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「政府・厚労省による生活保護基準見直しの現状に ついて」

木谷 公士郎 20071129
辛抱たまらん!ええかげんにせえ!生活保護の切り下げに反対する緊急集会

last update: 20151225


■政府・厚労省による生活保護基準見直しの現状について
 木谷 公士郎(生活保護問題対策全国会議事務局次長)

序)生活保護の原理がおびやかされている

(1)国家責任(最低生活保障と自立の助長)の原理
社会福祉の制度としての側面が強かった旧法をあらため、社会福祉の制度であるとともに社会保障の制度であること、従って国が直接その責任において保護を行 うこととする。

※なお「自立の助長」について当時の立法担当者は次のとおり書いている。
『最低生活の保障と共に、自立の助長ということを目的の中に含めたのは、「人をして人たるに値する存在」たらしめるには単にその最低生活を維持させるとい うだけでは十分でない。凡そ人はすべてその中に何等かの自主独立の意味において可能性を包蔵している。この内容的可能性を発見し、これを助長育成し、而し て、その人をしてその能力に相応しい状態において社会生活に適応させることこそ、真実の意味において生存権を保障する所以である。社会保障の制度であると 共に、社会福祉の制度である生活保護制度としては、当然此処迄を目的とすべきであるとする考えに出でるものである。従って、兎角誤解され易いように隋民防 止ということは、この制度がその目的に従って最も効果的に適用された結果として起ることではあらうが、少くとも「自立の助長」という表現で第一義的に意図 されている所ではない。自立の助長を目的に謳った趣旨は、そのように調子の低いものではないのである』(「解釈と運用」92ページ第1条「趣旨」)

(2)無差別平等の原理
「『無差別平等に』−保護を要する状態に立ち至った原因の如何や、(例えば、病気、傷害、災害、世帯主の死亡、不具癈疾(ママ)、失業等)人種、信条、性 別、社会的身分、門地等により優先的又は差別的に取り扱われることはない。」(107ページ解釈)「『(四)旧法の第二条や第三条のような絶対的欠格条項 を受給資格の上に設けなかったことは、新法の特長の一つである。』」(106ページ第2条趣旨)
『(一)本条と保護実施における行き届いた配慮の必要との関係について
(略)実際上の問題として191万(昭和25年6月)に達する被保護者の多くは、法律の建前がどう変ろうとも、今なお一種の潜在的卑屈感を捨て切れずに居 るに違いない。このような状態に在る人々からかかる圧迫感を取りのぞくことこそ、ケースワークの目的とする部門の一つであって、この際最も大切なことは、 当局側に在る者の行き届いた配慮である。従って、我々としては仮りにも法律改正によって相手方も強くなったんだからというような考から要保護者に対する行 き届いた配慮を怠るようなことがあってはならない
(二)無差別平等の原則の真義について
無差別平等ということを余り機械的に考えることは危険であり、且つ、この法律の意図する所ではない。無差別平等の第一義的に期するところは、保護の受給資 格において優先的又は差別的の取扱をしないことである。従って、保護の種類や方法の決定は勿論保護の程度の決定さえも、その処理における直接的な指導原理 はこの無差別平等に求むべきものではなく、第九条に掲げる必要即応の原則に仰ぐべきものなのである。特に世帯の状況に対する配慮を欠き、機械的に就労によ る所謂自立の強要をするが如きは無差別平等原則の極端なる誤解と言うべきである。』(107ページ第2条運用)
『(注5)この問題(106ページ)に対し、厚生省が未だ現在のように徹底した態度を決しかねていた一昨年当時から、このような方向に制度を改善する必要 を力説し、倦まず弛まず係官を教育してきた人が外ならぬ現在連合国軍総司令部公衆衛生福祉部福祉課長の職に在るアーヴィン・エイチ・マーカソン氏である。 同氏が繰返し力説してきたところを要約して紹介すると次の通りである。
「勤労の意志がない勤労を怠る、生計の維持に努めないということの原因には種々あろう。あるものは精神病であったり、又あるものは精神薄弱(ママ)又は一 般健康状態の低下のためである場合がある。故に、係員は勤労の意志がないと思われる者については、右に挙げたような原因がないかどうかよく確かめなくては ならない。右のような障害をもった人が雇用主の処へ送られる時にはその人の心身の能力によく適合した仕事にまわして貰う様な配慮が施されなければならな い。殊に、法律がこの条項で指す処の人々は誰の目から見ても心身の病もなく、又低能(ママ)でもないのに彼およびその家族を扶養するために働く意志のない ものを指すのである。ソーシャル・ワーカー達は、こういう人を自分は病気で働けないと思ってぶらぶらしたり、又は酒や賭博にふけったり等する様な種類の人 々と認めるであろう。こうした人々に対するケースワーク治療の技術は十分発達していないことはわかるが、こういう人達の問題を理解し、この人達を更生させ るための努力が払われなくてはならない。そして係員はこの個人一人の事だけでなく、この人の家族の事をも考えて、世帯主に左右された決定のために家族が悩 むことがないよう注意すべきである」』(114ページ第2条注記)

