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障害を持った父母の子育てに関する社会環境としての阻害要因

3名の障害者子育て事例からの考察

野村元延 20070916
障害学会第4回大会 於:立命館大学

last update: 20151224

日本福祉大学通信教育部福祉経営学部医療福祉マネジメント学科4回生
野村元延

◆要旨
◆報告原稿


◆要旨

 障害者も社会の一員として参加していくというノーマライゼーションの思想が日本でも定着しつつあり、障害者も健常者と同じように結婚−妊娠−出産を経験 することが珍しいことではなくなってきた。
 1999年知的障害福祉連盟編『発達障害白書』によれば、連盟が調査した1625人中既婚者は300人(150組:18.46%)で、子育てしているの はその内で僅か40組(4.92%)しかおらず、全国的に見てもまだまだ少ないと予想される。また2003年度東京都実施の「障害者の生活実態調査」にお いても結婚や出産は、旅行や就職と並んで依然として実現が困難な事項であり、あきらめたり妥協している人も少なくない。
 両親の反対や社会基盤の不十分な整備状況により障害者の完全参加を困難にしている事情などが障害者の子育てを断念させていると思われるが、大きな理由の ひとつとして数十年にわたり優生保護法に基づく優生手術・その下での医療機関等の障害者は子どもをもってはならないとの認識等があろう。
 本発表では身体障害(脳性小児麻痺・聴覚障害)と精神障害を患う3名の障害者の子育ての中から明らかになった社会環境の阻害要因について当事者側から見 えた問題点について言及したい。

◆報告原稿

 障害をもった父母の子育てに関する社会環境としての阻害要因、3名の障害者子育て事例からの考察と題して発表させてもらいます。

はじめに

 障害者も社会の一員として参加していくというノーマライゼーションの思想が日本でも定着しつつあり、障害者も結婚−妊娠−出産を経験することが珍しいことではなくなってきたと思われます。
 本報告では2005年度放送大学卒業研究で子育て経験のある3名の障害者の子育てについて社会環境としての阻害要因と思われるものに関し、考察して報告いたします。

障害者の子育ての現状

 1999年知的障害福祉連盟編『発達障害白書』によれば、連盟が調査した1625人中既婚者は150組、率にして18.46%で、子育てしているのはその内で僅か40組、率にして4.92%しかいません。また、パワーポイントに示す2003年度東京都実施の「障害者の生活実態調査」においても身体障害者で8.9%、知的障害者で13.8%、精神障害者で3.5%の障害者が障害のために出産や育児をあきらめたり妥協したと回答しています。
 このことから障害者の子育ては全国的に見てもまだまだ少ないといえるのではないかと思います。

3障害者の子育てについて
 調査した障害者はそれぞれ脳性小児麻痺、聴覚障害、精神障害を患う障害者で、利用した社会福祉サービスや子育てを経験しての想いや困ったことを面接方式で聞き取り調査しました。プロフィールはパワーポイントに示すとおり調査した2004年現在で脳性小児麻痺の障害をもつ女性は40歳代高校3年生の女子が、聴覚障害をもつ女性は小学校4年生の男子が、精神障害をもつ女性は小学校1年生の男子がいらっしゃいます。
 身体障害の2名共通の困ったこととして医療機関の対応の不満が、精神障害の1名は精神症状がきつくなった時に子どもを遊びに連れて行くことが可能になる福祉サービスが欲しいといったことが述べられました。
 また聴覚障害の方からはようやく引き受けてくれた医療機関がコミュニケーションが取れないとの理由で帝王切開にされたり、夫の育児や自身の障害にかんして無理解なことも述べられました。

4考察

主要に障害者が結婚出産をあきらめたりするひとつの要因は、医療機関の数十年来の優生保護法に基づく優生手術やその下での障害者は子どもをもってはならないとの間違った思想や、公的福祉サービスとしての子育て支援の具体的サービスが分からないことがあげられると思います。
 また、2006年11月から12月にかけて京都府下の産婦人科医療機関に行ったインタビュー調査では一般的にマスコミ司法関係者に妊娠分娩は生理的現象で、不幸な結果はありえないと信じられていることなど、障害をもった子どもが生まれてくる可能性があることを認識している人が少ないとの指摘もあげられると思います。
以上のことから今後障害をもっても当たり前のこととして結婚出産が可能になるような社会環境作りが必要となっているのではないかと思います。


UP:20070807
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