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救済する法=引き裂く法?

北村 健太郎 20081101 『現代思想』36-14(2008-11):238(研究手帖)


北村 健太郎 20081101 『現代思想』36-14(2008-11):238(研究手帖)


 「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(C型肝炎特別措置法)が、 2008年1月に可決成立して半年が経つ。予想通り、薬害C型肝炎訴訟や本法がマスメディアに取り上げられることは格段に少なくなった。 本誌2月号の拙稿「C型肝炎特別措置法の功罪」でも指摘したが、本法成立は決してウイルス性肝炎の問題解決ではない。確かに、 本法が一定の「終結」を導いたのは事実だが、「法の下の平等」から大きく逸脱していることを見落としてはならない。本法はウイルス性肝炎患者のうち、本訴訟原告団 「のみ」を救済する法律であり、原告団以外は「救済しない」法律である。本法は同じような症状で辛い思いをしている人々を救済する人たちと「救済しない」人たちとに 引き裂き、人々の間に妬みを生む法律である。このような偏った本法が全会一致で成立に至った「政局」の力学を正確に見定めなくてはならない。薬害や医療事故、 医療過誤等を訴訟戦略の加害/被害の二項対立で説明するのはたやすいが、いわゆる「薬害エイズ」の先行研究の一部にも散見されるように、事象の本質を見誤る可能性が ある。我々は常に医療を規定する諸制度や世界経済、広く言えば「政治」に注意を払う必要がある。「政治」決定は、本法の成立過程のように「その場しのぎ」や 「行き当たりばったり」が多いが、本法の救済対象の「線引き」からも分かるように、その影響力は絶大だ。本法成立後、日本肝臓病患者団体協議会や血友病や 先天性フィブリノゲン欠乏症等の先天性凝固異常症患者の地道な運動が続けられている。本訴訟や本法に限らないが、医療に関する事象を「医療をめぐる政治」として 広い射程で捉えた上で、事象の本質的な分析考究が必要だ。前記を念頭に置いた作業として、山本崇記・北村健太郎編 『不和に就て――医療裁判×性同一性障害/身体×社会』(生存学研究センター報告3)の拙稿 「C型肝炎特別措置法に引き裂かれる人たち」がある。


■言及

◆立岩 真也 2008/10/10 「争いと争いの研究について」『不和に就て――医療裁判×性同一性障害/身体×社会』,生存学研究センター報告3

UP:20081202 REV:
薬/薬害  ◇北村 健太郎  ◇ARCHIVES
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