(3)最低生活保障の原理
「一 要旨 この条文は、国がこの制度によって保障しようとする最低生活の性格について規定したものであって、その要旨とするところは、それが単に辛うじ て生存を続けることを得しめるという程度のものであってはならないこと、換言すれば、少くとも人間としての生活を可能ならしめるという程度のものでなけれ ばならないことを明らかにする点にある」(115ページ)
そしてここではさらに、国際人権規約・社会権規約の批准を踏まえ下記の点を押さえておきたい。
「憲法25条にいう『健康で文化的な』最低生活の中身を考える上で、憲法制定以降の国際的な基本的人権の発展が考慮されなければならない。とりわけ、 1979年に批准・国内法化された『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』(国際人権規約・社会権規約)をふまえる必要がある。(略)社会権規 約は第9条で『この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める』と規定し、国籍を問わないすべての人への社会保障の権 利を認めている。さらに、11条1項において『この規約の締約国は、自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準につい ての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める』と規定し、締約国に『相当な生活水準』の社会保障実現とその『不断の改善』を求めて いる。最低生活ではなく『相当な生活水準』を実現することが締約国の義務である点が重要である。(略)社会権規約が国内法となった現在、憲法25条にいう 『健康で文化的な最低限度の生活』、生活保護法3条でいう『健康で文化的な生活水準』は『人間の尊厳を維持するのにふさわしい相当な水準の生活』と読み替 えなければならない。『人間の尊厳を維持するのにふさわしい生活』は、生活水準のみならず、生活保障の手続・方法にも貫かれなければならない。現行の生活 保護法は、受給権者の自尊心・人格を侵害するおそれのある資力調査や、私生活への過度の干渉となりうる指導・指示等を伴う点で、問題があると指摘できよ う」(岩田正美・岡部卓・清水浩一・編「貧困問題とソーシャルワーク」第6章「生活保護法の理念と原理」田中明彦執筆) 

