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NPO法人滋賀県難病連絡協議会の財政と課題

滋賀県行政との関わりを中心として

○立命館大学大学院先端総合学術研究科 葛城 貞三(会員番号2421)
姫路日ノ本短期大学非常勤講師 北村 健太郎(会員番号2414)
20080615 第22回日本地域福祉学会大会 於:同志社大学

last update: 20151225

◆要旨

□1.報告の目的
 地域福祉の実践において、各地の難病連絡協議会(以下、難病連)が果たした役割は、決して看過できない。しかしながら、各地の難病連のこれまでの活動を詳細に述べた先行研究や論文は非常に少なく、報告者の論文ぐらいであろう。本報告の目的は、滋賀県難病連絡協議会(以下、滋賀難病連)の「2006年補助金問題」(後述)を事例として、各地の難病連が抱える活動資金確保の問題、行政との関わりについて考察することである。

□2.滋賀難病連と「2006年補助金問題」
 日本における難病政策はスモン対策に始まる。1972年6月、厚生省(当時)は特定疾患対策懇談会を設置し、10月に「難病対策要綱」が制定された。滋賀県下では、1972年にスモン患者会、1982年に膠原病患者会が患者会活動資金として、滋賀県に補助金の交付申請をした。滋賀県は「難病患者たちが一緒に活動したら考える」という趣旨を回答した。1984年9月9日、6団体565人で滋賀難病連を結成して、ただちに補助金交付を要望した。その後、1985年度から運営補助として30万円が交付された。1989年度は50万円、1994年度は90万円に増額された。共同作業所開設を進めていた滋賀難病連は、同時にNPO法人取得の準備を行ない、2001年8月27日に認証された。一方、滋賀県からの補助金は2003年度76.5万円に減額、2006年度からゼロとなった。
 滋賀県は、滋賀難病連の相談活動に対して補助金を交付してきた代わりに県立難病相談・支援センターの運営を滋賀難病連に委託すること、滋賀難病連はNPO法人を取得して自立したという二点を挙げて、補助金不要の理由だと説明した。それに対して滋賀難病連は、これまで滋賀県は「患者会がまとまったら補助金を出す」と回答してきたこと、滋賀難病連は運動組織、県立難病相談・支援センターは地方自治体組織であって組織の性格や会計に大きな相違があること、滋賀難病連は収益事業をする団体ではなく、法人格を取得しても財政的自立が困難であることの三点を挙げて反論している。

□3.滋賀難病連の財政問題
 滋賀難病連の財政を具体的にみる。最後の補助金が交付された2005年度の決算書(以下、2005決算)と2007年度の決算見込み書(以下、2007見込み)と比較すると、2005決算には県補助金765,000円が計上されているが、2007見込みには補助金が廃止されたので記載がない。2005決算の民間福祉振興財団の助成金1,100,000円は難病連に300,000円、加盟団体に800,000円を配分してきたが、2007見込みは200,000円に大幅に減額されたため、全額を難病連に計上した。2005決算の寄付金と2007見込みの寄付金はほぼ同額であるが、2005決算の寄付金の内容が保健所で開かれる難病相談会等に参加した報償費に対し、2007見込みでは財政危機を乗り越える方策として、機関誌に広告の協賛を訴えたこと、理事の皆さんに寄付をお願いしたこと、賛助会員拡大に取り組んだこと等である。2005決算の相談事業費に含まれている事務所借用経費は170,000円であったが、2007見込みは610,000円と大幅に増えた。結果として、2007見込みの支出総額は最小限に抑えた結果、事務所借用経費も含め1,210,000円、収入総額1,360,000円となり、帳簿上収支バランスは保たれた。しかし、加盟団体の活動資金の削減は、疾病団体の運動を困難にしている。滋賀難病連では、日本難病疾病団体協議会(JPA)の研修会や幹事会の参加回数を減らした。2008年度は2007年度並の支出に抑えても、不足分は繰越金で充当せざるを得ない。滋賀難病連は、加盟疾病団体への情報提供や療養環境改善の運動を続けてきたが、これらの運動継続も困難に直面している。地方自治体の財政難を踏まえつつも、今ほど行政の支援が必要なときはない。
 学会当日は、滋賀難病連の詳細な収支を提示し、難病連が抱える活動資金確保の問題、行政が果たすべき役割について述べる予定である。また、会場のみなさんからも活発なご意見をいただきたい。


