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「在宅療養中のALS療養者と支援者のための重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラムの開発」事業完了報告書 第一章

特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会 2008/03/31
平成19年度障害者保健福祉推進事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト

last update: 20151225

平成19年度障害者保健福祉推進事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト

「在宅療養中のALS療養者と支援者のための重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラムの開発」事業完了報告書 第一章
 〔※本報告書には図表などが多く含まれています。テキスト化するにあたって掲載されていないものありますので、参考にされる場合は下の目次横からリンクをしてある元のファイルをご参照ください(ファイル作成者)〕
平成20年3月31日
特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会

 〔※本報告書には図表などが多く含まれています。テキスト化するにあたって掲載されていないものありますので、参考にされる場合は下の目次横からリンクをしてある元のファイルをご参照ください(ファイル作成者)〕

はじめに
 本調査は、特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会と日本ALS協会、立命館大学大学院先端総合学術研究科による合同研究チームが、障害者自立支援法の重度障害者等包括支援サービスと重度訪問介護の実施状況について共同で調査し、検討をおこなったものです。
 平成15年度(2003年)4月施行の支援費制度には、常時見守りを必要とする全身性障害者のために、長時間滞在型の介護サービスとして、日常生活支援が登場しました。それが平成18年度(2006年)10月に、障害者自立支援法の重度訪問介護に移行した際、医療を常時必要とする障害者は、障害程度区分において最重度の障害者に位置づけられ、重度障害者等包括支援サービスという枠組みが新たに用意されました。平成17年9月27日、厚生労働省社会援護局障害保健福祉部障害福祉課発出の事務連絡によると、重度障害者等包括支援の取り扱いは次のように説明されています。

1.重度障害者等包括支援の意義
○ 重度の障害者が地域生活を送る上では、複数のサービスを心身の状態等に応じて臨機応変に組み合わせて利用することが必要となるが、従来の仕組みでは、サービスごとに支給決定を行い、あわせて、その質の確保を図る観点から、下記のような措置が採られており、地域で生活する重度障害者にとっては、もっと柔軟にサービス利用ができるような対応が求められていた。
・一つひとつのサービスの内容と量について、あらかじめ個別に支給決定する必要がある
・各サービスごとに、細かく従事者の資格要件や設備等に関する基準が設定され、事業者指定を受けることが必要とされている
・各サービスごとの報酬単価について、全国一律の基準が設定されている

○ 「重度障害者等包括支援」は、こうした地域で生活する重度障害者のニーズに応えて、円滑にサービス利用が可能となるよう、各障害者ごとに設定した標準的なサービス利用計画に基づき、一定の報酬額をあらかじめ設定する仕組み(包括払い方式)とした上で、特定の事業者(重度障害者等包括支援事業者)がサービス提供全体について責任を負うこととすることにより、
・緊急のニーズに際して、その都度、支給決定を経ることを不要とし、
・個々のサービスを提供する事業者や、実際にサービスを提供する従事者の資格要件を緩和し、
・個々のサービスの報酬単価については、重度障害者等包括支援事業者による自由な設定が可能となっている

○ こうした仕組みとすることにより、地域で生活する重度障害者の多様なニーズに対し、きめ細かで柔軟な対応が期待される。

 このように、重度障害者等包括支援とは、日常的に医療的ケアが必要な重度障害者の多様なニーズに臨機応変に対応するために、提案されたサービスです。しかしながら現時点では、サービスを実施している事業者は全国でも非常に少ないため、その実態を調査して、より利用しやすく、実施しやすい事業モデルを提案する必要が出てきました。そこで、特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会では、独自のネットワークに呼びかけて、全国規模の実態調査を実施しました。ついでおこなった日本ALS協会への聞き取り調査では、ALS療養者家族、支援者、施設関係者も多数参加し、それぞれの立場から意見を出し合いました。また、独居療養者の参与観察では、生活保護や介護保障等の各種制度の申請について、療養者の24時間タイムスタディでは既存の制度とALSのケアニーズの不整合性ついて、それぞれ考察しています。さらに地域の既存の建物の有効活用として、療養者住宅や小規模施設に改造し利用するための基本的な調査をおこないました。
 本報告書では、これらの調査結果を章ごとに掲載していますが、それらから得られた知見をまとめて、「在宅療養中のALS療養者と支援者双方の自立のための重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラム」として、第一章の事業結果報告で提案しています。これは、現行制度の介護サービスのあり方を一歩進めて、より柔軟なサービス提供を実現する提案です。
 これらの提案を入れたケアモデルを実現するためには、まだいくつもの課題をクリアしなければなりませんが、今後も多くの方々のご意見ご要望をいただきながら、関係各者の具体的な実践を通して、包括的支援の可能性を追求していきたいと思っています。

●目次●

<事業内容>
第一章 DL(Word)
T,事業概要
U,事業結果報告
V,重度障害者等包括支援を円滑に実施するためのサービス利用計画(図表) DL(Excel)

<研究報告>
第二章 日本ALS協会による自立支援法利用状況調査
T,JALSA講習会 参加者対象アンケート調査 DL(Word)
U,支援者対象アンケート調査
V,療養当事者対象アンケート調査
W,全国自立支援法訪問系サービス給付状況
X,資料i, A DL(Word)・DL(Excel)・DL(Word)DL(Power Point)
第三章 重度障害者等包括支援サービスによるモデルプランの実現可能性を探る介護老人保健施設/ケアホーム対象調査 DL(Word)
T,介護老人保健施設対象調査
U,長期在宅療養型施設の実態調査
V、資料(3施設の状況)
第四章 在宅独居ALS療養者の支援の在り方に関するアクションリサーチ 資料1DL資料2(Excel)
T,長期療養ALS患者の在宅独居移行支援に伴う諸課題の明確化およびその要因の分析アクションリサーチに基づく調査研究 DL(Word)
U,在宅独居ALS療養者のケアニーズ 1分間×24時間タイムスタディに基づく事例報告と検討 DL(Word)
第五章 重度ALS療養者のための在宅独居空間整備に関する研究
T,在宅ALS療養者および介助者の生活実態と住要求 DL(Word)・図表DL(Word)
U,在宅ALS療養者および介助者の在宅療養環境評価 DL(Word)・図表DL(Word)
第六章 DVD「ALS療養者の移動介護支援」
T,在宅人工呼吸療養者の社会参加支援プログラムの作成 DL(Word)
U,DVD解説 DL(Word)
表裏表紙 DL(Word)
T,事業概要

1、プロジェクトメンバー

メンバー
川口有美子 さくら会/日本ALS協会
小長谷百絵 さくら会/東京女子医科大学 
橋本 操  さくら会/日本ALS協会
塩田 祥子 さくら会/有限会社ケアサポートモモ
中村記久子 さくら会/日本ALS協会
平岡久仁子 日本ALS協会/帝京大学医学部付属病院
海野幸太郎 日本ALS協会茨城支部
橋本佳代子 さくら会
橋本 誠  さくら会/日本ALS協会東京都支部
岡 輝秋  さくら会
立岩 真也 立命館大学大学院先端総合学術研究科
阪田 弘一 京都工芸繊維大学
山本 真輔 京都工芸繊維大学
堀田義太郎 立命館大学大学院先端総合学術研究科
志賀 玲子 大阪大学
長見 有人 NPO法人ココペリ121
藤木 博  日本ALS協会宮城県支部

事務局
塩田勝久  さくら会事務局
北村健太郎 立命館大学大学院先端総合学術研究科

2、事業の目的

本プロジェクトの目的は、ALS等、在宅人工呼吸療法の利用者のための、標準的な重度包括支援プログラムの開発および、地域性や人々の多様なニーズの応える複数の支援プログラムの開発である。その内容は以下による。

@ 障害福祉制度の利用により達成された患者家族の生活様式と、医療・福祉専門職の連携による療養支援の知見を全国に広める。
A 特に各サービスの提供者が不足している地域の関係者のエンパワメントをはかり、在宅療養環境の基盤整備を推進する。
B 重度包括支援サービスの活性化につながる人的資源の掘り起こしと、商業施設も含む既存の社会資源の有効活用を提案する。
地域性や人々の多様なニーズに配慮できる柔軟な支援プログラムの開発により、地域間格差および利用者間格差を解消する。

3、事業期間
平成19年7月1日 から 平成20年3月31日 まで

4、事業実施予定地
東京、名古屋、仙台、京都、その他各関係機関の所在地

5、事業の具体的内容
@ 重度障害者等包括支援サービスの枠組みにおいて、重度訪問介護とデイケアの併用、訪問看護ステーションによる通所介護、地域の施設を利用した短期レスパイトケアなど、既存の社会資源を有効活用する支援プログラムの可能性を各地の支援者を対象に構造的かつ質的に調査する。(アンケート調査と聞き取り調査)
A その調査研究の過程でモデル事業実施の可能性について検討し、その地域に既存の社会資源の組み合わせによる包括支援モデル事業を提案する。(アクションリサーチに向けての第一次調査)
B 研究成果として、地域性や利用者のニーズに配慮した複数の包括支援モデルを提示し、全国各地で普遍的に実施できるように広報する。そのために、地域療養支援モデルや社会資源利用アイデア集(仮称)や、先進的な療養生活や支援の様子を紹介したDVDも作成し、関係各所に配布する。(冊子とDVD作成)
C 重度包括支援サービスの評価に関する研究を行う。

