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「英国認知症戦略・米国WA州尊厳死法施行・FEN事件」

児玉 真美 200904 介護保険情報 2009年4月号

last update: 20110517

英国保健省「全国認知症戦略」を発表
 英国保健省は2月3日に「全国認知症戦略」を発表した。背景には、現在70万人の認知症患者が30年後には140万人に急増すると予想され、それにつれて認知症患者にかかるコストも現在の170億ポンドから500億ポンドに増えるとの試算がある。「いま認知症の人々や介護者のQOLを改善するためにお金を使えば、すべての関係者の状況を改善できるだけでなく将来のお金を節約することにもなる」との判断から「英国政府は認知症を全国的な優先事項と決定した」と戦略には書かれている。最初の2年間に投入される予算は1億5000万ポンド。
 具体的には、各地域に1箇所ずつ「記憶クリニック」を設置し、総合病院には認知症対応担当者を置くなどの施策を実施。@認知症の正しい理解とスティグマの解消、A早期診断、Bサービスの整備という3つのステップと、「診断後にケア、支援、アドバイスが容易に得られる」「ピア・サポートと学習のネットワークを組織的に整備する」「在宅患者のために地域での個別支援を改善」「介護者のためのニューディールを改善する」ほか17の目標を掲げる。

米国WA州での合法化目前に違法な自殺幇助で尊厳死アドボケイト4人逮捕
 3月5日、米国ワシントン州で尊厳死法が施行された。一定の条件を満たした患者に医師が致死薬を処方することを認める法律である。ただし病院がこの法律に「参加しない」と意思表示することも可能。施行前後には対応を巡る医療サイドの困惑が相次いで報じられた。モンタナ州でも合法化が確実視されており、ハワイ州、ニューハンプシャー州の議会にも法案が提出されるなど、米国では今後自殺幇助合法化の動きが加速すると見られている。
 そんな2月の末、「死の自己決定権」のアドボカシー団体Final Exit Network (FEN)の幹部4人が、違法に会員の自殺を幇助していた容疑で逮捕され、全米に大きな衝撃が走った。直接の容疑は、去年6月にジョージア州で58歳のがん患者のヘリウム吸引による自殺を幇助したことだが、これまで200人もの自殺に関与したとの幹部の証言もあり、9つの州で捜査が進行する大騒ぎになっている。
 ニュースを機にFENサイトを初めて詳しく読んでみた。なんとも仰天の内容である。彼らの活動とは、「パーキンソン病、多発性硬化症、筋ジス、ルー・ゲーリック病など神経系の病気やアルツハイマー病の人」と「癌、脳卒中、慢性心臓疾患、肺気腫、その他不治の病気と負けると決まった戦いを続けなければならない人」など、「ターミナルな状態のはるか前から生きる意欲を失い」「尊厳のある終わりを望む」人々に対して、必要なもの(ヘリウムのタンクと頭にかぶる袋)の入手方法を教え、「あなたが選んだ時に選んだ場所」にボランティアが出かけて「自己処置のガイダンスを行う」ことなのだ。これでは、オレゴン州やワシントン州の尊厳死法で定められた「耐えがたい苦痛のある余命6ヶ月以内の患者」という対象条件をはるかに超えて、解釈次第で「病気や障害を苦に死にたい人は誰でもお手伝いしますよ」というに等しい。
 FENは「直接手を出していないのだから違法行為ではない」などと強弁するが、その一方で、関与の証拠が残らないように事後に現場を片付けたり、書類を改ざんした疑いも出ている。
 サイトからは「認知症患者に関するFENの方針」なるものまで出てくるから愕然とする。「アルツハイマー病やハンチントン病、ことによってはパーキンソン病や、その他、認知症に至ることが避けがたい病気の場合は」、自分で必要なものが調達できる体力と身体機能があり、決断を維持できる精神機能があるうちにヘリウムによる窒息か餓死によって死にましょうね……と、そそのかすがごとき内容だ。まさに“滑り坂”。こんなことが現実に進行していたとは……。
 FEN側は「ホスピスだって時間をかけた自殺幇助」と主張し、ホスピス関係者から猛反発を招いている。「どうせ」と命を投げ出したり切り捨てることと、「せめて」残された時間を大切に生き、それに寄り添うこととは全く反対の姿勢だろう。
 英国の「全国認知症戦略」は冒頭で「認知症については多くの無知があります。一般の国民に限らず、サービス提供者の間にも無知があります。認知症の人を支援し治療する方法があることを知らない人が沢山います」と述べている。無知が直線的に「どうせ」に繋がらないよう、「正しい理解とスティグマの解消」と支援をこそ、考える社会でありたい。

関連サイト

 FEN http://www.finalexitnetwork.org/default.htm → 不通

 英国認知症戦略
 http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_094058


*作成:堀田 義太郎
UP:20100212 REV: 20110517
全文掲載  ◇児玉 真美
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