読み人知らず「介護者の権利章典」
米国の退職者団体AARPが1985年に出版した“CAREGIVING: Helping An Aging Loved One(介護:愛する人の老いを支える)”という本がある。著者はJo Horne。家族介護者向けのこの実践マニュアルを、Horneは一貫して「介護者には『できません』と言う権利がある」との理念で書いたという。その彼が最後のページで紹介するのは「介護者の権利章典」だ。「私には次の権利があります」と始まり、「自分を大切にすること」「他の人に助けを求めること」など9項目が続く。多くの介護関連団体によって長年の間に作られてきた、いわば“読み人知らず”のようである。Horneは最後に白紙の項目を作り、介護者それぞれが自由に書き込むよう勧めている。
当欄ではこれまで数回にわたって英国や米国の介護者支援について紹介してきたが、いずれの国でも支援の対象となる「介護者」には障害児・者の親が含まれている。私たちもそろそろ、障害児の親をただ「親」とだけ捉えるのではなく「介護者」としても捉えるべきではないだろうか。そして、障害児の親も含めた介護者には、自分の心身の健康を守り、人間らしい生活を送る正当な権利があるのだという共通認識を、介護者の間にも、医療職や福祉職の間にも、広げていくべきではないだろうか。
福岡の事件のあと、ネット上では、“世間”からの非難に混じって、自分にもあの母親になる可能性はあるのだと戸惑いながら自らの心の内をのぞきこむ障害児の親たちや、母親がそこまで追い詰められた経緯を冷静に分析しようとする療育関係者らの声もあった。そういう人たちに届くことを願い、巻末に「介護者の権利章典」を訳してみた。活用いただければ幸いである。
10月19日から25日はオーストラリアの介護者週間だった。政府の福祉部局と共催した介護者支援団体Carers Australiaのサイトを覗いてみたら、介護者に向けて、こんな言葉が書かれていた。You are only human. あなただって、ただの人。そう──。介護者だって生身の人間なのだから──。