6、事業の効果及び活用方法
@ ALS等人工呼吸器利用者に対応した重度訪問介護従業者を定期的に養成し、重度包括支援対象者に配置するALS療養支援システムを各地に構築できる。
A アクションリサーチに参加した各地の当事者の切実な訴えにより、地域の医療・福祉職のエンパワメントや支援ネットワークの拡大が行われるので、在宅人工呼吸療法に対する理解が進む。
B 地域の人的・社会的資源を組み合わせた重度包括支援サービスモデルの提案と評価ができる。

7、研究事業班編成
・総括班  川口 橋本(操)塩田(祥)中村 塩田(勝)
・DVD班 橋本(佳)海野 橋本(誠)
・JALSA講習会 平岡 川口
・サービス評価研究班 小長谷 川口
・京都班  岡 志賀 堀田 由良部 北村

8、役割分担と各班の目的

・総括班
 障害者自立支援調査研究プロジェクトに基づき、在宅療養中のALS療養者と支援者双方の自立のための、重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラムの開発を目的とする。
 プロジェクトの目的である、ALS等、在宅人工呼吸療法の利用者のための、標準的な重度包括支援プログラムの開発および、地域性や人々の多様なニーズにこたえうる支援プログラムの開発である。
 上記目的のため、各分担班の進捗を管理しプロジェクト全体の取りまとめをおこなう、また「進化する介護拡大研修」を実施し全国各地域から患者代表および支援者を招き地方ヘルパーの養成、地域資源の組み合わせによる包括支援モデルを模索する。

・DVD班
 障害者自立支援法の重度障害者等包括支援サービスを利用した療養支援プログラム開発にあたり、外出支援にかかる所要時間の把握とともに、映像媒体として記録することを目的とする。

・JALSA講習会
毎年行っている講習会の内容に、障害者自立支援法を現場で活用する際の問題点と今後の課題について学ぶことを目的とする。

・サービス評価研究班
 重度障害者等包括支援サービス制度でのヘルパーの在り方を明確にする研究をおこなうことを目的する。

・京都班
 居住空間の研究、また独居ALS患者のタイムスタディ、新人ヘルパーの養成コストなどについて調査・研究することを目的とする。

9、当初スケジュール【原文エクセル】

事前調査(京都出張):5月&7月下旬
事前調査:5月12日
事前調査・準備(東京):5月〜7月
事務局事前打ち合わせ:7月31日
京都班独居支援:8月14日〜3月まで
京都出張(橋本操):9月下旬
サービス評価研究(小長谷班):8月下旬〜2月まで
DVD作成(総括班):8月下旬〜2月
重度包括支援資源開発会議:11月下旬〜12月
進化する介護拡大研修会:1月26、27日
重度包括支援資源:2月
JALSA講習会:3月7、8日
重度包括支援資源会議:3月〜
各班から研究成果回収:2月中旬〜3月
報告書取りまとめ:2月中旬〜

10、打ち合わせ内容および事業経緯

1. 平成19年5月12日(土)13:00〜16:00K宅 出席者4名
    京都、重度訪問介護と独居支援体制についての打ち合わせ。

2. 平成19年7月31日(火)13:00〜17:00さくら会事務所出席者5名
    プロジェクトスタート事前打ち合わせ、役割分担・予算振り分けについて、
    事業報告の方向性についてなど打ち合わせ。

3. 平成19年8月16日(木)18:00〜21:00橋本宅 出席者12名
    プロジェクトの説明、各出席者自己紹介、役割分担説明。
    ・1月に「進化する介護」拡大研修をおこなう。
    ・3月のJALSA講習会(愛知県開催)にプロジェクト会から助成をおこなう。
    ・総括班にてDVD作成(移動・独居生活)→DVD班で対応。
    ・重度包括支援制度のヘルパーの在り方を明確にする調査をおこなう。
    ・京都での独居支援体制についての参与観察をおこなう。

4. 平成19年 8月29日(水)13:00〜17:00K宅 出席者8名
    京都 K宅訪問 独居支援体制の確認、状況把握。

5. 平成19年8月31日(金)13:00〜17:00  さくら会事務所
    出席者3名
    会計監査など予算進捗確認

6. 平成19年9月7日(金)〜11月9日(金)     対応事務局
    会計監査など予算進捗確認

7. 平成19年9月28日(金)13:00〜17:00  さくら会事務所
    出席者3名
    会計監査など予算進捗確認

8. 平成19年10月31日(水)13:00〜17:00 さくら会事務所
    出席者3名
    会計監査など予算進捗確認
    1月「進化する介護」拡大研修会場について検討など

9. 平成19年11月23日(金)17:00〜 21:00 練馬区役所会議室    出席者14名
    厚生労働省 茅根専門官に出席していただきプロジェクトの進捗状況、問題点の確認報告。
    ・K宅にての居住空間研究、タイムスタディ、ヘルパー養成コストなど調査中。
    ・ヘルパー養成コスト、新人ヘルパー120名へのアンケート調査、有効な調査への方向転換。
    ・DVDとともに移動ガイドブック作成。
    ・JALSA講習会(3月)/講習会(交流会)にて患者家族へのアンケート調査おこなう。
    ・「進化する介護」拡大研修会は地方参加者を対象とし、地方のヘルパー養成に力を入れる。
    ・茅根専門官より、自立支援法の実態把握がしたい。現場でどのように運用されているのか?重度包括を想定した暮らしぶりの実例、生活パターンの研究が必要。
     →橋本操さん、Kさん

10. 平成19年11月24日(土) 研修会開催お知らせの配布
    平成19年度障害者自立支援調査研究プロジェクト、支援プログラム等研究開発 
    事業として、重度訪問介護従業者養成講座「進化する介護」全国拡大研修会開催のお知らせを配布。
    ・「進化する介護」を受講希望の地方在住の療養者と支援者に対して。研修受講費と旅費交通費を助成、研修修了者には全国共通の自立支援法重度訪問介護従業者ヘルパー証(東京都認定)を発行。

11. 平成19年11月30日(金)13:00〜17:00さくら会事務所
    出席者4名
    会計監査など予算進捗状況確認
    助成対象者基準など検討    

12. 平成19年12月5 日(水)18:00〜21:00 
助成対象者決定  さくら会事務所  出席者6名
    「進化する介護」全国拡大研修会の助成応募に対して46名の希望者があり、さくら会研修部PJチーム・理事会で厳正に審査をおこない、22名(全国6地域4人の当事者を含む7チーム)が選ばれた。 

13. 平成19年12月12日(水)13:00〜17:00 橋本宅 出席者4名
    「進化する介護」拡大研修会実施に向けての具体的な仕事と業務分担について打ち合わせ。
    ・テキストの作成  1月2週目に印刷
    ・当日の宿泊部屋割り  出席については自己責任→「参加同意書」
    ・DVD撮影
    ・緊急対応   中村先生(中野医師会)看護師2名宿泊(中村、森下)
    ・講師最終確認
    ・タイムテーブル確定
      ・吸引演習1時間など
    ・福祉タクシーの紹介
    ・患者当事者参加者の当日のルート→「プロジェクト参加旅程表」の提出
    ・中野駅のバリア再確認
14. 平成19年12月26日(水)13:00〜17:00さくら会事務所
    参加者3名
    会計監査など予算進捗確認
    「進化する介護」拡大研修会事前準備確認
     ・Qちゃん人形の数、レンタル先など

15. 平成20年1月9日(水)11:00〜15:00中野サンプラザ 出席者5名
    「進化する介護」拡大研修会の会場である中野サンプラザの下見と打ち合わせ
    ・研修室
     使用する研修室下見、電源位置(人工呼吸器)、AV設備など確認。
    ・宿泊施設
     呼吸器をつけている大澤さん(盛岡から参加)が宿泊する「バリアフリーの部屋」と一般宿泊の「ツイン」を確認。
    ・参加者の「同意書」「旅程表」「タイムスケジュール」の提出確認
    ・講師・スタッフ確認  テキスト準備
    ・参加者名簿確認  
     宿泊者 受講生・聴講生
    ・その他 延長ケーブルなど  支払いについてサンプラザ側(関マネジャー)と打ち合わせ

16. 平成20年1月16日(水)11:00〜17:00さくら会事務所出席者3名
    「進化する介護」拡大研修会打ち合わせ
    ・参加者名簿確認
    ・スタッフ役割分担など 

