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「女性の「労働」と所得/保障の関係再考」
村上 潔
20081207 社会文化学会第11回全国大会 於:東京外国語大学府中キャンパス
http://japansocio-culture.com/taikai/11.htm
■報告予稿集原稿
ここ数年、非正規雇用をめぐる社会的問題の指摘や当事者の労働運動が活発化し、行政レベルでもようやくそれに対応する動きが出てきていることは、広く知られている。しかし、そこには単純に状況の「前進」とは評価できない事情がある。本報告ではまず、非正規雇用に従事する割合が多い(ままにされてきた)女性の問題について、現在とられつつある「対策」の問題点を考えてみたい。簡単に以下に列挙してみる。
●「非正規雇用から正規雇用へ」という方向性が、理想として第一義になっていること。
●改正パート労働法にみられる「パート」対策も、いわゆる「正社員並み」パートの層を主な対象としていること。つまり、「一部の有能な人材の引き上げ」が主眼であること。
●一方で、政府レベルの「少子化対策」と結びついた「ワーク・ライフ・バランス」社会の実現へ、といった路線が、主に「良心的な企業努力の成果」として推進されていること。
これらはあくまで、従来の「日本型・男性中心企業社会」の構造を抜本的に改革することを回避した、「穏当な」「温情的」政策にすぎない。そのうえ、特定の対象化/政策展望に基づいた方向づけに規定されているのが大きな問題点である。これらはたしかに一定の(一部の)人々には効用をもたらすかもしれないが、現実に問題を抱える女性たちに対する総体的効果としては有効な解決策ではない。むしろ様々な面で女性間の格差を拡大し、固定化する結果を招く可能性が高い。
そこで、このような「現行市場における賃労働」のありかたと「生活・所得」のありかたとの間の結びつきを強化するかたち(の範囲内)での「改革/改良」の方向性とは逆に、その結びつきを積極的に弱めて/切断してゆく方向性を模索する必要があるだろう。
まず注意すべきことは、それは従来日本であったような「家事労働の経済的評価」といった類の議論とは一線を画すことである。いわゆる「主婦業」を「市場的に」評価するだけでは、たとえそれが「価値」を生んだとしてもオルタナティヴとしては機能しない。市場からの解放区として家庭があるという図式も、もはや通用しないことは明白である。
したがって、就労の有無/労働形態/労働内容/家族形態のいかんにかかわらず、すべての女性(男性も含めて)に「生活・所得」を保障するありかたが検討されて然るべきである。現在、「ベーシック・インカム(基本所得)」という構想が注目され始めているが、そうした大枠の基礎概念に、「同一価値労働同一賃金」/「時短」/「ワークシェアリング」、そして「ワーカーズ・コレクティブ」といった、従来より要求/試行されてきた(オルタナティヴな)「労働」のありかたの構想を必要に応じて再編成し接合させることで、これまでの思想と運動の蓄積を無に帰さない形で、あるべき/ありうる未来像を展望してゆくことが可能になるのではないか。本報告ではその構想例を提案してみたい。また、関係して、「労働の拒否」という主張・実践や、「サブシステンス」概念の評価も盛り込む予定である。
その模索からは、@女性の「労働」と労働規範の間の関係性の変化(=従来の「(市場/家庭内)労働」規範の相対化)、Aその関係において生じる葛藤や利害対立(働く−働かない/キャリア−パート/子持ち−子なし)を止揚しうる方途と、B現にある自律的労働実践との共存の可能性が導き出されるはずである。
UP:20080818 REV:
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