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職業的困難度からみた障害程度の見直しについて

先行研究等を概観することを通して”職業上の障害判定”が可能かどうかを考える

沖山 稚子 20070917
障害学会第4回大会 於:立命館大学

last update: 20151224

障害者職業総合センター(適応環境研究)
沖山 稚子

◆要旨
◆報告原稿

■要旨

1.問題の所在
 障害者雇用施策における障害程度の考え方については、障害保健福祉施策の基準を準用してるのが現状である。つまり「障害者の雇用の促進等に関する法律」 における身体障害者は身体障害者福祉法にある「身体障害程度等級表」による身体障害手帳保持者であるし、知的障害者は知的障害者福祉法に基づく療育手帳の 保持者か地域センターで判定された者とされ、精神障害者は精神保健福祉法にある精神障害者福祉手帳の所持者となっている。さらに雇用率上でダブルカウント される”重度”の範囲も障害保健福祉施策の基準に則している。
 しかし、実際の就職のしにくさや職業生活での制限や困難の程度と障害はさまざまであるので、職業上の困難度から障害程度を評価する方法を求める指摘が、 就職支援の現場職員からだけでなく、「障害者の雇用・就業に関する行政監察」においても勧告されている。
 また、去年から施行された「障害者自立支援法」でも障害程度区分を基にして各種の福祉サービスが展開され、身体障害手帳等の等級は意味をもたなくなっ た。こうして福祉の分野がサービス実態に注目した障害認定をするようになっている今、障害者雇用だけ従来の基準のままでいるのはひときわ目につくようだ。

2.先行研究等の概観
 職業的困難度からみた障害程度については、次のいくつかの取り組みを概観する。
先行研究
1)当センター:職業困難度からみた障害者問題、調査研究報告書bR,1994
2)伊豆韮山病院作業療法士、種村留美:第1回職リハ研究発表会報告書、1993
3)当センター三木:諸外国における職業上の障害者の判定---オーストラリアのWATの紹介を中心に---、第4回職リハ研究発表会論文集、1996
4)伊達木せい:職業的困難度からみた障害者問題、リハ研究85、1996
5)伊達木せい:法的助成の対象となっていない障害者に関する職業上の障害の判定について、リハ研究86、1996
6)当センター:地域センターの業務上”その他”に分類されている障害者の就業上の課題、調査研究報告書bQ1、1997
7)当センター:諸外国における職業上の障害に関する情報、資料シリーズbQ0、1999
8)小畑:諸外国では職業上の障害をどのような方法で捉えているか、季刊職リハネットワークbS6,1999
9)春名:代償対策を統合した職業的障害の構造モデル、当センター研究紀要bV、1998
10)春名他:障害者の就業環境整備の標準化への情報技術の活用----ドイツと米国の動向から----、当センター研究紀要bX、2001
11)当センター:障害者雇用に係る作業・職場環境改善等に関する調査、資料シリーズbQ7、2002
12)当センター:福祉施設等における障害者の雇用・就労支援に関する全国実態調査、資料シリーズbQ9、2003
13)当センター:職業的視点から見た障害と地域における効果的支援に関する総合的研究、調査研究報告書bU7、2005
その他
14)総務庁行政監察局:障害者の雇用・就業に関する行政監察結果報告書、1996
15)障害者福祉研究会:我が国の身体障害児・者の現状---平成13年身体障害児・者実態調査結果報告、2003
ホームページから
16)第71回中央職安審議会議事録、1993.12.3
17)第72回中央職安審議会議事録、2000.2.7
 
3.結果
 先行研究には大きく分けて二つのアプローチがある。一つは就職困難の定義と基準作りをめざす考え方であり、もう一つは現行の定義によるものに加えて「重 度」の認定や、職業上の障害認定を地域障害者職業センターや職業安定所がするという提案である。
 身体手帳等の等級と職業上の困難度の乖離や現状の不都合が多くの場面で指摘されているにもかかわらず、「職業上の障害判定」が実現できずにのは就職困難 に影響する要因が年齢、障害、適性・能力、雇用環境や時代など複雑で多岐に亘っているからだと思われる。
 今回紹介する先行研究の中には、就職支援機関が普段の業務の延長で実施できるような簡易な方法も提案されている。障害福祉施策の障害者と認定されてはい ないが、しかし職業上に困難のある障害者として雇用施策の支援対象とできるようにする方法を検討する糸口としたい。


 
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■報告原稿

 職業的困難度からみた障害程度の見直しについて
 ――先行研究等を概観することを通して「職業上の障害判定」が可能かどうか考える
 沖山稚子(障害者職業総合センター:適応環境研究主任研究員)

 千葉県幕張にあります障害者職業総合センターの研究部門で勤務している沖山稚子(おきやまわかこ)と申します。本日は職業的困難度からみた障害程度の見直しについて、副題としては先行研究等を概観することを通して職業上の障害判定が可能かどうかを考えるというテーマで報告いたします。