◆報告原稿

1.報告の背景と目的
 都道府県を単位として難病の疾病団体の連合体、地域難病連があり、42の都道府県◆1 に地域難病連が組織されている。報告者は、2007年度立命館大学大学院先端総合学術研究科博士予備論文(修士論文相当)で、「滋賀における難病患者運動と難病行政――滋賀県難病連絡協議会の歴史を中心にして」をまとめた。地域難病連の活動を詳細に述べた先行研究や論文はほとんどない。
 本報告の目的は、各地の地域難病連が抱える活動資金確保の問題、行政の役割について、滋賀県難病連絡協議会(以下、滋賀難病連)の「2006年補助金問題」(後述)を事例として述べる。

2.滋賀難病連結成と活動
 滋賀における難病の患者会運動は、1972年のスモンの患者会が、1982年膠原病の患者会が「活動資金の援助をしてほしい」と、それぞれ滋賀県に補助金の申請をしたのが始まり。当時、滋賀県はスモンの患者会、膠原病の患者会に対しても、「難病患者たちが一緒になったら考える」という趣旨の回答をした。
 1983年スモンと膠原病の患者会が中心になって、腎臓病、筋無力症、リウマチ、血友病の患者会に呼びかけて準備をし、1984年9月9日、6団体565人で滋賀難病連を結成し、ただちに補助金交付を要望した。その結果、翌1985年度から患者会の運営補助として30万円が交付された。
 1989年度は50万円に、1994年度は最高額の90万円に増額された。滋賀県栗東市で難病患者の共同作業所開設めざして準備を進めていた滋賀難病連は、同時にNPO法人取得の準備を平行してすすめた。NPO法人は、2001年8月27日に認証された。

3.「2006年補助金問題」
 2002年6月1日「しがなんれん作業所」を開設した。一方、滋賀県からの補助金は2003年度相談事業に対する補助との条件付で76.5万円に減額された。
 2005年2月、滋賀県から2006年度から補助金をゼロにすると突然言われた。これが「2006年補助金問題」である。結果として、補助金が2006年度からゼロとなった。

<滋賀県が補助金をゼロにした理由>
1.県立難病相談・支援センターを設置し、その運営を滋賀難病連に委託するので滋賀難病連に補助金を出す理由がない。
2.滋賀難病連はNPO法人を取得して自立した団体となった。

 難病相談・支援センターは、厚生労働省が2003年、都道府県事業として、難病相談・支援センターを作れば2分の1の補助金を出すというもの。滋賀県は2006年10月開設し、運営を滋賀難病連に委託した。設置主体は滋賀県で、会計は滋賀難病連とは別処理。

<滋賀難病連の反論>
1.滋賀難病連は難病患者同士が集まった運動組織であるのに対し、県立難病相談・支援センターは滋賀県が設置主体であって、組織の性格も会計処理も全く別である。
2.県立の難病相談・支援センターは公的機関であるから、滋賀難病連に寄せられやすい相談(良い医療機関はどこか、信頼がおける医師は誰か)は「相談内容」としてなじまない。
3.滋賀難病連は収益事業をする団体ではなく、法人格を取得しても、財政的自立は難しい。
4.滋賀県は「患者会がまとまったら補助金をだす」と言って、1985年度から2005年度まで補助金を出してきた経緯がある。

 滋賀難病連が県補助金打ち切りに対して反論したことと、滋賀県難病相談・支援センター事業の委託を引き受けたことは全くの別の理由である。実際、滋賀難病連の予算決算には難病相談・支援センター事業は含まれない。

4.滋賀難病連の財政問題
 滋賀難病連の財政を具体的にみる。最後の補助金が交付された2005年度の決算書(A)と2007年度の決算書(B)を比較する。
<収入の部>
 県補助金――Aは765,000円。Bは補助金が廃止されたのでゼロ。
 民間福祉振興財団◆2 の助成金――Aは1,100,000円。内、300,000円を滋賀難病連に、800,000円は各加盟団体に配分(支出の部の育成援助費参照)。Bは、1,100,000円から200,000円に減額されたので、全額を難病連に計上。
 寄付金――Aは474,244円。Bは725,962円。Aは、滋賀難病連の役員が保健所主催の難病相談会等に参加した報償費。Bは、財源確保のために、機関誌に広告の協賛を訴えた。難病相談・支援センターに勤務している役員賃金の一部を寄付していただく。滋賀難病連の運動を財政の面から支えていただく賛助会員、年間一口1,000円の拡大に取り組む。
<支出の部>
 相談事業費――Aは958,697円。Bは608,556円。Aの主な内容は、家賃・共益費が年間170,000円、難病相談に参加する役員の謝礼。Bは608,556円全額事務所の家賃・共益費。2006年10月難病相談・支援センターの受託と同時に移転した事務所の面積が3倍になり、家賃・共益費の負担が重い。 

