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視覚障害学生支援の技法・3

情報保障のための活字読み上げ支援技術の現状と課題

韓 星民青木 慎太朗・亀甲 孝一 20070916-17
障害学会第4回大会 於:立命館大学

last update: 20151224

・ポスター発表

・韓 星民(はん すんみん)
  所属:KGS株式会社
・青木 慎太朗(あおき・しんたろう)
  所属:立命館大学大学院先端総合学術研究科/羽衣国際大学
・亀甲 孝一(きっこう こういち)
  所属:アイフレンズ株式会社

◆報告要旨
◆報告原稿

■報告要旨

 視覚障害者が紙媒体の活字情報にアクセスするためには、視覚の代わりに聴覚や触覚を使う必要がある。点字(触覚)は視覚障害者の文字としてもよく知られているが、本報告では、合成音声技術(聴覚)を用いた活字へのアクセス方法を巡る現状と課題について考察を行う。
 スキャナやOCRソフトを使い紙媒体の活字を電子化(テキスト化)する作業は、一般オフィスなどでも活用されている方法であるが、視覚障害者にとっては情報アクセスのための重要な方法の一つである。
 テキストデータはパソコンの音声読み上げソフトを利用し読ませる事が出来、弱視者にとっては、文字の大きさや書体を自由に変更する事が出来る。そして、点字に変換する事も可能になる。
 本報告では、これらスキャナやOCRソフトなどの周辺技術の進歩と共に現われた支援技術の一つである音声読み上げ読書器についてその歴史と現状を概観し、活字情報へのアクセス方法を巡る支援技術(Assistive Technology、AT)のあり
方について考察を行う。
 OCRソフトとスキャナの組み合わせで作られた最初の音声読み上げデバイスは、電子ピアノで有名な米国の発明家レイモンド・カーツワイルが1978年に文章音声読み上げマシーンとして開発した(カーツワイル朗読機)が有名である。
 日本では、1983年通産省がNECとアンリツに委託し日本語自動朗読システムの開発を進めたが商品化には至らなかった。その後、OCR技術も進化を遂げ、1992年に、拓殖大学と横浜市立盲学校の協同研究により開発された自動朗読システム『達訓』(たっくん)が初めて商品化された。
 達訓の販売を行っていたタウ技研は、同年11月にパソコン用読書ソフト『よみとも』を発売し、性能と価格的に視覚障害者に受け入れられるようになった。
 最近発売されている音声読み上げ読書器はスキャナとOCRソフト、読み上げ機能が一つになった『よむべえ』なのも登場し、多くの視覚障害者に受け入れらるようになっている。
 これらの支援技術はOCRソフトに音声読み上げ機能を付加したソフトウェアの形と、よむべえのようにオールインワンの機能を持った二つのタイプが進化を続けており、利用方法とニーズに答えられるようになって来ている。
 音声読み上げ技術や、OCRソフトの読み取り認識率は日々高まりつつあり、支援技術にとって重要な要因となっている。これらの技術は視覚障害者の活字情報へのアクセスをより一層可能にし、印刷物の読書形態に変化をもたらせる可能性を示唆している。支援技術と周辺技術の共同作業はますます欠かせないものとなるであろう。


 
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■報告原稿

視覚障害学生支援の技法・3――情報保障のための活字読み上げ支援技術の現状と課題

 Key Words: 支援技術、情報アクセス、活字読み上げ、視覚障害、テキストデータ

はじめに

 視覚障害者には、情報のバリア、移動のバリア、社会的バリアがあるとされており、人間が外界から得る情報の約8割は視覚情報であることから情報障害者とも言われ、情報入手のための支援技術の進歩やユニバーサルデザインによる、情報アクセスのためのアクセシビリティ向上が重要視されている。
 インターネットをはじめとするおおくの情報がペーパーレス化されており、情報入手手段にデジタルデバイド減少が生じるようになっているのも事実である。
 厚生労働省が平成13年に実施した「障害者実態調査」では、視覚障害者の情報入手手段の第1位は、テレビであり(22万人/30万1千人)、日本盲人会連合が平成16年度に行ったアンケート調査でも、テレビを主な情報源とする視覚障害者は、92.1%(600人対象)であった。(岩井2006)
 まだ、1割も満たない利用者数ではあるが、インターネットを通じて情報を得る視覚障害者も増えており、パソコン画面を読み上げるスクリーンリーダーと言われる支援技術はその必要性を増している。
 ただ、情報入手の目的から考えると、視覚に障害を持つ学生や研究者にとって必要な情報のおおくは、紙媒体による活字本がほとんどであり、活字本にアクセスするためのいくつかの支援技術を紹介し、それらの支援技術が、視覚に障害を持つ当事者の『現場知』に基づいて開発されたケースがおおい点を注目し、支援技術開発を巡る諸側面を考察する。

