HOME > 全文掲載 >

「SEIQoL-DWから捉えた個人のQoL――筋ジストロフィー患者の生活の語り」

西田 美紀・福田 茉莉・サトウ タツヤ・中島 孝

last update: 20151225

SEIQoL-DWから捉えた個人のQoL
――筋ジストロフィー患者の生活の語り

立命館大学大学院・先端総合学術研究科・博士課程
○西田 美紀(にしだみき)
岡山大学大学院・社会文化科学研究科・博士課程
福田 茉莉
立命館大学文学部
サトウ タツヤ
独立行政法人国立病院機構新潟病院
中島 孝

【研究目的】
 医療分野におけるQuality of Life(以下QoL=生活の質)という概念の導入は、患者の生活環境に視点を向ける動きへと繋がり、医療技術の前進にも大きく貢献した。しかし、従来の機能的側面を重視したQoL評価法は、患者を普遍性に基づいた指標で捉えることを主流としており、個人の把握やケアに繋げていくことが困難であった。個別性という観点は、患者や家族のみならず医療現場においても高まっており、普遍性を重視したこれまでのQoL概念の枠に個人の生活におけるそれぞれの質≠ニいう視点を導入し、生活者としてのQoLを捉えることが必要となっている。本研究では、半構造化面接を用いた個人の主観的評価法The Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life Direct Weighting(以下SEIQoL-DW)を用い、筋ジストロフィー患者のQoLを明らかにし、援助の視点について検討することを目的とした。
【研究方法】
 各対象者に半構造化面接を4回実施し、3回目にSEIQoL-DWを取り入れた。SEIQoL-DWは面接者との対話によって、患者自身がQoLを決定づけている5つの領域(キュー)を選択し、その領域のレベル(満足度)と、重み付け(重要度)を、VAS(Visual analog scale)を用い測定していく方法である。SEIQoL-DWの指標から得られたデータと、語りから得られた質的データをKJ法を用いて質的分析した。調査対象者:53歳〜69歳の男性3名,病名は筋ジストロフィー(遠位型ミオパチー,肢帯型)を対象とした。調査期間:2007年9月〜11月に実施した。倫理的配慮:病院に倫理審査申請書を提出し承諾された。調査対象者には、研究目的・方法・倫理的配慮についての説明を行い署名にて同意を得た。
【結果・考察】
 SEIQoL-DWにより、個人のQoL領域は「家族」「体」「役員活動」「パソコン」「趣味」「ケア」「院内行事」「自分の時間」「他者との交流」と多様であることが明らかになった。また、ADLが低下してQoLも低下するというような結果ではなく、自分にとって重要な領域が満たされているかどうかによってQoLの値が変わってくることが示された。質的分析からは、各領域がこれまでの生活や人生に影響され、現在の生活環境や他者との関係性と自己のニーズから発生していくことが示され、「体=できることを行う」「家族=のため」といった共通領域においては、身体的・社会的関係性の中で"自己の存在価値"が満たされることがQoLに大きく影響していることも示された。
SEIQoL‐DWを指標的観点からのみで捉えると、領域によっては現状に折り合いをつけている場合は高く評価されており、例えば「家族」という重要領域においては、3名とも「介護負担を考えた末、在宅生活をあきらめ入院した」という理由がベースにあり、今は家族の負担が軽減したからと満足度は高かったのだが、その現状を本当に生活の質の高さとして評価してよいのか、"重要な領域の満足度"にも様々な捉え方がある。また、重要領域への期待やニーズが強いと満足度は低く示されており、「身体面」に関しては「できないことは仕方ない、でもできることは自分でしたい」とその領域はケアにより満たされていたが、「仕方ない」と思えないとき=QoL低下なのか、進行しやがて自分のできることが全てなくなってしまった時、価値転換し新たな領域に転換できたアウトカム指標がQoLなのかということを考えると、1回だけで指標的視点からのみでQoLを評価していくのは困難であり、半構造化面接を活用しながら数値の背景にある対象者理解,継続的な評価的視点・ケア介入が必要ではないかと考える。
 援助の視点として、SEIQoL-DWを用いて個人のQoL領域の重要度と満足度を比較しながら、その領域の満足度つまりニーズを満たしていく方法がある。例えば、身体面においては「できること」へのニーズに手を差し伸べていくことで、自己の存在価値が充足しQoLが向上することはあるだろう。しかし、進行性の病いと共にできることは確実に減ってくる。できることに価値を置いた関わりの中で、できることが全てなくなった時、対象者は自己の存在価値をどのように受け止めるだろうか。そこで、個人のニーズを理解,受容しながらも、できてもできなくてもその人の存在価値は変わらないといった「無条件の存在価値の肯定」といった関わりも必要ではないかと考える。

 追加:終わりに、SEIQoL-DWを実施して、A氏:「自分が何を大切していたり、支えられて過ごしていたか、普段意識していなかったことを認識した」B氏:「家族への思いを話せたことでスッキリした。自分の生活や気持ちの振り返りができて、これからの生活に目を向けられた」C氏:「100%何かに満足したとしても病気の苦しみからは抜けられない」という感想があった。このように、SEIQoL-DWを用いた半構造化面接は、単に援助者側の生活やQoL理解といった情報収集的な関わりとは別に、潜在しているものへの意識化やカタルシス効果をもたらす場合もある。その際には、語ることによって自己が自己を捉えなおし主体的な生活へと視点を向けられる場合もあるが、生活の語りの背景にある心理的ニーズ(苦しみや不安)への介入が必要な場合もある。本研究はSEIQoL-DWを一度しか実施できなかったため、その限界さについては考察で述べたが、今後継続的に実施していくことで、SEIQoL-DWを深めていく必要があるのではないかと考える。


*作成:近藤 宏
UP:080902
全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)