17. 平成20年1月23日(水)11:00〜17:00さくら会事務所出席者3名
    「進化する介護」拡大研修会打ち合わせ
    ・当日進行確認
    ・参加者旅程確認など

18. 平成20年1月25日(金)12:00〜17:00 さくら会事務所・
橋本宅出席者6名
    「進化する介護」拡大研修会打ち合わせ
    ・スタッフ配置など最終確認
    ・机上リハーサル

19. 平成20年1月26日(土)9:00〜1月27日(日)17:00
    中野サンプラザ 「進化する介護」全国拡大研修 出席者26日(土)54名
                           出席者27日(日)56名 
(講師・スタッフ)

講師
番号:名前:講師資格:所属
1:中村洋一:医師:中野区医師会
2:田中恵美子:さくら会講師
3:海野幸太郎:当事者事業者
4:小長谷百絵:さくら会理事・看護師:東京女子医大
5:中山優季:看護師:さくら会
6:大森健:呼吸器レンタル会社:IMI株式会社
7:高井直子:当事者事業者
8:今井啓二:パソポラNPO:NPO法人しなやかネット
9:橋本操:さくら会理事・当事者事業者:さくら会
10:橋本佳代子:さくら会講師・当事者家族
11:町居幸治:当事者
12:安城敦子:介護福祉士:ケアステーションひまわり所長
13:中村記久子:看護師:さくら会
14:川口有美子:さくら会理事・当事者事業者:さくら会
15:塩田祥子:さくら会理事・介護福祉士:さくら会
16:森下奈沙:看護師/助産師:東京女子医大
スタッフ
1:高木由紀:さくら会スタッフ:さくら会
2:添田有紀:看護師:東京女子医大
3:島田千佳子:当事者家族
4:橋本誠:当事者家族
5:塩田勝久:さくら会スタッフ

(参加者)

番号:所属:氏名:応募資格:研修対象者
1:盛岡(大澤さん):大澤武仁:当事者: 当事者
2:盛岡(大澤さん):大澤慶子:同行者:○
3:盛岡(大澤さん):鈴木真紀:同行者:○
4:盛岡(大澤さん):佐藤牧子:同行者:○
5:盛岡(大澤さん):四戸頼子:同行者:○
6:仙台(千葉さん):千葉芙美:家族:○
7:仙台(千葉さん):清野薫:研修生:聴講
8:仙台(千葉さん):遠藤幸:同行者:○
9:仙台(千葉さん):岡部真理:同行者:○
10:宇都宮:斉藤弥生:――:聴講
11:静岡(山田さん):山田健弘:当事者:当事者
12:静岡(山田さん):山田清美:同行者:○
13:静岡(石川さん):石川みよ子:当事者:当事者
14:静岡(石川さん):佐野はるみ:同行者:○
15:静岡(石川さん):石川政道:――:○
16:高知(松岡さん):松岡宏昌:当事者:当事者
17:高知(松岡さん):佐々木瞳:同行者:聴講
18:高知(松岡さん):西森千草:同行者:聴講
19:高知(松岡さん):和田比呂絵:同行者:聴講
20:大分:仲玲子:――:聴講
21:大分:薬師寺美津子:――:聴講
22:大分:上原みな子:――:聴講
23:仙台:藤木博:――:聴講
24:高知:杉山加奈子:――:聴講
25:千葉:大山孝二:――:聴講
26:新潟:若林裕子:――:聴講
27:名古屋AFJ:――:笹辺道子:――:聴講
28:愛知(藤本さん):大堀:――:○
29:愛知(藤本さん):金山:――:○
30:一般:横山裕美:――:○
31:福祉開発研究センター:都筑重雄:――:○
32:(株)アプレ:菅田善弘:――:○
33:あいあい(佐々木:白戸亜弓:――:○
34:あいあい(佐々木:細渕好美:――:○
35:あふネット:宮下陽介:――:○
36:まゆとな(池田):石塚奈保子:――:○
37:宮城大看護:高橋和子:――:聴講

(研修内容)
26日(土)1日目
12:00 受付
      司会・進行・あいさつ    さくら会理事 当事者事業主 橋本操
13:00 ヘルパーの医療的ケア、重度訪問介護について
                    さくら会理事 当事者事業主 川口有美子
13:30 重度の肢体不自由者の地域生活等に関する知識
                    さくら会講師 田中恵美子
15:00 在宅医療の基礎概論     
                    さくら会理事 当事者事業主 橋本操
                    当事者事業主 海野幸太郎
15:30 移乗介護(演習)
                    訪問介護事業所長 介護福祉士 安城敦子
16:00 在宅療養者及び援助者のための医学的知識
                    中野医師会 医師 中村洋一
17:30 吸引実習     
                    さくら会理事 看護師 中村記久子 
                           看護師 中山優季
                           看護師 森下奈沙
27日(日)2日目
9:00  受付
10:00 さくらモデル(介護事業)、独居、家族やヘルパーとの関係
                    さくら会理事 当事者事業主 橋本操
                           当事者家族  橋本佳代子
                    さくら会理事 当事者事業主 川口有美子
11:00 基礎(医療的ケアについて各論)
                    さくら会理事 東京女子医大 小長谷百絵
12:00 呼吸器の仕組み、緊急時対応
                   IMI株式会社(呼吸器レンタル会社)大森健
14:00 コミュニケーション 文字盤
                    当事者事業主 高井直子
15:00 コミュニケーション 意思伝達装置(IT)
                    NPO法人しなやかネット 今井啓二
                    当事者 町居幸治
16:00 今後の連携と支援について  
                    さくら会理事 当事者事業主 川口有美子
(研修会の目的)

(3) 在宅で長期療養中の人工呼吸療法の療養者、および将来人工呼吸療法を希望する者で、自立支援法の重度訪問介護を利用して素人のヘルパーを自ら養成し、自分でイメージした地域生活を積極的に切り開いていく者、自前の介護派遣事業所の設立を考えている当事者とベテランヘルパー(家族)を研修・支援するため。
(4) 地元でALS等の在宅人工呼吸療養者の支援を行ってきた者で、重度訪問介護事業を支援したい者、人工呼吸療法の安全な普及を支援したい者に対する研修のため。
(5) ALS協会関係者および研究者で、自立支援法の重度包括支援サービスの在り方について研究したい者、研究調査に協力したい者を支援するため。


(当事者参加者の旅程)
・松岡宏昌(高知)鼻マスク(BIPAP)
 ヘルパー/佐々木瞳 西森千草 和田比呂絵  3名  計4名
 1/26(土)
 5:30 自宅発 介護タクシー利用 自宅→高知空港    
 7:15 ANA562便 高知発
 8:25         羽田着
 9:00 介護タクシー利用 羽田→中野サンプラザ
 1/27(日)    
 17:00 介護タクシー利用 中野サンプラザ→羽田
 18:45 ANA569便 羽田発
 20:10         高知着
 21:00 自宅着 介護タクシー利用 高知空港→自宅  

・大澤武仁(盛岡)人工呼吸器
 ヘルパー/大澤慶子 四戸頼子 佐藤牧子 鈴木真紀 4名 計5名
 1/26(土)
 7:50 自宅発 介護タクシー利用 自宅→盛岡駅
 8:40 盛岡駅発 東北新幹線
11:08 東京駅着
11:35 東京駅発 中央線
11:54 中野駅着 車いすで中野サンプラザへ
1/27(日)
16:30 車いすで中野駅へ
17:23 中野駅発 中央線
17:42 東京駅着
18:28 東京駅発 東北新幹線
20:59 盛岡駅着
21:10 盛岡駅発 介護タクシー利用 盛岡駅→自宅
21:30 自宅着

・山田健弘(静岡)鼻マスク(BIPAP)
 ヘルパー/山田清美(家族)
1/26(土)
9:30  自宅→静岡駅 タクシー利用
10:11 静岡駅発 東海道新幹線
11:28 東京駅着
11:47 中野駅着 杖歩行にて中野サンプラザへ
1/27(日)
17:00 中野駅発 杖歩行にて中野駅へ
18:00頃東京駅発
19:30頃静岡駅着
19:45 自宅着  静岡駅→自宅 タクシー利用

・石川みよ子(静岡)要移動介助
ヘルパー/石川政道(家族)佐野はるみ
1/26(土)
乗用車利用
自宅→富士宮道路→東名富士IC→中野サンプラザ(所要時間約3時間)
1/27(日)
乗用車利用
中野サンプラザ→東名東京IC→富士宮道路→自宅(所要時間約3時間)

