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「スリランカ─平和構築NGOの活動調査」

岡田 和男 20090225「国際研究調査報告」『生存学』vol.1: 402-404


 スリランカの紛争下においてNGOは、平和構築にどのような活動をし、また、NGOの今後の課題は何か調査をしました。

 二〇〇二年二月にスリランカ政府とLTTE(タミルイーラム解放の虎)が締結した停戦協定が、二〇〇八年一月に破棄されて以来、LTTEによる駅やバスへの爆弾テロが散発的に発生しています。LTTEは、北東部でのタミル人独立国家を求めて戦闘をしていますが、スリランカ政府はそれを阻止しようとLTTEの本拠地へ爆撃を繰り返しています。また、「多数派シンハラ人VS少数派タミル人」という構図ですが、海外から見れば、難民として欧米に渡った約二五万人のタミル人社会は、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどで、政治へのロビー活動やLTTEへの資金援助でLTTEを強力にバックアップしています。
 LTTEは自らの戦況が悪くなれば、停戦を呼びかけ、停戦中には密かに武器の補充や戦力の立て直しを行い、再び、停戦を破棄するなど繰り返しています。この先、紛争解決への道は前途多難ですが、軍の策略でLTTEの一部を分裂させ東部はほぼ政府軍の支配地域となり、LTTEの独立国(タミルイーラム)の実現は困難であろうと思われます。さらに、タミル人自治政府を実現するためには、憲法改正で国会の三分の二以上の賛成が必要となり、武力だけでは成し遂げられません。また、国連でタミル人独立国を承認される可能性は低く、その理由は、スリランカと友好国であり、かつ、自国内で少数民族の独立運動を抱えている中国が拒否権を発動するからです。
 いずれにしても、一番の被害を被っているのは紛争地域の住民です。難民、親族を頼っての移住、戦火の中で生き続ける選択肢しかありません。面会したトリンコマリー地域の住民は、住居に政府軍から手榴弾を投げ込まれ両親を亡くし、現在は、そのトラウマで日々悩まされていることを泣きながら訴えました。
 このような中で、NGOは多民族の共生、相互理解に関してのプロジェクトを行い平和への実現に向けて活動をしています。例えば、NGOの連合体であるNational Peace Councilは、紛争地域の現状を国民に訴えるために全国で、戦闘地域やその住民の生活を撮影した写真展を行い、二〇万人の見学者に至っています。また、LTTEが求める独立国家ではなく、すべての民族が共存できる連邦制についてのワークショップを、政治家、宗教者、地域社会のリーダーを対象として実践しています。一方、このような平和活動に反対するグループが存在し、平和会議やシンハラ人、タミル人、モスリムが参加し相互理解を目的とするワークショップへ乗り込み、妨害行為をする和平反対派も見られます。また、知人であるNational Peace Council代表のジェハン・ペレラ氏(第1回堺市平和貢献賞大賞受賞)へ対しても、和平反対派から匿名の脅迫を受けています。まさに命がけの活動を続けています。
 地道な取り組みを行っているNGOがある一方で、援助金を流用したり、大規模な平和会議を開催し、その動員数を誇ったりしている功名心にたけたNGOが多数存在するのが実情です。イギリスのNGOは、大規模な平和会議を開催しましたが、それがスリランカ政府の反感を招き、コロンボ事務所を閉鎖に追い込まれたり、今回の滞在中、ドイツのNGOが野党側と親密な関係を持ったために、現政権からドイツ人スタッフの延長ビザ発行拒否になり、スリランカから撤退することになりました。
 また、NGOの課題の一つですが、援助資金の争奪戦があります。援助機関に提出する助成金申請書類はほとんどが英語で、コロンボ大都市にあるNGOは英語が操れ、援助機関や大使館が主催するパーティーで人脈形成しやすく、活動資金を獲得しやすい現状があります。しかし、地方で活動する地元NGOは、英語ができるスタッフが少なく、申請書を提出する機会さえありません。援助機関は英語によるフィルターでNGOを選別するのではなく、地方の地元NGOの活動現場に足を運ぶ必要があります。
 今回の調査を通しての今後の研究のあり方についてですが、○1「当事者」(紛争地域で生活を営む住民)にとってNGOの活動はどのように受け止められているか、○2NGOの平和構築プロジェクトへ参画し、資金助成、プロジェクト評価から、平和構築プロジェクトの課題や技法の開発など実践する、など現地現場において当事者の視点から研究を行うことを考えております。また、『NGO』は一般的に「困っている人のために役に立っている」という評価が多いですが、○3NGO活動の弊害についても、研究課題として扱いたいと考えています。


<National Peace Councilの平和展(1)>
<National Peace Councilの平和展(1)>

<National Peace Councilの平和展(2)>
<National Peace Councilの平和展(2)>

<Sewa Lanka(NGO)の車両で移動。紛争地ではNGOの車両に旗を付けなければ移 動できない>
<Sewa Lanka(NGO)の車両で移動。紛争地ではNGOの車両に旗を付けなければ移動できない>

<Sarvodaya(NGO)センターの周辺風景>
<Sarvodaya(NGO)センターの周辺風景>


UP:20091112(小林 勇人) REV:1218
全文掲載  ◇岡田 和男
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