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「在宅療養中のALS療養者と支援者のための重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラムの開発」事業完了報告書  第三章.

特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会 2008/03/31
平成19年度障害者保健福祉推進事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト

last update: 20151225

平成19年度障害者保健福祉推進事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト

「在宅療養中のALS療養者と支援者のための重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラムの開発」事業完了報告書  第三章

平成20年3月31日
特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会


T,介護老人保健施設対象調査

1.はじめに
わが国の国民医療費は年々増加の一途をたどり、2002年に開始された介護保険もその需要にサービスが足りない状態である。これらの問題から医療費削減と家族の介護負担の軽減のために平成18年から重度障害者等包括支援事業が開始され、この事業サービスによって常時介護を要する障害者等が、身体介護、家事援助等の居宅介護(重度訪問介護)、短期入所、生活介護、行動援護、児童デイサービス、短期入所、共同生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援及び旧法施設支援(通所によるものに限る)を包括的に利用することが可能となった。
この事業サービスでは、従来居宅介護サービスを基本としていた利用者が、居宅介護サービスを受けている時間に加えて、慣れたヘルパーの付き添いで通所介護を受けることができる。あるいは、家族の急な仕事や病気などでも柔軟に短期の施設ケアを組み合わせることが可能である。これにより従来居宅介護サービスか、入所のどちらかを選ばざるを得なかった重度の障害者も家族の負担を軽減しながらQOL(Quality of life)向上を目指すことが可能となる。
しかし重度障害者等包括支援サービスが開始となり一年が経過しているが、未だ各種サービスの包括的な利用が進まないのが現状である。そこで今回ショートステイや、デイザービスの利用に限り、重度の障害を持つ患者を施設がどのくらい受け入れているか東京都の介護老人保険施設に限って悉皆調査を行った。さらにショートステイを受けない施設が重度の障害者を受け入れられない理由やどのようにすれば受け入れが可能になるのかインタビューによって明らかにする。

2.方法
 (1)対象施設
東京都の医療関係名簿(平成18年度版)に掲載された介護老人保健施設129施設を対象とした。介護老人保健施設を選んだ理由は、医療的ケアが必要な重度の全身性の障害を持つ患者は、吸引や人工呼吸器の管理など一回は短時間であってもほぼ絶え間なく医療的ケアが必要であるため、医師や看護師が常勤である施設での入所、通所介護が適切であると考えたからである。
(2)調査内容
気管吸引を伴う医療的ケアが必要で、重度の全身性障害を持つ患者の短期入所療養介護や通所介護の受け入れ状況に関してアンケート調査を行った。
インタビューは、アンケートにお答えいただき、訪問インタビューが可能と答えていただいた施設のメディカルソーシャルワーカー(以下MSW)に@医療的ケアが必要な重度の障害を持つ患者を2週間のショートステイやデイケアを受け入れられない理由A受け入れ可能にするための条件B利用者にとって慣れた介護人の同行によってデイケアが可能になるのかについて質問をした。
調査期間は平成20年1月〜2月である。
(3)倫理的配慮
アンケート調査は質問数を最小限とし、対象施設の権利やプライバシーの保護を約束し無記名とした。インタビュー調査は、途中での中断や答えたくない質問には答えなくてもよいこと、プライバシーの保護などを口頭と文書で説明をして同意書にサインをしていただいた上でインタビューを行った。