(参加者意見・感想 抜粋)
・大澤武仁(当事者)
     久しぶりに内容の濃い研修を受け、介護は進化しつつある事を実感し有意義でした。京大の再生医療技術が確立され車いすから降りて、握手しながら談笑する日まで介護は進化してほしいものです。
     道中は、盛岡・東京・中野の各駅とも乗った車両の停車位置にスロープをもった駅員が待機していて先導してくれたので快適な旅でした。
・松岡宏昌(当事者)
     当事者、ヘルパーさん大勢の方とお会いしたことまた、たくさんの方たちとお話をして楽しい2日間を過ごさせていただきましたこと御礼申し上げます。
     さて高知までは行きと違い余裕で帰ってこれました、と言うのは行く時のように苦しい思いをするのは嫌なので、方法を考えました。非常に単純ですが、車いすのG2クッションを使うと腰の痛みは解消されました。次に45の角度にすると息苦しさもなく、このまま外国へでも行けるくらい楽でした。
     今回の収穫はいくつかあるのですが、まずひとつにこれで飛行機での移動できる自信がつきました。
・石川みよ子(当事者)
     3か月前から楽しみにしていた研修を無事終えることができほっとしています。
     研修は充実した内容がいっぱいで、今後の生活に生かすことができると思います。何より参加者の皆さんとさくら会スタッフの皆さんがパワフルに可能性を見出してくれることが私にとって大きな力を与えてくれました。
・山田健弘(当事者)
     帰路も乗り換えなど上手くいき、8時前には自宅に到着しました。
     移動では特に、下肢、首、呼吸と辛い部分もありましたが、行く先々で多くの親切に出会い、なかなかの旅でした。今回の研修は、学びや情報、交流などどれも貴重な経験になりました。今回のような経験を重ねながら、よく考え、実行できる力を身に着け、自分らしさを追及していきたいと思っています。
・千葉芙美(当事者家族)
     仙台に帰って直ぐに母に色々報告。年単位、月単位で計画をたてようと意気込んでいます。早速尿カテーテルのクランプとネブライザーは相談しました。母も、hearty ladderに興味しんしんです。介護組も改めて吸引に慎重になっています。
・斉藤弥生(事業者)
     私の事業所は吸引等医療的ケアを推進し、スタッフの研修にも力を入れてきました。現在も栃木県から補助を受け、在宅重度障害者地域生活支援活動費をいただき、当事業所のスタッフに対し研修を始めたばかりでした。今回の研修に参加し、目からうろこでした。資格ばかりにとらわれがちで、慢性人手不足にぎゅうぎゅうしていましたが、「人材の掘り起こしと養成」、大変勉強になりました。わが地域でもぜひお願いしたい研修でした。 

20. 平成20年1月30日(水)12:00〜 さくら会事務所 参加者4名
    会計監査など予算進捗確認 
  「進化する介護」拡大研修会について精算作業など(事務局対応)
    プロジェクトのまとめ方について打ち合わせ 
    役割分担の再確認(報告書執筆者、DVD編集者など)

21. 平成20年2月13日(水)10:00〜16:00 さくら会事務所 事務局
    「進化する介護」拡大研修会について精算作業など
    サービス評価班精算作業など

22. 平成20年2月18日(月)11:00〜16:00 さくら会事務所 事務局
    「進化する介護」拡大研修会について精算作業など
     地方参加者の旅費交通費精算

23. 平成20年2月20日(水)12:00〜17:00 さくら会事務所 事務局
    参加者3名
    JALSA講習会について事務局打ち合わせなど
    JALSA講習会予算負担について
    JALSA講習会講習内容さくら会担当分について
    京都班進捗状況について

24. 平成20年2月22日(金)11:00〜14:00 日本ALS協会事務所 参加者4名
    JALSA事務局 荒川次長 磯部担当
    さくら会 塩田理事 塩田事務担当
    JALSA講習会について打ち合わせ
    ・さくら会担当内容について
    ・さくら会予算負担について 

25. 平成20年2月27日(水)13:00〜16:00京都K宅 参加者 6名
    京都班進捗状況確認、プロジェクトまとめへの方向性確認など。
    京都班事務担当 北村(立命館大学社会学OD)
    さくら会 事務担当塩田
26. 平成20年2月29日(金)13:00〜17:00さくら会事務所
    参加者3名
    会計監査など予算進捗確認
    JALSA講習会について
    ・役割分担確認(アンケート調査、聞き取り、事務サポートなど)


27. 平成20年3月7日(金)14:00〜3月8日(土)15:00
    JALSA講習会 あいち健康プラザ
「QOLの向上をめざして」健康長寿シーズ・ニーズ交流・展示を目的。
    3/7(金)
    14:00 講演「ALS研究の動向」
    16:00 シンポジウム「医療的ケアの問題点と解決に向けての提言」
    18:30 交流会 温泉入浴など
    3/8(土)
    10:00 障害者自立支援法を考える
    13:00 ピアカウンセリング
    14:00 音楽療法を楽しむ
    15:00 講習会終了

(参加者)
全国各地のALS当事者、当事者家族、研究者、支援者、事業者、ボランティアなど
延べ300名

(講師)
名古屋大学大学院教授 祖父江 元
(パネリスト)
国立長寿医療センター総長 大島伸一
国立病院機構東名古屋病院医長 餐場郁子
在宅医 伊藤病院院長 伊藤光保
(ピアカウンセリング)
あいちピアカウンセリング代表 坂野尚美
    同      副代表 今水靖
(音楽療法)
本町クリニック副院長 服部優子 

(プロジェクトの参加者)
橋本操 川口有美子 平岡久仁子 中村記久子 塩田祥子 堀田義太郎 山本慎輔
志賀玲子 甲谷匡賛(介助者) 塩田勝久 橋本佳代子 橋本誠  

・プロジェクトとしての取り組み
 ・アンケート調査:重度包括支援資源開発について実態調査など聞き取り。
 ・参加者宿泊費、食事代など100万円補助。
 ・平成19年度障害者保健福祉推進事業助成の紹介。


28. 平成20年3月9日(日)13:00〜18:00さくら会事務所
    参加者12名
プロジェクトまとめのための打ち合わせ
・各班報告書まとめ進捗状況について
  ・総括班 DVD班
  ・サービス評価班
  ・京都班 
・予算進捗状況について
・提出物確認
・アンケート調査について
・現時点での問題点
・今後の取り組みなど

29.平成20年3月10日(月)10:00〜13:00 さくら会事務所
   参加者4名
報告書作成への指示・確認 川口理事より
執筆者:川口有美子 小長谷百絵 岡 輝秋 堀田義太郎 北村健一 海野幸太郎 
橋本佳代子 平岡久仁子 山本摂  塩田勝久  
・執筆状況の確認、締め切りについて。
・編集、体裁などについて基本的打ち合わせ。
・調査・研究テーマに沿った執筆の確認。
・執筆者へはメールにて確認。

30.平成20年3月22日(土)10:00〜15:00 さくら会事務所
   参加者4名
報告書まとめ作業
31.平成20年3月24日(月)10:00〜13:00 さくら会事務所
   参加者3名
報告書まとめ作業

32.平成20年3月26日(水)10:00〜13:00 さくら会事務所
   参加者3名
報告書まとめ作業

33.平成20年3月27日(木)10:00〜13:00 さくら会事務所
   参加者3名
報告書まとめ作業

34.平成20年3月28日(金)10:00〜13:00 さくら会事務所
   参加者3名
報告書まとめ作業


1 11、重度包括支援資源開発会議

第1回
平成20年1月27 日(日)18:00〜 中野サンプラザ会議室
(出席者)
中村洋一   中野医師会     医師
川口有美子  さくら会理事    事業者
橋本操    さくら会理事長   当事者
平岡久仁子  日本ALS協会理事 ソーシャルワーカー
中村記久子  さくら会理事    看護師
塩田祥子   さくら会理事    介護福祉士
小長谷百絵  さくら会理事    東京女子医大助教授 看護師
森下奈沙   看護師       東京女子医大
大澤武仁   当事者
大澤慶子   家族 介護者
千葉芙美   家族 介護者
山田健弘   当事者
山田清美   家族 介護者
松岡宏昌   当事者
杉山加奈子  訪問介護士


(議事)
1.開催目的の説明   川口有美子
2.資源開発について 既存施設の活用など
(検討内容)
各地方での既存施設活用の実態聞き取り、各当事者のタームスケジュールを参考にしなが
ら現状ある資源(ひと・もの・かね)の活用を検討。


第2回
平成20年3月22 日(土)13:00〜  橋本操宅
(出席者)
川口有美子  さくら会理事    事業者
橋本操    さくら会理事長   当事者 日本ALS協会会長
中村記久子  さくら会理事    看護師
塩田祥子   さくら会理事    介護福祉士
小長谷百絵  さくら会理事    東京女子医大助教授 看護師
(議事)
1.開催目的  川口有美子
2.資源開発への課題
(検討内容)
1月の会議の検討を踏まえて、現状ある資源の有効利用について討議、重度訪問介護ヘル
ルパーの養成講座の普及→各地域における人材養成の継続。