 1977年から約30年地域障害者職業センターの障害者職業カウンセラーとして、各種の障害者の方々の就職支援の仕事をしてきました。地域障害者職業センターというのは、障害手帳の有る無しに関係なく利用できる施設でして、各県に一カ所ずつ配置されていて、ハローワークの障害者担当窓口と連携しながら業務をしている施設です。ちなみにご存知の方々はどのくらいいらっしゃいますか?(会場の反応に対して感想を述べる予定)
 4月の転勤で現場を離れ研究部門に異動するまでは、ゆっくり資料を読んだり関係する学会活動についても関わる機会が少なくて、この障害学会の存在もつい最近知ったという状況です。せっかく大会に参加するなら、私の今までの経験から感じている問題意識を聞いていただきたいと考え報告することにしました。
 この学会でもよく話題にされているイギリスの「ディスアビリティ・スタディーズ」という本がありますが、雇用について触れているところで次のように述べています。
引用→「私たちは職業というものを通じて、収入を得るばかりでなく、身分や地位や影響力を手に入れ、社会関係やアイデンティティまでも獲得する。その意味で職業は、私たちの社会生活においても、物質面においても、生活の質に重大な影響を与えている。にもかかわらず、これまで多くの障害者は職場から排除されるか、職場の片隅に追いやられた無力な存在でしかなかった。特に資本主義産業の台頭は障害者に対して劇的な変化をもたらし、インペアメントをもつ者は経済的に非生産的な存在として、労働市場の周辺部に追いやられてきた。」仕事に就くことの重要性について述べているカ所で、私も共感できるので引用しました。
 社会的な活動のなかで、雇用とか就職の問題は障害の有る無しに関わらず重要な問題です。私の関心である本日のテーマがこの学会でどのように受け止められるか興味深いです。

 では、まず問題の所在について述べることにします。

問題の所在

 障害者の雇用施策における障害程度は、障害保健福祉施策の基準を準用してるのが現状です。これは昭和35年に当時、「身体障害者雇用促進法」と言っていた時代からの話しです。
 現在は「障害者の雇用の促進等に関する法律」と言ってますが、この法律では身体障害者は身体障害者福祉法にある「身体障害程度等級表」による身体障害手帳保持者とされ、知的障害者は知的障害者福祉法に基づく療育手帳の保持者か地域センターで判定された者とされ、精神障害者は精神保健福祉法にある精神障害者福祉手帳の所持者となっています。
 また、障害が重度であれば雇用率上でダブルカウントされる、つまり一人雇っても二人分と数えられる。その"重度"の範囲がどうであるかというと、身体障害者であれば「身体障害程度等級」の1〜2級、知的障害者であれば地域障害者職業センターの重度知的障害者判定による者となっています。昨年度から雇用率にカウントされるようになった精神障害者にはダブルカウントの算定はありません。
 しかし、実際の就職のしにくさや職業生活での制限や困難の程度は、当然のことながら手帳等級とはズレがあります。職業上の困難度に注目した判定を求める声が、約20年くらい前から私たちの間、つまり地域障害者職業センターやハローワークなどの就職支援の現場職員から出ていたのです。
 障害学関係者の中には、教育、訓練、就労に対して批判的な意見をお持ちの方もいるように感じますが、私が話題にしてるのは「就職したい」と考える障害者であって、就職するのがとても困難な方々であることをはっきりさせておきたいと思います。こうした方々が「就職できる」ようにするために、本人サイドや事業所側、支援者や制度などで準備や配慮、整備すべきことはたくさんあると思いますが、そのうちの重要なことの一つが職業上の障害をどう判定するかであると強調したいです。

