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「米国 the Community Choice Act」

児玉 真美 200804 介護保険情報 2008年4月号

last update: 20110517

地域ケアの選択肢求める障害者 首都で保健省などを包囲、逮捕者も 米国
 なぜか日本でも毎日のように報道される米国の次期大統領選挙。そろそろ民主党もObama候補優勢が固まってきたように見える。今までObama−Clintonの激戦ばかりに焦点が当てられてきたが、早々と候補者に決まって日本ではニュースに登場することの少なかった共和党のMcCain候補との間で、もうじき本格的な論戦が始まるだろう。そのMcCain氏のWashington D.C.事務所で20人以上の障害者が逮捕されたとは聞き捨てならない。4月29日の出来事だ。一連の報道や障害者の人権団体ADAPTのサイトなど、関連ネット情報から事情を探ってみた。

公的医療保険に地域での生活選択肢を
 現在、米国の公的医療保険メディケア・メディケイドでは、介護給付はナーシングホームでの入所にしか認められていないため、施設に入所したくない高齢者や障害者は在宅支援サービスを自腹でまかなって地域で暮らすしかない。多くの関係団体が何年も運動してきた結果、去年、民主・共和両党の議員がスポンサーとなって、社会保障法の一部を改正するthe Community Choice Act (地域選択法)案が議会に提出された。法案の主眼は@メディケア、メディケイドで施設への入所対象となる人に、入所するか、相当額を介護サービスに使って地域で暮らすかの選択を可能にする、A地域支援のインフラ整備を目的に連邦政府から州に予算を下ろす、など。

McCain事務所、保健省などを包囲
 ところがBush政権はぬらりくらり、法案は委員会で停滞したままだ。Obama、Clinton両氏は既に法案のスポンサーに加わったのだが、MaCain氏は加わっていない。「これでは家族が一緒に暮らせない。共和党は家族を大切にと説くくせに」と怒ったADAPTのメンバーらは共和党全国委員会の建物を包囲。さらにMcCain氏の事務所にも押しかけた。氏は不在だったが、彼らは議員と面会の約束を取り付けようと粘り、一部が不法集会の咎で逮捕された。
 ADAPTは当時D.C.で創設25周年の記念大会を開催しており、全米からメンバーが結集していた。実はこの2日前にも雨の中、500人を超える人数で米国保健省の建物を包囲している。そしてセキュリティと揉み合った挙句、50人程度が内部に突入し、ついにLeavitt保健相と面会を果たした。ここでも逮捕者が数名。

多数の逮捕者、警察での介護は?
 それにしても思わずニヤリとしてしまうのは、29日事後の警察内部の写真である。同日のABCニュースが掲載した。廊下に一列に並べられた“容疑者”たちと、彼らを遠巻きに眺める警官たち。電動車椅子使用の重度者が目立つ。当たり前のことながら、みんな不機嫌に疲れている。その写真にニヤついたのでは、逮捕で不自由や不快を体験された方々には大変申し訳ないのだが、もちろん彼らを笑うわけではない。これから調書を取り、然るべき手続きをすませる間には、これだけの人数がトイレにも行くだろう。食事をさせないわけにもいくまい。もし留め置くとしたら、その他の介助も必要になるが……と想像すると、警察官らが介助にあたふたする様が思われて、ついニヤついてしまったのだ。
 この日、地域での介護支援を訴える彼らの声の切実さを最も身に沁みて聴いたのは、警察だったかもしれない。介護ニーズはいくら頭で考えても本当のところなど分かりはしない。わが身で知るのが何よりの啓蒙なのだから。

車椅子スロープより景観重視のDC市
 D.C.と言えば今年初めに、唖然とするニュースがあった。老いた両親の家のポーチにスロープをつけようとした男性に、市当局が「待った」をかけたのだ。30年代の建物が並ぶ歴史景観保全地区だから、というのがその理由。ところがWashington Postがこの悶着を取り上げ、弁護士らが支援を名乗り出るや、市は一転して交渉に応じ、スロープを認めただけでなく賠償金まで支払った……という役人根性のお粗末。1月10日のWPの記事タイトルは「人間の尊厳にも保全が必要」だった。
 そんな首都の町に集結し、権力や体制を象徴する人たちにひと泡もふた泡も吹かせていった障害者パワーに、盛大な拍手を送りたい。それから、七夕にはちょっと早いけれど、大統領選挙が終わったら地域選択法が無事に成立しますように。


*作成:堀田 義太郎
UP:20100212 REV: 20110517
全文掲載  ◇児玉 真美
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