U,事業結果報告
研究事業の結果、1、自立支援法重度障害者等包括支援の現状、2、重度障害者等包括支援に託された課題、3、利用者の主体性を尊重した包括的支援のメリット、4、重度障害者等包括支援における国庫負担基準の考え方について順次述べる。

1、現状の把握
(1) 都内の重度障害者等包括支援の利用状況
調査方法:
1.調査実施期間
平成20年4月4日から14日まで
2.調査者・・・特定非営利活動法人ALS/MNDサポートセンターさくら会事務局員
3.調査対象者・・・各区市町村障害福祉担当部署
4.調査実施方法・・・電話による聴き取り
5.質問事項 
支給決定者の有無
いる場合 @何名 A障害(身体、精神、知的) B十度訪問介護の最高支給時間 C受給者の疾患名 D受給者の状態(気管切開、コミュニケーション、呼吸機の有無)
いない場合 @その理由 A重度訪問介護の支給決定で区分6の対象者は15%加算されているか。B加算されていなければなぜか。

結果:
 重度障害者等包括支援サービスの実施は確認できなかった。結果表は次ページから掲載した。
状態像としては重度包括支援の対象者でも、都内のほとんどの市区町村で重度訪問介護の支給決定に留まっていることから、国庫負担基準額も障害程度区分6の標準的な給付額に留まっていることが考えられる。
また、支給決定のプロセスでは、障害程度区分を参考に支給決定が行われている傾向がある。国の説明では、「障害者の福祉サービスの必要性を総合的に判定するため、支給決定の各段階において、@障害者の心身の状況(障害程度区分)、A社会活動や介護者、居住等の状況、Bサービスの利用意向、C訓練・就労に関する評価を把握し、支給決定を行う。」と多元的な決定を行うようにあるが、ABCの評価は、現状ではあまり参考にされていないようであった。ALSが進行する過程で、疾患進行上もっとも危機的状況に晒されるのは、呼吸機能が衰えている呼吸器を装着する前の患者である。ALSは10万人に平均3,4名が発症しており、都内のどの市区町村にも、呼吸器装着が未定で在宅療養中の者は一人は存在するはずである。それが担当職員の中には「うちの市では、ALSも一般的な重度訪問介護で足りている」と答えていることから、医療的緊急的ニーズの濃い困難ケースとして認識されていない実態が浮き彫りになった。
またさらに、障害程度の認定時から支給決定までの間に、新たに発生した生活上必要な支援が、障害程度区分を採用している自立支援法では勘案されにくいと考えられる。その上、文字盤を介して眼球の動きだけで相当の時間を要し、かつかろうじてコミュニケーションができる患者が、瞬きで文字盤ができることにより「意思伝達ができる」と判定されるケースも9市区町村あった。コミュニケーションに固有の介護技術が求められ、長期の研修期間を要求されるにもかかわらず、重度訪問加算15%が算定されないケースも少なくないのである。これらのことが原因となり、ALSはますます事業所からの派遣を渋られている。
障害区分認定や支給決定では、自治体の裁量をどこまで認めるかも自立支援法の課題であり、地域間格差は窓口担当者の裁量によっても起こる。必要なサービスが病人本人による交渉なしに、自動的に供給されるべきである。これらは研究者も古くから指摘している点である。
また、都内市区町村の調査によって、全国的にALS療養者は重度訪問介護の支給決定に留まっていることがわかったが、重度障害者等包括支援の支給決定をおこなったとしても、重度訪問介護のみの利用でよいことが、周知されていないことも予想される。
このような状況において、全国的にALS療養者による重度訪問介護の利用が進んでいる地域と遅滞している地域とがあり、支給時間数や事業所数の格差は解消困難である。地域的には重度訪問介護さえ利用されていない状況があり、以下の要因が考えられる。

@  市区町村が長時間サービスの必要性をよく理解していないため推進力がない。
A  患者家族も支援者も長時間滞在型サービスを知らないし、利用方法もわからない。
B  重度障害者等包括支援は重度訪問介護より単価(単位)が低くなるので、実施するメリットがない。
C  重度包括支援サービスを利用するメリットもない。
D  重度包括支援事業者が少ない。(登録事業所は少ないが、なくはない。)
E  選択可能な福祉サービスがないか、ALS療養者のニーズにあわない。
F  多くの福祉施設でヘルパーは医療的行為(経管栄養や吸引など)を実施していない。したがって、ALS療養者には在宅と施設の併用は難しい状況にある。

(2) 地域間格差の現状
ALS療養者による重度訪問介護の利用は、2006年度日本ALS協会の独自調査と比較しても少しずつ増えてきている。(表参照) また、各地の支給量も全体として少しずつ伸びている。しかし、自治体の裁量による運営上の規定や給付状況は大きく異なったままで、現在は以下のような状況にある。
@ 重度訪問介護においても、居宅介護の報酬算定「2時間ルール」を適用している自治体がある(サービス間隔が2時間以上開いていない場合は前後のサービスを合算する)。
A 重度訪問介護の介助者は常に何らかの作業をする必要があり、見守り時間は算定できないとして、深夜帯の利用を認めていない市区町村がある。
B 週間介護計画について、トイレ何分、風呂何分などサービス内容を細かく積み上げて計算し、計画を立てねばならないとする市区町村がある(見守りやパソコン作業等の時間は算定できない)。
C 移動加算時間以外の外出は認められていないとする市区町村がある。
D 同じ都道府県の市町村間でも支給量格差がある。たとえば東京都内23区の西北部や多摩市では、家族同居の人にも500時間以上の給付が行われているケースも見られるが、23区南東部では多くても300時間未満である。区の障害福祉給付担当の話によれば、「必要とする者がいない」とのことであった。
E 重度障害者等包括支援サービスに該当する者に正当な支給決定が行われず、15%加算も実施されていない自治体もある。担当者の話では「加算をしなければ対応できないような者がいない。従来のサービスの継続でできているから」であった。
F ヘルパーが医療的ケアを担うとして、その規制の強い地域では、制度が利用できないという訴えが多い。これは介護保険制度のケアマネジメント機能や、県の介護保険課の管理規制が厳しいためである。ヘルパーによる医療的ケアは、障害福祉サービスでは以前からグレーゾーンとして、取り扱われてきた経緯があるが、介護保険制度では、ケアサービスの均質化に配慮することから、個々の障害ニーズに応じたサービスが認められておらず、個別性を要求するALS療養者にとって厳しい状況にある。したがって、介護保険で医療的ケアを一切容認しないという指導が行われた場合、サービスの供給側と受容側の双方に抑制がかかり、介護保険サービスを使い切れず、自立支援法も利用できなくなっている。
G 利用者の声としては、介護保険サービスは使いにくいので、自立支援法を先に利用したいという希望が多く聞かれた。
H 重度訪問介護派遣事業所不足は深刻で、給付量が増えても事業者やヘルパーが足りず、サービスが利用できないという訴えが目立った。また経営上の理由から重度訪問介護サービスを実施しない事業所も少なくない。ヘルパーの医療行為に対して独自に加算請求をする事業所もあり、トラブルのもとになっている。

(3) 家族介護者の現状
中高年に多く発症するALS療養者では、若い障害者の自立と異なるニーズがあることがわかった。特に以下の状況から、同居して介護を行う家族介護者のための自立支援やレスパイト支援を含むサービスのあり方が望まれている。
@ 在宅療養中のALS患者は他人介護に対する不安から家族介護を望む傾向がある。
A 長期にわたる在宅介護期間中には、家族構成も変化するため、ALSの在宅療養は、家族の都合によって左右されやすく、流動的で落ち着かない。
B 家族介護者の高齢化が進行している。
C 深夜帯や休日の長時間滞在介護サービスを望む患者家族が多い。
D 多くの家族介護者は外出も睡眠もままならない不自由な生活を長期にわたって送っている。
E 公的介護給付量と患者や家族のQOLに相関関係は見出せなかった。患者の訴えが頻繁であり、患者か家族あるいは双方にケアに対する強いこだわりがあるケースでは、ヘルパーでは対処できず、常時家族が対応せざるを得ない状況にある。ヘルパーがいてもほとんど役に立たないという状況は、ALSの在宅療養では決して珍しくはない。
F 介護のために就労や進学、結婚を断念した若い家族も少なくない(喫緊に実態調査が必要である)
G 加療後の退院で在宅移行時のサポート体制が制度的に保障されていないため、医療的ケアに不慣れな家族の多大な負担になっている。病診連携にも多くの課題がある。