3.結果
(1)短期入所、通所介護受け入れに関する調査結果
 東京都の介護老人保健施設129施設に送付し、64件の返信がありそのうち61件(47.3%)の有効回答を得た。
まず、胃瘻などが造設されている利用者を短期あるいは長期で受け入れたことがあるか過去1年に限って聞いたところ、49施設(80.3%)があると答え、12施設(19.7%)がないと答えている。次に過去1年間に、気管切開の利用者の短期あるいは長期受け入れの経験を聞いたところ、7施設(11.5%)があると答え、54施設(88.5%)がないと答えている。気管内吸引を伴う医療的ケアが必要で、重度の全身性障害を持つ患者の短期入所ができるかの問い合わせを過去一年に受けた経験があるかについて、27施設(44.3%)があると答え、34施設(55.7%)がないと答えている。同様に長期入所ができるかどうかの打診は33施設(54.1%)があると答え、34施設(45.9%)がないと応えている。
気管吸引を伴う医療的ケアが必要で、重度の全身性障害を持つ患者の短期入所の受け入れの可能性は、受け入れは困難が48施設(80%)、可能であるは1施設、わからないその他9施設(14.7%)、無回答3施設であった。その他の自由回答には、ケアワーカーや看護師の人材が充足できれば可能、受け入れ人数を限れば可能、現在の入所者の状況によっては可能、障害者の全身状態によって可能であった。また夜間の看護師の一人体制では困難という記載もあった。
今後の短期入所の受け入れを施設として検討しているかについては、検討しているは6施設(9.8%)、検討をしていない42施設(68.9%)、その他8施設(13.1%)、無回答5施設(8.2%)であった。その他の自由記載では利用者の全身状態と現在の収容人数で検討する。しかし現在の看護師や夜間の体制では無理であると判定されお断りしていると利用者介護者の状況は十分わかるが断ざるを得ない様子がわかる。
デイケアの受け入れについては受け入れている1施設(1.6%)、受け入れていない56施設(91.8%)、その他3施設(4.9%)、無回答1施設である。今後のデイケアの受け入れを検討しているかには、検討しているは3施設(4.9%)、検討していない51施設(83.6%)、その他4施設(6.6%)、無回答3施設である。現状では通所介護の申し込みもなく、受入施設も少ないが自由記載欄には、今後は状況により検討したい、制度の動向を見ながら前向きに検討したいとの記載があった。
虐待防止法案に関連して、気管吸引を伴う医療的ケアが必要で、重度の全身性障害を持つ患者の、緊急やむを得ないと判断された場合の短期入所について、緊急でなくても受け入れているは2施設(3.3%)、緊急やむを得ない場合と判断されれば受け入れているは2施設(3.3%)、緊急やむを得ない場合には受け入れても良い8施設(13.1%)、緊急やむを得ない場合でも受け入れは困難37施設(60.7%)、その他11施設(18%)、無回答1施設となっている。その他の記載欄は、吸引頻度その他医療的介護的ケアの内容、ご利用期間等を伺った上でケースバイケースであるが受け入れる。緊急やむを得えない場合は併設病院で検討する。あるいは療養型病院を紹介、緊急やむを得ないか医師に判断をしてもらい判断により受け入れ可能であると答えている。
最後に障害者自立支援法による重度障害者等の介護制度の内容を知っているかは、大体知っている17施設(27.9%)、まあまあ12施設(19.7%)、あまり知らない24施設(39.3%)、全く知らない6施設(9.8%)、無回答2施設であった。

(2)短期入所、通所介護を受け入れられない理由
 インタビューは東京都内の3つの施設のMSW(medical social worker)に、重度包括支援サービスの患者分類によるT類型の受け入れについて聞き取り調査を行った。アンケートの返信があり、インタビューを受け入れてくれた3施設に医療的ケアが必要な患者の受け入れについて聞き取り調査を行ったところ、受け入れられない理由として、医療的ケアを行う看護師の不足があげられる。胃瘻を造設している患者も増え、何らかの疾患を持っている患者もいる。特に夜間は看護師の当直が一人で、絶え間ない吸引への対応や、人工呼吸器の管理への対応は難しい。また人工呼吸器の作動音や、吸引の音、人の出入り、あるいは認知症患者の夜間の問題行動などから短期入所でも個室での入所となるが、個室は長期あるいは定期的な入院患者で、ベッドが確保できない。ナースコールの設備がなく、必要時の呼び出しに対応できないなど環境面の問題がある。さらに介護老人保健施設の包括医療費の問題で人手がかかる割には施設の経営には採算が取れないなどという理由で受け入れには躊躇するという結果であった。
 この事業サービスの骨子として施設サービスと居宅サービスを柔軟に組み合わせることができることを説明し、重度の障害がある入所希望者に自薦のヘルパーが同行しての短期入所、あるいは通所介護は、長時間の介護人の独占状況が発生しないために受け入れの可能性は高まる。しかしその場合の施設側との料金の設定などの契約書類の作成など今後検討し作成しなければならない課題が多い事も問題の1つである。

(3)考察
重度障害者等包括支援はサービスの種類等にかかわらず、包括払い方式であるために、各種サービスの単価や利用の種類や量を自由に設定でき、さらには緊急のニーズに際して、その都度、支給決定を経ることなく臨機応変に対応が可能である。そこで今回、医師や看護師が常勤している介護老人保健施設に限って施設の利用可能性について調査を行った。
現状では、短期や長期入所を希望しての打診はあるが、人手不足であることや、経営の点で受け入れ困難と答える施設が多かった。人工呼吸器を装着した患者は日常生活のケアの中に吸引や排痰など医療的ケアと、体位変換やマッサージなどの身体的な世話が混在しており、24時間絶え間ないケアを必要とする。ケアの内容の量と複雑さから、看護師が多い病院でも入院は敬遠される傾向にある。そのために現在は9割の施設が受け入れをしておらず、虐待など緊急やむを得ない状況でも6割が受け入れは困難としている。
しかし今回の事業サービスは、ALSなどは慣れたヘルパーの付き添いも包括医療の中で清算され、交渉により施設ケアと居宅ケアの二重のサービスが可能となる。アンケートでは重度包括事業サービスについて十分認知がされておらず、このような柔軟な利用可能性について今後利用者のニーズと施設側の体制を一つひとつ交渉を重ねながら実現可能となると考える。

