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「第一一回世界乳幼児精神保健学会世界大会(WAIMH)に参加して」

櫻井 浩子 20090225「国際研究調査報告」『生存学』vol.1



 二〇〇八年八月一日から八月五日まで、パシフィコ横浜会議センターにて第一一回世界乳幼児精神保健学会世界大会(WAIMH)が開催されました。学会参加にあたって、二〇〇八年度生存学若手研究者グローバル活動支援助成を受けました。
 世界乳幼児精神保健学会は、乳幼児の健全な心の発達を促進することを目的としたメンタルケアの国際的な学会です。大会は一一回目になりますが、アジアでの開催は今回が初めてでした。世界四三ヶ国から約二〇〇〇名の研究者、臨床家、政策立案者が集まり、八つのプレナリー・セッション、三つのプレナリー・インターフェース、二三のマスター・レクチャー、二〇のシンポジウム、三七のワークショップ、二四の臨床ティーチ・イン、九つのポスター・ワークショップ、九つのビデオ・プレゼンテーション、一九〇のポスター、そしてWAIMH最新の革新的なインターネット・レクチャーから成るプログラムで行なわれました。主な報告内容は、母と子どもの関係性、相互依存の形態、母子間の感情、乳幼児の自己調節能力、母親の精神障害や薬物依存、HIV母子感染や幼児虐待など様々な問題への早期介入でした。 
 私は、学会三日目の八月三日に「『18トリソミーの会」の活動─18トリソミー児の親のためのメンタルケア(Activities of the Trisomy 18 Support Group Mental Care for the Parents of Infants with Trisomy 18)」を報告しました。日本の医療者からは、親のメンタルケアに関する具体的な相談が寄せられました。ヨーロッパ諸国の医療者からは、「18トリソミーの治療は大変難しい。しかし現状では、治療差し控えや中止を行なっている」とのコメントをいただきました。アメリカからは、「日本には、どうしてこんなに18トリソミーの子どもが多いのか」との質問がありました。これに対して、日本では新生児集中治療室の医療者は愛情を持って接していること、治療方針決定のためのガイドライン作成過程において主に18トリソミーについて検討されたことにより子どもの症状にあった治療が行われるようになったためと答えました。海外に比べ、病院格差はあるものの、日本では18トリソミーの子どもに対して比較的積極的治療が行われていることが推測されました。
 セッションは、ビデオを使用した子どもと親(とりわけ母親)との愛着行動(アタッチメント)の分析報告が多くを占めました。特に、「南アフリカにおけるHIV母子感染:スティグマ、悲しみと文化」(八月三日 プレナリー・インターフェース)、「生殖補助医療によって出生した子どもたちの権利」(八月四日 ワークショップ)、「病院で成長すること:慢性疾患と障害を持つ乳幼児、その親の体験と彼らを支えるシステム」(八月五日 シンポジウム)は、大変印象深いものでした。ここでは、私の研究に関する「病院で成長すること:慢性疾患と障害を持つ乳幼児、その親の体験と彼らを支えるシステム」についてご紹介します。このセッションにおける重要なポイントとして、○1乳幼児に精神的ケアが必要な場合、病気を持つ児と医療者が親の支えになる場合もある、○2発達ケアの応用として音楽療法や対人関係のニーズを共有すること、○3子どもの視点からモノを見ること、その点で小児科医や心理士が大きな役割を持つこと、が挙げられました。例えばミッシェル(女児、九ヶ月齢、先天性中枢性肺胞低換気症候群)が新生児集中治療室に入院中、親は彼女の面会に来ず、養育を拒否していました。先天性中枢性肺胞低換気症候群は人工呼吸器を挿管し、眠ると死に至ることから「オンディーヌの呪い」とも言われています。結局、看護師が養母となりミッシェルを在宅で育てましたが、養母の看護師は同僚の嫉妬の対象となり、医療者のケアも必要でした。日本では、このように医療者が養母となることはないでしょう。しかし子どもの家族に問題のある場合、心理士には、子どもの代弁者として役割と、コミュニティケアのサポートをすることが指摘され、この点は日本の医療現場にも共通していることだと感じました。そして、病院は精神療法的な場所であるべきで、病気の子どもと親への早期介入が子どもの長期生存につながる、と結論付けていました。
 乳幼児精神保健に関するこの分野の課題として、母子愛着行動に関する評価方法の再検討、異文化分析の手法、が挙げられました。
 患者会ブースでは多くの医療者に興味を持っていただき、病気や患者会の啓蒙普及をすることができました。
 連日朝八時から一七時までとハードスケジュールな五日間でしたが、初めての国際学会参加であり、大変有意義な経験をさせていただきました。今回の学びを、今後の自身の研究に生かしていきたいと思っています。

第一一回世界乳幼児精神保健学会世界大会(WAIMH)会場のパシフィコ横浜会議センター



「18トリソミーの会」の活動報告風景



報告ポスター



UP:20091103(篠木 涼) REV:20091104
全文掲載  ◇櫻井 浩子
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