(6) 施設での包括支援サービスの実施可能性 
@ 既存の身体障害者施設でのデイケアや一泊レスパイト等の受け入れには、施設側もALS療養者側も難色を示す傾向にある。施設側の理由は、療養者のニーズが不明である点、人手不足である点、経営面で困難がある点、利用者側はヘルパーが患者に対して一対一対応でない点などで、介護の質の低下に不安を覚えている。
A 訪問看護ステーションが療養通所介護を併設し、ALS療養者にデイケアを実施しているところが全国に散見される。ただし、往復の移動介護には労力・費用・技術を要するなど、労が多いわりに収益性が乏しく、発展性は現時点ではあまり期待できない。
B ALS療養者は、日常生活のケアの中に吸引や排痰など医療的ケアと、体位変換やマッサージなどの身体的な世話が混在しており、24時間絶え間ないケアを必要とする。従ってケアの内容の量と複雑さから、入院や入所は敬遠される傾向にある。現在都内の介護保険施設の9割が呼吸器を利用していないALS療養者でも、受け入れをしておらず、虐待など緊急やむを得ない状況でも6割が受け入れは困難としている。
C 家族介護者の地域の福祉施設利用の期待は大きい。しかし、患者は望んでいない。(後述する)
D 施設利用は都市部より地方のほうが進んでいる。
E 慣れ親しんだヘルパーが同行するのなら、短期レスパイトや通所介護を利用してもよいと考えるALS療養者も少なくない。ヘルパーが同行するのなら、家族の休養のために短期間の入所も覚悟できると考える者が、アンケート調査の結果、半数を占めている。
F ALS療養者では二人体制の外出が認められないなどの利用制限があると、滅多に外出ができなくなる。家族介護者もヘルパーが一人では、安心して外出もできない。また、ヘルパー二人体制の給付が認められたとしても、家族が外出支援に付き添っているのは、患者が家族の同行を強く望み、また家族も同行しなければ安堵できないためである。
G 多くの家族介護者は看護師やヘルパーのケアを手伝っているため、サービス利用中も休むことができないでいる。また多くの病棟施設で、家族の付き添いが求められるため、入院も家族のレスパイトにはならない。

上記のことから、多くの家族患者が離れがたい状況にあることがわかるが、介護を家族の仕事と認識した周囲の人が放置すれば、家族介護者の疲労が蓄積してケアレスミスや虐待につながることがある。重度訪問介護サービスが提供されても、患者家族のケアに対する強いこだわり解除できなければ、他人介護の効果は確認できず、根本的な解決にならないばかりか、ヘルパーの多大なストレスになっているのである。
したがって、施設という場がもたらす効果は、たんに患者を一時的に預かるためではなく、患者家族双方のピアサポートのためと考え直すことができ、ピアや支援者によるサポートの場としての施設利用は、発症初期から必要であろう。
ただし、施設におけるデイケアや短期レスパイトの実施に際しては、従来の高齢者や障害者向けのプログラムではなく、中高年の中途障害者にとっても、参加意義が実感でき、基本的には介護も一対一で対応する必要があるだろう。
身体麻痺で全介助であっても、内面的には完成した自意識を持つ療養者は、他者の意のままにはならないため、一方的に介護を行うサービス提供者やALS特有の心身の痛みを知らない者との間には誤解が生じやすいが、このような療養者が望む介護や時間の過ごし方が、施設一般の職員によく理解されていないことも、患者から施設利用を遠ざけ、在宅での療養体制だけを強く望む要因になっている。

(7) 支援者の現状
以下の状況と考えられるが、詳細は調査報告書を参照のこと。
@ 日本ALS協会でも、重度障害者等包括支援サービスを利用している者を確認できなかった。
A ALS療養者に重度訪問介護サービスを実施していない地域では、支援者もサービス効果を認知していない。支部会員のニーズがなく介護サービスの必要性を感じられないからである。
B 自立支援法の情報は主に障害者団体が運営するNPOを通して与えられている。支給量が増えている地域は、療養者個人と障害者団体との連携があるところである。
C 医療職は医療、福祉職は福祉の制度に関する知識に偏向するため、領域をまたいで相談支援ができる者は今はまだ非常に少ない。在宅で医療的ニーズを抱えた療養者のケアマネジメントやソーシャルワークでは、複数の職種の連携が必要とされるが、連絡の順序や職業倫理の違いなどからもトラブルが多発する。そのためALSを引き受けてくれるケアマネージャーはそう多くはいない。その上、疾患の進行速度は速く、日々新たな障害に対応する必要があり、利用する制度も刻々と変化するが、複数の制度の併用併給が制限されるため、ALSのケアマネジメントは大変に難しいとされる。京都班の独居療養者の参与観察では、入院治療を受けながら在宅移行を進める上で必要な生活保護受給の困難さが報告されている。

(6) 独居療養者の現状
前述したとおり、長期人工呼吸療法中のALS療養者の独居は、その開始も継続も困難を極めている。
総括すれば以下の状況と考える。(詳しくは、調査結果を参照)

独居開始の現状と課題
@ 在宅独居希望者がいても、病院では地域の療養体勢を整える等では対応できない状況にある。病院と地域の医療専門職との連携も十分取れているとは言いがたい。
A 入院中に生活保護の申請が受理されないため退院できない。
B 家族が入院中の療養者の退院独居を望まない。独居は危険であるし、自分たち家族に迷惑がかかると考えるためである。
C しかし、病棟の看護からは倦厭されて転院や退院を迫られてしまう。
D 従って、療養者の24時間在宅介護を引き受けてくれる家族以外の人がいなければ、退院したくても退院の目処がつかないため片身の狭い思いをしている。
E その結果、療養者は病院を転々とすることになり、多くは神経内科医もいない病院の病棟に流れ着き、最期を迎えることになる。
F 特に呼吸器装着前の独居者は障害程度区分も低いため、十分な見守り介護が確保されない。そのため在宅独居で孤独のうちに転倒死や餓死する者もいる。
G いったん退院したら、ベッドはふさがってしまうので、再び入院できる目処がたたない。地域資源を活用するためには一度退院しなければならないが、再び病棟に戻ることができないため試験的に外泊ができない。

独居継続の現状と課題
H 長期独居の条件として、もっとも重要なのは、24時間365日介護する家族以外の支援者を複数確保し、24時間をカバーする重度訪問介護の給付量を自治体に交渉し、確保することである。
I 生活保護の必要があれば支給決定を受ける。
J 他人による医療的ケアの問題をクリアする。
K 独居を支援してくれる24時間体制の診療所、訪問看護ステーション、介護派遣事業所が近くにあること。また、ALS当事者の病状や資質も関係する。これらの課題が次々押し寄せるため、協力者間の関係調整は面倒で、支援チームが挫折して解散することもある。それゆえ幾重もの障壁を乗り越えて、長期人工呼吸療法中のALSの独居を成功させるのは大変に難しい。
L 現在24時間他人介護で吸引や経管栄養を必要とするALS療養者の独居は全国でも現在2事例にすぎない。たいていの人は途中で挫折し、国立病院等の病棟での長期療養に切り替えているが、今後長期入院先の確保はますます難しくなる傾向にあるため、療養場所が確保できなければ、単身者は呼吸器をつけられない状況にある。
M 重度訪問介護でも「見守り」は請求できないとされたケースが各地で報告されている。これはおかしなことで、「見守り」が制度でできなければ、人工呼吸治療の開始は当然のことながら不可能である。そのような地域では、重度障害者の治療を受ける権利と生存する権利が剥奪されている状況にある。

独居者の療養支援については、実質的には給付量の上限を設定されることになりかねない包括的支援ではなく、必要に応じて柔軟に給付量も対応できる重度訪問介護等のホームヘルプサービスの充実が妥当な策である。レスパイトケアの必要もないことから、施設利用のニーズは非常に少ないといえる。地域の専門病院や在宅医療との綿密な連携において医療面の給付も十分に確保した上で、慎重に検討する必要があると考える。