 結果として、Bの支出総額1,364,976円、収入総額1,471,321円となり、2007年度決算の帳簿上の収支バランスは保たれている。2007年度、滋賀難病連は、日本難病・疾病団体協議会(JPA)の研修会や幹事会の参加回数を減らし、各種研修会の参加も断念。機関誌発行による共同募金配分金100,000円は、2009年度から廃止の予定。今年度から保健所での難病相談会に参加する役員の報償費はなくなり、旅費だけになる。2008年度の支出を2007年度並に抑えても、現状のままでは2009年度の不足分は積立金の運営準備基金660,000円に手をつけることになる。
 滋賀難病連と各加盟団体◆3 は、滋賀県の補助金がなくなり、民間福祉振興財団の助成金が大幅に減額になったことで活動が困難。滋賀難病連の主な活動は、加盟団体への情報提供や毎年の各疾病団体の要望を取りまとめて知事に提出する療養環境改善の取り組み、国会請願署名と募金の取り組み、財政基盤確立に向けての運動などである。

5.滋賀難病連の課題
◇第25回滋賀難病連定期総会の運動方針(2008年5月10日)
(1)患者会の役割と行政の任務
 運動方針で2008年度は行政の患者会支援について話し合うことを決議。
「病気や障害の自己管理(セルフマネージメント)、ピアサポート、ソーシャルアクションを地域社会の中で発信していく役割がある。行政はこのような役割を患者会ができるように支援する任務がある」(日本難病・疾病団体協議(JPA)代表 伊藤たておの講演から抜粋)
(2)滋賀難病連の財政確立
 滋賀難病連も財政確立を目指し「入れ歯リサイクル事業」を取り組むことを決定。この事業は、JPAと日本入れ歯リサイクル協会が一緒になって、不要になった入れ歯を全国各地で回収し、恵まれない世界の子どもたちを支援するユニセフに協力する事業。

◇滋賀難病連と滋賀県、今年度最初の話し合い(2008年6月10日)
 滋賀難病連の滋賀県への提起
1.滋賀県は難病患者会支援を、滋賀県行政の役割として位置づけ、滋賀難病連に対し積極的な支援を進められたい。
2.重症難病患者が安心して療養できるシステム作りを滋賀難病連と滋賀県、関係機関が協働して研究し、政策化する。
3.滋賀県難病対策基本計画を滋賀難病連と滋賀県と協働して作り上げること。
→ 滋賀県は基本的な考え方として同意を示す。

 現在、難病患者・家族は、政府の社会保障費削減の影響を大きく受けている。地域の末端の患者会も、厳しい財政面での困難を抱えている。難病患者にも命ある限り、安心して、住み慣れた地域で暮らし続ける権利がある。滋賀難病連は、この困難な状況を乗り越え、難病患者の自律と自立した生活を獲得するために、今後も行政の患者会への育成、支援を要求し、運動を進めていきたい。

注:
◆1 地域難病連の未組織は沖縄、鳥取、島根、石川、富山の5県。
◆2 民間福祉振興財団は、遊戯協同組合(パチンコ業界)が出資して、県下の民間福祉振興にために設立された団体。
◆3 特定非営利活動法人滋賀県難病連絡協議会は、社団法人滋賀県腎臓病患者福祉協会、全国膠原病友の会滋賀支部、京都スモンの会滋賀支部、日本リウマチ友の会滋賀支部、全国筋無力症友の会滋賀支部、滋賀ヘモフィリア友の会湖友会、稀少難病の会おおみ、社団法人日本オストミー協会滋賀支部、社団法人日本てんかん協会滋賀県支部、全国パーキンソン病友の会滋賀県支部、日本ALS協会滋賀県支部、賛助会グループ12団体2,280名で構成。

UP:20080426 REV:20080712 0919
  ◇日本ALS協会滋賀県支部  ◇Archive
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