4、ディスカッション
@ 家族介護の限界
療養初期の患者も専門職の助言を求めているが、訪問看護は利用できないし、療養通所介護も数が少ない。近年は人工呼吸療法の長期化により、家族の高齢化が進み、未婚の介護者の「囲い込み」や自立困難も目立つ。これらから、家族に介護を期待できない患者は生きる術を見失い治療を断念する傾向にある。したがって呼吸器装着は自己決定どころではなく、家族や地域社会がそれを左右しており、「自宅で療養できるのなら呼吸器をつけたい」という本音が言えずに亡くなる患者も少なくない。適切な時期に治療を受けても自宅に戻ってから適切なケアが継続できなければ治療効果も上がらない。発症直後から訪問看護師や保健師による助言や指導が臨機応変に受けられる態勢作りは急務である。また家族の不安は無収入による家計の逼迫にも及んでいることから、家族の所得保障を求める声もある。
A 家族のQOL
患者のQOLのみならず、同居家族のQOLも向上しなければならない。家族のQOL向上がなければ、患者は治療を開始したことを後悔するようになってしまうからだ。裏返せば、多くのALS患者は家族の幸福を生きがいにしているのである。家族の幸福や健康は患者のQOL向上にもっとも有効である。しかし、家族以外の者の介護を受け入れることは容易くはない。以下に要因を挙げる。
B なぜ他人に任せられないのか
・患者本人が他人の介護を望まない。
・ヘルパーでは任せられない。
・ケアと愛情とを切り分けられない。
・他人を家に入れたくない。プライバシーがなくなるから。
・家族介護の規範がある。br
・人を雇えばお金がかかる
C なぜ支援が難しいのか
・支援策(介護保険、療養通所介護、短期レスパイト)が、長期療養問題の根本的な解決策にはならない。
・看護職による介護は高くついてしまうために、スポットでしか依頼できない。
・レスパイトは初期から開始し継続する。さもないと患者がレスパイトを嫌がる。
・介護が制度化されると地方財源との兼ね合いから自治体の保健所福祉事務所、それにケアマネが在宅ケアのゲートキーパーになっているケースもある。「市区町村のお金の問題」が引き合いに出され、公的支援が出し渋られている。
・深夜休日をカバーする長時間の公的介護派遣制度、自立支援法の重度訪問介護はある。しかし単価の低さ、ヘルパー不足、医療的ケアの制限がネックになり、事業者がサービスを提供したがらない。また介護保険サービス1割負担が家計を圧迫し、介護保険サービスを全額使いきれず、結果として障害福祉を利用できていない。
・介護保険制度では提供できるケアに制限があるので、条件内でケアプランを練るしかない。これでは、ALSに必要不可欠な経管栄養や吸引、マッサージ、リハビリ等のケアが利用できない。利用者もこれでは満足できない。
5、抜本的な対策
@ 重度訪問介護の支給量にみえる地域間格差
昨年、各地の重度障害者等包括支援サービス対象者に対する重度訪問介護の給付状況を調べてグラフにした(グラフはワード版要旨を参照)。これによれば24時間在宅独居を実現している地域もあるが、遠く及ばない地域もある。
A 地方分権による格差
制度の解釈も地域により異なっている。そのため在宅での医療的ケアに理解がない地域では、看護と介護の連携ができないばかりか、独居単身者の在宅は不可能になる。そのような地域では、専門医の説明の内容も貧困にならざるを得ない。呼吸治療を希望しないように患者に暗に指導するしかなく、事前指示書により治療断念の意思決定を支える介入さえ実施されている地域や病院もあった。
B 患者の交渉
障害者自立支援法によれば、介護制度も措置から契約となったはずだが、申請制ではあるために、利用者個人の交渉が必要である。声の大きな者は得をして、そうでなければ制度も利用できない。
C K市はゼロ時間から860時間へ(変更可能)
しかしながら、自立支援法では給付額に上限はなく、個々のニーズによっては個別に審査し、必要が認められれば給付も増額しなければならない。希少難病のニーズを地方政治に訴え社会の仕組みを変えるのは患者家族の役目だが、当事者意識に目覚める患者は少ない。当事者の働きかけがなければ制度の利用は伸びないが、地方分権から国は地方に指導できない状況にあり、県民性も反映して地域間格差は拡大する傾向だ。
6、サクラモデルによるアクション
NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会では、2003年度から以下のような活動を行ってきた。
@ 重度訪問介護従業者の養成「進化する介護」
A 医療的ケアの普及のための啓発活動
B 専門職と当事者に対するピアサポート
これらの非営利活動により重度訪問介護サービスの利用が進み、患者家族の就労や就学が実現している。また家族の通院やレスパイトも実現し、家族を介護からしばし解放することに成功している。本年から京都市で同様の活動を開始したところ、筋ジスの青年が当方のシステムを利用して介護事業を起こすことになった。
8、結論
家族介護による在宅人工呼吸療法には限界が来る。今後の難病ケアは家族の介護から脱皮し、「介護の社会化」に向けて飛翔する必要がある。そのためにも、
@ 看護と福祉とは早急に連携し、必要に応じて長時間滞在型の訪問看護・介護の実現に努力する。医療的ケアにおける分担も、ケースバイケースで柔軟に行えるようにする。
A 病院と診療所の連携を進め、在宅移行時における保健師、難病医療専門員、MSW、CW,ケアマネ、患者会、福祉事務所等の相談機能をスムーズにする。また入院のタイミングを見極めた訪問看護師は迅速に対応をする。療養通所介護や施設を利用した地域でのレスパイトにはニーズがあるので、療養初期から利用できる仕組みを作る。
B 当事者(団体)と協同して政治に訴え、必要なサービスはどんどん作る。家族以外の介護者を協同して育てていく。