活字読み上げのための支援技術

 視覚障害者が、紙媒体の活字にアクセスするためには、支援者の手を借りた音訳や点訳等が考えられるが、本報告では、主に視覚障害者自身がスキャナを用いて行える活字情報へのアクセス方法について現状を述べる。
 視覚障害者が紙媒体の活字にスキャナを使ってアクセスする方法は主に次の三つの方法がある。
 一つ目は、一般オフィスなどでも使われているスキャナとOCRソフトを使用し紙媒体の活字を電子化(テキスト化)する作業である。専門知識の習得や研究を目的とした活字情報へのアクセス方法としてよく用いられる方法で、OCRの認識率が上がってからよく用いられるようになって来ている。視覚に障害を持つ学生や研究者にとってテキストデータがあれば、他の支援機器との連携がスムーズで利用範囲が広がるため、まずは、出版元や著者にテキストデータの提供を依頼し、得られない場合、用いられる手段の一つである。
 以前、視覚障害者が研究を目的とした際、活字を読むためによく用いられた方法の一つが、支援者による点訳作業であったが、パソコンのスクリーンリーダーの性能向上で誤読が減ったことや点訳ソフトの変換の正確さが向上したことなどから、テキストデータの有効性が増しているのも事実である。
 点字データからかな漢字混じり文を作る事はできないが、テキストデータがあれば、点訳ソフトウェアを使用し点訳ができるのである。そして、スクリーンリーダーがインストールされているパソコンであれば、いつでも読ませる事が可能になる。その上、視覚に障害を持った研究者が論文作成の際に必要な引用文作成などに正確な漢字を用いることもでき有効である。
 一般向けのスキャナとOCRを使う方法は、それらの機器が一般向けに売られているものであるため価格が安く、性能は優れているものの、視覚障害者自身がパソコンとスクリーンリーダーの操作に熟知している必要性があり、パソコンが使えない視覚障害者には自ら行う事はできない方法の一つでもある。
 現在いくつかの大学では、一般スキャナとOCRソフトを使い、テキストデータを抽出し、校正作業を行ったデータを視覚障害者に提供するという支援が始まっている。活字情報が研究使用の目的であるため、正確な校正を必要とする場合がおおく、テキスト校正にはかなりの時間が掛っている。無償ボランティアだけではこれらの作業を賄う事ができず、有償ボランティア制度を使っている大学も増えている。
 活字情報にアクセスするための二つ目の方法は、スキャナとOCRソフトにTTS機能が付加されたソフトウェアを使用する方法である。OCRソフトウェアが視覚障害者使用の前提で設計されているため、使いやすさと音声読み上げ機能を備えているのが最もの特徴である。
 スキャナに郵便物や活字本を置くと、パソコンの簡単操作で音声で読み上げが可能であるため、現在もっとも使われている活字読み上げ支援技術の一つである。支援者が常にいない時や、個人情報保護の観点から考えるとたいへん有効な活字読み上げ技術ではあるが、使えるスキャナがメーカーによって制限があったり、パソコンが使えない視覚障害者は、一つ目の方法と同様使えないという課題が残っている。
 現在『よみとも』をはじめ、『ヨメール』、『マイリード』、『らくらくリーダー』などが発売されており、それぞれ、特徴を持っている。よみともは英語、ヨメールは簡単操作、マイリードはカラー原稿やチラシ、らくらくリーダーは表形式の印刷物の処理を得意とする(荒川2004)
 三つ目は、スキャナ、音声読み上げソフト、パソコンに変わる制御装置が一つのスキャナサイズに収まったオールインワンのタイプである。パソコンが使えない視覚障害者でも郵便物や活字本を読む事ができ、視覚障害者におけるデジタルデバイドの解消に非常におおきな役割を果たしている。
 ただ、機器がまだ高額であり、機器購入のための支援制度が確立していないため、潜在需要はおおいが普及率はまだ少ない。『よむべえ』の場合、付加機能も充実しており、DAISY形式の音声図書を聞くことができ、読み取ったテキストを外部モニターに出力する端子(機能)を備え文字サイズが自由に変更できるように設計されている。
 最近自治体によっては、日常生活用具の拡大読書器として認められ、購入が認められるケースが増えている。拡大表示機能を付加したのはそれなりの理由もあるようにも思えるが、周辺技術の発展とともに、新しい支援技術も現れており、どこまでを支援技術として認めるかという問題が残されているのも事実である。
 特に、『よむべえ』のようなオールインワン音声朗読器は、視覚障害者のデジタルデバイド解消のためには欠かせないものであるが、日常生活用具として認められていないのが現状でもある。

