憲章で認知症を世界の優先課題に
国際アルツハイマー病協会は毎年9月21日を「世界アルツハイマー・デイ」と定めて、啓発活動を行っている。今年のテーマは “No time to lose! (今すぐに行動を!)”。介護者による社会への貢献を強調し、その存在に目を向けることを重視した。9月21日前後には協会に参加する77の国と地域で講演やセミナー、メモリー・ウォーク、ティ・パーティなど記念行事が行われた。
しかし今年の目玉はなんと言っても、「国際アルツハイマー病憲章」の発表だろう。憲章は2004年の京都宣言、2006年のパリ宣言を実行に移すべく、情報提供、スティグマ(否定的なイメージ)の解消、医療職への研修など11項目の行動計画を策定。さらに以下の6原則に基づいて認知症を世界の優先課題とするように求めている。@認知症の啓発と理解を高めること。A認知症の人の人権を尊重すること。B家族と家族介護者が重要な役割であると認識すること。C医療と社会的ケアを利用しやすいようにすること。D診断の後、最善の治療が重要であることを認識すること。E公衆保健の改善を進めながら認知症の予防活動を行うこと。(三宅貴夫編「認知症なんでもサイト」より)
冒頭のビデオは最後に「アルツハイマー病の人の未来を変えるために、手を貸してください」と、「世界アルツハイマー病憲章」への署名を求めている。
著名哲学者が認知症患者に“死ぬ義務” 英国
家族の人生とNHS資源を“浪費している”
一方、「世界アルツハイマー病憲章」が発表され、世界中で啓発活動が行われていた、ちょうどその頃、英国では認知症患者に“死ぬ義務”があると言わんばかりの衝撃的な声が上がった。著名哲学者のMary Helen Warnock 氏が雑誌のインタビューで「あなたが認知症であるなら……あなたは家族の人生を浪費しNHSの資源を浪費しているのです」「自分のためにも他者のためにも自殺しなければならないと考えるのは、ちっとも間違っていません」などと述べて、家族や社会の負担とならないための自殺も認められるべきだと主張したのである。
折りしも英国上院では安楽死法制化が議論されている。Warnock氏が影響力の大きな人物であるだけに、死が差し迫り、耐えがたい苦痛がある場合に限定されている安楽死議論を、介護・医療費負担削減のための自殺にも拡げようとの提案に、多方面から激しい批判が巻き起こっている。
英アルツハイマー協会の幹部は「正しいケアを受ければ、認知症のかなり後期でもQOLを保つことが可能です。認知症の人に自殺する義務があるかのように感じさせるなんて、野蛮以外の何でもありません」。Warnock氏自身、84歳の高齢である。自分だけは無関係だと考える人にこそ、ぜひ「憲章」を読み、あの啓発ビデオを見てもらいたいものだ。(Telegraph、9月19日他)。
世界的な経済不況が懸念されているが、各国の経済が逼迫すれば、こうした功利主義の声は今後ますます大きくなってくるのだろうか。それを考えると、いたたまれない気分になり、ささやかながら「世界アルツハイマー病憲章」に署名をさせてもらった。(署名はインターネットで可能http://www.globalcharter.org/)