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筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する神経再生誘導の試み


last update: 20151225

シンポジウム13 SY−13−3

青木 正志、割田 仁、水野 秀紀、糸山 泰人
東北大学大学院医学系研究科神経内科

筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する神経再生誘導の試み

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は上位および下位運動ニューロンを選択的かつ系統的に障害し、呼吸筋を含む全身の筋萎縮をきたす進行性疾患である。さらには有効な治療薬や治療法がほとんどないため、ALSは神経疾患のなかで最も過酷な疾患とされ、早期に病因の解明と有効な治療法の確立が求められている。1993年に家族性ALSにおいてその一部の原因遺伝子がCu/Zn superoxide dismutase(SOD1)であることが明らかになり、さらにはこのSOD1遺伝子の突然変異をマウスに導入することにより、ヒトALSの病態を非常に良く再現することに成功した。変異SOD1による家族性ALSの発症メカニズムはまだ十分には解明されていないが、変異SOD1が新たに獲得した"gain of toxic function"によるものと考えられている。
 変異SOD1を導入したマウスモデルはすでに世界中で用いられているが、大きさによる研究上のさまざまな制約がある。東北大学ではこの点を克服し病態解明と治療法開発を有利に進めるため、新たにラットによるALSモデル(ALSラット)を開発した。このラットモデルはALS病態の主座である脊髄運動ニューロンに対して全身的副作用を回避しながら効率よく薬剤やベクターを投与できる「髄腔内投与」や直接接種といったアプローチが容易という利点をもつ。
 私たちはこのALSラットを用いた治療法開発研究として、(1)肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor, HGF)の髄腔内投与と、(2)脊髄内在性神経前駆細胞の解析と活性化の試みを行っている。HGFは本邦でクローニングされ運動ニューロンに対する強力な保護活性が知られている。またALSラット脊髄では病態の進行につれて内在性の神経前駆細胞が増殖していることが明らかになった。これらの知見から、残存する運動ニューロンの細胞死を抑制し、あるいは内在性神経前駆細胞を起源としてグリア細胞も含めた細胞補充をねらい機能修復をめざすことで、温存性神経再生を将来実現するのが目標である。こうしたアプローチは将来的なALS治療研究の一翼を担っていくと考えられ、ALSにおける臨床応用をめざした戦略として期待できる。



20080317
作成:川口有美子野崎泰伸
ALS・2008  ◇ALS
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