(7) 地域の連携の現状
@ 病院のソーシャルワーカーや難病医療相談員が、障害ホームヘルプに関する人的ネットワークがなかったり、障害福祉に関心度が低かったりすると、障害者団体や患者会が発信する情報が届きにくくなる。また、病診連携が困難な場合も多々あるが、他地域の実践から学び現状を反省し改善しようという動きにつながらないようである。地域の医療ネットワークが閉鎖的では、当事者に届く情報も選別され限定されてしまうので、在宅での自立支援が進んでいない。
A 介護保険のケアマネージャーに、障害者自立支援法における訪問系サービスの実務経験が乏しいと、多職種連携の調整が難しく、信頼関係が築きにくいことがある。
B 先に述べたように、地域独自の制約が、国の制度上の制約のように伝達されている傾向がある。
C 地方分権の余波として都道府県や市区町村で決定したことには国が指導することができないといわれるため、自立支援法と異なる理念で自立支援法を運用している自治体に対しても指導できる機関がないことは非常に問題である。
D 異なる二つ以上の制度の利用を開始する際、制度ごとに異なる審査会や認定調査にかかる時間のずれから、利用当事者にとって緊急性のある必要不可欠なサービスも、開始が大幅に遅れるなどの問題が多発している。
E 多くの自治体で重度訪問介護従業者養成機関が常設されていないため、介護従業者不足の解消策は取られていない。障害福祉の従業者増員施策に遅れがある。
F 都道府県や市町村の障害福祉の担当者が、国の制度を変更した独自の運用規定を作って、制度を使いにくくしているケースは少なくないが、それを「自治体の裁量」としている。また一方では、地域での連携が構築しやすいように、独自に工夫している自治体もある。たとえば、重度訪問介護と居宅介護の併用は国で認めているが、認められないとする市区町村もあるし、制度の併用、具体的には病棟内でのヘルパーの付き添いを容認している市町村もあり、ヘルパーの医療的ケアの規制も自治体によってかなりの開きがある。このように、複数の制度の整合性欠如を補完するためにグレーゾーンが存在するのであるが、地域福祉の裁量が発揮されるゾーンでもある。したがって、グレーゾーンを残すことも検討されている。もしグレーゾーンを無くすのなら、現行の法制度の規制を相当緩和しないと、ALS患者のような者の療養支援は不可能になる。

(8) サービス提供者の現状

@  慢性的なヘルパー不足である。
A  吸引や経管栄養のサービスは法律上ヘルパーの業とされていないことから、実施しても評価されないばかりか、これらのサービスの提供は県によっては事業指定取り消しの対象とされることもある。
B  ヘルパーの実地研修費は事業所の持ち出しになっているが、長期にわたるためその間の負担は多大になってしまっている。特にコミュニケーションが難しい利用者の場合、半年以上の研修期間が必要になるが、研修中のヘルパーを制度を利用して派遣すれば、利用者に「質の悪いヘルパーを派遣してくる」と苦情を言われることもあるため、研修中の時給は事業所の持ち出しになってしまうのである。また、研修途中でヘルパーが挫折し退職すると、それまで費やした研修費が無駄になる。これが度重なると、その事業者はALS療養者には二度と派遣しないということになってしまう。
C  介護保険や居宅介護の身体介護と比較して、重度訪問介護は単価が低く、長時間現場に滞在するヘルパーの管理も難しいことから、サービスの提供者が少ない。また、自立支援法では450時間ごとに一人のサービス提供責任者が必要とされるが、重度訪問介護を実施している事業所では、サービス提供責任者の資格保持者(ヘルパー2級以上、3年以上の実務経験者あるいは介護福祉士)が不足しているため、派遣を依頼されても対応できない状況にある。また、介護保険の身体介護と同様のサービス内容を提供しても、重度訪問介護では収益や運用面で不利益が生じやすいため、概して長時間滞在型の重度訪問介護はニーズがあっても事業者が育たない状況にある。
D  療養者の入院中はサービスが提供できないため、ヘルパーのレイオフも行わざるをえず経営に響く。また利用者にとっても慣れ親しんだヘルパーを入院中に失ってしまうため、入院を拒否せざるを得なくなり、適切な医療を受けるタイミングを逸している。(自治体の裁量でコミュニケーション支援を認めるところもあるが、1日4時間を限度とする短時間では効果がない。)
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(9) 訪問看護の現状
@  訪問看護師も不足している。
A  24時間対応の訪問介護ステーションは少ないが、独居患者も法律に従い、ヘルパーは経管注入をしないよう要請されるため、独居者は真夏も、夜間も、外出時も、のどが渇いても水分摂取ができず脱水になっている。
B  ヘルパーによる経管注入の禁止で看護師の1日の訪問回数が増え、その往復の交通費が自己負担となったために、家族が訪問を断ってしまい在宅療養が困難になり、施設入所になり、入所後1ヶ月で死亡したケースがある。
C  ヘルパーの医療的ケアの指導は、訪問報酬としては算定できないため訪問看護師のボランティアになっている。
D  地域の医療従事者が経管のケアに慣れない等で、在宅療養が困難になったケースがある。地域の医療従事者の医療技術にはばらつきがある。
E  訪問看護師による長時間滞在や外出支援を希望する療養者が多い。
F  療養通所介護を開設し、呼吸器を利用中のALSを受け入れている熱心な訪問看護ステーションも全国にわずかにある。しかし収益性が乏しく、ALS療養者の移動介護も困難で手間がかかるため、現在の報酬では赤字になり、一般のステーションでは困難である。
 
2,重度障害者等包括支援に託された課題

次のような課題がみえている。
1) 障害者自立支援法は、@ADLにもとづいた障害程度区分による給付決定方式では十分な対応が難しい。A生活保護制度との役割分担、補完ができていない。B介護保険制度に基づく諸サービス、サービス提供者との連携が取りにくい。
2)、人工呼吸療法開始前の療養者にこそ、包括的支援が有効である。
3)、重度障害者等包括支援は、現在示されたままの仕組みでは、事業者にとってデメリットが多すぎる。
4)、重度障害者等包括支援の枠組みで、パーソナルアシスタンスを起用できる。

1)の障害者自立支援法ついては従来言われてきたとおりであるが、2)以下の課題について、次に具体的に述べる。

(1) 独居の療養者の包括的支援
 人工呼吸療法を開始した独居者には、従来のデイケアやレスパイト等の利用の要望はないが、包括的支援に期待されるのは、@在宅移行期間や入院中の制度の併用(具体的には重度訪問ヘルパーによる入院中の見守り介護や地域の看護師の訪問)、Aホテルやケアホーム等の中間施設利用と重度訪問介護の併用である。
独居者の支援を実現するためには、発症から包括的な独居支援パッケージが必要である。難病医療ネットワークや保健所には、在宅支援プロトコルも示されているが、障害福祉制度はその中には含まれておらず、家族介護が前提にあるために、一人暮らしの当事者にとって、もっとも必要な在宅での介護支援の確保ができていない。現在も医療と福祉制度の連携は乏しいため、一部の家族に恵まれた患者のみが、在宅での長期療養に臨むことができる。しかし、介護の長期化は家族の疲労を生じさせ、在宅療養の破綻を導くことにもなる。

(2) 家族同居の療養者の包括的支援
包括的支援は、家族と同居し家族の介護を望む患者や、療養の中心になって積極的に介護をしたい家族に対して、もっとも有効なシステムと考える。つまり、包括的支援では、当事者の自立支援のみならず、家族介護者の日常的なレスパイトや家族の就労支援をも達成することができるからである。
もっとも、レスパイト施設への移動には、患者家族とも体力気力を要することから、人工呼吸療法療養者の定期利用は向かない面もある。むしろ、ホームヘルプサービスを手厚くすることにより、家族のレスパイトを日常的に実現するほうが現実的な施策と考えられる面がある。また、外出支援の要望は強いが、気候や体調に左右されるサービスでもあることから、臨機応変な対応が望まれている。協会調査でも、療養者本人はデイサービスや通所介護の利用を望まない傾向であった。
しかしながら、家庭以外に一時身を寄せる場所として、緊急一時保護として、日ごろ慣れ親しんだ訪問看護師が常駐する、訪問看護ステーションの療養通所介護の確保を患者も家族も望んでいる面はある。療養通所介護でのデイケアを希望する者は、気管切開を行う前の療養者に多く、介護者一名で車椅子への移乗および外出支援が可能な程度の療養者に対してこそ、施設利用の有意性は認められる。そのため、重度障害者等包括支援の対象者を、気管切開前の療養者に前倒しに認めることの効果は大きいと考えられる。
施設利用に際して、家族同居のいる利用者の要望に挙げられたのが、当該利用者の介護に慣れた重度訪問介護ヘルパーの同行である。この際、ヘルパーが施設と一時的に雇用契約を結び、当該の利用者の介護にあたり、重度包括支援事業所から施設に利用料を支払うことも検討したが、異なる制度の併用が難しいばかりではなく、ヘルパーの雇用関係で問題が生じる。それは、
・ 所属先は一時的に施設になるとして、ヘルパーの研修をどのように担保するか。
・ ホーム職員規定の遵守(短期雇用でも検診の義務などが発生する)
・ 報酬の扱い(源泉税の徴収はどちらかが乙扱いとなる)
・ 法整備の必要(ヘルパーの保険、保健衛生管理、吸引・胃ろう注入を施設内で実施)
・ 地域医療職との連携(他の施設利用者に不平不満がでないか)
・ 他の職員、入居者との関係(施設職員や入居者の理解と援助が得られるか)

これらを総合的に解決する策としては、@新たな解釈を用いて、制度の併用併給を可能にする。つまりAという事業所の重度訪問介護従業者を、Bという施設に派遣してもよいとする。A同行するヘルパーを重度訪問介護の従業者ではなく、有償ボランティアとして重度包括支援事業所から派遣する。B福祉施設以外の家屋や部屋を短期レスパイト場所として利用すること。そこへ重度訪問介護ヘルパーの派遣を認める。
しかし、これらが重度障害者等包括支援事業者に多大な負担を課すシステムになるのでは、重度訪問介護事業者と同様、低コスト負担増という問題を抱えることになりかねない。

