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視覚障害学生支援の技法・2

立命館大学における視覚障害のある大学院生への支援についての1事例

植村 要青木 慎太朗・ 伊藤 実知子・ 山口 真紀 20070916-17
障害学会第4回大会 於:立命館大学

last update: 20151224

◆要旨
◆報告原稿

■報告要旨

1.はじめに
 本ポスター発表は、《視覚障害学生支援の技法》と題した3部作の一つに位置づくものである。この3部作では、まず青木が、視覚障害者に対する「情報保障の方法と課題」を報告する。そして、韓星民が、視覚障害者の読書環境を整備するためのアシスティブテクノロジーについて報告する。そして、植村要が、この二つの報告を踏まえた上で、そのような制度やアシスティブテクノロジーが、実際にどのように活用されているかの実態を報告する。この報告では、立命館大学大学院先端総合学術研究科での取り組みを、事例として報告する。

2.本報告の意義
 まず、支援の実態を報告するに際して、なぜ大学院での支援を対象にしたかについて記す。視覚障害のある者が、学校や大学で授業を受けるにあたっての支援を充実させる活動は、長い取り組みがある。そのような活動の結果、義務教育課程での点字教科書の無償貸与もなされるようになった。そして、近年、大学に進学する視覚障害者も増加し、徐々に支援体制も充実しつつある。そこでは、講義で配布されたレジュメを、データで提供したり、点訳して提供するなど、大学によっていくつかの方法で対応されている。しかし、大学院に進学する視覚障害者はまだ少ない。そのためか、支援体制もかならずしも整っていない。そこで、本報告では、まだ数も少なく、周知もされていない視覚障害のある大学院生への支援について、実際の事例を報告し、その実態についての情報の共有を図る。それは、今後の視覚障害のある大学院生への支援を充実させるにも資するところが大であると考える。ここで論点になるのは、学習支援と研究支援との相違である。
 次に、大学院での支援を対象にするに際して、なぜ立命館大学を対象にしたかについて記す。明らかな理由は、植村が立命館大学の大学院である先端総合学術研究科に在籍していることが挙げられる。植村がこの研究科に入学する以前に、視覚障害のある院生として、本報告の共同報告者の一人である青木が在席していた。しかし、青木の視覚障害は弱視という程度であり、視覚障害があるがゆえの支援については、多くを必要としなかったようであった。しかし、植村の視覚障害は、ほぼ全盲に近いため、文献の講読などには、多くの支援が必要になった。視覚障害者が文献を読む際の制度的な問題については、本報告が位置づく3部作の一つで青木が報告し、また、技術的な問題については、同じく韓が報告する。先端総合学術研究科では、制度的にも技術的にも、ほとんど何も活用されていなかった状態から、植村の入学に伴って、多くを活用し始めることになった。これらの制度や技術を活用して植村が大学院での研究を進め、授業を受講する上で、これらの制度や技術の長所・短所を顕著に経験することになった。そこで、先端総合学術研究科に入学した植村の支援をめぐって起こったことの実態を報告する。


 
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■報告原稿 視覚障害学生支援の技法・2
      立命館大学における視覚障害のある大学院生への支援についての一事例

<目的>
 視覚障害のある者が、教育機関において教育を受けるにあたっての支援を充実させる活動には、長い取り組みがある。そのような活動の結果、盲学校だけでなく地域の学校においても、義務教育課程においては、点字教科書・拡大教科書の無償貸与がなされるようになった。また、放課後などを利用して、担当教員が児童・生徒の自宅を訪問し、授業の補足なども行われている。
 近年では、大学に進学する視覚障害者も増加し、大学における視覚障害学生への支援体制も徐々に充実しつつある。例えば、講義の配布資料については、大学が業者に委託するなどして点訳したり、また、教員がパソコンで作成したものはそのデータを提供したりなどが行われている。ここで行われている支援は、かならずしも適切な支援が十分に提供されているばかりではない。が、その必要性は大学にも認識され、試行錯誤のなかで、いくつかの方法で取り組まれている。
 大学院に進学する視覚障害者となると、その人数はさらに少ない。そのためか、支援体制もかならずしも整っていない。視覚障害のある大学院生に対する支援は、まさに今日的課題なのである。
 現在、立命館大学大学院先端総合学術研究科(以下、先端研)には、3名の視覚障害者が在席している。2006年度に植村が入学する以前に、本報告の共同報告者の一人である青木がすでに在席していた。しかし、青木の視覚障害は弱視であり、視覚障害に関連する支援については、多くを必要としてこなかった。しかし、植村の視覚障害は、ほぼ全盲に近いため、とりわけ文献講読に多くの支援が必要であった。植村が大学院での授業を受講し、研究を進めるなかで、立命館大学における障害学生支援は、その問題を露呈することになった。
 そこで、本報告では、視覚障害のある大学院生に対する支援を考察する資源として、先端研に入学した植村の支援をめぐって起こったことの実態を報告し、現状についての認識の確認と共有を図る。これは、今後の視覚障害のある大学院生への支援を充実させるにも資するところが大であると考える。予算不足については、あまりに明白であり、大学との話し合いを進めなければならない。ここで論点になるのは、学習支援と研究支援との相違である。

