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「患者学会」を考える

「障害学」フィールドを昇華させた「患者学」のあり方

桜坂ゆう斎*1*2、串間努*1*3、石井政之*1*4
障害学会第4回大会 20070916-17 於:立命館大学

last update: 20151224

背景】医療のパラダイムシフトが起こっている。感染症の封じ込めによって、1970年代から慢性疾患の有病割合が拡大した。同時に、以前は急激に死に至っていた病に罹っても、難病という形で生存してゆくことが可能となってきた。その中で治療の主体者が医師ではなく患者自身になっているということが、世界各国で徐々に意識されるようになってきている。患者からのボトムアップの実用的学問に注目がなされるようになった。医師の前にいる存在としての「患者」に対して、「病者学」と考えるべきだという意見も記述したい。国際的には患者patientとは違う、PWCD(person with chronic disease、慢性疾患保持者、病者)、あるいはイデオロギーとして慢性疾患を潜在的に克服したPLWCD(Person living with chronic disease、慢性疾患と生きる人)という言葉も生まれきた。
 こういった概念をここで「患者学」と定義して、このフィールドを考えたい。
目的】以下の3つの広い視野から、患者からのボトムアップによる実用的学問を考察する。
(1)多用されるようになった「患者学」という領域をどのように定義するべきか。
(2)患者学の領域において、何がわかっていて、何がわかっていないのか。何が供給され、何が不足しているのか。
(3)病は予防という義務、あるいはタブーを伴う生活の障害であり、予防的な障害学であると捉えることはできないだろうか。できるとすれば、障害学とどのような対話が可能なのか。
【方法】SCOPUSによる"Patient Group(s)/Organization(s)"の検索(表題・著者・アブストラクト検索を用いる)、およびシソーラスからの網羅的検索。医中誌Webによる「患者会/団体」の検索を行い、"医療者向けに患者の発信している文章"およびその内容をレビューした。その結果に基づいて患者学のあり方と、それを醸成させる組織(「患者学会」)の機能について考察・提言する。
【結果】患者会を用いた研究に関する国際論文は現在まで26,366本であり、分野は「医学」が21,853本と圧倒的に多く、「心理学」分野が1,704本、「看護学」分野が886本「社会科学」分野は275本、「人文科学」分野は46本であった(分野は重複勘定)。
書籍として見ても、1980年代に7冊、90年代に8冊の刊行であった「患者学」を冠するもの2000代には既刊で31冊となっている。(2007年7月20日現在)
【考察】患者に必要なケアは「医学的ケア」「社会生活ケア」「心理的ケア」の3つの領域に分けて表現される。「医学的ケア」の情報が過多に発信されているのに比べ、「社会生活ケア」「心理的ケア」についての情報はほとんど見つからなかった。また「医学的ケア」は、自分の体であっても他人の力(医療行為によるレギュレーション)なしに介入を行うことが制限されている不自由と、限られた医療資源を医療者がゲートキープするべきだという社会倫理を持っている。「社会生活ケア」「心理的ケア」のいずれの情報においても論点も主体は患者であり、社会としての視点を採用する医療社会学とはこの点で異なる。
英国保健省は1999年に"Expert Patient"(「熟達患者」)という概念を創出し、国民が熟達患者となることを目標とし、保健省内に患者学学習プログラムを展開している。本邦では急激な高齢者増加にともなう慢性疾患有病割合の増加から、経済学的にも医療福祉の労働力不足・経済の圧迫などが懸念され、社会的歴史的に医療者や化学療法に依存しやすい国民性などの観点から、「患者学」という概念の展開が公共政策的課題の解決により意義深いものと推測される。生活全般に関するケアを取り扱う専門職の不足を補うように、熟達した患者、あるいは全快・寛解した患者が「医学」「社会生活」と「心理面」についてのケアを充分に研鑽し、総合的なケアの『素人専門職』となるための援助をする、患者支援事業も登場している。
医師のレギュレーションが絶対であった「生きるか死ぬかのCureの医療」から、患者が医療者と協働する「病とどう仲良くするかのCareの医療」へと、治療者の持つべきアイデンティティは変化を受け止めるべきである。「患者学」という領域は、医師や看護師が持つ医学・看護学のあり方に警鐘をならし、補完する概念であるべきである。
 一方で患者側からの発信が不足している。日本医療政策機構が2006年に全国の有権者をランダムに、有効回答数で1,011人についてデータを収集した。国民の政策における最大の関心・不満領域は医療分野であり、この政策主体となるのに最も相応しいのは「患者・市民」である、と同調査は報告している。これら市民の期待とは裏腹に、患者による政策の選択を推し進める背骨システムは未熟である。患者会を主導的にマネジメントし、医療専門職(医師・看護師・薬剤師など)や健康政策ステイクホルダー(厚生労働省、保険機関など)、製薬企業などと対等な対話が出来るリーダーも不足しており、政府の検討会における患者側代表は2〜3人の有名な患者支援者が10〜20の委員を兼任している状況である。人材育成や事業化支援を行う役割も患者学会には期待されている。
 これらの不足を補うには、養成の一方で、患者会で活動できるようなリーダーを把握する必要がある。これらのリーダーは小さな患者会を自ら経営しており、正確な把握は不可能であるが、概握をし、その動向と解決の限界を予測して早く提示してゆくことも必要である。
学術大会においても研究者が主体のものよりも、浅くとも個々の患者が広く発表できる場を演出するのが望ましい。これまで社会学・心理学・看護学・臨床医学など、様々な学会の随所で報告されてきた患者学あるいは患者中心医療についての研究について特化した発表の場を提供することになり、患者学の研究分野にアイデンティティをもつ学者・学生を醸成するプラットフォームにもなりえる。
 こうした知見を踏まえて桜坂・串間・石井は「患者学会」をブランドネームとして活動を開始している。定義した問題点を解決する空間として機能しているかについて、今後も検討と調査を報告する。

(2,571字)

*1 「日本患者学会」設立準備委員会
*2 京都大学パブリックヘルス大学院医療経営ヤング・リーダーコース
*3 三雲社代表取締役
*4 ユニークフェイス代表


UP:20070808 REV:0821
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