(4)補足性の原理
『二 理由
(二)第一項の規定は、実質的にはこの法律による保護を受けるための資格を規定しているものであるが、この場合、この規定が正面から受給資格を規定するの 形を採らなかったのは、そうすることが絶対的に必要であるという訳でもなく、又そうすれば必ず何等かの形において欠格条項を設けざるを得なくなるからで あって、この条文においてはこれを避け、保護実施の要件として規定することにより、多少の弾力性を持たせることにしたのである。
保護実施の要件として第一項に規定するように資産、能力のすべてを最低生活の維持のために活用することを要請することについては多少の意見もあるが、資本 主義社会の公的扶助制度としては程度の違いはあろうが、建前の問題としては蓋し当然であろうと思う。ただ、現在の生活保護制度の運営の実際が、この点に関 し、余りにも機械的で自立の源をわざわざ枯渇させているという批判は、識者の間では定評となっているので、この点を是正するために立案上も特に意を用い た。「その利用し得る」という言葉と「活用する」という言葉とは、このような配慮の下に選ばれた言葉である。「資産、能力その他あらゆるものを」の「あら ゆるもの」は、資産、能力だけでは表現し尽せぬものがあるので用いたが、この言葉は各方面で評判が悪く、この規定全体の与える印象が極めて暗いものになっ ていると批判されているが、この点衷心から心苦しく感じている次第である。
なお、この規定では旧法第二条のような欠格条項を明記していないので、過去は如何様であれ、今後この規定に沿って行動する見込さえあれば保護が与えられる ことになっている。特に、素行不良ということはそのこと自体では過去であれ将来であれ、この規定の適用に全然関係さすべきでないというのが新法の態度で あって、このように読み取られるおそれのある言葉はこの規定の中では意識的に避けられている。
(三)生活保護法による保護と民法上の扶養との関係については、旧法は、これを保護を受ける資格に関連させて規定したが、新法においてはこれを避け、単に 民法上の扶養が生活保護に優先して行わるべきだという建前を規定するに止めた。(略)
(四)この制度による保護に対し、他の法律による扶助が優先すべきことを特に規定したのはこの制度が他の制度の目的のために濫用されることを防止しようと いう趣旨に出るものである。この制度は、国民の最後の生命線を確保しようとするものであるから、特にその実施が国家責任となり、その事務が国の事務とな り、その費用の八割が国庫負担となっているのである。然るに、地方における運用の実際を見ると他の目的のために八割国庫負担という実益のあるこの制度を利 用し、他の目的のために用意された費用の不足をこの制度の費用で実際上補充し、以て地方費負担の軽減を図る事例なしとせぬ実情である。このような実情に対 応し特にこの規定を置いたのである。
なお、この規定の内容をなす原則は、至極当然なことであって、法律上呼ばれる一般法に対する特別法優先の原則である。
(五)第一項および第二項の規定は、或いは要件として、或いは建前として規定されており、且つ、要件としても努めて弾力性のある内容を持たせるように配慮 されているから、当然保護が行わるべき場合に、この条文に規定する建前に縛られて保護ができないということは、法文の解釈上も殆どあり得ないと考えられた のであるが、万一の場合を考え第三項の規定を置いたのである。然しながら、第一項の規定が立案者の表現技術が拙劣であったために立法の趣旨に沿わない暗い 印象を一般の人々に与えているとすれば、この規定は、実質的には、入念規定以上の意味を持ち、この規定あることによって第四条が立法の趣旨に則したものに なっているとも云われ得よう』(119ページ第4条趣旨)
『(一)「その利用し得る」
資産についていえば、現実に使用、収益、処分の権能を持っていること、能力についていえば現在直ちに発揮できることであって総じて利用するかしないかが何 等特別の条件の成就をまつことなく、当人の意思だけで左右できることである。』(121ページ第4条解釈)
『四 労働能力ある者に対する保護について
外で働くことのできる者でも、働き口がない場合は、当然その困窮の程度に応じ保護を受け得るが、この場合その者をして努めて勤労による収入で生活させるよ うにするために、必ず最寄りの公共職業安定所に本人を出頭させて、求職の申込をさせ、公共職業安定所長から本人の勤労能力に適応する就職口のない旨の証明 書の発給を受けさせ、これを提出させてから保護を行うことになっているが、これが手続を単に機械的に履行するという結果にならぬよう留意する必要があろう (注7)』(125ページ第4条運用)

憲法25条(もっといえば憲法13条‐24条、26条、27条)の定める生存権保障の規定は、その最後の拠り所としての生活保護制度の以上の原理を求めて いる。これらの立法の理念ともいうべき生活保護の原理が今おびやかされている。

1 生活保護制度「改革」のこれまでの動き

2000年「社会福祉基礎構造改革法案」に対する附帯決議等

2003年「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太方針)2003」
「生活保護においても、物価、賃金動向、社会経済情勢の変化、年金制度改革などとの関係を踏まえ、老齢加算等の扶助基準など制度、運営の両面にわたる見直 しが必要である。」