職業上の障害に関する主な先行研究等

先行研究
 詳しいリストは事前のレジュメにお示してありますので、ご覧ください。
ごく大まかに分類すると2つのアプローチになります、ここではそれぞれを簡単にご紹介しましょう。
まず1.は「職業的視点からみた障害」を構造的に分析し総合的な障害認識をめざす研究」です。
 ICFの障害概念に基づき、職業的視点からみた障害が、機能障害やその原因疾患、職種や働き方による要件、職場内や地域での環境の影響により動的に変化するものであることを明らかにしています。多様な要因を整理したデータベース(情報ツール)のプロトタイプを開発して、高齢・障害者雇用支援機構のホームページに公開されています。しかしこうしたアプローチはいくつかの問題があり、本格的に使用されるまでにはなっていません。どういう問題かと言うと、環境要因をどう盛り込むかとか個別的で動的な障害認識から障害認定するのは難しいという点と、運営上でも常にデータベースを追加したり更新し続ける必要があるということです。余談ですが、ICFが障害者の職業問題を考えるときに、どこまで効果があるかという本質的な問題も孕んでいるように感じています。
 このアプローチでは「海外の職業上の障害や就業環境整備に関する研究」もあります。障害者の職業能力の判定についてオーストラリア、イギリス、オランダの状況を紹介するものや、ドイツと米国の障害者の就業環境整備の動向を紹介するものがこのジャンルに入ります。
 2番目は現実路線の取り組みで「できることから取りかかることを提案する研究」です。
 この研究は1990年から取り組まれ、主に現場の障害者職業カウンセラーからのヒアリングや情報提供をもとにして、職業上の困難度の高い障害者とはどのような障害者か?就職困難を増幅させている要因は何か?それを軽減する方法はあるのか無いのかについて整理されました。この研究ではいわゆる定義外にいる障害者の就職困難が強調されました。最近よく話題になる高次脳機能障害者や発達障害者はその当時は制度に乗らない障害者であり、事業所側の障害理解も今ほど無くて、就職での苦労が多かったものです。冒頭に申し上げたように、手帳の有る無しに関係なく利用できる障害者職業センターで就職支援してきた立場からいうと、「就職したい」と考える障害者であって、就職するのがとても困難な者が「就職できる」ためには、できることから整理されることを強く望むものです。
 さらに職業上の重度障害者や職業上の障害者(法的助成の対象とならない職業的困難度の高い者)の判定について「職業障害調査票(案)」を示して提案されています。調査票の細かい点は時間の都合もあり端折ります。特徴的なのは障害手帳のでない障害が重複してある場合と「長期の失業状態」の項目を加えてある点です。失業状態の継続は職業上の困難性を示すもっとも端的な指標であるとするのは分かりやすい指摘です。
 これらの提案を盛り込んだ形で出された1996年の総務庁行政監察局の勧告では、次の措置を講じるようにと述べています。「p118〜重度障害者とされる者の範囲については、現行の定義による重度障害者に加え、地域センターが個々の職業能力に応じて『重度』の認定を行い、これらの重度障害者を雇用上の支援の対象とするものとすることにより、重度障害者に対する支援の充実を図ること。さらに、前記の認定の実績もふまえ、身体障害者の雇用対策に用いる職業安定機関独自の重度認定基準を検討すること。」
 しかし、これはまだ対応されていません。

実行可能な判定方法を

 身体手帳等の等級と職業上の障害のズレや不都合が、今までも多くの場面で指摘されてきたにもかかわらず、「職業上の障害判定」が実現できずにいます。それは就職困難に影響する要因が年齢、性別、障害、適性・能力、雇用環境や時代、さらには就職支援力や事業所がしてくれる配慮など複雑で多岐に亘っているからだと思います。
 障害者側だけを精密に評価することでは解決しません。どこから通うか?どこで就職するか?に始まり就職の相手となる事業所についての評価も不可欠です。どういう事業所で何の作業をするか?周辺の配慮はどうか?などという具合に想定すべき変数はとても多いです。
 だから「職業上の障害判定」をめざして完璧なものを作ろうと、さらに年数を費やすのは止めて、現状より少しでも改善できることをめざした実行可能な判定方法が検討されることを望むものです。先行研究の2番目で提案されている方法は充分に参考にできると思われます。

 簡単に言うとこういうことです。今の定義に加え@今の定義では障害者とされない、いわゆる谷間にいる群を「職業上の障害者」と判定することとA今の定義では「重度」とならないが就職困難度の高い群を適切に重度と判定することです。
 Aについては新たな職業上の重度障害という概念の確認になるので、大きな異論がでないことと説明やデータによる裏付けが必要となるでしょう。ここで厄介なのが、従来、ダブルカウントされていた障害者の中に職業上の障害が少ない者がいるという事実です。しかしダブルカウントされていた方のうち職業上の障害が少ないからといって、軽度に変更するような見直しはしない方がいいということです。なぜなら従来のダブルカウント群の既得権を脅かすことになり、場合によっては騒然となるかもしれないからです。触れないままがよいというのが私の考えですが、議論の重要な論点ではあります。

 去年から施行された「障害者自立支援法」では、障害程度区分という新たな基準で各種の福祉サービスが展開されるようになり、身体障害手帳等の等級は意味をもたなくなった今、障害者雇用の分野がいつまでも従来の基準のままでよいのだろうか?と問いかけて私の報告を終わります。 
(ここまで約5,000字 15分の想定)

    -----もしご質問やご意見が無ければ、次の点を追加したい。----

 ご質問がなく、時間が少しあるようですから、省略していた部分から少しご紹介します。それは、従来は制度の谷間にいていわゆる障害者とされずにいて、就職するのに苦戦していた「高次脳機能障害者」や「発達障害者」の一部が精神保健福祉手帳を活用することで「障害者として就職」する実績が少しづつ重ねられてきていることです。しかしこれは実は根本的な解決にはなってなしのです。関係者の間でも意見はまちまちでして、さしあたり今困ってるのだから、精神保健手帳でも何でもいい活用できるものがあるのは大いに結構という立場もあります、また、高次脳機能障害者や発達障害者へのサービスを精神保健手帳で援用するのは如何なものか?と反対のする考え方もあります。別の面では地域差も大きくて、精神保健手帳の判定が地域や医療機関によりバラついていて、取りたくても取れないという話しもよく聞きます。また、本人サイドが精神保健手帳もつのはイヤだと考え、取れる場合でも取らないというのがよく聞く現状です。今後この問題がどう展開するかは未知数ですが、今のような一時凌ぎの方法でも、事例が蓄積されることで既成事実となってしまい、きちんとした検討の余地がなくなるのは、とても困ったことだと思います。

UP:20070807 REV:20070904
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