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「すべての人に対する基礎年金」を!

岡部 耕典 20070916
シンポジウム「障害と分配的正義――ベーシックインカムは答になるか?」
障害学会第4回大会 於:立命館大学

last update: 20151224

「自分の財布と相談しながら、好きなように飯を食う」(福島智)ということばに含意されていることのひとつ。それは、障害者が「自立した生活を送るためには、介護保障だけではなく「自分の財布」をもちうる所得保障も必要だということである。しかし、いうまでもなく、所得保障(つましい「自分の財布」)が必要なのは、障害者だけではない。

一方で、歴史をたどってみると、恤救規則(1874)における「廃疾者」、あるいは、その「改良版」である救護法(1929)における「障碍者」ということばなどが目にとまる。自立=所得=就労が直線的に結ばれてしまう近代・工業化社会においては、米や金の給付をうける受給資格(eligibility)としての「障害の定義」があり、それは、障害者と「稼げないことのエンタイトルメント」が一本の太い線で結ばれていたことも示している。

あるいは、最近のこととでいえば、生活保護の母子加算の段階的廃止の決定の際に同時に検討されていた障害加算の廃止が決定されなかった理由について、まことしやかな「解説」があり、耳にした人も多いのではないだろうか。それは、その審議をやっている最中、厚生労働省が障害者自立支援法反対の抗議行動で取り囲まれシュプレヒコールが鳴り響いていたため、というものである。

政策決定をあまり単純化して考えるのは危険であろう。しかし、この「解説」がある種の説得性をもつのは、少なくとも社会福祉の「対象者」といわれる人たちのなかでは、障害者の組織化と政治力は群を抜いたものである、という事実があるからではないだろうか。そしてこのような「歴史」と「運動」を両輪としつつ、障害基礎年金や特別障害者手当などは確保され拡充されてきたわけである。

もちろん、このような「過去」があってはじめて「現在」がある、のではある。また、他分野にくらべれば相対的に拡充されてきたとはいえ、現在の障害者の所得保障政策や制度にも依然として大きな問題があり、見直される必要があることには間違いはない。無年金障害者の解消や年金の水準の改善をすること、身体の機能障害に偏った手当の支給基準などを改めること、生活保護制度からの不当な排除をなくし適切な運用がおこなわれるべきこと、など個々の課題は山積しており、障害者自立支援法にビルドインされた「応益負担」は、改めてそのことを大きく焦点化する契機となったといえる。

つまり、今後の障害者の所得保障施策の拡充の運動は継続され、制度は改革されなくてはならない。しかし、それは、これまでの「歴史」と「運動」のパースペクティブの延長で可能となるのだろうか、ということである。障害の分野から発想しつつ、かつ障害の分野を超える普遍的な所得保障の構想と運動。それこそが、障害の分野にとっても、制度を伸ばしエンタイトルメントされない対象者が排除されないための近道ではないだろうか。

そこで、その具体的なものとして、実質的にも象徴的にも障害者の所得保障制度の柱となっている障害基礎年金を「すべての人のための基礎年金」とすることを考えてみたいと思う。

今後も障害年金を障害者の所得保障制度の中核にすえて運動していきたい、という声は根強くある。「無年金障害者をなくし、支給額も生活保護水準まで増額」というものである。まったく異論はない。しかし、この立て方は説得性をもつだろうか。

障害基礎年金は、少なくとも20歳前から障害をもつ者にとっては、「拠出制の老齢年金制度を基盤とする無拠出の社会保険制度」である。一方で、現在でも障害基礎年金1級の給付額は、老齢基礎年金の1.25倍である。もちろん拠出していない分、税からの補填もあるわけであるが、それをうまく説明することを含めて、「無拠出の被保険者の主張」がどこまでとおり、給付額が老齢基礎年金を大幅に超え、生活保護水準(以上)にまで迫ることは可能なのだろうか。

これに対して、障害基礎年金は「維持」し、「上乗せ」は手当で、という立て方もありうる。個人的には、そのほうが「現実的」であると考え、具体的な戦略として、特別障害者手当の範囲・額の拡充と支給基準の変更をめざしていくことがあってよいと思っている。しかし、障害の分野に限ったとしても、この「二階建て」方式にも問題がある。

障害の分野だけに限っても、「年金がもらえない障害者」はどうするのか、ということである。いわゆる「無年金障害者」だけの問題ではない。「軽度」でも「長期にわたる」でもなくとも就労できない、実質的に「働くことでは食えない」障害者はたくさんいる。そして、「障害」を基準とする以上、手当ても年金もその認定基準は似たようなものになり、そして、それは年金のほうに「ひっぱられる」だろう。すなわち、支給基準を社会モデルのほうに振っていくことは難しく、年金を受給できない人は手当も受給できない可能性が高い。

加えて、「障害基礎年金を守り、手当を拡充する」という運動そのものが、障害者以外の人たちに、特に所得保障が必要な「当事者」たちに、理解され支持されるだろうか。障害基礎年金獲得と特別障害者手当の実現と拡充というこれまでの運動とその成果には経緯を失わず、しかし、今後の展開のためには、新たな視座が必要であるように思う。