2003年6月19日:財政制度等審議会建議
「近年、高齢化の進展や経済活動の低迷等を受けて生活保護受給者が急増してきている。
 生活保護は国民生活の最後のセーフティネットとしての機能を有するものであり、真に困窮した自立不可能な者に最低限度の生活を保障することを目的とする ものである。しかしながら、受給者に一定の収入を保障するものであるが故に、保障水準やその執行状況によっては、モラルハザードが生じかねず、かえって被 保護者の自立を阻害しかねないという面も指摘される。このため、制度・運営面について、以下の観点から、しっかりとした点検と見直しが必要である。
 まず、生活保護の地域別の被保護率をみると、地域における社会経済・雇用情勢の差異に留意する必要があるが、地域によって20倍近い差があることを踏ま えると、その執行の適正化とそのための地方公共団体の積極的な取り組みの促進が必要と考えられる。
 また、近年の物価・賃金動向等の社会経済情勢の変化を踏まえるとともに年金制度改革における給付水準の見直しとも一体的に検討すれば、生活扶助基準・加 算の引下げ・廃止、各種扶助の在り方の見直し、扶助の実施についての定期的な見直し・期限の設定など制度・運営の両面にわたり多角的かつ抜本的な検討が必 要である。
 特に、原則70歳以上の高齢者に上乗せされる老齢加算(17,930円1級地ー1)は福祉年金創設との関係から昭和35年に創設されたが、年金制度改革 の議論と一体的に考えると、70歳未満受給者との公平性、高齢者の消費は加齢に伴い減少する傾向にあること等からみて、廃止に向けた検討が必要であると考 えられる。また、母子家庭についてみた場合、一般の母子世帯の平均の所得金額(21.1万円、世帯人員平均2.64人)と被保護母子世帯の最低生活費 (22.1万円、世帯人員平均2.91人)を比較した場合、母子加算も同様であると考えられる。
 さらに医療保険と同様、長期入院患者等の入院解消やレセプト点検等により医療扶助の適正化を図ることが重要である。」

2003年12月16日社会保障審議会福祉部会「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」(2003年8月6日?)中間とりまとめ
(第1回「検討会」資料参照)

2004年12月15日生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書
「利用しやすく自立しやすい制度へ」
 自立-就労自立支援/日常生活自立支援/社会生活自立支援
→「自立支援プログラム」の導入
生活扶助基準の在り方・加算の在り方・級地等について提言
→老齢加算・母子加算の削減・廃止

2005年4月20日生活保護及び児童扶養手当に関する関係者協議会

2005年11月30日三位一体改革についての政府・与党合意
「生活保護の適正化について、国は、関係協議会において地方から提案があり、両者が一致した適正化方策について速やかに実施するとともに、地方は適正化に ついて真摯に取り組む。その上で適正化の効果が上がらない場合には、国(政府・与党)と地方は必要な改革について早急に検討し、実施する」

2005年11月全国知事会・市長会「生活保護制度等の基本と検討すべき課題-給付の適正化のための方策(提言)」
「年金制度との均衡等」「有期保護制度の創設」
「調査協力の義務付け」-金融機関等
福祉事務所とハローワーク、関係機関との緊密な連携の確立
「年金担保貸付制度の在り方」「資産処分方策」-リバースモーゲージの導入
「積み残しの課への取り組み」

2006年3月30日「生活保護行政を適正に運営するための手引きについて」
届出義務・収入申告等の徴収等徹底
指導指示から保護停廃止に至るマニュアルを示す
法78条適用・告訴等の対応
年金担保貸付制度繰り返し利用者の排除

