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ALS患者の在宅独居移行支援に関する調査研究(4)

制度的諸問題

○立命館大学大学院先端総合学術研究科 長谷川 唯(会員番号2418)・仲口 路子(会員番号2416)・山本 晋輔(会員番号2419)
立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー 北村 健太郎(会員番号2414)
日本学術振興会特別研究員 堀田 義太郎(会員番号2415)
200806** 第22回日本地域福祉学会大会 於:同志社大学

last update: 20151225

◆要旨
◆報告原稿


□1.研究目的
 本研究の目的は「ALS患者の在宅独居移行支援に関する調査研究(3)」において析出された諸論点を受けて、在宅独居移行時に患者及び支援者が直面した困難の背景にある要因を、とくに生活支援諸制度の相関関係と解釈のズレという観点から改めてまとめ直し、課題を抽出することにある。
 今回私たちは、あるALS(筋委縮性側策硬化症、以下ALSと略す)の療養者「A氏」が病院での長期間におよぶ入院生活のあと、施設を出て在宅へと、しかも日本の福祉施策では「含み資産」とされている意味での「家族」をあてにしない状況下での「生活を取り戻す過程」にかかわることができた。ここにはさまざまな困難や障壁があり、それらの多くは今後ぜひとも積極的に検討・討議していくべき課題となった。本報告では、その経過における制度の運用の仕方の問題点を中心に報告する。

□2.対象と方法
 対象は、家族と同居せずに独居在宅療養生活を送ろうとし、現在も生活されているALS療養者である。主たる調査期間は2007年1月から9月にかけてであるが、本報告ではALSを発症したと思われる2002年11月から現在に至る経過について報告する。

□3.内容
 ALS療養者が在宅独居療養生活を送ろうとする場合には、様々な諸制度・施策を輻輳的に援用・運用することが必要になる。これらの諸制度・施策を常時複合的に利用するニーズを有するALS在宅独居療養者の場合、制度ごとに定められた支援対象や適用範囲、実際の運用形態、また制度間の優先関係等によって、様々な問題が生じた。たとえば、通常は介護保険法が障害者自立支援法に優先して適用されるが、ALSの在宅独居療養の場合、介護保険法の限度額では介護量の不足が生じ、多岐にわたるニーズに対応しきれない。また一割負担も発生する。この不足の多い介護保険法を全て使用した上でなければ障害者自立支援法は適用されない。しかし生活保護を受給すると被保険者でなくなるため、障害者自立支援法が優先されることになる。こうした制度間の優先関係の変更は、混乱を招き、制度を運用する上で大きな障壁になった。生活保護行政の対応も問題であった。生活保護法は本来、生活に困窮する国民に対して必要な保護を行い、その生活を保障するものである。しかしその利用可能性は、諸地域の行政の裁量に委ねられてしまい、本ケースのような長期療養から在宅生活に移行するALSおよび類似の重度障害者の生活には、諸制度と諸社会慣行によって無保障期間が生じてしまう。生活保護は入院中には適用にならないので、後から申請時に遡及して給付されるとしても保護開始決定までの期間には誰かが負担をしなければならない。本報告では、このような制度の運用における問題点を詳細に報告する。

□4.結論
 諸制度間の相関関係と問題点を正確に把握し、支援体制をコーディネートできる機関・業務の担い手も存在せず、必要な支援が必要な時に受けらず、生活に困難を来した。これら制度運用における問題点を提示し、検討する。


UP:20080430 REV:
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