HOME > 全文掲載 >

「はじめに」


渡辺 克典 2007/11/30
『声の文化を考える――ろう者の吃音者の視点から』54p+vii. pp. iii-vii

last update: 20151225

1.カルチュラル・タイフーンについて

  2007年6月30日(土)から7月1日(日)にかけて、愛知県名古屋市で第5回カルチュラル・タイフーン2007in名古屋(以下、カルタイ2007と略記する)が開催された。本報告書は、カルタイ2007のなかでおこなわれたセッション「声の文化を考える」の報告書である。カルチュラル・タイフーン(文化台風)とは、「文化」に関心をもつ多様な人びとが集い、対話をおこなうことを目的とした活動である。その活動は、カルチュラル・タイフーン運営委員会を中心として、2003年から年に1回シンポジウムが開催されている。今回のシンポジウムは第5回目にあたる。
  なお、本セッションの司会である坪井秀人氏と発表者のひとりである渡辺克典はカルタイ2007の実行委員にも名を連ねている。

第5回 カルチュラル・タイフーン2007 in名古屋
テーマ:市民/文化/経済
日時:2007年6月30日(土)、7月1日(日)
主催:文化台風学会
後援:大幸財団、NPO法人参画プラネット
共催:パラサイトシネマ、野外活動研究会、東区まちそだての会
ウェブサイト:http://www.cultural-typhoon.com/

2.セッション「声の文化を考える」について

  セッション「声の文化を考える」は、カルタイ2007でひらかれた合計20のセッションの中の1つである。セッションの概要と、事前に配布された報告概要は以下の通りであった。

日時:2007年6月30日(土) 14時55分〜16時55分
場所:ウィル愛知 セミナールーム1
司会:坪井 秀人(名古屋大学)
報告:澁谷 智子(日本学術振興会特別研究員)
野呂 一(中野区役所・東京)
渡辺 克典(日本福祉大学他非常勤講師)

声の文化を考える――ろう者と吃音者の視点から

セッション概要:
  多くの人にとって、声はコミュニケーションを交わすのに欠かせないものとなっている。声の出し方をめぐっては、望ましい発音や場にふさわしい声の大きさなど、規範が定められており、それからはずれる声は、逸脱とみなされる傾向にある。これらを、「声の文化」とよぶことができるだろう。
  その一方で、そうした「声の文化」とは異なる文化に属する人びともいる。たとえば、聞こえない人びとの「ろう文化」においては、手話の使い方の規範が存在し、顔の表情や視線などが、音声言語の文法や声のイントネーションと同じ働きを果たしている。また、吃音者の当事者運動においては、「声」の規範に対抗する独自の文化が作られてきた。本セッションでは、こうした人々の視点から、「声」の規範性を問い直す。吃音者やろう者を取り上げた映画やドラマや、ろう者による手話での報告は、普段は自明視されている「声」とは何かを改めて考える機会を提供するであろう。

【英文原稿】

A Consideration of Voice Culture: from the Perspective of the Deaf and Stammerers

ABSTRACT:
  For many people, "voice" is an indispensable tool for communication. When we use our voices, there are certain norms we follow: desirable pronunciation, appropriate volume, and so forth. Voices deviating from such norms tend to be seen as "abnormal." In other words, there exists what we may term a "Voice Culture".
  On the other hand, some people live in alternative cultures. For example, the Deaf have "Deaf Culture" and their own norms in terms of their use of sign language. Facial expression and eye direction function in the same way as the grammar of spoken language and intonation of voice. The self-help group of stammerers has also built a counter culture against "voice" norms.
  This session aims to reconsider this norm from the perspective of the Deaf and stammerers. The presentation by a deaf panelist in sign language and the representation of stammerers and the deaf in movies and television dramas will make the audience rethink "what is voice?"

セッション開催への経緯
  本セッションの開催への経緯について簡単に記しておきたい。本セッションのきっかけとなったのは、2005年に日本社会学会の機関誌である『社会学評論』に掲載された澁谷智子氏の論文「声の規範」(『社会学評論』第222号掲載)であった。この論文に対して、渡辺に機関誌『社会言語学』を発行する社会言語学刊行会から論文評の原稿依頼があった。『社会言語学』第6号には、渡辺による論文評と澁谷氏の応答が掲載された。これが2006年9月のことである。
  その後、渡辺が2007年2月から実行委員としてカルタイ2007にかかわっていくなかで、澁谷氏からセッション開催の話がもちあがった。司会者として坪井氏、発表者として野呂一氏に依頼をして、承諾を得た。5月12日に司会者・発表者・手話通訳者が集い、セッションの意義・目的について打ち合わせをおこなった。その翌日から、野呂氏が運営をするメーリングリストを中心として企画内容が議論された。こうして、6月30日の開催にいたったのである。

セッション開催に関わる資料
  以下は、当セッションと関連した資料である。合わせてご参照いただければ幸いである。

渋谷智子、2005、「声の規範――「ろうの声」に対する聴者の反応から」『社会学評論』第222号、435-451頁.
渡辺克典、2006、「論文評 声と相互行為」『社会言語学』6号、159-164頁.
渋谷智子、2006、「渡辺氏の論文評に応える」『社会言語学』6号、164-169頁.
渡辺克典、2007、「資料紹介「吃音者宣言」の歴史的背景とその位置づけ」『社会言語学』7号、103-106頁.

3.本報告書について

  本報告書は、次のような2部構成をとっている。第1に、セッション「声の文化を考える」の中でおこなわれた発表と質疑応答である。発表については、司会者によるセッション趣旨と問題提起(第1章)、各報告者の報告内容(第2章から第4章まで)を掲載している。また、残念ながら十分な時間をとれなかったが、当日おこなわれた質疑応答についても掲載している(第5章)。なお、会場では質問者には氏名を名乗っていただいたが、報告書では匿名とした。
  第2に、「セッションを振り返って」と題されたセッション後に記した原稿がある。ここには、この企画の立案者である澁谷氏と渡辺による各報告へのコメント(第6章)と、セッション当日に観客として参加していただいた方からのコメント(第7章)が収録している。これらすべては、セッション終了後に執筆したものである。とくに、観客としてセッションに参加していただいた方からのコメントについては、オーガナイザーより(無理を言って)お願いして執筆していただいたものである。心より感謝申し上げたい。

  セッション「後」の原稿に関連して、付け加えておきたい。本セッションは、分野も関心も異なる人びとが集ったセッションであったため、セッション「前」のメーリングリストを中心とした打ち合わせにおいても多くの点で議論が巻き起こっている。さまざまな議論の中で、本セッションを「声の文化をめぐるさまざまな問題を考える"きっかけ"としたい」という意識が共有されるようになった。本セッションが、こういった関心・目的をもつからこそ、セッションに参加者からいただいたコメントもまた本セッションの重要な一部であり、本報告書に目を通していただいて、読者各々に問題意識を巻き起こすこともまた、本セッションの企みのひとつである。忌憚のないご意見をいただければ幸いである。



UP:20110410 
全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)