2006年7月7日「骨太方針2006」(第1回「検討会」資料参照)
<生活保護>
・ 以下の内容について、早急に見直しに着手し、可能な限り2007 年
度に、間に合わないものについても2008 年度には確実に実施する。
−生活扶助基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し
を行う。
−母子加算について、就労支援策を講じつつ、廃止を含めた見直し
を行う。
−級地の見直しを行う。
−自宅を保有している者について、リバースモーゲージを利用した
貸付け等を優先することとする。
・ 現行の生活保護制度は抜本的改革が迫られており、早急に総合的
な検討に着手し、改革を実施する。

2006年10月「新たなセーフティネットの提言」(全国知事会・市長会『新たなセーフティネット検討会』)
日本国民の「勤労を尊ぶ自助自立の精神」に基づく制度創設を提言
高齢者については「年金保険料納付努力が反映される制度」に。
具体的には5年の有期保護制度を提言。
さらにリバースモーゲージをさらに一歩進め、関係行政機関に所有権を移転させるという方策を提言。

2007年3月要保護世帯向け長期生活支援資金貸付制度導入
(2006年9月概要発表)

2007年10月19日「生活扶助基準に関する検討会(第1回開催)

2007年11月16日「地方分権改革推進委員会中間的なとりまとめ」
当面、生活扶助基準や級地の見直しなどの検討を進め、平成20 年度中に確実に実施すべきである。あわせて、給付の適正化をはじめ、高齢者世帯の割合が受給者の半数余りを占めていること、医療扶助が保護費の半分以上を 占めていること、自立支援のあり方などさまざまな点が課題として指摘されている。この問題について国と地方の協議の場を直ちに立ち上げて、制度全般につい て総合的な検討を行い、抜本的な改革を実施すべきである。あわせて、次のような点にも留意すべきと考える。
・ 地域における保護の実情を踏まえ、被保護者のために何がよいのかという観点に立って、現行の給付内容を国が責任を持つべき部分と地方が責任を持つべき部分 とに分けて考えるべきではないか。その際、例えば就労可能な者については、有期保護設定の考え方も取り入れるなど、自立・就労に向けて地方自治体が主体と なった自立支援の取組みを推進すべきではないか。
・ 医療扶助については、生活扶助と分けることも含めて制度を再設計すべきではないか。また、医療費負担適正化の観点から、必要な実態把握を行い、制度改革を すべきではないか。
・ 基礎年金や最低賃金の水準との関係も考慮すべきではないか。
抜本的な改革にあたっては、生活保護によるセーフティネットは、自助や共助があったうえでの最後のよりどころとなるべきものであり、国民の自助自立の精神 と調和した制度とすべきである。

以上大雑把にまとめてみると、
▼老齢加算・母子加算の削減廃止
▼「自立支援プログラム」導入
▼年金担保貸付制度繰り返し利用者の排除
▼高齢者の自宅不動産について長期生活支援資金貸付制度の利用の強制
▽基準の「低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し」、級地の見直し←イマココ
▽制度の抜本的改革(-その中身は「知事会・市長会」と検討)
 ▽5年の有期保護
 ▽年金との均衡
 ▽高齢者の不動産の召し上げ?
 ▽医療扶助の見直し

一方で、生活保護制度をめぐっては、相次ぐ北九州市餓死事件に対する取り組み、全国的に蔓延する「水際作戦」に対する取り組み等が急速に広がっている。
理屈抜きで生活保護制度から生活に困っている人たちを排除するやり方は通用しなくなりつつある。
90年代から「第三の波」と呼ばれる訴訟・審査請求の取り組み
全国青年司法書士協議会「生活保護110番」、2006年日弁連釧路人権シンポ以降の弁護士・司法書士の取り組みの広がり
「生きさせろ!」という声の広がり-持たざる者、プレカリアートの「無条件の生の肯定」を求める運動、新たな労働運動の波、反貧困を求める運動のつなが り。
そして先行して生活保護制度の内容そのものを問う「生存権」裁判のひろがり。
局面はこうした激しいせめぎ合いの過程のなかにある。

