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「米国脳卒中月間」

児玉 真美 200906 介護保険情報 2009年6月

last update: 20110517

5月は米国脳卒中月間
 survivor ―─生き残った人。生存者。
 この単語に、つい最近、思いがけないところで出くわして、新鮮な驚きを覚えた。5月は米国の脳卒中啓発月間だと知り、米国脳卒中協会National Stroke Association(NSA)を中心に、関連サイトを覗いていた時のことだ。 stroke survivor ──脳卒中から生還した人。既に一般的表現となっているようだ。そこに滲む誇らしさが「いいな、この表現」と胸に響いた。
 米国の脳卒中啓発月間は1984年に大統領の肝いりで始まった。もちろん脳卒中の知識を一般に広め意識を高めることが大きな目的だが、NSAが4月30日に出したリリースには「5月はまた、多くの困難にもかかわらず頑張って回復の旅を続ける米国600万人の脳卒中サバイバーたちを讃える季節でもある」と書かれている。
 脳卒中は米国人の死因の第3位。成人が障害を負う原因の筆頭でもある。しかし米国人の約3割は脳卒中の症状を1つも知らない。そのため、優れた血栓溶解剤 t-PAなど救命治療は進んでいるというのに、最善の治療を受けられる脳卒中患者は5%にも満たない。
 NSAでは予防講座用スライドなどの啓発資料、チラシやポスターなど月間グッズをホームページからダウンロードできるよう完備して、医療機関、企業や各種団体に参加を呼びかける。今年はソーシャルネットワーキング、ツイッター(マイクロ・ブログ・サイト)やEメールなど、インターネットを通じて一人ひとりに情報が届きやすい工夫を凝らした。特に啓発の重点が置かれているのは、リスクマネジメントによる「ストップ脳卒中」、Face(顔)、Arms(腕)、Speech(言葉)、Time(時間)を使って簡単に症状を見分けられるFASTテストの普及による「迅速な(fast)行動」、それから長期に渡って回復への旅を続けるサバイバーと介護者への支援「希望を広げよう」の3つのプログラムである。
 月間に先立つ4月28日には、米国心臓協会脳卒中部門American Stroke Association(ASA)から「大切な人が脳卒中を起こしたら介護者として心得ておきたい15の知恵」(仮訳右ページ)が発表された。脳卒中はある日突然起こって、それまでの生活を一転させる病気だ。後遺障害を抱えたサバイバーにとってはもちろん介護者にとっても、生還後の生活は未知の世界だろう。その入り口で不安を抱える介護者に、具体的かつ有益な、そして励ましに満ちたメッセージとなっている。
 ASAのホームページには、もちろんサバイバー本人に向けた情報やアドバイスも満載されている。例えば「脳卒中後の生活」カテゴリーからは、医療機関、リハビリテーション、最新治療や代替医療、後遺障害、支援テクノロジーに関する詳細情報の他、片手で野菜を切る方法や運転する方法など日常動作のヒント集、金銭面でのアドバイス、支援についてのページへと入っていくことができる。このサイト、いわばサバイバーと介護者をエンパワーする情報の宝庫なのだ。読んでいると、そうか、survivor という呼び方も、こういう視点なんだな……と納得できてくる。
 医療の側から見れば「患者」でも、視点を当事者の側に移してみたら、障害と付き合いながら暮らしていく生還者であり生存者。生存者と介護者には日々生きるべき日常がある。脳卒中サバイバーに必要なのは正しい知識と情報だけでなく、現にそれを使いこなして日々を暮らしていく力をつけること。そして、そのエンパワメントをサポートしてくれる「支援」である。

 脳卒中の急性期治療については、気になる調査結果も報告されている。2月19日にサンディエゴで開かれた国際脳卒中カンファレンスでミシガン州立大学チームが発表した調査によると、女性は男性に比べて脳卒中直後にt-PA治療を受けられる確率が30%低い。また、ERに運び込まれた際に、女性の方が年齢や症状に関わりなく男性よりも「ドアから医師まで」の時間が12%、また「ドアから画像まで」の時間では16%長くかかっていた。(NSAのサイトより)
 また75歳以上の高齢脳卒中患者は、75歳以下の人ほどMRIや超音波ドプラーなどの検査をしてもらえない、また検査までの時間もより長いとの調査結果も。こちらはPostgraduate Medical Journalに発表された英国の論文。高齢でも積極治療で予後がよいとのエビデンスがあるとし、NHSにおける高齢者差別だと批判している。(Medical News Today, 2009年4月17日)
 日本の脳卒中週間は毎年5月23日から31日とのこと。サバイバルが性別や年齢次第にならぬよう、医療現場への啓発も、ぜひともよろしくお願いします。

 米国脳卒中協会
 http://www.stroke.org/site/PageServer?pagename=HOME >
 米国心臓協会脳卒中部門
 http://www.strokeassociation.org/presenter.jhtml?identifier=1200037

 2つの協会の日本語訳名称については、こちらから取りました。
 http://www.jsa-web.org/site/site.html

 「15の知恵」原文はこちら
 http://www.strokeassociation.org/presenter.jhtml?identifier=3065981


*作成:堀田 義太郎
UP:20100212 REV: 20110517
全文掲載  ◇児玉 真美
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