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「フロアからの質問およびレスポンス」 1)

松田 亮三棟居 徳子 編 20090220 『健康・公平・人権――健康格差対策の根拠を探る』
立命館大学生存学研究センター 生存学研究センター報告7, pp. 79-81.

last update:20100618


(フロア)日本の中で格差があるかないかという話ですけれども、私は医療における地域格差という点では日本には歴然とあって、今でも無医村の地域がありますし、離島についても、長崎の方では離島医療がかなり大変な問題にもなっていますし、自治医大が僻地医療を頑張っていますが、まだまだ僻地の方には足りず、医療を格差なく配分するという意味では、日本にも問題があるというふうに考えています。質問ではなく、コメントになりました。

(松田)私も、その現状をどう見るかという点では、今の御意見に賛成です。
 そして、またもう一つ突っ込んで申しますと、もし日本で、長期的に格差として常に社会で議論になるとすれば、その地理の次元といいましょうか、地域という言い方でもよいわけですけれど、どこに住んでいるかで何かが違うということが大きいのではないか。例えば、介護保険をとりましても、地域差ということが言われておりますし、今度医療も都道府県単位で運営がなされるようになると、地域の差というのが大きくなるかもしれませんので、そこは非常に大きな問題になる可能性があります。そして、その地理の問題は、単にその地理のことを言うわけではなくて、やはりそこで住んでいる人の生活状況や社会経済状況がやはり関係しているわけです。地理的要因を見る場合、地理だけを見るわけではなくて、他のいろいろな要因を同時に見ていく必要が出てくる。地理を入り口にほかを見るというアプローチもあるのではないかという気がしています。
 
(フロア)1点、アメリカのことに関しましてお尋ねさせていただきます。松田先生が、人種と民族というものを非常に重視されまして、コメントの高山先生は、医療保険の方から、いわゆる階級、所得ということが重要ではないかと仰せになったと思ったのですけれども、僕もこの後者の方、つまり人種と民族というのは、直接的にその健康格差につながるというよりは、人種あるいは民族によって所得が異なるので、異なることが多く、それが直接的な原因となって健康格差、医療保険のアクセスというようなものも含めましてつながっていくのではないのかと思います。そして、それをはっきりと示すためには、同じ人種あるいは異なる人種で同じ所得階層にいる者に、どのような健康格差があるのかといったような統計処理が必要ではないかと思うのですが、そのあたりの方法論というのは、どのようにお考えでしょうか。

(松田)方法論は非常に難しいです。私が知っている範囲で、その問題についてどういう議論がなされているかを少し御紹介したいと思います。まず最近、イチロー・カワチ氏というハーバード大学の研究者が、その問題についてヘルス・アンフェアーズという雑誌にレビューを書いておりまして、人種は所得階層、所得差等の代理変数であるというような見方もあると。そして、人種というのは、そもそも所得だけで説明ができるという話もあるのですが、やはりそうではないだろうという意見で一致していると思います。統計的には、やはり両方の要因を入れ込み、あるいはいろいろな高度な分析をして分析していくということをやっておりますが、それぞれに関与しているだろうという仮説のもとで、今研究は進んでいると思います。

 所得に関係する部分が、もちろん資源や教育のこともありますけれども、その所得ということで代表される社会的な地位が与えられるストレスのこともありますし、一方で人種というのも、これもなかなか単純なラインではもちろんないわけでして、ある種社会的につくられているところがあるわけでして、それを考えた場合に、それらを含めた上で、人種ということが、文化とか、あるいは医療従事者の担い手の人種的な構成だとか、そこで何が起きているのかを含めて、それぞれに緻密に研究していく必要があるだろうということになっているというのがあります。これが一つ、分析をするということでの軸です。
 もう一つ、なぜ所得ではなくて人種・民族なのかというのは、これは政治の問題として考えた方がよいところもあり、先ほど高山先生のコメントでもありましたけど、実現可能な、あるいは政治的なアジェンダに乗っていく方法や言い方など、レトリックは何なのかということは、現実の政策形成過程で問題になってくるというのがあります。そこで、黒人運動であるとか、あるいはヒスパニックの運動というようなことが、実は先ほど保険の話がありましたけど、健康管理の問題でも実はあるわけです。あまりこの報告では触れられませんでしたが。そういったことも含めて、人種差、乖離をなくすために、保険の乖離をなくしましょうというようなことの論点は出てくる可能性はあります。しかし、その解決が、いわゆる皆保険のような強制保険の方向になるのか、あるいは、今、現実的にアメリカで考えられているような、企業の内部における保険のあり方を参考に、企業の内部で人種差がないようにそれぞれの企業が努力しましょうというような方向でいくのかは、そこはまだ方策は分かれてくるところではないかと思います。
 このようなお話は、もう少し突っ込んで、統計や科学の研究と政策形成のかかわりというようなことで考えていく必要があるのではないかと思います。健康格差というものをもし日本が考えていくならば、そこのあたりを深めていく必要があるだろうと思っています。

1)本稿は、シンポジウム当日の質疑応答における発言をもとに、編者が編集したものである。



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