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「ウエストミート小児病院「第6回小児ターミナルケア・シンポジウム」に参加して」

櫻井 浩子 GCOE生存学創成拠点「国際研究調査報告」



立命館大学大学院の助成を受け、2月25日から3月9日までオーストラリアのシドニーへ渡航してきました。渡航の目的は、ウエストミート小児病院で開催される「第6回小児ターミナルケア・シンポジウム」への参加とシドニー大学での資料収集です。 残念ながらウエストミート小児病院内は撮影禁止のため、外部の写真及びシンポジウムの概要について、今回簡単に報告します。

以下、簡単にシンポジウムの内容を紹介します。
1. ウエストミート小児病院 「小児ターミナルケア・ワークショップ」
(Palliative Care Symposium Workshops in The Children's Hospital at Westmead
"Accompanying adolescents through illness and dying" Convenor: Dr Danai Papadatou, Thursday 5 March 2009)
 定員15名に対し26名。主にオーストラリアニューサウスウェールズ州の小児ガン病棟に勤務している看護師が参加していていました。日本からは私の他に2名参加。
 ワークショップは、10代の青年期の患児が、どのように自身のガンと向き合うのか、絵画療法を通じて心理的変化を観察するという内容でした。青年期の患児の身体的変化、不安感や恐怖心を軽減するための支援を行ないます。実際に書かれた絵を見ながら、患児の気持ちの変容についてディスカッションをしました。ちなみにオーストラリアでは、患児への告知はしない傾向にあるようです。

2. ウエストミート小児病院 「第6回小児ターミナルケア・シンポジウム」
(6th Annual Paediatric Palliative Care Symposium 2009,Friday 6th March 2009)
 シンポジウムで報告された演題は、小児緩和ケアに携わる看護師教育、緩和ケアに関するオンライン評価システムの紹介、乳幼児へのマッサージ効果、小児専門ホスピスの現状などでした。
Royal Children's Hospital MelbourneではThe PaedPall Care Plan(Care Plan & Tool)を作成、医療者が小児緩和ケア実施に関する自己評価をHPから入力するというシステムが活用されています。またオーストラリアでは、緩和ケアのNational Standards Assessment Program(NSAP)が定められています。NSAPのプログラムは、緩和ケア従事者のサービスのために設計されており、プロセスやツールのサービスを提供している。 
Western Child Health Network(WCHN)は2001年に設立され、WCHN の調査によれば2001年から2008年の間に240名の小児が死亡。死亡場所の内訳は、自宅80名、Royal Children's Hospital系小児病院98名、小児専門ホスピス32名、他病院が30名でした。1996年、オーストラリアで初めて設置された小児専用ホスピスVery Special Kids House(ヴィクトリア州)は収容人数8名、小児ガンだけでなく先天性心疾患や筋ジストロフィーなど経過が長期に及ぶ予後不良な新生児・小児を対象とし、診断が下された時から亡くなるまでの療養を行ないます。家族のメンタルケアやグリーフケアも実施。小児病院とホスピスが連携し、児の状態や家族の希望によって適宜ホスピスに転院します。ケース例として報告されたMitchellは先天性疾患児であり、親が治療を望まず、Very Special Kids Houseに転院。モルヒネを投与され、24時間後に死亡。難病女児の母親のコメントも紹介されました。
 オーストラリアでは、広大な土地を有していることから、州単位で緩和ケアシステムを作成。自己評価システムなどはITを活用しています。日本の新生児・小児医療ではそのような取り組みは実施されていません。また日本には、小児専用ホスピスがありません。

ウエストミート小児病院全景



ウエストミート小児病院玄関


★ウエストミート小児病院 http://www.chw.edu.au/

ウエストミート小児病院看板
3. Northern Sydney Central Coast Health Newborn Care Centre見学
 Northern Sydney Central Coast Health Newborn Care Centreで働く日本人看護師の好意によりNICUを見学。日本と大きく違うところは、NICUの造りや医療者の服装がラフであることです。保育器内では親が用意した洋服を児に着せたり、シーツも柄物であったりと日本の白を基調とした雰囲気とは異なっていました。Newborn Care Centreには児と親が遊べるプレイルームも設置されています。日本ではチーム医療が基本であるが、オーストラリアでは個々の医療者によってケアの内容が異なるようです。それは多文化・多宗教の国という特色が影響しているとのこと。しかしながら、ニューサウスウェールズ州の(重症児の治療を行う)高度医療病院はChildren's Hospital at Westmeadであるため、Northern Sydney Central Coast Health Newborn Care Centreとは状況が異なると推測されます。ちなみにChildren's Hospital at Westmeadは、病院内に知り合いのスタッフがいないと見学は難しく、寄付制(CSR)を採用しています。

オペラハウス<オペラハウス>



UP:20091103(篠木 涼) REV:20091104
全文掲載  ◇櫻井 浩子
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