3,利用者の主体性を尊重した包括的支援

(1)重度包括支援の意義として、「一定の報酬額をあらかじめ設定する仕組み(包括払い方式)とした上で、特定の事業者(重度障害者等包括支援事業者)がサービス提供全体について責任を負う」とある。また、報酬支払いの方法として、1、報酬は重度障害者等包括支援事業者に全て支払う。 2、他の事業者と連携してサービスを提供する場合は、重度障害者等包括支援事業者から他の事業者へ委託費を支払う。3、支給決定した単位数をそのまま支払い、実際に使ったサービスの内訳等は問わない。(包括払い方式)とある。
これらのことから、重度障害者等包括支援事業所は、重度障害者のアドボカシー機能を兼ね備えて当事者のニーズに優先的に対処する専門機関になると考えられる。
(2)制度の柔軟な運用のために、「報酬単価の自由な設定」、「重度訪問介護従業者に資格要件を問わない」等が認められることから、事業所の自立訓練室や福祉施設での一泊レスパイトに無資格のヘルパーが同行宿泊することは可能であると考えられる。
(3)利用者の都合に合わせた利用変更も可能とすることから、「一定の報酬額」内であれば利用者によるセルフマネジメントも可能であると考えられる。

これらを総合的に評価すれば、重度障害者等包括支援事業所を、相談機能を兼ね備えた疾患別の専門エージェンシーと見て、利用者の給付額を事業所にプールし、支援専門相談員と当事者のマネジメントによって運営する事業形態や、当事者が当事者の相談事業を実施する協同組合方式サービスとの提携も可能である。問題とされている重度訪問介護4時間あたり700単位という報酬単価の低さであるが、ホームヘルプ事業の一部を重度訪問介護を使わず有償ボランティアを斡旋する協同組合方式にして、ヘルパーの採用、派遣時間の調整、研修指導や相談事業等の現在は事業者にかかっている調整作業を、利用当事者の個人査定、個人雇用に移行し、支援事業所でプールした包括給付から決められた報酬額を有償ボランティアに支払うシステムにすれば、自立性を重んじる利用者にも、厄介な調整業務に悩みを抱えている事業所にもアピールできる制度になるだろう。イメージとしては、スウェーデンの「ストックホルム自立生活協同組合」(STIL)か、オーフス市の「オーフス制度」に近い。

各国の包括的支援サービスをみてみよう。これらはダイレクトペイメントとパーソナルアシスタンスを認めた包括的な支援サービスであり、当事者からも高い評価を得ている。ただし、ダイレクトペイメントといっても現金を当事者に直接渡すのではなく、協同組合的な事業所が一括して預かり、その運用を手伝っている。

カナダ・オンタリオ州の「ダイレクト・ファンド」(DF)では、ほぼ完全な個人査定・個人雇用方式のパーソナルアシスタント制度があるが、その分、制限は厳しく、身体障害者しか使えず、受給資格も厳しい。受給審査は当事者が行う。時間上限は1日最大6時間、月180時間以内(※1)である。また、スウェーデンの「ストックホルム自立生活協同組合」(STIL)は、交渉決定・協同組合雇用方式のパーソナルアシスタント制度である。受給審査は行政官(SW)が行う。厳密な本人のニーズではなく、家族状況などを勘案して決定される。アシスタントの雇用は個人雇用と事業者雇用の併用が可能である。その分、利用者の制限は緩く、知的・発達障害者なども利用可能であり、給付上限もない(※2)。
アメリカの「セルフディレクデッド・サービス」では、80年代後半以降の、知的障害者・発達障害者を中心とする自己決定運動の成果に基づき、2004年から制度化されたパーソナルアシスタント制度である。個人ベースの予算計画(個別財政プラン)に基づいて支給額が決定される。もともと知的・発達障害者中心の運動に由来するため、本人の管理能力のハードルを超えるため、エージェンシーが制度的に保障されている。利用者協同組合方式も検討されている(※3)。イギリスのコミュニティケア法/ダイレクトペイメント法は、1997年によって制度化されたパーソナルアシスタント制度である(※4)。
デンマークのオーフス市では、日常的に医療が必要な筋ジストロフィー当事者を先頭に、1970年代後半から、行政と交渉を重ね、「オーフス方式」と呼ばれる重度障害者の自立生活を可能にする独自のパーソナルアシスタント制度を作り出してきた。オーフス方式では、障害者本人が広告を出し、パーソナルヘルパーを面接して選ぶ。雇用管理も本人が行う。当初は時間の上限設定もあったが、24時間態勢でヘルパーを雇えるようになった。その後も各地で類似する制度が作られ、1987年には全国的な制度として位置づけられる。スウェーデン・フィンランド・オランダ・米国の一部にも影響を与えている。ただし、パーソナルアシスタント制度の利用要件は厳しく、2006年度現在、この制度を利用している障害者は全国で1000人ほどという。
日本でも、いくつかの障害者団体が重度訪問介護従業者養成研修事業をおこなっている。研修を終えたところを自薦ヘルパーとして事業所に登録し、事業所のヘルパーとして派遣するシステムは、パーソナルアシスタントの一種と考えることができる。しかし、利用者の中には、できれば自分でケアマネジメントを行い、自薦ヘルパーの報酬単価も自由に設定したいという希望も強くある。そこで、この重度障害者等包括支援の枠組みで、事業所から派遣されるという形式をとらず、利用者とヘルパーの直接契約により報酬を決定し、報酬は包括支援事業者からヘルパーに対して支払うシステムの実現可能性を、工夫することもできると考える。
というのも、包括支援のすべてを利用者自身のマネジメントで運用する必要はないが、ボランティアを自分で募集し養成できる療養者に対しては、給付の一部を使って利用者が自薦ヘルパー(パーソナルアシスタント方式)を比較的自由に採用できる方法は、いくつかの課題を解決する可能性があると考えるからである。それは、これまでもALSの在宅療養における重要課題とされてきた、いくつかの難問も含む。たとえば、@医療的ケアの実施、A研修期間にかかる人件費などである。また、B利用者はヘルパーの雇用主としての評価や個別の要求が可能であり Bヘルパーも利用者を選ぶことができることも、利用者から寄せられる要望である。これは、過去は全身性障害者等介護人派遣事業の中で行われてきたシステムで、自治体の措置として利用することができたALS療養者の評価は高かった。これらは利用者のみならず事業者にとっても、たとえ単価が安くなったとしても、ヘルパーの監督責任や関係調整業務が軽減する点などで、コストカット等のメリットが想定できる。ただし、ヘルパーのキャリアアップ等の不利益にならないよう、また事業所のヘルパーを利用者が有償ボランティアとして利用する際には、ヘルパーの所属規定などに別途対策が必要である。

【註】
※1.岡部[2006])
※2.ラツカ[1991][2004]、岡部[2006])
※3.岡部[2006]
※4.ヒューマンケア協会[1998]、小川[2003][2005]

4,重度障害者等包括支援と国庫負担基準
重度障害者等包括支援の国庫負担基準が実質的な給付の上限とならないよう、各自治体で独自の上乗せ、生活支援事業によるサービスが実施されるべきである。しかし、実際には多くの市区町村で国庫負担基準を給付上限とする設定がなされている。認定区分に収まらない非定型の療養者に対する給付の上乗せは自立支援法に定められているが、多くの市区町村で実施されていない。また、介護保険が適応されない場合でも国庫負担金は月額45万円5千円の給付しかなされず、その予算内でのサービスでは、まったく足りないという状況である。介護保険適応者ではさらに低くなり27万6千円である。したがって、改善策としては最重度の障害者に対する国庫負担基準額の引き上げ、介護保険利用者も減額せず全額を支給した上で、各地域で独自事業を用意してサービスの不足を補完する、区分間流用ができることから、制度を少ししか利用しない障害者も自立支援法の支給決定をしておくことなどが考えられる。そして、支援を推進するためには当該利用者に対して制度の宣伝を積極的におこない利用方法を丁寧に説明することと、医療と福祉の連携を強めるためのなんらかの仕組みが必要である。
以上、本年度の調査研究の結果を受けて、重度障害者等包括支援のあり方について考察した。今後の課題としては、提案されたサービス利用計画を全国2、3箇所で実施し、実行可能性や対費用効果について検討する予定である。

V 重度包括支援支給の実態調査結果

表(jpg)

表:重度包括支援支給の実態調査結果

第2章→

*作成:
UP: 20090731
全文掲載  ◇第2章  ◇川口 有美子  ◇ALS  ◇ケア  ◇障害者自立支援法  ◇NPO法人さくら会
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