今必要なことは、(少なくとも他の対象者に比べれば「声が大きい」とされる)障害の側から、「すべての人びとに基礎年金を」(基礎年金の普遍化)と呼びかけることではないだろうか。

具体的には、現行の基礎年金制度そのものを廃し、障害基礎年金1級額相当のベーシックインカム(以下BI)を、(障害の程度・種別のみならず)障害の有無・年齢・性別・所得・資産・稼動能力に拠らず支給する」という構想である。

なお、「BIは生活保護より好ましい(代替すべきである)」「BIで手当制度をシンプルにする(縮小する)」、「BIの額は、生きるに充分な金額でなければ意味がない(生保基準以上)」といった考え方はとらない。(むしろ、生保の改悪防止、手当制度の改革には積極的に取り組む)

働いて所得を得ること、必要(need)に基づき手当を得ること、セーフティネットとして生活保護をうけること、それらは本来相反するものではなく、補い合うものである。それが、すべての人に共通な「普遍的な所得保障」であることを確認し、ただし、それらがもうすこし軽やかに動作する環境を構想することが必要である。そして、「すべての人に対する基礎年金」があることで、就労支援も手当制度の拡充も生活保護の漏給防止も、促進こそされその逆はないだろう、とも。

BIの議論も一定程度の広がりをもちつつある。しかし、まだ(かなり)不足である。そういった議論が、それが障害の分野でいままで積み上げられてきた「歴史」と「運動」の延長から「まず/それなりの(可能な)額を、分けてみる」具体的な構想につなげられること。それで世間が「それは自分にも関係のあることであり、それでいろいろなことが結構うまくいくようだ、であるならばやってみたらよいのではないか」と思うようになること。今後はそういった取組みがなされることでBIの新たな理論的展開の視野もひらかれるのではないか。

そして障害の分野からみても、これは「現実的」な戦略でもある。少なくとも、「年金の普遍化」の延長線上に一律普遍的なBIを展望するという立て方は、「無年金障害者をなくす」から「若者基礎年金」までの議論を含みうるわけだし、現在の「年金・手当・生保」という枠組みの閉塞を漸進的に変化させることも寄与しうるのではないかという認識もあってもよいのではないか。

なお、重ねて念押ししておくこととして、「BIですべてを置き換える」という立場には与しない。生活保護とBIを天秤にかけることは誤りである。一方で、必要なのは「生活保護の普遍化」であり、BIではないという考え方にも、一定の留保をおく。「生活保護の普遍化」の最終的形態は「負の所得税」であり、無条件・一律給付という意味でのBIではない。その議論に決着をつけてから、戻ってくる必要がある。

一方で、その実現可能性や好ましさはともかくとしても、政策側から、あるいは他の分野からも、その「負の所得税」を含めいくつか「所得再分配策」のアドバルーンが上げられたりしている状況でもある。これらについても目配りし、そして必要な時期がきたらなんらかの体系だった意見表明をおこなうことが必要になる。そのための視座としても、「すべての人に対する基礎年金」は有効なのではないかと思う。どうだろうか。

【参 考】

○勤労税額控除(2007年度経済財政白書)
「失業給付などの社会保障給付を受けている人が就労により納税の対象となった場合、所得税額を控除することで社会保障給付を受けるよりも手取り額が多くなるようにする」

○給付付き税額控除(政府税制調査会香西泰会長):首相の諮問機関
「(税額控除だけでなく)一定の所得を下回る納税者に給付金をだす」
 ←「低所得者への配慮」のため
←「消費税率引き上げ」・「法人税率引き下げ」を含む「社会保障改革と税制改革の一体的な改革」が前提

○負の所得税(内閣府経済社会総合研究所大田清特別研究員)
「所得が一定水準以下の低所得層に、基本的な政策に必要な額と収入との差額のうち一定割合の金額を給付する」
 ←「日本は税金や社会保障負担を引く前の所得では欧米平均より格差が少ないが、所得再配分した後の可処分所得では格差があまり改善しない」

○若者基礎年金(広井良典2007「持続可能な福祉社会」ちくま新書)
年金制度全体を税による「厚めの基礎年金」中心・のものに再編し、報酬比例部分は民営化したうえで、「後期子ども(30才)」までの「教育効果」に着目した「人生前半の社会保障」として、「若者基礎年金」を創設することを提言。

○特別給付金制度(中国残留孤児訴訟和解にむけて与党PTが策定)
 @基礎年金を満額の6万6000円支給
 A「生活保護に代わる特別給付金制度」を創設し最高8万円を支給
 B住宅・医療費などの扶助
 ←孤児側は「生活を監視され尊厳を持てない」と収入認定の撤廃を要求
 →PT側は認定からはずす金額を増やし増収を図ることで対応、孤児の約6割に上る生活保護世帯の月収は8万円から14万円に増える計算」


UP:20070902 REV:
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