2 生活扶助基準「見直し」の具体的な中身について

(1) 一般低所得世帯との比較による見直し
第1十分位での比較(生活扶助相当支出額/生活扶助基準額)
夫婦子ひとり世帯(有業者)
148781円/150408円 =0.989
高齢単身世帯(60歳以上)
62831円/71209円 =0.882
うち70歳以上では
57553円/69628円 =0.826
第1十分位は十分な生活レベルに達していないのではないかという疑念にこたえる資料として厚労省は第3五分位との比較で生活扶助相当支出額が74パーセン トに達していること、ならびに耐久消費財普及率やさまざまなサービス財等の購入頻度において遜色がないという資料を示している。

(2)1類2類の区分の撤廃(大幅な見直し?)と大幅な多人数調整
「基軸」を標準3人世帯から単身世帯に設定しなおす。
「仮に第1類費と第2類費の区分をなくしたとしても、法律の規定に反するものではない」としてこの区分を撤廃、もしくは大幅に見直す。
多人数世帯の「スケールメリット」をより反映させる(現状では1類費について4人のときは0.95、5人以上のときは0.90を乗じる)。

(3)級地の見直し
都市部と地方における消費支出の格差縮小に伴い、級地区分を見直す(資料参照)

(4)冬季加算の見直し
第1回検討会では厚労省側が繰り返し冬季加算について言及。
(参照 11月23日付「沖縄タイムス」記事等)

(5)就労収入についての基礎控除の見直し
就労収入についての基礎控除については概ね狭義の必要経費をまかなう部分と「インセンティブ」の部分に分けることができる。
「生活保護を受けていない者との公平性」「生活保護から脱却しにくくなっている」を理由に「インセンティブ」部分に手をつけようとしている。
狭義の必要経費を就労収入1万円のときには7000円と見積もった上で、以後1万円増加するごとに概ね1000円必要経費がかかるものとして計算、残りを いわゆる「インセンティブ」給付と考える。
第3回資料では自治体からの意見をことさらに取り上げる(利用者の声は当然ながら、、)?「新たなセーフティネットの提言」で提案されているように、イン センティブ部分は積み立て方式(いわばクレジットカードのポイントのように直接給付するのでなく積み立てる)にして、一定期間で保護から脱却できなかった 場合には(クレジットカードのポイントのように)失効する、廃止のときには一括支給するというもの(岡部委員、根本委員もこれを支持)。

3 具体的にどれだけ下がるのか?
第1回資料は級地を限定せずに整理されているため、一般低所得世帯との均衡でどれだけ下がるのか判らない。また新たな算定方式も不明なため具体的な計算は 困難。
今回は一応第3回(及び第4回)資料にもとづいて地域格差を補正したうえで、最も数値の少ない0.989(3人世帯)をかけて計算。

Case1 標準3人世帯
(現状)
1級地-1 165180円
1級地-2 157970円
2級地-1 150770円
2級地-2 143550円
3級地-1 136350円
3級地-2 129140円

(地域格差による補正)
1級地-1 156251円(8929円減)
1級地-2 152008円(5962円減)
2級地-1 149277円(1493円減)
2級地-2 149531円(5981円増)
3級地-1 146838円(10488円増)
3級地-2 139651円(10511円増)

(×0.989)
1級地-1 154532円(10648円減)
1級地-2 150335円(7635円減)
2級地-1 147634円(3136円減)
2級地-2 147886円(4336円増)
3級地-1 145222円(8872円増)
3級地-2 138114円(8974円増)

(級地の補正を行った場合?仮に枝番の区分を撤廃したとする)
1級地 155060円(×0.989=153354円)
2級地 149326円(×0.989=147683円)
3級地 144155円(×0.989=142569円)

case2 (母42歳、子13歳、11歳、6歳の場合)
(現状)
1級地-1 233510円
1級地-2 224700円
2級地-1 214640円
2級地-2 205830円
3級地-1 195800円
3級地-2 186950円

(地域格差による補正)
1級地-1 220887円(12623円減)
1級地-2 216220円(8480円減)
2級地-1 212514円(2126円減)
2級地-2 214406円(8576円増)
3級地-1 210861円(15061円増)
3級地-2 202166円(15216円増)