U,長期在宅療養型施設の実態調査

(1)はじめに
調査Aでは、調査用紙による郵便アンケートと施設訪問によって、高齢者介護を主に行っている福祉施設調査を行ってきた。そこで本調査では医療保険による訪問看護と、介護保険と自立支援法のホームヘルプを財源利用し、最重度の身体障害を伴い、人工呼吸器や経管栄養など医療依存度の高いALS療養者の長期療養を実現したケアホーム(非施設)を調査した。

(2)方法 
平成19年現在、期限を設定せず長期にわたってALS療養者を受け入れているケアホームの訪問調査を行った。対象は日本ALS協会の紹介により選択した3施設である。以前はこのような個人経営のケアホームにおいて、人工呼吸療法のALSを受け入れるところは皆無であったが、国立病院難病病棟の実質的な廃止に伴い、ALS療養者の家族や親身な専門職が一念発起して立ち上げた施設が、今回調査を行った2施設のほかに北海道にも1箇所ある。平成19年9月から調査員2,3名で訪問し、施設長やサービス提供責任者にインタビューを行った。施設名は特定できないよう処理した。(しかし、問い合わせに対しては、NPOさくら会事務局で個別に情報提供する予定である。)

(3)結果
制度による施設基準では、単価が安すぎてALSのケアニーズに対応できないため、AとBでは訪問看護と介護保険制度を利用していた。双方とも個人(看護師と患者家族)が一億円以上の借金をして地元の医療施設を買い取り改築し療養所として開業したものの経営は厳しいという。自立支援法は地方から転入する療養者には適応できないため、介護料は自己負担である。またCは、介護保険要介護認定者の人専用の医療機関併設介護付き有料老人ホームである。医師と看護師が常駐している。ここでも自立支援法が利用できないため、ケアコストは自己負担(1日2千円)がある。各施設を個別に見てみよう。

表:有限会社A

1、施設としての要望(Aのケアハウス★C)

現在、レスピ装着の方や難病の指定を受けている方の1ヶ月の保険収入は約80万円(内訳は介護保険が約36万円、医療保険が約44万円)、施設利用料が平均13万円(施設利用料での利益はほとんどでていない)。在宅の場合、これに支援費なども使い看ている人も多いが、ご家族の負担ははかり知れない。
気管切開、胃ろう管理で介護保険しか使えない方の場合、定期的な痰吸引の必要があり、とても介護保険5の保険料(約36万円)で看ていくのは厳しい。(当施設では現在3名の方が該当)
難病・重症患者はセンター的な場所で集中ケアしたほうが、ケアの質も高く、保険料コスト的にも在宅で看るのと変わらず、そしてご家族の負担が激減すると思われる。また心身の状態が悪くなると病院へ入院することもあり、その間は保険料が入ってこない。現在2名の方が入院中で1ヶ月約105万円の保険料減収。

月額給与の平均は看護士が約34万円(年収約500万円) ヘルパーが約20万円(年収280万円)ともに常勤職員。
29名の入居者に対し人員は日中看護士2〜3名 ヘルパー6名〜8名。夜間看護士1名とヘルパー2名。全スタッフの合計は42名になる。(常勤13名 パートスタッフ29名)。これでもまだ人が足らない時があり、看護士である所長が常に昼夜問わず働いている現状である。
当施設は最重度の方も多く、ヘルパーに関しては体力的に若い労働力が必要な場面が多いが、夢や希望を持って仕事をしていてもヘルパーの給与水準の低さから離れていく人も多い。(当施設のヘルパーの平均年齢は49歳)
ALSの方とのコミュニケーションを取るのに壁を感じ、数日で辞めていくスタッフも少なくない。もし所長が病気や怪我で倒れた場合、施設運営はとても厳しい状況になることは確実である。
将来を所長が居なくても運営していける会社を作るために、所長の考えに賛同していただいた看護学校から、当事業所の推薦枠をもらい、3人のヘルパーが看護士を目指し看護学校に通っている。(2006年度1名・2008年度2名)しかし経験のあるヘルパーが学校に行くことで、勤務できなくなる事はとても会社にとって損害が大きい。また看護士として当事業所で勤務するかは本人しだいである(以上、施設長による訴え)。

