戦後になってから批判を受けた。最近では、読み直し、再評価が進んできている感じ。三浦つとむ、吉本隆明など影響を受けた人多数。
 主著:『国語学原論』など

◆上田万年(萬年)(うえだ かずとし、1867−1937年)
西洋言語学を積極的に取り入れて、「国語」という思想を提唱。標準語や仮名遣いなどの「国語」への貢献は大きい。言語学をもって思想として「国語」を支えた代表者として、イ・ヨンスク(1996)に批判された。弟子多数。実は円地文子のお父さん。

■参考
◆イ ヨンスク 19961218 『「国語」という思想――近代日本の言語認識』岩波書店
酒井 直樹 19960510 『死産される日本語・日本人――「日本」の歴史‐地政的配置』新曜社
酒井 直樹 19970314 『日本思想という問題 ――翻訳と主体』岩波書店
◆時枝 誠記 1941 『国語学原論』岩波書店(岩波文庫に所収)

*作成:岡田 清鷹
UP:20090823 REV:
全文掲載  ◇歴史社会学研究会
TOP HOME (http://www.arsvi.com)