(×0.989)
1級地-1 218457円(15053円減)
1級地-2 213841円(10859円減)
2級地-1 210176円(4464円減)
2級地-2 212047円(6217円増)
3級地-1 208541円(12741円増)
3級地-2 199942円(12992円増)

(級地の補正を行った場合?仮に枝番の区分を撤廃したとする)
1級地 219577円(×0.989= 217161円)
2級地 212882円 (×0.989= 210540円)
3級地 207615円 (×0.989=205331円)

case3 (72歳単身)
(現状)
1級地-1 75770円
1級地-2 72600円
2級地-1 68950円
2級地-2 65870円
3級地-1 62130円
3級地-2 59170円

(地域格差による補正)
1級地-1 71674円(4096円減)
1級地-2 69860円(2740円減)
2級地-1 68267円(683円減)
2級地-2 68614円(2744円増)
3級地-1 66909円(4779円増)
3級地-2 63986円(4816円増)

(×0.989)
1級地-1 70885円(4885円減)
1級地-2 69091円(3509円減)
2級地-1 67516円(1434円減)
2級地-2 67859円(1989円増)
3級地-1 66173円(4043円増)
3級地-2 63282円(4112円増)

(級地の補正を行った場合?仮に枝番の区分を撤廃したとする)
1級地 71165円(×0.989= 70382円)
2級地 68334円 (×0.989= 67582円)
3級地 65818円 (×0.989=65094円)

※就労控除についてインセンティブ部分がカットされた場合
例)標準3人世帯(大阪市在住・家賃55000円・就労収入17万円)
最低生活費 220180円
就労収入  170000円(基礎控除額 28090円)
総収入 248270円(支給される保護費 78270円)
うち、インセンティブ部分は5090円と計算される。
仮に上の見直しと合わせて行われると仮定すれば15000円以上家計収入が減少。

4 「見直し」の問題点について
(1) 一般低所得世帯との比較の妥当性
相当に切り詰めた生活をしている可能性のある一般低所得世帯(捕捉率の低さ、表にみられるエンゲル係数の低さ)
厚生労働省は耐久消費財普及率や購入頻度を上げているが、検討委員からも疑問の声。
そもそもあくまでも一般世帯との「格差縮小」であり「水準均衡」という話だった筈。
(対策会議「要望書」参照)
2004年のデータを前提にしている−その後の経済情勢の変化を反映せず。

(2) 基礎控除見直し論議にみられる狭義の「自立」観への後退
保護からの脱却のみに着目した議論(後述菊池委員発言参照)。
「貧困の罠」は、生活保護以外の施策の「貧困の罠」

(3)検討委員からも寄せられている疑問の声(資料参照)
「健康で文化的な最低限度の生活を保障するための絶対的な基準があるのではないか」
「耐久消費財は落層前に入手している可能性がある」「購入頻度を見ても社会的に妥当とは思えない切り詰め方をしている場合もみられる」
「インセンティブが効いているからずっと働いているのではないか。そうした生活保護を受けながら自立する形を前提とした勤労控除の役割は残すべき」
「生活保護の基準を考える上で『国民の公平感』を持ち出すことには疑念がある」

結語 社会構造の急速な変化のなかで真の「セーフティネット」の在り方は? 
ライフコースの変化-収入階層、貧困の固定化というトレンド。
→みんなが貧困に直面する時代にあっては「相対的貧困」には絶対値の検証が必要。
第1十分位−すなわち貧困に直面している人たちの実際の生活状況は「持続可能」か?
「抜本的改革」は生活保護制度が大切にしてきた原理原則に対する最終的死刑宣告。
求められるのは新たな「理論生計値」の構築と併用によるセーフティネットの下支えか?
それとも凄惨な新自由主義的労働市場−「自己責任」の世界への送り込みか?


UP:20071203
Archive ◇反・ 貧困(所得保障/生活保護/…)2007
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