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「バルバドス、マルチニックにて」

大野 藍梨 20090225「国際研究調査報告」『生存学』vol.1: 407-409


 立命館大学の国際的研究活動促進研究費をいただき、二〇〇八年九月二二日から一一月一日の間、私はパリ、バルバドス、マルチニックを訪れました。渡航の目的は、資料収集とシンポジウム参加のためです。本報告では、バルバドスとマルチニックでの研究について記述します。
 研究費の採択が決まったときは、とても嬉しくて喜びましたが、ほとんど海外に出たことがなく、一人旅の経験もなく、語学力に自信がなかった私は、同時に少し不安も感じました。
 一〇月一二日。パリからバルバドスへ行きました。バルバドスには二二時頃に着き、生暖かい風が体にまとわりつくような感じがしました。次の日「国際エメ・セゼールシンポジウム」が開催される場所の確認のために、ウエスト・インディーズ大学へ行きました。大学ではシンポジウムの開催者であるBernadette FARQUHAR教授と面会できました。シンポジウム初日にBernadette CAILLER教授による基調講演があり、彼女の講演の中でセゼールの詩をリズムよく朗読すると、聴衆はリズムに合わせて体を揺らしたり、手拍子を打ったりして盛り上がりました。シンポジウム二日目と三日目は朝の九時から始まり、セゼール作品における歴史的背景や英雄についての発表やセゼールのアフリカへの貢献、詩、アイデンティティの探求、クレオール文化についての発表がありました。語学力に自信のない私は、発表の内容をすべて理解することはできませんでしたが、理解できた箇所を必死にメモをとりました。シンポジウムでは、私が日本から来ていることがわかると、院生や教授が次々と話しかけてくれ、友人もたくさんできました。シンポジウムが終わると、Kahindi MABANA教授のご厚意で、彼の運転する車に乗って島内を案内していただきました。カリブ海と大西洋の両方を見、サトウキビやバナナのプランテーションも見ることができました。シンポジウムとバルバドス島内一周を経験し、歴史博物館に行って、セゼール作品の背景にある奴隷制についてほとんど理解していないことに気付かされ、セゼールの作品研究を続けるために、奴隷制について学びたいと強く思うようになりました。
 一〇月二一日。バルバドスを出国し、マルチニックへ行きました。宿泊先はポワン・デュ・ブーという所で、そこからフォール・ド・フランスのシェルシェール図書館へ行くまでにフェリーに乗らなくてはなりませんでした。カリブ海は非常に美しく、私は毎日フォール・ド・フランスに行くのを楽しみました。図書館で奴隷制に関する資料を見たい事を告げると、別室で司書と面接をしなければなりませんでした。面接ではかなり緊張しましたが、時々電子辞書を使いながら質問に答えました。フランス語で答えるのが難しかったので、できれば英語で話したい事を司書に告げると、「あなたはセゼールの研究者なのだから、フランス語で話して下さい。」と言われましたが、何とか面接をクリアし、研究者用スペースへ入ることができました。いざという場合に備えて準備していった、指導教官である西成彦先生の署名入りのATTESTATION(紹介状)が功を奏したのかもしれません。研究者用スペースでは、司書が閲覧したい資料を次々と席まで運んできてくれました。かなり古い資料は司書が手袋をはめてもってきて、私がページをめくる指示をして、彼らがページをめくりました。古い資料は、コピー禁止で、カメラに撮ることも触ることもしてはいけないのです。しかし、親切な司書たちは、セゼールに関する文献目録をくれ、コピー可能な資料を次々とコピーしてくれました。かつてフランスが奴隷制について定めたCode Noirを閲覧したのですが、コピーやカメラに撮ることは禁止されており、私は覚悟をきめて全文を手書きで写すことにしました。私は司書の親切さをとてもありがたく感じた一方で、貴重資料がこんなに厳重に管理されていることに驚きを感じました。また私がフォール・ド・フランス市内を散策していると、同じ司書に偶然出くわし、昼食に誘ってもらいました。図書館の休館日には、セゼールの墓地へ行きました。彼が生きている間に会いたかったという気持ちと、彼の偉大な作品の意義をまだ十分理解できていない私は、切なくなって、墓前で泣きました。マルチニック最後の日、私は図書館へお礼に立ち寄り、帰国の準備をしました。
 一〇月三〇日にマルチニックを出、関西空港へ着いたのは一一月一日でした。私は今回の海外渡航で出会った人々が非常に親切で、友好的だったのが印象的でした。
 海外で出会った親切な方々と、海外渡航の準備を協力してくださった西成彦先生、西川長夫先生、「プロジェクト予備演習」の担当だった樫尾岳先生、先輩である佐藤量さんと中倉智徳さんに、この場をお借りして心より御礼申しあげます。


<ウェスト・インディーズ大学ケイブ・ヒルキャンパス>
<ウェスト・インディーズ大学ケイブ・ヒルキャンパス>

<シンポジウム開催場所>
<シンポジウム開催場所>

<バルバドスのサトウキビのプランテーション>
<バルバドスのサトウキビのプランテーション>

<ブリッジタウンの街の様子>
<ブリッジタウンの街の様子>

<マルチニックのシェルシェールの像>
<マルチニックのシェルシェールの像>

<市役所に掲げられたセゼールの追悼写真>
<市役所に掲げられたセゼールの追悼写真>

<シェルシェール図書館>
<シェルシェール図書館>

UP:20091112(小林 勇人) REV:20091212
全文掲載  ◇大野 藍梨
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