利用者さんの要望
・ 現在の生活には満足しているものの、できればもっと人との関わりを持ちたい、部屋にいるだけではなく外出もしたい。

このような問題を回避し安定経営をするには
・ 高い給与水準
・ 力量のあるスタッフの確保および増員
・ 将来を見据えての新人スタッフの育成
・ 定期的な研修や講習の参加(現在人員に余裕が無い為、積極的な参加は難しい状況)
・ 夢や希望・魅力のある会社作りが必要である。 

以上、ケアハウス★Cが抱える課題を整理する。

・施設内では、介護保険しか利用できない為、重度の人の対応は難しい。
・入院されると、途端に収入がなくなる。
・看護師の月給が約34万円(年収500万円)
・ヘルパーの月給が約20万円(年収280万円)
・29名の入居者に対しての人員は、日中→看護師2〜3名、ヘルパー6〜8名
・                     夜間→看護師1名、ヘルパー2名
・                     全員で42名(常勤13名、パート29名)
・全スタッフは90名で、入居者60名のうち呼吸器装着者が14名(うちALSが10名)
・重度の利用者に対する1ヶ月の施設収入は、医療保険(およそ44万円)+介護保険(およそ36万円)+施設利用料(平均13万円)
・人手が足りないので外出支援ができない。

表:難病支援センターB

1、難病支援センターBのインタビューから

ここは病院でも福祉施設でもない。在宅制度をフル活用した集合住宅。一階部分は訪問看護ステーション(介護保険訪問介護事業所も)、二階部分に7部屋個室があり、利用希望者は賃貸契約を結び入居するシステムである。
現在、ALS患者は2名が入居。3部屋が空き部屋である。どの部屋も十分な広さで家具の持ち込みも可能。全室個室キッチン完備。シングルベッドも置けるので家族の宿泊も歓迎。同建物内のショップでは、一階玄関ホールを利用した作業所とそこで作った作品を販売し、二階の食堂を県と市の補助事業で経営して借金の返済に充てている。
入居金と管理費はAタイプで400万円(9畳)、月額17万円と、Bタイプで500万円(15畳)、月額19万円。10年で償却する。管理費は共益費、光熱費、修繕費、保守費、環境衛生管理費を含んでいる。食費は月額6万3千円だが、経管栄養は医療保険で落とせる。衛生費、介護保険の自己負担金は自費だ。
他県からの入居も歓迎するが、地元の自立支援法の給付が前提だ。というのもキウイのヘルパーは、入居者の自立支援法給付でサービスを提供しているからだ。だから入居者は地元の自治体と交渉をして自立支援法の給付継続を約束してもらい、時間数も十分に確保して欲しい。さもなければ介護費用の不足分は利用者負担になってしまう。他県での施設入所は認められるが、他県での在宅療養に自立支援法を適応した前例がないため試行錯誤である。
従来の施設基準でALSの24時間介護は難しい。ヘルパーの医療的ケアは制限され、施設では単価が安すぎて一対一の介護はできない。だから、要望の多いALSは施設入所には向かない。そこでBでは訪問看護と介護保険、自立支援法など在宅制度の利用によって、マンツーマンに近い介護を施設で実施することを思いついた。
二階建てのホームの表玄関前には「福祉複合ホーム」の看板があり、「ALSホーム」の名称もみられる。このような試みをどう表現したらいいのか、迷った末のネーミングだった。「すべての部屋を人工呼吸療法の患者さんで埋めたい」という。重度包括支援対象者でなければ採算ベースに乗せられないからだ。それに同じステージの患者を集めたほうがケアしやすい面もある。

表:C駅前

3、「C駅前」の入居者インタビューから
個室入居中のALS療養者Sさんは、まだ呼吸器をつけていない。呼吸器については迷っているが、療養が長期化すれば資産が底をついてしまう。月額30万円を越す負担は年金生活者である夫に悪いと思う。自宅に戻りたいが家族に介護する力はない。フロアはオープンスペースのため、介護はしやすい設計にある。また、一階入り口に訪問看護ステーションがあり、吸引の必要があればエレベーターで昇ってきてくれる。その他はフロアの介護職が対応しているが、他の部屋に入居中の高齢療養者は自立している人が多いので、最優先でケアをしてもらえるので感謝している。


表:居住サービス計画書1
表:居住サービス計画書2
表:居住サービス計画書2
表:週間サービス計画書
表:週間サービス計画書

*作成:
UP: 20090802
全文掲載  ◇目次  ◇川口 有美子  ◇ALS  ◇ケア  ◇障害者自立支援法  ◇NPO法人さくら会
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