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「終末期医療、どう考える――後期高齢者終末期相談支援料をめぐって」(インタビュー記事)

川口 有美子 20080620 『シルバー新報』

last update: 20151225

川口 有美子・日本ALS協会理事/NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会理事 インタビュー

「医師が一筆とる」は危険 説明・告知のあり方改善が先決

 後期高齢者終末期相談支援料は凍結ではなく廃止にすべきだ。今回の点数創設の最大のねらいは「医療を中止してもいい」と患者に自ら治療を断らせる点だろう。将来的には、年齢に関係なくすべての世代に「一筆書かせておく」という形で提案されるかもしれない。しかし、病人の自己決定には注意が必要だ。
 私の母親は13年前にALSと診断されて、介護を受けながら自宅で療養していたが昨年亡くなった。人工呼吸器をつけて、地域のさまざまな医療・介護サービスを使いながらごく普通に暮らし、最期も自宅で家族に看取られて逝った。
 でも、世の中にはALS療養者を「呼吸器につながれてしまった末期患者」と見る人もいる。人工呼吸器や経管栄養に対する偏見は根強い。そもそも終末期など定義できないはずだが、医療機械をつかっていると終末期と思われてしまう。
 医師の主観によっても説明内容や治療方針は変わる。当然、ALS患者の呼吸器をつける・つけないの判断も医師の説明に左右される。
 神経性疾患のインフォームドコンセントは特に難しい。呼吸器装着により、呼吸不全が改善され長生きできるが、診断がついていきなり「段々動かなくなって最後は呼吸が止まる」といった説明をして、「人工呼吸器はどうするの」と早急に意思決定を迫る医師も少なくない。その上「呼吸器つけたら、家族は24時間介護で夜も眠れなくなる」と言われれば、患者は驚き悩むだろう。これは、呼吸器をつけないほうがいいという暗黙のメッセージになっている。地域によっては今でも、適切な医療や介護が受けられない。患者が望んでも医療が受けられない状況があるのに、そこを改善しないで、どうして治療を断る方法やルールを先に考える必要があるだろうか。本末転倒だ。 実際には、医師が「末期」と判断した後も、治療で蘇る人はいる。実は70代の私の父親もそうだった。3年前に誤嚥から肺炎をこじらせたとき「あと2日の命」と診断されたけれど「そんなはずはない」と医師に頼み込んで、できる限りの医療をやってもらった結果回復した。今ではゴルフにも飲みにも出かけてピンピンしている。もしあのとき「延命治療をしないで」というリビングウィルがあったら、父は今はこの世にいなかったかもしれないと考えるとゾッとする。  だから、治療を断る文書により医師の諦めが早くなることも当然あるだろう。患者は医師には「最期まで最高のケアをしてください」と言っておくべき。まだ死期でもないのに、胃ろうや中心静脈栄養など具体的な医療行為の「する・しない」を先に決めるのは、3カ月後の夕食のメニューを今決めるようなもの。食べたいものは変わるし、その日のシェフのお勧め料理もあるだろう。
 自分の終末期について意思を示しておくことは大切だとは思うが、それを制度や法律にするのは反対だ。また文書を書いて、病院や誰かに預けることもない。重病になったら自分でどうしたいか書いて自宅に置いておけばいい。家族には内容と保管場所を伝えておく。もし気持ちが変わったとしても簡単に捨てたり書き変えることができる。口頭でいつでも変更可能なほうが安全だし、その時の希望を反映できるから。他所に預けるとプライバシー侵害や複製や偽造の恐れもでてくる。
 病院の収容力が問題なら、病院で必要な治療をおこない、たとえ呼吸器や経管栄養をしても、あとは在宅で療養できるようにすればいい。自宅療養が無理な場合は病院で療養するしかないが、もっと地域医療や訪問看護を充実させれば、自宅でも十分な医療とケアを受けることができるだろう。家族関係や家族の福祉もカギになる。この方法は日本のALS患者が長年積み上げてきた実績でもある。
 最近では、たいした治療もしないで看取ることを「自然な最期」と称する雰囲気もある。福祉施設で福祉職だけで看取り、医療につながないというおかしなことも起こっているようだ。 「口から食べられなくなったらおしまい」「呼吸器をしてまで」などと言われるが、治療を否定するほうが「不自然」な場合もある。たとえばALSでは胃ろうや呼吸器により元気を取り戻して、温泉に行ったり、飛行機にも乗れたり、「できる」ことが増え、就労や進学などで社会復帰している患者もいる。
 医師は治療によるメリットをしっかり説明し、必要があれば福祉につないで欲しい。

註1)後期高齢者終末期相談支援料
 終末期と判断された75歳以上の高齢者や65歳以上の重度障害者を対象に、医療チームが終末期の治療方針について患者・家族と話し合い、患者本人の意思決定を基本に延命治療の希望の有無などを文書にまとめた場合、患者死亡後に2千円の診療報酬が支払われる。患者に意思決定を迫ってはならず、作成後の変更は何度でも可能とされている。

註2)リビング・ウィル
死期が迫った場合の治療方針などについて、本人の意思を示しておく書面。


UP:20080630
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