<現在、植村が必要とする支援>
2006年4月、立命館大学大学院先端総合学術研究科入学。
現在の視力は、明暗がわかる程度である。学習・研究のための文献講読は、紙媒体のままでは不可能である。そこで、音声ソフトをインストールしたパソコンで読み上げることになるが、そのためには文献のデータ化が不可欠である。

<先端研入学前から2006年度の経緯>
 2006年2〜3月:先端研入学後の植村の学習および研究環境の整備について、先端研教員2名、事務職員1名、青木および植村が会し、話し合いがもたれる。文献講読に際し、パソコン、スキャナー、OCRソフト、および校正作業をする人材と人件費が必要であることが確認される。機器・ソフトは、先端研予算において購入準備にかかる。障害のある学生の入学に際して、私学振興財団からの給付金があり、立命館大学においては、障害のある学生一人当たり年間48万円を上限として、必要な支援に充当すべく制度化されていたため、これを人件費の原資とすることが確認される。
 2006年4〜5月:パソコン、スキャナー、oCRソフトが設置される。この設備を用いての文献のデータ化、特に校正作業の協力者を、先端研の同期入学生を中心に募る(中心メンバーは、本報告の共同報告者である伊藤・山口)。人材不足から作業が滞りがちであったため、知人を通じて学外にも協力者を募る。特に、障害があるというだけのためにアルバイトや就職に困難を強いられている人を、積極的に募る。作業に対しては、それに要した時間数を事後申告することによって、1時間当たり1000円の謝金が支払われることとなる。また、年間48万円の予算では到底不足することが隔日に予測されたため、学外の点訳ボランティア団体にも積極的に協力を依頼する。
 2006年9月:すでに組織されていた「ボランティアセンター」が、「障害学生支援室」と改組され、立命館大学における障害のある学生に対する支援を一手に担当する部署として位置づけられる。
 2006年10〜11月:障害学生支援室の主催によって、「テキスト文字校正者養成講座」が開催され、支援スタッフとして障害学生支援室に登録される。これによって校正作業者の供給主体は、それまでに植村が募ったメンバーと、支援室登録スタッフの二つになり、人材が充実し始める。
 2007年3月:2006年度分の謝金申請の締め切り直前になって、作業者からの申請が殺到する。2006年度の謝金の合計額が約120万円になることが判明する。協議の結果、超過分を2007年度分の予算で支払い、さらに超過した27万円強を、植村が自費で支払う。

<2007年度の経緯>
 2007年4月:植村に対する2007年度分の予算の残額がすでに0になっているため、有償で作業を引き受ける障害学生支援室の支援スタッフに作業を依頼できなくなる。作業を依頼できるのは、植村が募ったメンバーのみとなり、人材不足が再燃する。
 2007年5月:障害学生支援室から、作業に対する謝金算定の基準の変更・決定について、告知される。それに大して、弊害となる規定の改正を求め、改正される。謝金は、ページ数を基準に算定されることになる。
 2007年6月:作業者に対する謝金を植村が自費で支払うので、障害学生支援室の支援スタッフに作業を依頼したい旨、障害学生支援室に申し込む。これに対して、「障害学生支援室は、人材斡旋業者ではない」として却下される。そこで、無償ボランティアとしての協力を求める。これに対して「●学生を紹介することはできるが、トラブルなどについても、全てを植村が自己責任で行うこと。●一方に植村からの無償での依頼があり、一方に別の学生からの有償での依頼があるとき、無償での依頼を引き受ける学生がいるかはわからない」と返答される。

<現在、立命館大学=障害学生支援室における支援のうち、植村が利用しているもの>
 なし
 「障害者自立支援法」には、多くの問題が指摘されている。立命館大学=障害学生支援室が、それを知らないなどとは考えられない。しかし、障害学生支援室の行いは、「障害者自立支援法」において行われていることと、あまりに酷似している。

<学習支援>
 年間48万円という上限は、以下のように算出されている。
 800(円)×2(人)×15(回)×20(科目)=48万(円)
 ここでモデルとして想定されているのは聴覚障害のある学生が、ノートテイカーを1コマ800円で2人利用して、1科目15回の授業を、1年に20科目受講する場合である。これが障害の種類や程度を問わず適用されているのである。
 これは、学部生が講義を受講することに対する支援である。大学院においても、授業を受講する範囲においては、これを適用することも可能だろう。

<研究支援>
 大学院で行われることは、授業のみではなく、むしろ中心は研究である。立命館大学における障害学生支援には、学習支援という視点のみで、研究支援という視点がない。まず求められることは、研究支援という視点の導入である。
 では、支援という立場から見る研究とは、どのようなものか?
 今日、博士論文を基にした書籍は、多く刊行されている。その参考文献リストには、数多くの文献が列記されている。また、文献研究やフィールドワーク、実験を中心とした研究など、どのような研究をするかによって、用いられる文献の量も質も変わってくる。求められる支援も変わってくる。つまり、研究支援の内容は、個別に異なるのであり、網羅的に言うことはできない。
 したがって、研究支援とは、個々人が研究上必要とする支援を中心に置いて、それを充足させるべく思考されなければならない。予算の上限を設定し、その範囲内でできることをするというのとは、全く逆の方向性で進められなければならない。


UP:20070808 REV:20070905,0913
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