情報保障のための支援技術に果たした視覚障害者の役割

 視覚障害者の情報保障のための支援技術は多様化・複雑化しており、情報を得るために支援技術に費やす労力や金銭的負担が存在していることが伺える。
 視覚障害者が社会における納税者の一員として認められるためには、情報発信と情報入手がスムーズであることが前提条件とされているため、漢字かな交じり文のリテラシー向上に視覚障害当事者の先見性と開発努力が大きく働いた事が考えられる。
 達訓やよみともの開発に新城直が、よむべえの開発に望月優が関わっており、現在合同報告者の一人でもある、亀甲孝一は新たな『よみともライト』というオールインワン音声読み上げ朗読器の開発に携わっている。

活字読み上げ支援技術の展望と課題

 レイ・カーツワイルはヒューチャリストでもあり、テクノロジーの発展はムーアの法則で加速しており、遺伝学(Genetics)、ナノテクロノジー(Nanotechnology)、ロボット工学(Robotics)の技術が融合したとき、GNR革命が起きるとし、テクノロジーは人間の予測をはるか超えた方向と速さで進んでいく、技術的特異点(Technological Singularity)があると述べている。
 カーツワイルは、テクノロジーに対する、社会的・政治的制御があっても、みんなが求める人間の根源的な欲望に結びついているテクノロジーは発達するとしている。
 科学技術と社会のあり方を問う科学技術社会論学会が日本にも誕生して6年目を迎えるが、テクノロジーのあり方に、その多様な解釈を必要とし、市民の関心が高まっていることも事実である。
 石川准は、テクノロジーへの障害者の態度はまったく多様であり、「障害を最高の恵みとして」という宣言と「障碍者は機会が与えられれば働ける」という力説の間に多くの障害者がいるとし、克服と肯定を同時に遂行するほうがむしろ普通のことであるとも指摘している。(石川1999)
 石川は在学中に自動点訳ソフト『エクストラ』を開発し、視覚障害者だけではなく、点字を知らない人にも恩恵をもたらした。また、カーツワイルは音声朗読器を開発し、活字が読めない視覚障害者のために貢献した。両者は開発者でありながら、テクノロジーの在り方にそれぞれの立場で、社会との接点を作っている。
 テクノロジーがムーアの法則で発展を続け、音声認識技術が実用化され、手書きの漢字かな混じり文がスキャナで読み取れる日もそう遠くないだろう。支援技術により、視覚障害学生の活字へのアクセスが十分可能になる日もそう遠くないかも知れない。ただ、支援者と障害学生の間で起こる異文化コミュニケーションから生まれる相互作用が消失する事への、テクノロジー任せに対する批判的視点が存在することも認識しておく必要があると考えられる。

参考文献

荒川明宏, 2004,「ITによる生活の変化」,『視覚障害』191:46-48
石川准, 1999,「障害、テクノロジー、アイデンティティ」、石川准・長瀬修編『障害学への招待――社会、文化、ディスアビリティ』,明石書店
井上英子, 1994,「視覚障害者のための情報機器の現状」『リハビリテーション研究』82:12-13 日本障害者リハビリテーション協会
岩井和彦, 2006,「視覚障害者の立場からの問題提起」『放送バリアフリーシンポジウム
2006 in TOKYO』 PP:5-6
菊島和子,2000,『点字で大学――門戸開放を求めて半世紀』,視覚障害者支援総合センター
佐野(藤田)眞理子・吉原正治,2004,『高等教育のユニバーサルデザイン化――障害のある学生の自立と共存を目指して』,大学教育出版
田中邦夫,2004,「情報保障」『社会政策研究』4:93-118
鶴岡大輔,2005,「障害学生支援の現状と課題」『リハビリテーション研究』122号,日本障害者リハビリテーション協会
冨安芳和・小松隆二・小谷津孝明,1996,『障害学生の支援』,慶應義塾大学出版会
レイ・カーツワイル・徳田 英幸, 2007 『レイ・カーツワイル加速するテクノロジー』,
日本放送出版協会

謝辞:本研究は立命館大学COE(立岩真也代表)の研究補助を得て行われたものでありその謝意を表する。
 そして、共同研究者である、アイフレンズ社の亀甲甲一様から本研究に必要なソフトウェアの提供を受けた事に対する謝意を表したい。


UP:20070808 REV:0816 0911
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