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「医療における代理決定と所属――終末期医療においてゲイ・レズビアンが直面する諸困難を例に」抄録

日本医学哲学・倫理学会第28回大会 於:滋賀医科大学 2009/11/01
片山 知哉


「医療における代理決定と所属――終末期医療においてゲイ・レズビアンが直面する諸困難を例に」
片山知哉(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士後期課程/横浜市総合リハビリテーションセンター)

抄録:

 医療における代理決定は,あらゆる人間の利害に関わる普遍的な問題である。そのため諸個人の属性や所属によるバイアスを排し,公正で万人の利益に資する議論が求められる。しかし残念なことに現状は,この点において不徹底であると思われる。本報告ではゲイ・レズビアンが終末期医療において直面する諸困難のうち二つ例に挙げ,代理決定と所属との間にある複雑な問題を検討したい。
 日本では同性間パートナーシップ法の未整備を背景として,ゲイ・レズビアンは終末期医療の場でパートナーが何の権利も保障されないという困難に直面し続けてきた。歴然と存在する血縁家族重視の慣習の壁に阻まれ,面会さえままならない事態は,本人・パートナー双方に耐え難い苦痛をもたらす。諸々の問題の存在を知りつつも,ゲイ・レズビアンが医療における代理決定の制度化に肯定的なのは,こうした現状を打開できると期待するからである。
 またゲイ・レズビアンは,ゲイ・レズビアン同士で親族にも喩えられる親密な友人ネットワークを形成し,独自の文化を共有している。しかし同性愛嫌悪症を背景に,ゲイ・レズビアンのネットワークは一般社会において不可視化され,両者は情報論的に断絶している。従って,ゲイ・レズビアン本人が自身の支持者として友人たちを招き入れることを,医療スタッフおよび法的親族に説得し切れない限り,掛け替えのない友人ネットワークから疎外されてしまう。この状況下では,本人への心理的支持のみならず,代理決定における文化的バイアスの除去も困難とならざるを得ない。
 医療における代理決定は,このような事態に甚大な影響を不可避的に与える問題として捉えられる必要がある。それはしかし,この議論における本質的な問い,「誰が,何を,決めるべきか」への規範論的検討を深化させることに他ならない。当日の報告では,他領域への議論の発展も含めつつ,この困難な問いへの報告者なりの展望を示す。

*作成:片山 知哉
UP: 20090630
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